258.
翌日、俺はミリーとジャックを孤児院に残したまま、乗り合い馬車で市街地に向かう。
行き先はハンターズ・ギルドだ。
そこでとりあえず暫くはアリアナを離れるので依頼を受ける事はできない事と、ポーチで肥やしと化していた素材を売り捌く事にした。
「コータさん、結構溜めこんでますねぇ」
「ははは、つい面倒くさくってほったらかしにしちゃうんですよね」
「たまには魔法バッグの中を掃除しないと、いざという時に入れたいものを入れるだけのスペースがなくなっちゃいますよ」
「そうなんですよね。だから出かける前に大掃除をしておこうと思って素材を売っちゃう事にしたんです」
取り出したのはゴンドランドや薬草、それから肉だ。
「はい、それでは奥で計算してきますので、少しお待ちください」
「あっ、素材を買いたいんですけど、ここでも買えますか?」
「素材ですか? え〜っと・・・あったあった、こちらの表に載っているものであれば、今現在在庫があります」
「判りました。じゃあ、待っている間に見せてもらいますね」
「はい、どうぞ」
俺はカウンターに広げた表を眺めながら、職員が十分離れた事を確認してからスミレに声をかける。
「この中にいるものあるか?」
『表に買いてある数字が今現在の在庫数でしょうか?』
「多分な。戻ってきたら聞いてみるよ」
『お願いします。もしこの数字が在庫数であれば、なんとかなりそうです。ああ、鉱石も結構揃ってますね』
「ん? そっちもいるのか?」
素材って言ってたけど、鉱石もそこに入ってたのかよ。
『もちろんです。フレームを頑丈にしたいですからね』
「そっか。まぁ頑丈であれば越した事はないか。他にそこに載ってないものでいるものがあれば言えよ? 聞いてみるからさ」
『お願いしますね』
スミレが顎に手を当てて考えている間、俺はポーチから昨日書き出したリストを取り出した。
そっちには明日からの旅で必要なものが書き出してある。
と言っても食料なんだけどさ。帰りに商店区域によるか、それとも誰かに買ってきてもらうか。
俺1人でも大丈夫だと思うけど、昨日のトラ族の2人が絡んできたら、俺1人じゃああしらいきれない気がする。
『どうしたんですか?』
「ん? いや、これから商店区域に行こうかって思うんだけど、昨日の2人が来たら俺だけじゃあ無理かなぁって思ってさ」
『そうですねぇ・・・じゃあ、ここで護衛を依頼すればいいんじゃないですか? もしかしたら手隙の人が受けてくれるかもしれないですよ?』
「すぐにすぐじゃ無理じゃね?」
『聞いてみないと判りませんよ? 試しに聞いてみて、それで誰も受けてくれなかったら、多めに注文して配達して貰えばいいんじゃないんですか? パンジーちゃんを預かってもらうんですから、お礼として食材を渡せばいいですよ』
なるほど、そりゃいいアイデアだ。
「スミレ、冴えてるな」
『ありがとうございます』
そっか、注文をしてそれを孤児院まで配達して貰えばいいのか。
配達料金とか取られそうだけど、それでも俺が1人で行くよりは安全だしマシだろうからな。
『でもコータ様、私がいますから安全は保証しますよ?』
「うん、判ってる。でもさ、目立ちたくないんだよ」
『目立つ、ですか?』
「うん、街の真ん中で結界を展開したりすると目立つだろ? そりゃ魔法具ですって言えばいいかもしれないけど、そしたら今度は高価な魔法具を狙ってくるヤツも出てくるかもしれないからさ、できれば人目につくような行為は避けたいんだ」
そうじゃなくてもグランバザードを生け捕りにしたって事で、意外と俺たちは有名になってきているらしからな。
そこに加えて、高価な魔法具も持ってます、なんていう宣伝はしたくないんだよ。
「まぁ、俺はビビリだからさ」
『コータ様』
「スミレだって知ってるだろ?」
『そんな事ないですよ。いつだってコータ様は頑張ってますし、いざという時はミリーちゃんやジャックを庇って前に出るじゃないですか』
「お子ちゃまたちを前に出したままビビってる訳にはいかないじゃん。それは仕方ないから、だよ」
別にカッコつけてる訳じゃない。
ただビビリの自分のせいでミリーたちが怪我なんかしたら自分が許せないから、だ。
「ま、その辺はさっきの職員さんが戻ってきたら聞いてみるよ・・・って、戻ってきたみたいだな」
顔を上げると丁度こちらに戻ってくる職員さんの姿が見えた。
軽やかな足取りで戻ってきた職員さんはカウンターにお金を載せる。
「お待たせしました。先ほどの買取金額は25500ドランとなります」
小金貨2枚に大銀貨5枚、それから小銀貨5枚、と数を確認してから俺はそれを受け取る。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ素材を持ってきてくださってありがとうございました」
「それからですね。こちらの素材を購入したいんですけどここに書かれている数字は在庫数ですか?」
「はい、そこに書いてある数字は在庫ですね。それでどの素材を購入されるつもりですか?」
そう聞かれて、俺はスミレが耳元でいう素材名を告げる。もちろん数もスミレが言うだけの数字だ。
「たくさん購入されるんですね」
「あはは、いろいろと作ってみたいものがあるから、余分に手元においておきたいんです」
「そのつもりで魔法バッグを整理されたんですか?」
「それもありますね。それでお聞きしたいんですけど、商店区域に行くのに護衛をしてくれるような人はいませんか?」
「護衛ですか?」
「はい。そのですね、以前シュナッツさんにできれば1人で出歩かないように、と言われていたので。それにいろいろと買い込むつもりなのでその荷物持ちも兼ねる人がいれば、と思ったんです」
別に嘘じゃないぞ。シュナッツさんに言われた事はあるんだ。ま、その時はグランバザードのオークションの前だったんだけどさ。
あっ、そういやそのあとでも護衛はいた方がいいみたいな事言われたな、すっかり忘れてたけどさ。
「そうですねぇ・・・今からでしたら少し難しいかと。明日であれば何人か心当たりはあるんですけどね」
「ですよねぇ。じゃあ、誰か商店区域にある店に品物を注文して、それを配達してもらうための手続きをしてくれる、なんていう人はいませんか?」
「それでしたらご自分で行かれて注文して配達してもらった方が早いんじゃないですか?」
「あははは・・・・」
うん、判ってる。
その方がはるかに早いし、ちゃんと自分の目で商品を見る事ができるしな。
でも、だ。たったそれだけの事だけど、トラ族2人の事を思うと心配なんだよな。
「あら? 丁度良さそうな人がやってきましたよ」
「えっ?」
「ギルマス、ちょっとコータさんに手を貸してあげられませんか?」
「いやっ、それはまずいでしょっっ」
なんでローガンさんを丁度いい、なんて言えるんだよっっ。
「なんだ、コータじゃねえか。何やってんだ?」
「いや、そのですね」
「こちらのコータさんが護衛を探しているんですけど、今日は時間的にも見つけられないって話をしていたんですよ。そこにギルマスがやってきたので、丁度いいかなぁって思ったんですけど、受けますよね?」
「俺ぇ? 俺がそこまでヒマってお前は言ってんのかよ」
「はい、ヒマですよね?」
にっこりと笑って肯定する職員さん、そんな事を言ってもいいのか?
「コータ、どこ行くんだ?」
「えっ?」
「商店区域に行かれるそうですよ? それで荷物持ちも兼ねた護衛が必要だそうです」
「なんだよ、そりゃ?」
ペラペラと喋る職員さんと、頭を傾げているローガンさん。
「あ〜・・・そのですね。ちょっと身の危険を感じているというか、その・・・」
「・・・だから今日はちいせえのを連れてきてねえのかよ」
「あ〜・・・はい」
いつもであれば連れてきているミリーたちがいない事に気づいたローガンさんは、そのまま顎をこすって何か考えている。
「いいじゃないですか、これも依頼ですよ、い・ら・い」
「だぁあっ、判ったよ。コータ、俺が一緒に行ってやる」
「えっ? いいんですか?」
「おうよ。その代わり俺に借り1つだからな」
「えぇぇ・・なんか割りに合わないんですけど?」
「うるせぇ。無理は言わねえよ」
う〜ん、本当に無理は言わないんだろうか?
ローガンさんなら無理を言ってもおかしくない気がするのは俺だけか?
「ギルマス、ここでポイントを稼いでおかないと」
「判ってんよ」
「じゃあ、お時間はありますよね?」
ポイントってなんだ?
俺の知らない話をにこやかな笑みを浮かべた職員さんと、苦虫を噛み潰したような顔をしたローガンさん貸している。
「お前、俺の仕事するか? 書類が溜まってんだぞ」
「しませんよ、そんなもの。それにどうせギルマスがする訳じゃないですよね、それ?」
「するぞ。まあ、それなりに手伝ってもらいながら、だけどな」
「それ、手伝ってもらう、じゃなくって、ギルマスが手伝っている、の間違いじゃあ」
「やかましいわっっ」
打てば響くツッコミ、うん、なんか日本にいる気分が味わえるな。
でもなんか今の会話でいろいろ判った事がある。
ローガンさん、書類仕事は他の人に押し付けて、その手伝いをしているだけなんだな。
思わず笑ってしまった俺をジロリと睨んだけど、なんか笑いのツボに入ったせいか止まらない。
そんな俺のところにやってきたローガンさんは小さく舌打ちをする。
「ほらギルマス、仕事してください。きっと喜びますよ?」
「おめえ・・・」
「私の方からギルマスは仕事で出かけている、ってお伝えしますから」
「ホントだな?」
「はい、真面目に仕事をしている、と伝えます」
ハァ、っとため息を吐いたローガンさんはそのまま俺を振り返る。
「そんなに時間はかからねえんだろ?」
「あっ、はい。1−2軒回るだけで済むと思います」
「んじゃ、いっか。行くぞ」
でっかい店を選んでそこに入ればまとめて買い物ができるだろう、と頷いた俺の腕を掴んでローガンさんがギルドを出て行く。
当然腕を掴まれている俺も引きずられるようにして外に出て行く。
「いってらっしゃ〜い」
にっこりと笑みを浮かべた職員さんが手を振って、俺たちを見送ってくれたのだった。
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