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272.

 『コンバット・スフィア、攻撃開始』

 スミレが淡々とした声音でそう言うのと同時に、ボムっという少し燻ったような爆発音が聞こえた。

 そしてここから50メートルほど先がほんのりと明るくなる。

 「スミレ、今のは?」

 『7人が固まって移動していたので、真ん中辺りに小麦粉などの粉が入った袋の中に爆発物ボムを入れたものを落としました』

 「あ〜・・なるほど。爆弾、じゃないんだな?」

 『そこまでの威力はない小さなボムです。本当はコータ様の記憶データ・バンクにあったような胡椒の粉を使いたかったんですが、香辛料はもったいなくて小麦粉だけにしました』 

 とても残念です、とわざとらしく肩を落とすスミレ。

 ってかさ、それって俺のどんな記憶なんだ? そっちの方が気になるぞ。

 呆れたような俺の視線を受けてから、スミレは俺の前にスクリーンを移動してきた。

 暗視モードなのか白黒っぽい画面が小麦粉のせいで煙が上がっているように見える。そしてその中心にいるのは7人のトラ獣人。

 口元を抑えて咳き込むのを我慢しているように見えるな。

 「次は?」

 『準備中です。いえ、丁度できたみたいですね』

 スミレが手を上げて、それから振り下ろすのと同時に、今度は赤い火の粉が落ちてきた。

 なんていうか空中にいきなり現れた線香花火というか枝垂れ柳花火?

 パンと弾けたそれは火花を周囲に撒き散らしながら落ちていく。

 そしてその火花に反応したのか、小麦粉が燃えているような気がする。

 なんて言うの? 火花が周囲にどんどん点火して数が増えていってるんだよ。

 「あれ、ただの小麦粉じゃないだろ?」

 『ふふ、判りましたか? ちょっとだけ燃えやすいものを混ぜてみました』

 「何混ぜたんだ?」

 『大したものじゃないですよ。ちょっと燃えやすいものです』

 こいつ、俺に言う気はないな。

 はぁ、仕方ない。

 俺はなんちゃってバズーガを手に取ると、そこに花火玉を詰め込んだ。

 『コータ様?』

 「せっかくだ、俺も華やかさを付け足してやるよ」

 さっきの枝垂れ柳花火は綺麗だった。

 俺が作った花火玉は普通のだけど、まっすぐ水平に飛ばしてやればあいつらの周辺に火花が飛び散る事になるだろう。

 「スミレ、結界を部分解除してくれ」

 『準備できてます。私の方で合わせますので』

 「判った」

 座ったままひょいっと打ち上げ筒を左肩に担いでから、狙いを前方につける。

 「ついでにあいつらの頭上に到着と同時に着火、ってできるか?」

 『もちろんです』

 「んじゃ、頼むよ」

 俺は肩に担いだ打ち上げ筒をほぼ水平の位置にしてから、スミレの指示通りに左右に少し移動する。

 明るけりゃ照準を合わせれば済むんだけど、今は真っ暗で俺にはさっぱり狙う方向が判らないからな。

 『その位置でいいと思います』

 「おっけ」

 俺は足を肩幅に開いて構えると、筒を支えている左手でボタンを押した。

 シュポン、という少し間の抜けた音とともに玉が飛んでいく。

 でも暗いからすぐに見えなくなったけど、それから少ししてパァッと目の前が明るくなる。

 光は半円形にしか見えないけどそれは水平に飛ばしたからであって、残りの半分は地面に向かって広がったから見えないって事なんだよな。

 つまり、だ。残りの地面側の火花は地上にいたトラ獣人たちが受けている筈だ。

 俺がスミレが展開してくれたスクリーンを見ると、そこには逃げ惑うでっかいトラ獣人たちが映っている。

 あれ、多分だけどパチンコ玉程度の大きさの火花で、ちょっと毛が焦げる程度の威力しかないと思うんだけどな。

 「なんであんなに慌てふためいているんだ?」

 『コータ様・・・・』

 「いや、だってさ、ただの火花だろ、あれ?」

 『その通りですけど、たとえ火花でもあのように広範囲に飛び散るような攻撃を受けた事はないと思いますよ? そんな攻撃を受けたら驚くは無理ないと思います』

 その通りだな、うん。

 でもまぁ、あんなでっかいトラ獣人が慌てふためいている姿はなかなかコミカルだ、うん。

 「よっし、じゃ、次」

 『次ですか?』

 「うん、もう1個花火玉はあるから、それも打っちゃおう」

 ポーチから最後の1個である花火玉を手に取ると、そのままポイッと筒に入れる。それから左肩に乗せてさっきと同じ方角に向ける。

 『もう少し左です・・・ちょっと右に・・はい、それでいいです』

 スミレに言われるままさっきと同じように方向調整して、オーケーが出たところでボタンを押す。

 シュポン、とちょっと気が抜けるような音とともに玉が飛び出した。

 でもさ、よく考えると花火玉ってドーンっていう大きな音で打ち上げるんじゃなかったっけ?

 ま、いっか。

 さっきよりも青っぽい色の火花が飛び散った。

 「おっ、綺麗だな」

 『そうですね。先ほどの黄色の火花もいいですけど、今度の青い火花もなかなかです』

 「そのうちいろいろな色の花火玉を作って上げてみるか」

 『きっとミリーちゃんやジャックが喜びますよ』

 そうだといいな。

 「ああ、ついでに手で持つ花火も作ってさ、孤児院で花火大会をしてもいいよな」

 『そうですね。でも、打ち上げ花火はあらかじめ役所に届けておいた方が後々問題にならなくていいと思いますよ?』

 「問題になるかな?」

 『なるでしょうね。敵襲撃か、なんて思われて逮捕されるかもしれないですよ』

 あ〜、その可能性は考えてなかったな。

 でも花火なんていうものがないこの世界、確かにあんなのを打ち上げると敵襲撃って思われるかもしれない。

 スクリーンに映っているトラ獣人たちは、2度目の攻撃(笑)に更に慌てふためいて走りだしたヤツが3人ほどいる。

 ただ方角がてんでバラバラで、土地勘がある筈の獣人のくせに花火でそこまで気が回らないみたいだ。

 『逃げたうちの1人がこちらに向かってきますね』

 「そうだなぁ・・・でもあの勢いできたら結界にぶつかるぞ?」

 『いいんじゃないですか? ぶつかれば目が覚めますよ?』

 いや、反対に脳震盪で気を失うんじゃないのか?

 でもまぁ、その前に俺に気がつくかもしれないから、迎撃体制は整えておこう、うん。

 俺はそのまま椅子に座って、テーブルの上のパチンコを手に取る。

 それから最初に手に取った弾をセットして、グッと引き絞って構える。

 『見えました』

 「どこだ?」

 『これを使ってください』

 目の前にサングラスっぽいのが浮かんで近づいたかと思うと、そのまま俺の耳にかけられる。

 サングラスっぽいと思ったそれは暗視カメラモードっぽいもので、こちらにフラフラしながら近づいてくるトラ獣人が良く見える。

 その距離20メートル、というところで俺はセットしていた弾を発射させる。

 「うぉおっっ!」

 ちゃんと見ないで選んだ弾はどうやら電撃弾だったみたいで、一瞬光ったと思ったら大きな悲鳴が響いた。

 電撃だとさすがに屈強なトラ獣人でもかなりのダメージになるだろうなぁ。

 『コータ様』

 「ん?」

 『ミリーちゃんたちが来ます』

 「えっ、マジか?」

 『まっすぐこちらに向かって走って・・ああ、見えました』

 言われて振り返ると、暗視グラスのおかげで2人が駆けてくるのが判る。

 「コータッッ!」

 立ち上がって2人を待ち受けていた俺の腹に体当たりする勢いで飛び込んできたミリーをなんとか受け止めたけど、続いて飛んできたジャックの勢いで俺はそのまま地面に倒されてしまった。

 「コータッッ!」

 「何やってんだよっっ!」

 俺の上に乗り上げたまま文句を言う2人。

 「何って、スミレがこっちに向かってた襲撃者を見つけたからさ、迎撃してあげようって事になったんだよ」

 『トラ獣人たちがやって来ていたんです』

 「そうそう、でもあんまりテントに近いとうるさいだろうからって思ってさ、ここまで移動してからの攻撃にしたって訳だ」

 『うるさかったですか?』

 スミレが尋ねると、フルフルと頭を振る2人。

 「音はしなかった、よ。でもね、なにか起きてるって気がした」

 「おう、気になって目が覚めたんだよな」

 「だから外見たよ」

 「でもコータもスミレもいなくてびっくりしたぜ」

 ああ、どうやら俺たちがいなくて不安になったみたいだな。

 「いや、だってお前らぐっすり寝てたじゃん」

 「おこしてよかった」

 「そうだぜっ」

 むくれて俺を睨んでいる2人の頭をワシャワシャっとかき回してから、なんとか上体を起こして2人を俺の上から下ろす。

 「悪かったって。俺としては気を使って起こさなかったんだよ」

 「だめ、わたしのせい。だったら、いっしょにやりたい」

 「おうよ。俺だってやれるんだぜっっ」

 う〜ん、2人のやりたい、がどうしても俺にはりたいに聞こえるんだけど、気のせいか?

 「判ったよ。じゃあ、一緒に迎え撃とうか」

 「うんっ」

 「おうっ」

 途端に嬉しそうに頷く2人は、そのまま背負っていたリュックサックを下ろして中から武器を取り出した。

 ああ、そう。ちゃんとリュックサックも持ってきてたんだな。

 ほんっとうにやる気満々だったって訳か。

 「スミレ、ライトをあげようか」

 『いいんですか? 見つかりますよ?』

 「その方がいいんだよ。見つけてもらって近づいてくれた方が俺たちの武器的にも楽だろ?」

 『ああ、そうですね。判りました』

 スミレは頷くとストレージから丸い物体を2個取り出して頭上に投げると、それはゆっくりとほのかな光を放ち始めた。

 『このくらいの明るさでどうでしょう?』

 「十分だ」

 俺はまだ暗視グラスをしたままだったから、うっすらとした程度の明かりでも十分周囲を見る事ができる。

 それにミリーはトラ獣人だしジャックはケットシーなので、もともと夜目は効くからこれで十分だろう。

 「でもこの程度であっちのトラ獣人たちにも見えるのか?」

 『十分です』

 「そっか、じゃあ、ここで待つか」

 「わかった」

 「おう」

 やる気満々の2人は既に武器を構えていつでも攻撃できるようだ。

 よ〜し、やるか。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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