271.
俺は作業の手を止めて、ポーチからパチンコを取り出す。
ついでに使うかどうかは判らないけど、以前作ったライフルもどきも取り出しておく。
「距離は?」
『まだかなり離れています。今の速度であればここに到着するまでに30分ほどはかかるのではないでしょうか?』
「場所はバレてるのか?」
『どうでしょう? かなりまっすぐこちらに向かっている事から、その可能性はあると思います』
「そっか」
う〜ん、どうするかなぁ。
テントを振り返りながら、どう対処するか考えてみる。
このままここで返り討ちにするのもいいけど、そうなると寝ている2人を起こしてしまう事になる。
今日はいろいろ大変だったからな。できればこのまま寝させてやりたい。
「スミレ、結界を2つ作る事は?」
『できますけど、少し時間がかかります』
「そっか、じゃあさ、結界を長く伸ばす事は?」
『結界の形を変える方が簡単ですね』
今は真四角の形だけど、これを縦長にする方が2つ作るより楽なのか。
相変わらず結界はよく判らない。
「じゃあテントを含めて真っ直ぐこっちに向かっている連中のいる方向に伸ばせるか?」
『はい、どのくらい伸ばせばいいですか?』
「伸ばせるだけ伸ばしてくれ。そこで迎撃しよう」
『それ--ああ、なるほど。判りました』
疑問に思ったスミレは俺に尋ねる前にそれがミリーたちのためだと判ったみたいですぐに頷いてくれた。
「遮音もしてくれよ」
『もちろんです』
よし、音はこれで心配なくなったな。
って事で俺は以前も使った事がある打ちあげ用の筒が使えるな。
俺はよっこいしょと掛け声をかけてからベンチから立ち上がると、そのままスミレが指し示す方向に向かう。
いや、向かおうとしてふと思い出してアラネアを取り出した。
『コータ様?』
「いや、この方が楽じゃん」
なんせ相手はトラ族なんだぞ。遅れを取る訳にはいかないだろ?
「はぁ、判りました。確かに徒歩での移動よりは距離を稼げますからね」
「だろだろ。って事で、行こうか」
アラネアで10分移動してからそこで準備をすれば、丁度いいくらいのタイミングになると思う。
俺は窓から飛び込んできたスミレから鼻先を守ってから、アラネアを発振させた。
アラネアの横に予備のテーブルを出して置く。
それからいつものベンチはテントのそばに置きっぱなしのままここにきたので、代わりの昔使っていた1人掛けの折りたたみの椅子を取り出した。
そこに座って横にあるテーブルの上にポーチから取り出した武器一式を並べる。
「パチンコの弾は・・・と、結構あるな。それからなんちゃってバズーガの砲弾・・・も、結構あるのか。まぁこれは使いどころを選ぶからなぁ・・・」
もしかしたら使わないかもしれない、そう思いつつもテーブルの上に並べる。
さっきアラネアに乗った時、10分ほど進んだ場所で、と思ったんだけど、そこまでスミレの結界が伸びなかったよ。
結局5分ほど走らせたところでストップとなった。
ま、それでもそれなりに距離が離れているから、俺が少々大きな音を立てても大丈夫だろう。
「ライフルは、っと・・・今回は暗いから狙いを定めるのが難しいのか?」
う〜ん、ある程度距離を詰めてからになるだろうから、やっぱりここはいつものパチンコとなんちゃってバズーガがいいか。
「スミレ、武器は?」
『私は大丈夫ですよ。スフィアを使います』
そういや前に攻撃型のスフィアを作ってたな、こいつ。
「ここに来る前に後ろから1発やっちゃえないいんじゃないのか?」
『1発ですか?』
「うん、警告を兼ねてまずはこっちから先制攻撃って言うのはどう思う?」
やられっぱなし、っていうのは嫌だからな。
『なるほど、それも面白そうですね』
「面白そうって、スミレ・・・」
遊びじゃないんだぞ?
『あれだけはっきりと警告したのにこうして無視して来たんですからね、しっかりと私を舐めないように教え込んでおこうかと思っています』
「ははは・・・・」
見るとスミレは丁度スフィアを取り出したところだった。
『コンバット・スフィアと言います。攻撃特化の新しいスフィアですね』
「どんな攻撃をするんだ?」
『ふふふ・・・・内緒です』
あ〜・・・そう。
多分聞かない方がいいんだろうな、うん。
『そろそろですよ、コータ様』
「距離は?」
『およそ150メッチといったところですね』
「おっけ」
じゃあ、まずは威嚇を兼ねてのなんちゃってバズーガだな。
でもその前に、スミレの先制攻撃だ。
『では飛ばします』
スミレの声に振り返ると、丁度スフィアが上昇していくところだった。
『あのまま敵の背後に回り込ませ、そのまま初撃を打ち込ませて上空待機させます』
「相手の数は?」
『7人です』
そういや数を聞いてなかったな、と思い出して聞いてみた。
『そのうちの1人は銀虎ですね』
「やっぱりか」
『しかも、その銀虎は最初に私たちと対峙した個体です』
「あ〜、そういやあいつ、思いっきり俺たちを睨んでたもんな」
『そうですね。あの態度だけで万死に値します』
「いや、スミレ、殺すなよ?」
なんかすっごく不穏な言葉が出てこなかったか?
慌てて止めると、不満そうな顔のスミレが振り返った。
『どうしてですか? 私はあの時はっきりと警告したんですよ、2度と私たちに手を出すな、と』
「うん、知ってる。でもさ、ここで殺してしまうとトラ族の村でどうなったか判るものが誰もいないだろ? それじゃあ困る」
『何が困るんですか?』
「だから、さ。俺たちの攻撃を受けて、それがどんなものだったかを報告するヤツがいるだろ? それも1人じゃなくてたくさん。全員が口を揃えてどんな攻撃を受けて撤退したのかを金虎に伝えれば、多分それ以上の追撃はなくなると思うんだ。でも誰もいなかったらどんな目に遭わされたかも判らないだろ? そうなったらまた来るかもしれないじゃん」
『なるほど・・・』
俺としてはただ単に殺したくないって言う気持ちの方が大きいだけで、本当はそこまでちゃんと考えていた訳じゃない。
ただスミレを納得させるために大げさに言っただけだ。
それでも俺の言葉に頷いたスミレはストレージからサーチング・スフィア、カメラ付きを2台取り出してそれも空に放つ。
「あれ、何するんだ?」
『映像を撮っておきます。きちんと証拠は取っておいた方がいいと判断しました』
「・・・なんのために?」
『もちろん、晒すために決まってるじゃないですか。おそらくですが、門でのやり取りは他のトラ族には言わないで、私たちが銅虎であるミリーを攫ったと説明しているのではないでしょうか?』
「いや、でもさ、スミレがあれだけ脅したのに、それでも追ってくると思うか?」
あれは俺でも怖かったぞ。
『そこが金虎が馬鹿なんです。ちっぽけなプライドのせいで、脅されたなんて言えなかったんでしょうね。そして、あの場にいた銀虎には口止めをしていると思いますよ。全く情けない。肝っ玉は小さいくせになけなしのプライドにしがみつくしかないなんて、一族を率いる立場の者とは思えないですね』
「ちっぽけなって、スミレ・・・・」
『あそこで素直に自分の力量を受け入れて、ミリーちゃんが金虎である自分を拒否した事を認めていれば無事に済んだものを』
「あの、スミレ?」
『しっかりと身の程を教えてあげないといけませんね。これが片付いたらお仕置きです』
黒いっっ、黒いぞっっ、スミレッッ!
顔は笑ってるけど、笑みは真っ黒だぞっっ!
それに、だ、お仕置きってなんなんだよ。
「あの、スミレさん・・・?」
『なんでしょう、コータ様?』
「そのですね、その・・・お仕置きっていうのは、一体なんなんでしょうか?」
『お仕置きですか? 決まってるじゃないですか。身の程をしっかりと金虎の体に染みつかせてあげるための行為ですよ』
いや、それ、既に行為なんていう程度じゃないと思うんだけど、俺の気のせいか?!?
『まぁ、それはあとですね。今は目の前の馬鹿どもの躾が先です』
「躾って・・・・」
『サーチング・スフィア、位置につきました。コンバット・スフィアも攻撃準備できました』
躾と言う言葉に引っかかるものはあったんだけど、スミレはそれを誤魔化すように話を変えた。
今すぐ追求したいところだけど、今はそれどころじゃないって事くらい判ってる。
「判った、じゃあすぐにでも先制攻撃開始・・・・それからスミレ、あとで話をするぞ」
『判りました』
俺の言葉のどっちに対しての了承の言葉なのか判らないけど、今は目の前の事に集中だ。
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