273.
ちょっと短いですが、キリがいいので・・すみません。
既に1人仕留め終えていた俺たちにとって、残りが6人のトラ獣人というのはそれほど大変じゃなかった。
っていうかさ、グランバザードやヴァイパーの方がよっぽど大変だったよ、うん。
「どうする、これ」
『そのまま放置で』
「大丈夫か? 魔獣とかに狙われないか?」
『あれだけ派手にここでトラ獣人たちと戦闘してましたからね、魔獣にしても獣にしてもとっくにこの辺りから逃げてますよ』
なるほど。確かに音と光だけは派手だったな、うん。
『それに何かあっても、それは自己責任ですよ、自・己・責・任』
ああ、うん。
目が笑ってないスミレを前に、反論は絶対にしちゃ駄目だよ。
「んじゃ、テントに戻って寝るか?」
「うん」
「おう」
素直に頷いた2人も、スミレにそれ以上何かを言おうとはしなかった。
俺は出しっぱなしだったアラネアに2人を乗せ、スミレが中に入ったのを見てから俺も乗る。
それからすぐにテントに戻った。
まだ夜半だって事もあってか、2人はアラネアの中でウトウトしていたので、すぐにテントに追い立てて寝させる。
俺もそろそろ寝るか、と思ってスミレに声をかけようとして振り返ると、スクリーンを展開して何かしている姿が見えた。
「スミレ、何してんだ?」
『お気になさらずにお休みください』
「いや、気にするなって言われてもさ、気になるぞ」
どう見たって何か企んでいるようにしか見えない。
『ちょっとだけ報復しようかな、と』
「報復って・・・・もうあの連中は俺たちに手を出すだけの余力はないと思うけどな?」
『いいえ、あの連中には用はありません』
「え〜っと・・・・」
『私の警告を無視したあの馬鹿に、手を出した報いを受けてもらいます』
あの馬鹿って、金虎の事だよな?
「わざわざ村に戻るのか?」
『まさか、そんな事に時間を無駄に使いたくありませんからね』
「じゃあ、どうやって?」
『ミサイルを打ち込みます』
「・・・・はぁ?」
ミサイル?
打ち込む?
どうやって?
頭の中でこの3つの単語がぐるぐる3周ほどしてから我に返る。
「ちょ、ちょっと待て、スミレ」
『なんですか、コータ様?』
「ミサイルってなんだよっっ、ミサイルって」
『ミサイルはミサイルですよ。コータ様の世界に技術なんですからご存知でしょう?』
頭を傾げて問い返すスミレに俺は思わず頭を抱える。
「いや、だからさ、俺だってミサイルは知ってる。って、そうじゃなくてだな、ミサイルでどうしようっていうんだよ」
『もちろん、攻撃です』
「攻撃って、トラ族の村だろ?」
『当然です』
他にどこを狙うのだと言わんばかりのスミレ。
『とは言っても本物のミサイルではありませんけどね。最初は爆竹1000発分の破裂音攻撃です。それから火炎弾を打ち込んで、ちょっとだけ燃やします。もちろん、人がいない場所を指定するつもりですよ』
「爆竹って・・・朝まで待ってからか?」
『ミサイル砲弾ができ次第、すぐに攻撃します』
「いやいや、こんな夜中に迷惑だろ?」
『その夜中に私たちは攻撃を受けたんですよ? その報復として同様の事をする事になんの問題があるというのですか?』
確かに俺たちも暗い中襲撃されそうになったよ?
でもその前に迎撃したじゃん。
まぁ、そのせいでミリーとジャックが目を覚ましたんだけどさ。
「それに、火炎弾ってなんだよ」
『人家は狙いませんよ。狙うのは穀物庫です』
「穀物庫って、食料を狙うのか?」
『穀物庫であれば人はいませんからね。それによく燃えると思いますよ?』
いや、そういう問題じゃないと思うぞ。
「それはマズいだろ?」
『何がマズいのですか?』
「いや、だってさ、そんな事をしてトラ族を全部敵に回す訳にはいかないだろ?」
『そんなつもりはありませんよ』
あれ、そうなのか?
「でもトラ族の村を攻撃するつもりなんだろ?」
『ちょ〜っと脅すだけですよ。もちろん、無傷で済ませるつもりはありませんけどね』
「いやいやいやいや、穀物庫を狙うっていうだけで、十分打撃はあると思うぞ」
『ちょっとだけ食料を焼いちゃうだけじゃないですか。それから映像で今日の村の外でのやりとりと、精霊様である私の言葉を反故にしたその報いを受けよ、という私のセリフ付き映像を付け足して村にいるトラ獣人全員に見せます』
え〜っと、つまりなんだ?
まずはちょっとだけ示威行為として穀物庫を焼いちゃう、と。どんな風に焼くのかは判らないけど、人に危害を与えるつもりはなさそうだな。
それからスミレが金虎にミリーの事は忘れて後を追うな、って言った事を見せるって事か?
つまりそのために爆竹で派手な音を立ててみんなを起こすって事なんだろうな。
それを見せた後でスミレが映像で精霊の言葉を反故した報いだ、と追い討ちをかける、と。
「いやいや、スミレが俺たちと一緒にいたのってあの場にいたトラ獣人たちはみんな見てるじゃん。だったら俺たちの後を追ってくるヤツがいるかもしれないぞ?」
『ですから、完膚なきまでに叩きのめして、二度と私たちにちょっかいをかけようなんていう気にならないようにするんですよ』
「マジか・・・・」
『そうそう、ついでにあの馬鹿が送り込んだ連中が私たちに返り討ちにあった映像も見せましょうね』
ふっふっふ、と笑うスミレの顔が怖いぞ。
しかも俺と話をしながらも、スミレの指先は高速でスクリーンをタップしている。
呆然とスミレを見ていると、彼女の横に見慣れた陣が浮かび上がる。
『製作開始します』
そうスミレがいうのと同時に、身体から何かが抜ける感じがして、俺はすぐそばにあった椅子にへたり込む。
「スミレ・・・・」
『すみません。ちょっと素材が足りなかったので、コータ様の魔力をいただきました』
「だろうな」
そんな感じだったよ。
ってか、俺が感じるくらいって、一体どれくらいの魔力を使ったんだよっっ。
『ここからだとかなり距離があるので、その分術式に込める魔力が必要なんです』
「うん、言い訳だな」
『もうしわけありません。その・・・止めた方がいいですか?』
「今更だろ、それ」
俺の魔力使ってからのお伺いはやめような。
「あ〜・・・まぁ、スミレの気持ちも判るからさ」
『コータ様』
「ようは、だ。ミリーが害されないように、って事なんだよな」
『はい』
「あれだけスミレが脅したのにやってきたって事は、生半可な警告だと意味がないから、ここは徹底的にやってしまおうって考えた上での事だよな」
『はい』
「ん〜、じゃあ、止めないよ」
『ありがとうございます』
あれ、ここってあのセリフをいうシーンか?!?
あの懐かしい時代劇のご隠居のセリフだ。
「スミレさん、やっておしまいなさい」
『かしこまりました』
いつか言ってみたかったこのセリフ。
こんなところでいうとは思わなかったよ。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。




