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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 再びっ
257/345

256.

 夕食は和やかな雰囲気のまま過ごす事ができ、今ミリーとジャックが子供たちの前に立って、以前ゴンドランドを仕留めに行った時の話をしている。

 あの頃のジャックはまだ片手剣を使っていたからあんまり活躍のシーンはないけど、その分ミリーが活躍するシーンを身振り手振りで話している。

 それをぼんやりと聞きながら、俺はセレスティナさんがこちらに来るのを待っていた。

 「お待たせしました」

 「いえ、大丈夫です」

 お茶のカップが載ったトレイを手に俺の前に座ると、そのままカップを1つめの前に置いてくれる。

 「ありがとうございます」

 「ふふふ、そんな大したお茶じゃないのが申し訳ないですけどね」

 口元を柔らかく緩めながらセレスティナさんは自分のカップを手にお茶を1口飲んだ。

 「今日は失礼をしました」

 「・・・えっ?」

 なんの事だろう?

 頭にハテナマークを付けていると、苦笑を浮かべたセレスティナさんが言葉を続ける。

 「トラ族の事ですよ。いきなり攻撃をしてくるなんて、トラ族の村から来たとはとても思えません」

 「あ、ああ・・・いや、大丈夫でしたから」

 「とっさにコータさんが結界を張ってくださらなかったら、誰か怪我人が出ていたかもしれません。いえ、下手をするとそれ以上の状況になっていたら、と思うと許せません」

 あれはスミレがいち早く気づいて結界を張ってくれたからで、俺が何かした訳じゃない。

 でもスミレの事を知らないセレスティナさんにはそんな事は言えない。

 「結界の魔法具を持っていますから、本当に気にしないでください」

 「そうですか? でもすぐに作動させるコータさんはすごいですね」

 「いえ、あれは魔法具のおかげです。こちらを攻撃してくるものがあれば、自動的に結界が展開されるように作られているんです」

 嘘です。スミレが結界を展開してくれただけで、そんな都合のいい魔法具なんて持ってません。

 「それはすごいですね。でもそういう魔法具を持っているから野営もできるんですね」

 「ははは、まぁ、そうですね」

 頰が少しだけ引き攣るのを感じたけど、なんとかごまかせた、と思う。

 「それより、今日のアレ、良かったんですか?」

 「何がでしょう?」

 「あのトラ族の人たちを孤児院の中にいれませんでしたよね? あれ、良かったんですか?」

 セレスティナさんは彼らを拒む事は良くないだろうって最初言ってたくせに、なぜか強気の姿勢のまま追い返してしまった。

 もしかしたらあの2人からなんらかの報復があるのかもしれない、と思うと心配だよ。

 「あれは大丈夫ですよ。あの2人には私が村長むらおさの娘だという事を伝えましたからね。それが判った上で高飛車な態度を取るようであれば、私にも色々と対処の仕方があります」

 にっこりと笑みを浮かべたけど、なぜかその笑みが黒く見えたのは俺の気のせいじゃないと思う。

 「それにあのような態度を取るようなトラ族を大切な姪に近づけるような事はできませんからね。私は自分ができる範囲であの子を守ってやりたいんです」

 「セレスティナさん・・・」

 「ですが、それも今回だけでしょう」

 「えっ?」

 「次回はそれなりの対応をしてくると思います。そうされると今回のような対応は取れません」

 あれ、でもさっきそれなりの対処をするって言ってなかったけっか?

 「もし今回と同じような態度をとればなんとか撃退できます。けれどきちんとトラ族としての手順を踏んで来られると、こちらに通して話を聞くしかないんです。それをされてしまうと、今回のようにきっぱりと断る事は難しいでしょうね」

 「でも、もしミリーが行きたくないと言ったら? それでも無理矢理連れて行く事ができるって事ですか?」

 「無理矢理、はできませんよ。あの子は銅虎ですから自分で選べます。ですが、村には何があっても連れて行こうとするでしょうね。村に行って自分できちんと言葉にして意思を伝えろ、と言われると思います」

 もしミリーが嫌だと言っても、それなら自分の口から伝えろと言われるって事か。

 確かにそう言われると断りきれないかもしれない。

 「もし・・・それを拒否したら?」

 「どこまでも後を追って来るでしょうね。金虎にあって意思を告げるまでは自分たちの任務だからと言われても仕方ありません。金虎は全ての銅虎を連れて来い、と指示を出していると思いますから」

 つまり金虎と直接対決しかないって事かよ。

 それをしない限り、ミリーは金虎から狙われるって事か。

 「でも、ミリーは自分で決める事ができるんですよね?」

 「もちろんです。あの子は銅虎ですからね。自分で選んで決める事ができます」

 「なぜ銅虎はそれが?」

 「以前もお話ししたと思いますが、銅虎は自分を守るために成長を止めます。そして自分の唯一を決めた時、一気にその年齢に成長します。ですから例え金虎が無理矢理自分のものにしようとしても、それを銅虎が望まなければ子供の姿のままです。子供のままでいればそういう行為をして子孫を残せませんからね」

 おぅっ、そういう生々しい理由かよっっ。

 「マリアベルナは金虎と共にある事を良しとしないでしょう。それは私も確認していますので間違いありません。ですが、金虎はそれを受け入れないでしょうね、あの子が直接出向いて伝えなければ」

 「つまり・・・」

 「あの子がどの道を選ぶにしても、1度はトラ族の村に行く必要がある、という事です」

 「でも・・その、トラ族の村に行くって、まさかあの2人に託す訳じゃあ・・・」

 「まさか。あのような態度をとるような輩に大切な姪を預けるような事はできません」

 「じゃあ、セレスティナさんが連れて行くんですか?」

 それなら安心なんだけどな。

 じゃなかったら、ここに戻ってくる事を拒否して村に閉じ込められるかもしれないもんな。

 でもそんな俺の希望に反して、セレスティナさんは頭を横に振る。

 「いえ、私には孤児院がありますから行けません」

 「でもミリー1人じゃあ行けませんよ?」

 「判ってますよ」

 「誰か心当たりが?」

 「はい。安心して任せられる心当たりはあります」

 そっか、ミリーを安心して任せられる人がいるんだったら、大丈夫かな?

 俺はここでジャックやスミレと待っていればいい、って事か。

 「どのくらい出かける事になりますか?」

 「そうですね・・・おそらくですが片道1週間から10日くらいでしょうか? それから村には1週間ほど滞在してから戻ってくる事になるでしょうね」

 「そっか・・・1ヶ月弱、って事ですね」

 1ヶ月、ミリーは大丈夫だろうか? とにかくいろいろと持たせてやろう。

 丁度いい事にミリーのリュックサックはスミレ特製の魔法マジックバッグだから、いろいろと持たせてやる事ができる。

 「旅に必要なものがあれば言ってください。俺が全部揃えてやりますから」

 「コータさん?」

 「旅行中の食料でも、トラ族の村に持って行った方がいい付け届けも、なんでも言ってください」

 金に糸目をつけずに、俺が全部用意してやるよ。

 心の中でそう決意していると、セレスティナさんが困ったような顔をして俺を見る。

 「セレスティナさん?」

 「コータさん、何か勘違いしていませんか?」

 「何をでしょう?」

 「私がマリアベルナを安心して任せる事ができるのはあなたですよ?」

 「ありがとうございます。セレスティナさんにそう言ってもらえると嬉しいですね。今までいろいろあったけど、俺なりに頑張って守ってきたつもりですから」

 でも暫くは俺はミリーを待たなきゃいけない、そう思うとちょっと淋しい。

 「ですから、マリアベルナを預けるのはあなたです」

 「はい?」

 「コータさん、マリアベルナをトラ族の村まで連れて行ってやってください」

 「・・・・・はい?」

 あれ? 聞き間違えたか?

 「私が安心してあの子を任せる事ができるのはあなただけです。あの子を金虎が待つトラ族の村まで連れて行ってください。そして無事にここに連れて帰ってきてください」

 えっ? 聞き間違いじゃないって?

 「・・俺、ですか?」

 「はい」

 「でも俺、トラ族、じゃないですよ?」

 「判ってます」

 「そんな奴がトラ族の村に入れますか?」

 「マリアベルナがいれば入れます。あの子がコータさんと一緒でないと駄目だ、といえば向こうは断る事はできません。もちろん私からも手紙をお渡ししますので、それを村長むらおさに渡してくだされば大丈夫です」

 セレスティナさんが真っ直ぐ俺を見る。

 「私が無理をして連れて行ってもいいですけど、それだとあの子は安心できないでしょう。あの子に精神的な負担を強いらないでトラ族の村に連れて行けるのは、コータさんたち以外にはいません」

 「セレスティナさん・・・」

 「ですから私からもお願いします。どうかあの子をトラ族の村に連れて行ってやってください。そしてあの子が望む道に進むための手助けをしてやってください」

 目の前で頭をさげるセレスティナさん。

 そんな彼女から視線をミリーに向ける。

 ミリーとジャックはまだ子供たちに話をしてやっているようで、2人の周りはとても賑やかだ。

 「セレスティナさん、頭を上げてください」

 「コータさん・・・」

 「もし俺にできる事があれば手助けをするってミリーと約束しているんです。だからセレスティナさんが頭を下げる必要はありません」

 「では・・・」

 「もしそれがミリーの望みであれば、俺たちがトラ族の村に一緒に行きます」

 「・・・ありがとうございます」

 拾った時に一緒にいるから、って約束したんだもんな。

 ここでミリーだけをトラ族の村に送るってのはそれを反故にする事になる。

 だったら一緒に行かなくっちゃいけない。

 「そのために必要な事を教えてくれませんか? 荷物だけじゃなくて、トラ族での対処方法や移動方法、その他に俺たちが知っていた方がいい事があれば全て教えてください」

 「コータさん・・判りました」

 ニッと笑う俺に、セレスティナさんが安心したような笑みを浮かべる。

 「とにかく思いつく限りの対処方法を教えてください。すぐにでも出発しますから」

 「大丈夫ですか?」

 「はい、あんまりのんびりしているとあの2人がまた戻ってくるかもしれませんからね。その前に出発した方がいいんでしょう?」

 「もちろんです。もしあの2人が戻ってきてからになると、あなたたちだけで移動はできなくなると思いますから」

 それなら余計にすぐにでも手を打たなくっちゃな。

 「じゃあ、教えてください」

 俺はポーチから紙と鉛筆をとりだして、メモを書き取る準備をした。

 これから忙しくなるぞ。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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