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264.

 トラ族の村は森の奥にある、と聞いていたからどれほど鬱蒼とした道を進むのかと思っていたんだけど、実際は街道からトラ族の村に向かう整備された道が伸びていた。

 まぁ、そうは言っても街道の半分くらいの幅の道だけどちゃんと石畳だ。

 そしてそれは森の中に入ってからも同様だった。

 おかげで思ったよりも早く村の前にやってこれた。

 村は高さ5メートルほどの塀に囲まれていて、門の両側にある櫓には門番と思しき男がそれぞれ2人ずつ立っているのが見える。

 俺は門番の男達が見守る中、ゆっくりとサイドキックを門の前まで走らせる。

 「止まれっっっ!」

 門から20メートルといったところで、門番から停止の声が聞こえた。

 俺はサイドキックを停めてからエンジンを切る。

 それから窓を開けて向こうが何か言うのを待つ。

 「何者だ?」

 「どこから来た?」

 誰何する声が聞こえ、俺はサイドキックから降りた。

 もちろん、ドアは開けたままでその後ろに立つ事でドアを盾代わりにする。

 「大都市アリアナから来ました」

 「なにしに来た!」

 「俺たちのチーム・メンバーの1人がトラ族で、彼女を探していると言われたので」

 「なんだと・・・」

 おぉ、唸り声がここまで響いてきた。

 「彼女を強引に連れて行こうとしたので、代わりに俺が連れてきたんです」

 「その女トラ族はどこにいる?」

 「ここに」

 俺が助手席を振り返ると、ミリーはチャイルドシートから立ち上がってサンルーフから上半身だけ出した。

 「おぉ、銅虎か」

 「なるほど。探していた訳だな」

 「さっさとこちらに来い」

 「お前だけ中に入れ」

 門番の4人が口々にミリーに声をかけているが、ミリーはその場に立ったまま動かない。

 「何をしている。早くしろっっっ!」

 門番4人のうちの1人が動かないミリーに焦れたのか、怒鳴るような声をあげた。

 途端にビクッと身体を震わせたミリーはそのままサイドキックの中に戻ってしまう。

 うん、あんなすごい迫力のある相手から怒鳴られたら怖いよな。

 「おまえ、その女にこっちに来るように言えっっ」

 「それは銅虎だ、こちらに寄越せ」

 横柄な態度の門番に、俺は呆れて物が言えない。

 なんだよ、あの女トラ獣人だけじゃないのか。

 あいつら、ミリーをそれって言いやがった。物のように扱うつもりだ、っていうのが態度にバレバレだ。

 「コータ・・・」

 「大丈夫だよ、ミリー。絶対に無理矢理連れて行かれるなんて事はないからな」

 「・・・うん」

 怒鳴られた事ですっかり萎縮したミリーが半泣きの声で俺を呼ぶ。

 「絶対に守る。約束したろ? でも、ちゃんと自分の気持ちは自分で口にするんだぞ?」

 「・・・わかった」

 頷いたミリーの声は小さかったけど、しっかりしていたから大丈夫だろう。

 「おい、おまえっっ、聞いているのかっっっ!」

 なんか門番が叫んでいるけど、今は無視しよう。

 それよりもする事があるからな。

 「スミレ、人が集まってきたか?」

 『まだそれほどでもないですね。でもあの人たちの声は大きいから言ってる事は聞こえているようです』

 「銅虎、って言葉もか?」

 『おそらくは』

 「じゃあ金虎は無理でも銀虎くらいはやってくるかな?」

 『こなければ来るまで待ちましょう』

 「そうだな」

 スミレと俺が立てた計画は、村に入らずにトラ族のお偉いさんと話をする事、だった。

 中に入ってしまうと周りは全て敵になる。

 スミレの予想ではそれでも逃げようと思えば逃げ切れるらしいけど、それなりの物敵被害を村に出す事になるだろうって事だった。

 向こうの自業自得とはいえそうなると後味が悪いから、俺たちはもっともどちらにも被害が少ないだろう方法、という事で村に入らずに交渉を済ませる、というコースを選んだんだ。

 ま、確かにここなら何かあってもすぐに逃げられるもんな。

 「おいっ、そこのおまえっっ! 聞いているのかっっっ!」

 また怒声が聞こえてきたけど、ここは無視無視。

 「サーチング・スフィアを飛ばしているんだっけ?」

 『はい、3機飛ばしています』

 「じゃあ、向こうで金虎か銀虎が動いたら教えてくれるかな?」

 『判りました』

 「ミリーも予定通り、ちゃんと話をするんだよ。できる?」

 「だいじょぶ・・・多分」

 大丈夫だと言ってから少しだけ小さな声で多分と付け足すミリーは、不安でいっぱいですと言わんばかりの表情を浮かべている。

 「スミレ、なんだったら映像をサイドキックの中で・・・いや、いいや。スミレは映像を見る事ができるんだろ? だったら適当に判断して指示を出してくれ」

 『判りました』

 サイドキックでミリーたちが状況を見る事ができた方が恐怖心が減るかもと思ったけど、そういった途端にミリーが不安そうな表情を浮かべたのですぐに撤回した。

 見えないのは不安だけど、知らなくていい事もあるって事なんだろう。

 『コータ様』

 「ん?」

 『門番が1人、こっちにやってきます』

 門の方に顔を向けると、左側の櫓にいたトラ獣人がこちらに向かってやってくるところだった。

 その手にはでっかい槍がある。

 なんか威嚇する気満々なんだけどさ。

 「スミレ、結界は?」

 『既に展開してあります。いちおうサイドキックの周囲3メートルを範囲にしています』

 「おっけ」

 スミレの結界があれば、槍の1本や2本こっちに投げられても大丈夫だ。

 「ミリーはとりあえず中にいろよ」

 「うん」

 「ジャックはそこから動くなよ」

 「おう」

 チャイルドシートは収納して、ジャックは運転席と助手席のシートの間から顔を出して前を見ている。

 「なぁスミレ、Uターンしておいた方がいいかな?」

 『大丈夫ですよ。結界の中でUターンをすれば安全ですからね』

 ああ、そっか。その手があるか。

 いきなり攻撃を受けた時に困るかなって思ったんだけど、じゃあこのままでもいいかな?

 「おいっっ!」

 結構近くから聞こえた怒鳴り声に、俺は門の方を振り返る。

 するとサイドキックと門の丁度中間の辺りに門番が立ち止まって槍を構えているのが見える。

 「先ほどからこちらを無視するとは何事だっっっ! 失礼にもほどがあるぞっっっ!」

 『失礼って、怒鳴っているそっちの方が失礼だとは気づかないようですね』

 どこか馬鹿にしたような口調のスミレに思わず破顔してしまった。

 でもそんな俺の笑みを見て、男トラ獣人の顔が真っ赤になった。

 「なぜ笑うっっ! お前、俺を馬鹿にしているのかっっ!」

 『その通りです』

 「スミレ」

 澄ました顔でキッパリと言い切るスミレを嗜める俺。

 それから門番を見て、どうするかな、と考える。

 門番は見慣れない乗り物を不審に思ってあまり近くに寄ってくる事もなく、ただこっちを睨みつけているだけだ。

 「おいっっ! 聞いているのかっっ!」

 「怒鳴らなくても聞こえていますよ」

 「なんだとっっっっ!!」

 あんまりうるさいんで思わず返事をしたら、更に怒らせてしまったようだ。

 「おまえっっ、ただの人種ヒトのくせになんだ、その態度はっっ!」

 「だから、静かに話していただけませんか? 怒鳴らなくても耳はいいのでちゃんと聞こえています」

 「なっっ! だったらなぜ無視するんだっっ!」

 「無視した訳じゃないですよ? ただあまりにも言い方が横柄だったので従う気にならなかっただけです」

 ま、それを『無視』といえるかもしれないけどさ。

 「なんだとっっ! おまえ、さっさとそこにいる銅虎を差し出せっっ! 今ならそれで許してやるぞっっ!」

 はぁ?

 思わず眉間に皺が寄る。

 「差し出せ、とはどういう事でしょう? それから許してやる、とは?」

 「言葉の通りだっっっ! その銅虎は我らトラ族のものだっっ!」

 「彼女はモノではありませんよ? 彼女には名前もあるし感情もある。それを無視して扱うつもりですか?」

 「おまえには関係ないわっっっ!!」

 いや、関係あるからここにいるんだよ、俺。

 ミリーは俺の大事な仲間だ。それをモノのように扱うようなところに置いていくなんて本気で思ってるのかよ、こいつら。

 なんかそう考えると途端にムカムカしてきた。

 「スミレ、状況は?」

 『金虎の姿は確認できてませんが、銀虎はこちらに向かってきているようですね』

 「判った」

 役者がやってきているみたいだな。

 「なんで金虎と銀虎だって判るんだ?」

 『ミリーちゃんと一緒ですよ。金虎は金色で銀虎は銀色です』

 なるほど。そう言われるとミリーは赤銅色だもんな。

 黄色と白色のトラはいても金色と銀色は確かに珍しいだろう。

 ガツッッッ!!!

 結界に衝撃音がして慌てて視線を前に向けると、門番が結界に弾き飛ばされて地面に転がっているのが見えた。

 手にしていた槍は結界のすぐ側に転がっていて、長い柄の部分が半分に折れている。

 あれでこっちを攻撃してきたんだな。

 でも残念でした。こっちはスミレの結界で守られているからさ、あの程度の攻撃なら簡単に弾き飛ばせるんだよ、うん。

 「きさまっっっ! 何をしたっっっ!」

 地面に転がって一瞬茫然としていた門番が飛び上がるように立ち上がると、両手に拳を作って怒鳴り散らした。

 「何もしてませんけど?」

 「嘘をつけっっっ! 俺を攻撃しただろうがっっ!」

 攻撃? 誰が?

 「そっちが勝手にぶつかってきただけですよね? 俺は攻撃なんてしてませんよ?」

 「なっっ! 俺をバカにしているのかっっっ!」

 カッカ、カッカと頭に血が登りきっている門番は、どう見たって正常な判断ができていない。

 「早くこないかなぁ」

 「何を喋ってるっっ!」

 「なんでもないです」

 俺がボソッと言ったのが聞こえたみたいだ、さすがケモミミ。

 『きました』

 でも姿を見せないスミレの声はさすがに聞こえないみたいで、門番はギロッと俺を睨みつけている。











 そして、そんな彼の後ろでゆっくりと門が開いた。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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