254.
あ〜、空が青いなぁ。
白い雲に青い空。
なんか空だけを見ていると元の世界と一緒なんだよな。
それから視線を孤児院の庭先に向ける。
でもはしゃいで走り回っている子供たちは、どう見たって元の世界じゃあありえない光景だ。
子供たちは今、すみれ特製のボールでサッカーをしている。
ルールはただ1つ、足で蹴って相手のゴールを狙うだけ。
他にも細かいルールはあるんだけど、そこまで説明がちゃんとできなかったよ。
まぁどうせ子供の遊びだ、細かい事を氣にするヤツはいないだろう、うん。
孤児院の敷地の隅っこでお世話になるようになって2週間だ。
その間に2回ほど、3日の予定でアリアナの外に出て素材集めに出かけた。スミレの指示に従って3人で手当たり次第にいろいろなものを拾い集めた。
それから生産ギルドに行って残りの依頼品をバラントさんに渡して、その時についでにヤッチーとアリアナ成り上がりゲームを登録してきた。
バラントさんの興奮状態はハンパなくってさ、なんか見てるだけで疲れたのを思い出す。うん、それだけでまた疲れてきた気がする。
昨日もう一度生産ギルドに行って色々手続きなんかをしたので、俺の方はひと段落ついた。
でも、ミリーとセレスティナさんはまだ手探り状態だ。
お互いポツポツと話をしている。
ベンチに座るミリーのところにセレスティナさんが近寄ったり、反対にミリーから近寄って行ったりと、お互いにそれなりに交流はあるんだけど、ミリーがどうしたいのかが俺にはさっぱり判らない。
だからと言って俺の方から急かす訳にもいかないしなぁ・・・・
ま、ああやって子供たちと遊んでいる姿は楽しそうだからいっか、とも思う。
お茶のカップをもてあそびながらボーッと眺めていると、不意にスミレが目の前に飛んできた。
『コータ様っっっ!』
両手を広げたスミレ。
あの仕草は結界を張る時のもの、と思うのと同時に仄かな光が結界が展開された事を教える。
「スミレ? いった--うぉおっ」
ガッキィーーン
頭を傾げてスミレに声をかけようとした俺の耳に、結界に弾かれた何かの音が聞こえた。
「な、なんだ?」
『その場でじっとしていてください。槍を投げてきたんです』
「ミリーたちはっっ?」
『大丈夫です。あちらも結界内にいれてあります』
スミレが広域結界を張ったというのを聞いてホッとする。
「コータッッ!」
それから視線を広場に向けるのと駆けてきたミリーが俺の名前を呼ぶのが同時だった。
ベンチに座ったままの俺の胸に飛び込んでくるミリーと、そのすぐ後ろから同じように駆けてきたジャックが、俺の腰の辺りにしがみついてきた。
「な、なに? わかんないよ?」
「誰だよっっ、なんでっっ、攻撃してきたぞっっ!」
2人とも動揺しすぎて俺には言いたい事が伝わってこない。
ガキッッ
2人の背中を撫でて落ち着かせようとしたところに、また何かがスミレの結界に当たる音がした。
俺は音がした方向である孤児院の門がある辺りに視線を向けると、2人のデッカいネコミミ獣人が丁度剣を振りかざしているところだった。
ガキッッ
でもスミレの結界だ、あの程度の攻撃で破れる筈がない。
「スミレ、あれは?」
『害意、というか敵意を感じましたのですぐに門のところに結界壁を張ったんです。それからすぐに結界を孤児院の敷地いっぱいに張りました。狙いはコータ様のいる引き車と思います』
「俺? なんで?」
俺、なんかしたっけか?
『コータ様、あれはおそらくですが・・・』
スミレは何か言いかけたものの言葉を途中で区切り、孤児院の方を指差した。
見るとセレスティナさんが早足でこちらに来るところだった。
パンジーの引き車は門のすぐ横に設置してあるから、俺にはセレスティナさんが門に行くのか俺のところに来るのか判らない。
でも目が俺の方を向いているから、まずはこちらに来るんだろう。
『コータ様?』
立ち上がった俺に声をかけるスミレ。
「セレスティナさんがこっちに来る」
「コータ?」
「スミレの結界は魔法具って事にしておこう。いいよな?」
スミレの事はミリーとジャック以外には教えるつもりはないから、魔法具で結界を張ったという事にするのが一番無難だろう。
「コータさん」
「セレスティナさん。あの人たちは?」
「トラ族のものたちです。一体何があったんですか? 子供たちが飛び込んできて口々に話してくれたんですけど、要領を得なくって」
「いきなり攻撃をしてきたんです。最初は槍を投げてきて、今は剣で俺が魔法具で張った結界を破ろうとしています」
攻撃してきた、という俺から視線を門に移したセレスティナさんは2人を見てから小さく頷いた。
「彼らが・・・・ああ、なるほど、そういう事ですか」
「セレスティナさん?」
「彼らは村から来たようですね。村から来たという証の紅を身につけています」
「村? あっ・・・もしかして」
「はい、そうだと思います」
村と言われてピンときたのは、ミリーを探している金虎と銀虎、それから彼らに従う村のトラ獣人たちだ。
「あのまま、って訳には・・・」
「駄目ですよ」
ですよねぇー、判ってました。
「じゃあ仕方ないので結界は解除しますけど、その前に彼らに武器を持ち込まないように言っていただけますか?」
「それはもちろんです。既にこちらに攻撃を仕掛けてきているのですからそれくらいは当然です」
いきなり攻撃してきた、と俺が言った事に憤りを感じているようだ。
まぁ、ここの主は孤児院長をしているセレスティナさんだから、とりあえずは彼女に任せてしまおう。
俺は門の方に歩いていくセレスティナさんの背中を見送る。
セレスティナさんが2人から武器を携帯しないという言質を取るまでは結界を解除するつもりはないけど、言質をとったらすぐに対処できるように準備しないとな。
っていっても、スミレが、だけどさ。
振り返ると俺が座っていたベンチにミリーとジャックが並んで座っているのが見える。
不安そうな顔を俺に向ける2人に、俺はニッと笑って見せる。
それだけでホッとした表情に変わったのを見て俺も内心ホッとする。
それからまたセレスティナさんの方に視線を向けると、丁度彼女が門の前に立ち止まるところだった。
「どなた様ですか?」
「門を開けろ」
「門は開いてますよ?」
「結界を張っているだろうが。それを解除しろ」
おっと、いきなりの命令口調だ。
なんであんなに偉そうなんだかな。
「いきなり攻撃してくるような相手に結界を解除しろと言われても、全く安心できませんのでそれは無理ですね」
「なんだとっっ!」
「いいから御託を言ってねえでとっとと解除しろ」
女のトラ獣人の方が気が短いみたいだな。既に頭から湯気が出ているって感じだよ。
「そうですね・・・・武器を持ち込まない、と約束してくださるのであれば結界を解除しましょう」
「ふざけるなっっ!」
「我らは戦士だ。武器を手放す事はできん」
「そうですか、私としても武器を持っているような輩にここに入っていただきたくありませんので、どうしても武器を手放せないと言われると中に入れる事はできませんね」
「ゴタゴタ言わねえで、とっとと入れろ」
「ここは孤児院です。か弱い子供たちがたくさんいるんです。そんなところに武器を持った人を入れる訳には行きません。それではこれで失礼します」
クルッと背を向けて、孤児院の建物の方に歩いていこうとするセレスティナさん。
あれ? 彼らの要請は受け入れなくっちゃいけないんじゃなかったのか?
「おいっっ! 待てっっ!」
「我らに逆らうというのか?」
激高したと言わんばかりに怒鳴る女トラ獣人と、威嚇しながら問いただす男トラ獣人。
セレスティナさんは足を止めてわざとらしく肩を動かしながら大きな溜め息を吐いた。
それからゆっくりと振り返る。
「ですから先ほども申し上げたように、武器を持ち込まないというのであれば結界は解除します」
「我らは戦士だ。お前もトラ族であるなら、戦士が武器を手放さないという事は知っているだろう?」
「そうですね。もしいきなり攻撃を仕掛けていなければ、武器を持っていても解除したでしょう」
「なら--」
「ですがおふたりはここに来てすぐに孤児院を攻撃しました。そんな方が武器を持っている事に安心できるとお考えですか?」
セレスティナさんは真っ直ぐ2人を見据えて尋ねる。
「先ほどのは小手調べだ。別におまえらに害を為すつもりはなかった」
「口ではなんとでも言えるでしょうね。先ほども申しましたがここは孤児院です。小さな子供たちに今のあなた方の道理が通じる、とでも?」
「ここのガキどもには用はない」
「だから?」
「ここのガキどもには手を出さない」
「それを信用しろ、と?」
「当たり前だっっ! 私たちをなんと心得るっっ!」
いつまでも中に入れようとしないセレスティナさんに対して切れたのか、女トラ獣人が大声で怒鳴りつけた。
でもセレスティナさんは全く動じていない。
「さぁ? 無法者、ですか?」
「なんだとっっっ!」
「いきなり無抵抗な孤児院に攻撃を仕掛けてくる輩が無法者でなくてなんなんでしょう? 少なくとも私としては安全を確保しない限りはあなた方をここに入れる訳にはいきません。私はこの孤児院の院長ですからね、ここにいる者全てを守る責任があります」
すっげー、セレスティナさん、かっこいいぞ。
デッカいトラ獣人2人を前にして全く引いていないんだもんな。
俺だったらビビって何も言い返せてない気がする。
「俺たちはあんたに用はないんだ。つまりあんたが守ろうとしている孤児院に用はないって事だ。ガキどもに危害を加える気は全くない」
「そうですか?」
「ああ、俺たちが用があるのはそっちの連中だ」
男トラ獣人は俺たちをじろっと睨みつけながら、狙いはミリーだと言い切った。
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