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268.

 俺とミリーの前に出るとそのまま姿を見えるようにしたのか、俺たちと対峙している5人がぽかんと口を開けてスミレを凝視している。

 ま、まぁ仕方ないだろうな、うん。

 ぎゅっと抱きしめてくる力がこもったから見下ろすと、ミリーが俺に抱きついたまま驚いたようにスミレを見ている。

 これも仕方ないな、うん。いつだってスミレの事は内緒だという事にしてたからなぁ。

 「せ、精霊様ですか?」

 『ん〜、ちょっと違いますけどね。まぁ似たようなものかもしれません』

 最初に正気づいたのは金虎だった。

 「い、言い伝えの通りのお姿です」

 『そうですか?』

 「お、おい、おまえらっ、が高いぞ」 

 慌てふためいた金虎に言われ、銀虎たちは慌てて片膝をついて頭を下げる。

 あまりにも態度が変わりすぎて驚いたように見ていると、未だに立ったままの俺たちを睨みつけてきた。

 「おい、お前らも精霊様の前で何突っ立ってるんだっ!」

 えっ? 俺たち?

 思わず自分を指さすと、大きく頷かれた。

 いや、でもさ、スミレは俺たちの仲間なんだけど?

 ってか、そういうんだったら、お前こそ頭が高いと思うぞ。

 「俺たちですか?」

 「そうだっ! 精霊様を前にいつまでも突っ立ってるなっっ!」

 「そういうあなたは?」

 「俺は金虎だからいいんだ」

 あっそ、ふぅん。

 「なあスミレ、俺もスミレに跪いた方がいい?」

 『何言ってるんですか、コータ様』

 「いや、だってさ、あの人が跪けって言ってるからさ」

 『馬鹿な事を言わないでください』

 判ってて言ってるだろうと睨みつけられて誤魔化すようにヘラっと笑って見せると、呆れたような目を向けられた。

 おかしいなぁ・・・・

 『あなたも余計な事は言わないでください』

 「はっ」

 『コータさまは私の主様あるじさまです。そのような方に跪けなどと二度と言わないで下さい』

 いつになく冷たい口調のスミレに、金虎は頭を下げた。

 でも目だけは俺に向けて睨んでいたのは見えてるぞ。

 多分スミレも見たんじゃあないかな? 

 もしかして気がつかれてないとでも思ったのか?

 いやさすがにそれはないだろう、金虎と言われるトラ族の者たちにとっては王様といってもおかしくない存在だからな。

 「スミレ」

 『はい、ミリーちゃん?』

 「話し、するの?」

 『はい、ちゃんと思っている事ははっきりと伝えましょうね。その上で、今後どうしてもらいたいかも伝えましょう』

 「わかった」

 自分と金虎の間でホバリングしているスミレを見上げて話をしているミリーは、しがみついていた俺から体を離してスミレのところまで進む。

 それから結界を挟んで立っている金虎を見上げた。

 「銅虎よ、来る気になったのか?」

 「行かない」

 「なっ、おまえは銅虎としての役割を放棄するのか?」

 スミレの前だからなのか、さっきよりも大袈裟な反応を示す金虎。

 「銅虎は金虎を支えるのがその役目なのだぞ? トラ族として生まれたからには、その役目を果たすのもトラ族の誇りとは思わないのか?」

 諭すように静かな声でミリーに話す金虎、そんな彼をミリーが見つめているだろう雰囲気が伝わって来る。

 「銅虎よ、おまえがトラ族であるならば、金虎である俺を支える事を選ぶべきだ」

 「どうして?」

 「どうして、だと? おまえにはトラ族としての誇りはないのか?」

 「ないよ、そんなもの」

 「なっっ・・・・・」

 「だって、トラ族はわたしとおとさん、追い出したんだよ? わたしは、トラ族じゃないんだって言って」

 どこか冷めたようなミリーの声に、俺はおもわず彼女の後ろに立ちその肩にそっと手を置いた。

 俺の手が肩に触れた時少しだけ身じろぎをしたミリーが俺を見上げてきた。

 そんな彼女と目を合わせてから、小さく頷いて見せた。

 少しだけホッとした表情をしてから、ミリーはまた目の前の金虎に目を向けた。

 「呪われてる、って言われた。トラ族じゃない、って言われた。最後には、おとさんと出て行け、って言われた。だからわたしはトラ族、じゃないよ」

 「し、しかし、おまえは銅虎だろう」

 「うん。らしいね」

 「では、銅虎としての務めは果たすべきだ」

 こいつはミリーの話を本当に聞いているんだろうか?

 トラ族から追い出されたミリーにトラ族としての務めを果たせと迫ったって、そんなもの素直にうんと言う筈がないに決まってるだろうに。

 「どうして? トラ族からトラ族じゃない、って追い出されたんだよ?」

 「それはなんらかの手違いだったんだろう。おまえは銅虎なのだ。トラ族だ」

 「じゃあ、てちがい、でおとさんは死んだの?」

 「それは運が悪かったんだ。事故のようなものだろう」

 運が悪かった、で父親の死を受け入れられるとでも思ってるんだろうか?

 目の前の馬鹿をどうやって罵倒してやろうか、と考える俺よりも先にミリーが爆発した。

 「ふざけるなっっ!」

 「なっ」

 「おとさん、死んだの、運が悪い? 違うよっっ! おとさんはトラ族に、殺されたっっ!」

 「銅虎よ。そうじゃない、事故だったんだろう? 手違いから起きた事--」

 「ちがうっっ! でていけ、っていわれなかったらっっ・・・おとさん・・・」

 ぐっと握りしめた拳を震わせて、それ以上は嗚咽で言葉が続かないミリー。

 俺はそんなミリーの背中をそっと撫でながらも目の前の金虎から目を離さない。

 それを見て、ずっと不思議に思っていた事を金虎に聞いてみる。

 「そんなに銅虎が大切なのなら、どうしてトラ族の集落に銅虎の見た目とその役割を周知しなかったんですか?」

 「なんだと?」

 「だから、そんなに大切な銅虎の事を全てのトラ族の集落が知っていれば、ミリーがこんなに辛い思いをする事もなかったと思いますよ」

 トラ族には金虎、銀虎、それに銅虎なんていうのがいて、その毛並みがミリーのような赤銅色だと知っていれば、呪われたなどと言われて忌み嫌われる事はなかった筈だ。

 「おまえには関係ない。これはトラ族の問題だ」

 「そうですね。ですが、これは俺だけの疑問じゃなくて、この子も同じように思っている筈ですよ?」

 「そんな事はない。これはトラ族以外には関係ない事だ」

 頑なに俺には話したくないようだ。

 『銅虎とは隠さなければいけない存在なのですか?』

 「せ、精霊様・・・」

 『私はこの子が保護された時からずっと一緒にいます。ですからどうしてこんな良い子が忌み嫌われなければならないのだろう、と思っていたんです。どうしてトラ族にとって大切な存在だというのにそれが周知されていなかったのか、私も知りたいですね』

 「それは・・・」

 言い詰まる金虎を見てると、もしかしたらわざと伝えてなかったのかもしれない、と思ってしまった。

 それはスミレも同様だったようで、スッと目を眇める。

 『もしかして、わざと銅虎の事は周知していなかった、という事ですか?』

 「それは・・・」

 『金虎と銀虎の事は周知しているようですね。それなのにどうして銅虎については誰も知らなかったんでしょう?』

 「それは・・・」

 それは、以外何も言えない金虎に痺れを切らしたスミレは、結界ギリギリまでどころか結界から出て金虎の目の前50センチのところでホバリングで止まった。

 『はっきりと教えていただけますか? まぁ私にはどうしてなのか、なんとなく想像がつきますけどね』

 えっ、スミレにはどうしてなのか判るのか?

 俺にはさっぱりだぞ?

 それはおそらくミリーも同じのようで、困惑したように俺を見上げて頭を傾げる。

 『自分の口で言いますか?』

 「な、何を?」

 『ですから、どうして銅虎に関して秘密にしていた事、ですよ』

 「べ、別に秘密にしていた訳では・・・」

 『そうですね。誰も知らなければ、秘密だって思わないですよね』

 「そ、そうではなくて・・・」

 『では、私が言いましょうか?』

 今の金虎はさっきまでの尊大な態度はすっかり消え失せて、胡散臭い男と化してしまった。

 『金虎や銀虎はその力が生まれた時から他のトラ族の男たちと比べると段違いだとか。でも銅虎は見た目が違う以外特に特徴はない、そうですよね? ですが銅虎は他のトラ族にはない力があります。その1つが治癒能力、違いますか?』

 「・・・・」

 『そのような特別な力を持っていれば、金虎や銀虎に守られなくても生きていけます。ですがそうなると金虎を頼る事はしないでしょう。頼らなくても周囲が大切にしてくれますからね』

 少し挑発するような口調のスミレだけど、金虎は何も言わずに視線まで逸らしている。

 『でも生まれた時から他と毛色が違い、おまけに幼いまま成長まで止めてしまう銅虎は、周囲がその子が銅虎であるという事を知らなければ薄気味悪い存在でしかありません。ただただ忌み嫌われる存在でしょう。そんな周囲から忌み嫌われて生きてきた銅虎を保護し自分という存在をその心に埋めつける事で、容易に金虎を唯一の存在として認めさせる事ができますよね。銅虎が成長するために必要な事は1つだけ、ただ1人の相手を見つける事で--』

 「それって、自分のものにするためにわざと周知しなかった、って事か? 虐げられた銅虎に手を差し伸べれば金虎を受け入れやすいから、ではないですか?」

 思わずスミレの言葉を遮ってしまう。

 なんだよ、それ。

 そんな理由のために、ミリーが大変な想いをしたのか?








 読んでくださって、ありがとうございました。


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