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266.

 今回、超シリアス?!?

 俺の前に立っているから表情を見る事はできない。

 でもその口から出た言葉は、さっきまで怯えていたとは思えないほどしっかりしたものだった。

 「わたしがここに、来たのは・・・ほっといて、っていうため」

 「どういう意味でしょうか?」

 顎を上げ、区切りながらでもその声ははっきりと俺には聞こえた。

 そしてそれは目の前の銀虎にも聞こえたようで、眉間に皺を寄せながら、ミリーの言葉の意を聞き出そうとしている。

 「わたしはここに、来たくない。わたしの事は、ほっといてほしい、の」

 「しかし、あなたは銅虎の君ですよ? あなたに金虎を支えて欲しいのです」

 「いや」

 下手したてに出るような口調でミリーを説きただそうとする銀虎に、ミリーは頭を横に振りながらキッパリと拒否の言葉を口にする。

 「・・・なぜですか? あなたは銅虎としての務めを果たすべきです」

 「そんなの、そっちの勝手。わたしには関係ない、よ」

 「銅虎、なのに?」

 「好きで、そんなものになって、ない」

 「何を仰います。銅虎の君というのは大変誉れある存在であるというのに、そのような戯言ざれごとを仰るなんて」

 誉れであると言いながらも、銀虎の目はギラギラとミリーを睨みつける。

 口調は丁重だけど、ミリーの事を大切だとか誉れだとか、ちっともそんな風に思ってない事が手に取るように判る。

 「そんなものの、ために、おとさん、おかさん、死んだよ。そんなの・・・ちっともホマレじゃない。わたしにはノロイ・・・」

 「何を仰っているのか私にはさっぱり判りません。誰かに入れ知恵でもされたのですか?」

 言いながら俺をめつける。

 俺がミリーを洗脳したってか?

 「ミリーは生まれながらの赤銅色のせいで、呪われた子供だって虐げられていたんだよ。そんな彼女の母親は病で亡くなり、暫くしてミリーは父親とともに住んでいた集落を追いだされたんだ」

 「何を・・・・」

 「そして、彼女の父親は森の中で彼女を守るために魔物に殺された。俺が見つけた時のミリーは痩せこけて今にも死にそうだったよ」

 あの時の事を思い出すと今でも胸がぎゅっと掴まれるように痛む。

 ガリガリで死んでるのかと思ったんだ。

 今はふっくらとして子供らしく可愛くなったけど、あの時は男か女かって事すら判らないくらい痩せこけていた。

 「ああ、ちなみに彼女が住んでいたのはトラ族の集落だった」

 俺は銀虎から目を離す事なく今の言葉を付け足した。

 これだけははっきりと言っておかないとな。

 トラ族の子供が同じトラ族に虐げられたんだ。そんな相手を信じられなくても仕方ないだろう、って言いたかったんだ。

 「まさか。トラ族が同じトラ族をそのように扱うなど有りえない」

 「だと良かったんだけどな」

 もしそうなら、少々毛並みが違っても呪われた子供なんて言われる事なく大きくなれたかもしれない。

 もしかしたらミリーの両親だって、今も健在かもしれない。

 でも現実はそうじゃない。ミリーは呪われてるといって忌み嫌われ、母親を失って、集落から追い出され、そして父親を喪った。

 「おまえの作り話ではないのか? そのような事を銅虎に教え込んだのだろう」

 「ちがうっっ、コータはそんなことし、ないっ!」

 「いいえ、違いませんよ。あのような男の言葉など信じてはいけません」

 「コータはそんな事言わない、よっ! わたしがいわれたこと、だものっっ! だれかえらい人がくる、わたしがいるとけがれる、でていけ、って・・・・っ! わたし、なにもしてないのに、おとさん、一緒にでてけ、って・・・っ!」

 ぐっと拳を握りしめたままミリーが嗚咽を堪えながら叫ぶようにそう言うと、そのまま俺のところに戻りぎゅっと抱きついてきた。

 俺はそんなミリーの頭をそっと撫でてやる。

 「俺は彼女には何も言ってませんよ。今彼女が話した事は出会ってから暫くしてから教えてもらいました。出会った当初、この子は衰弱しきっていて骨が浮き出るほどガリガリだったんです。それにいつも不安に押しつぶされそうになっていて、また1人で置いていかれるんじゃないかと俺の顔色ばかり伺っていました」

 「・・・・・」

 「本当はこの子、ここにだって来たくなかったんですよ。トラ族とはなんに関わりもない生活を望んでいるんです。それでもセレスティナさんにきちんと話をつけてきなさい、って言われたから来る事にしたんです。だから、この子が今言った事は本心だと思いますよ」

 よしよし、と背中をトントンと叩いて落ち着くのを待っているけど、ミリーの嗚咽はなかなか止まりそうにない。

 サイドキックからジャックの心配そうな視線を感じるけど、あいつも何もできる事がないからじっと中で我慢しているみたいだ。

 「これはこの子の意思です。俺が無理矢理押し付けたような言い方は止めてください」

 「お前に何が判る」

 「少なくともこの子と過ごした分だけ、あなたよりも理解しているつもりですよ」

 「なんだと」

 「だから俺は彼女がここに来るという意思を尊重したし、ここに来るまで力を貸した」

 ギリ、と音がするほど歯を噛み締めた銀虎は俺を睨みつける。

 普段の俺だったらきっとここでビビってる。

 でもここでビビって逃げたらミリーはどうなる?

 俺はミリーを守るつもりでここに来ているんだ。ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るっていうんだよ。

 だから俺は絶対にあいつから目を逸らすつもりはない。

 「銅虎は金虎様のためにある。それが判らないのか?」

 「いいえ、判りません。銅虎だって心はあるんです。もしその心が金虎と沿わない道を選んだなら、その道を行く権利はあります」

 「金虎様を選ばない道などない」

 「いいえ、ありますよ。銅虎には誰も強制できない、間違ってますか?」

 「・・・・」

 間違ってない筈だ。

 セレスティナさんだって、あの時言ってたじゃないか。銅虎は自分の身を守るために成長を止めているんだ、と。もし無理矢理金虎と添い遂げさせようとしたって、銅虎がそれを望まなければいつまでたっても子供体型のママだ。

 それはきっと彼らにだって判ってる筈だ。

 でもここに留め置く事さえできれば、なんらかの手段を使ってでも金虎を受け入れさせる事ができるに違いない。

 だからこそ、彼らは強引にミリーを引き止めようとしているんだ。

 俺だってそれが判っているから、絶対に唯々諾々と従う気はこれっぽちもない。








 『コータ様、奥から4人ほどこちらに向かってくるようです』

 俺と銀虎はそれ以上何も言わず、暫くの間睨み合っていた。

 そんな俺にスミレが声をかけてきた。

 「4人?」

 『はい、おそらく金虎と銀虎が3人ですね』

 「痺れを切らしたかな・・・」

 目の前の銀虎がなかなか戻ってこないから様子を見に来たか?

 それとも示威行為か?

 俺はトラ族の習性っていうのを知らないから、今こちらに向かっている4人が何のために来るのかさっぱり判らない。

 「どのくらいで来る?」

 『もうそろそろ姿が見えると思いますよ?』

 「早いな」

 『仮にもトラ族ですからね。サーチング・スフィアで見つけた時には既にかなりの速度でこちらに向かってましたから』

 なるほど、トラ族っていうのは足が早いのか。そういやミリーも駆けっこは早かったっけ。

 「どう出ると思う?」

 『判りません。その判断ができるだけの情報がありませんから』

 そりゃそうか。

 「結界は? 大丈夫だろうな?」

 『当たり前です。トラ族は基本力技できますから、どれだけの物量で攻撃されても大丈夫です。もし魔法で攻撃されたとしても、この村にいるトラ族全員がまとめてかかってきても大丈夫ですからね』

 「おまえ・・・」

 『もちろん、コータ様の魔力のおかげですね』

 ニコ、と頷くスミレ。思わず溜め息が出そうになったのをグッと飲み込む。

 さすがにここで溜め息を吐いたら、銀虎が怒り狂いそうだからな。

 なんせ彼にはスミレは見えてないのだ。ここで俺が溜め息なんか吐いたら自分に対してだと思うに違いない。

 「あ〜・・・まぁ、しっかりミリーを守れるんだったら、俺の魔力くらい好きにすればいいよ」

 『本当ですね? 言質とりましたよ?』

 パッと俺の肩から飛び上がって、俺の顔に指を突きつけてくるスミレに、思わず眉間に皺が寄る。

 『ミリーちゃん。そろそろもう数人のお客様が来るみたいですよ』

 「・・・スミレ?」

 『そのお客様がミリーちゃんの気持ちを伝える相手です。準備はいいですか?』

 「きっちりケリをつけような」

 「・・・うん」

 いろいろとやる気がありすぎるスミレが心配だけど、この状況では1番頼りになるのもスミレだからな。

 もぞもぞと動いて俺を見上げてくるミリーに頷くと、彼女はそのまま俺の腰に抱きついたまま横に移動して顔を銀虎に向ける。

 それを確認してから俺も銀虎に視線を向けると、彼の後ろからゆっくりとこちらに向かってくる4つの影が目に入った。

 「来たな」

 『来ましたね』

 さぁ、いよいよ本番だ。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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