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って事で、まずは情報収集からだ。
「それじゃあ早速ですが、俺たちがミリーをトラ族の村に連れて行けるかどうかですけど、どう思いますか?」
「場所はお教えしますので、その通りに進んでいただければ問題なくつけると思います」
「特に障害になるような事は? 例えばトラ族じゃない俺たちを近寄らせない、とか?」
「・・・トラ族の村までは問題なく行けるでしょうね。銅虎が村に来る事は向こうが望んでいる事ですから。でもおそらく問題は帰りだと思います」
「帰り、ってここに帰ってくる時の事、ですか?」
話を煮詰めているうちに、こことトラ族の村の間の移動手段の話になった。
「それもありますが、トラ族を出てから移動する時の事です」
「同じ道ですよね?」
行きと同じ道を通るのに何が問題になるんだ?
「そうではなくて・・・・マリアベルナは銅虎です」
「判ってます、だから銅虎としての役目から自由になるために村に向かうんですよね。でもきちんとミリーには金虎の元に留まる気がないという事をはっきりさせれば、そのあとはミリーの好きにすればいいんですよね?」
「その通りですが・・・・例え彼女が金虎と共にいる事を望まなくても、それを金虎が許したとしても、周囲のトラ族のものがそれを許すとは限らない、という事です」
「つまり、ミリーを村から逃さないような動きがあるかもしれな、って事ですか?」
「あるかもしれない、というより、おそらくはあるでしょう」
セレスティナさんが苦々しく言い切る。
なるほど。
金虎がミリーが自分から離れる事を認めたとしても、周囲のトラ族の連中が無理矢理ミリーを村に閉じ込めてしまう可能性があるって事か。
きっと、金虎と同じ村にいれば金虎のために生きる道を選ぶ、と思っているんだろう。
それがミリーの選ぶ道であれば俺は構わない。
でもミリーが銅虎として生きる道を選ばないのであれば、俺は全力でそれを阻止するぞ。
とはいえ、相手がどう出るかを知らなけりゃどうしようもない。
「セレスティナさん、推測でいいんです。何が起きると思いますか?」
「そうですね・・・・もしコータさんがマリアベルナを連れて行くとしたらどのような移動手段で行かれますか?」
「そりゃ、パンジーと引き車ですね。さすがに徒歩だとキツイと思いますから」
なんせここから1週間以上かかる場所にあるんだもんな。
「そうですか・・では、最初に彼らがする事はヒッポリアを殺して引き車を破壊する事でしょうね」
「はっ・・・?」
セレスティナさんの言葉があまりにも衝撃的すぎて、変な声が喉の奥から出る。
「それからコータさんとジャックを拘束して、従わなければ2人を殺すと言って脅すでしょう」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「そしてマリアベルナが銅虎として目覚めたあと、脅しの材料としてもう必要がなくなったお2人を始末してしまうでしょう」
「始末って・・・」
「殺してしまうんです。いつまでも生きていられたら銅虎の心が揺らぎますからね」
役に立つうちは脅迫材料として利用して、利用価値がなくなったら殺すってかよ。
そんなところにミリーを連れて行かなくちゃいけないのか、俺?
『駄目ですっっっっ!』
「うぉぉっっ」
耳がキーンって言ってるぞ、スミレ!
「スミレッ、耳元で叫ぶなっ」
『すみません。で、ですがっっ』
動揺を隠せないスミレが俺の前に現れた。
『コータ様を殺すような輩がいるような場所に行かせられませんっっ!』
「だから、それは最悪のシナリオだったら、って事だよ。それに向こうの展開がある程度判れば俺たちだって手を打てる。そうだろ?」
『ですが・・』
心配でたまりません、って顔のまま力なくホバリングしているスミレ。
仕方ないなぁ、って思いつつもそんな風に心配してくれるスミレの気持ちは嬉しい。
「コ、コータさ・・ん?」
セレスティナさんが俺の名前を呼ぶので彼女を見ると、驚愕の表情を浮かべている。
でもその視線は俺を向いていない。
向いているのは・・・・
「スミレ」
『えっ? あら? どうしましょう?』
慌ててパッと姿を消したらしく、セレスティナさんがキョロキョロと周囲を見回す。
でも俺には俺の方に飛んでくるスミレが見えている。
スミレはそのまま俺の肩に飛んでくると、いつものように座ってからぺろっと舌をだして肩を竦めた。
全く、仕方ないやつだな。
俺が目だけを肩に向けていると、ハッと気がついたようにセレスティナさんが俺の方にテーブルから上体を乗り出した。
「コータさん、あの? 先ほどの精霊様は?」
「精霊様ですか? それってなんなんでしょう?」
妖精はいないってスミレは言ってたよな? あれは話の中だけの産物だって。
でも今セレスティナさんは精霊様って言った。
って事は精霊はいるのか?
「惚けないでください。たった今コータさんは精霊様と言葉を交わしていたではありませんか」
「えっと、精霊っているんですか?」
「当たり前です。精霊様は我ら森に住むものにとってはとても神聖な存在なのです。その精霊様がなぜコータさんと一緒におられるのですか?」
おられるのですか、って言われてもなぁ・・・
俺はセレスティナさんから姿を消して俺の肩に移動したスミレに目だけを向けた。
スミレはさっき、興奮のあまり姿を消す事を忘れていたらしい。
さてどうするか? セレスティナさんだったら知られても大丈夫じゃないか、ってそんな気がする。
なんと言ってもミリーの身内だ、そのミリーを保護している俺に不利になるような事はしないだろう。
「俺は彼女がどのような存在なのかは知らないんです。ただ、ずっと一緒にいてくれる力強い仲間、なんですよ」
「仲間、ですか? 精霊様が?」
「精霊、じゃなくてスミレと呼んであげてください」
スミレ、と口の中で小さく名前を呼ぶと、仕方ないと言わんばかりに肩を竦めてから俺の肩から飛び立つとそのまま俺とセレスティナさんの間にホバリングで移動してから姿を現した。
「せ、精霊様・・・」
『スミレです』
「ス、スミレ様ですか?」
『様はいりません。ただ、スミレ、とだけ呼んでくださればそれでいいです』
「しかし・・・」
言い募るセレスティナさんとジロリ、と睨むと彼女は黙ってスミレに頭を下げた。
さすがスミレ、一睨みで勝負がついたよ。
『コータ様・・・何か失礼な事を考えてませんか?』
「ごめんなさい」
きっぱりすっきり、謝る俺。
ここで躊躇ったらあとで大変だからさ。
「スミレの事は誰にも言わないでくださいね」
「もちろんです。精霊様の事は誰にも申しません」
「ありがとうございます」
よし、言質は取った。
「スミレ様は、森から出られたのですか? もう森には戻られないのですか?」
『私はコータ様とともに生きると決めていますので、コータ様が行くところが私の行くところです』
いや、違うだろ、それ。いつだってスミレが何をするかって決めてなかったっけか?
思わずぼやきそうになったけど、賢い俺は黙って口を閉じる。
「しかし・・・」
『私は精霊などという存在ではありません。私はコータ様と共にいるために生まれてきたのですから』
うん、そうだな。スミレは俺のスキルのサポートシステムだもんな。
確かにそう考えると俺と一緒にいる、っていうのは間違えちゃいない、うん。
でもセレスティナさんさんは違うように取ったのか、キラキラした目を俺に向けてきた。
「コータさんは精霊様と共におられたのですね。それならどうしてマリアベルナがあれほど共にいる事を望むのか判ります。もし私であっても、精霊様を連れたコータさんと一緒にいたいと望むでしょうからね」
「あの、セレスティナさん、ミリーは精霊なんて知らなかったですよ? 初めてスミレを見た時、ミリーは妖精だって言ってましたから」
「妖精ですか? ああ・・・精霊様の存在を外部に知らせないために、私たちはおとぎ話の妖精だと子供たちには教えるんです。そしてもし精霊様に出会った時、正しい知識を与えられます」
そんなにすごい存在なのか、その精霊って?
「じゃあ精霊と出会う人って結構いるって事ですか?」
「いえ、精霊様と出会う人など殆どおりません。ごく稀に金虎が生まれた時に祝福に現れたという記録がある程度でしょう」
「じゃあ、今の村には見た事ない人しかいないかもしれない、って事ですね」
「かもしれない、ではなく、おそらく1人もいないでしょう」
なるほど、だったらスミレが精霊様、っていう設定は使えるかもしれないな。
いざという時にスミレに精霊様のふりをして貰えば、突破口にもなるかもしれない。
でもこれは使い所を選ばないと、墓穴を掘る事にもなりかねないって事だ。
その辺りもセレスティナさんと相談した方がいいだろう。
「とにかくスミレの事は置いといて、トラ族の事を教えてください」
『コータ様』
「いいから。今はそれよりも敵の情報を集める事の方が大事だろ? 俺たちは誰1人欠ける事なく戻ってくるつもりなんだからさ」
『・・・判りました』
仕方ないと言わんばかりに大きな溜め息を吐いたスミレは、そのままセレスティナさんに向き直る。
『私が精霊かどうかなんて事はこの際重要じゃありません。今は向こうの手の内を教えてください』
「はっ、はい、判りました」
頭を深々と下げるセレスティナさん。
スミレが嫌そうに俺を振り返るが、今は我慢してもらおう。
スミレの事を精霊様って勘違いしている今なら、なんでも聞き出せるだろうからさ。
バレたらその時。
聞き出した情報を使って明日1日かけて準備をして、明後日の朝に出発だ。
読んでくださって、ありがとうございました。
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