252.
孤児院の朝は忙しい。
みんなで朝食を食べた後、4歳から7歳までの子供たちは孤児院の家庭菜園の世話をする事になっている。8歳から12歳までの子供は近所の畑の手伝い。そして13歳以上の子供たちは街に行って店や露天の手伝いをしているんだそうだ。
なので、ミリーとジャックを家庭菜園の手伝い組に参加させた。
年齢的には近所の畑手伝い組なんだけど、孤児院でさえよく知らない場所なのに近所の畑は2人にはハードルが高いだろうって思ったからだ。
それでも2人は楽しそうに手伝っていた。
その間、俺は引き車で昨夜の続きとしてゲームを作り、スミレはギルドの注文品を作っていた。
「サイコロ、適当に石を取り出して作ったけど、いろんな色のサイコロができちゃったな」
目の前のサイコロは白、グレイ、薄茶に焦げ茶、白にグレイの縞入りなんていうのもある。
「まぁ似たような色を5個ずつまとめればいっか。そうだ、上流階級の人たちは石じゃなくて輝石で作ってもいいよな。これはバラントさんにアドバイスって形で伝えよう、うん」
さすがに魔石は使えないけど、水晶みたいな輝石なら高級感漂うヤッチーができるかもしれない。
ま、ヤッチーに高級感を求めるヤツはいないかもしれないけどさ。でも、財を見せつけたいなんて言う虚栄心バリバリのヤツだっているだろうから、そういう輩からはがっぽりもらえばいいんだよな。
「あっ、スミレ、悪いけどいつものように登録用の設計図を作っといてくれるかな?」
『もう作ってありますよ』
「ヤッチーと人生ゲーム両方?」
『はい』
「ゲームの名前は?」
そのまんまなんだろうか? ふと好奇心が頭を擡げる。
『【ヤッチー】と【アリアナ成り上がりゲーム】です』
「ア、アリアナ、成り上がり・・・ゲーム・・ってか?」
『駄目でしたか?』
「いや、うん、いいよ、大丈夫さ」
なにそれ。成り上がりって・・・・まぁ、確かに成り上がりなんだけどな。
昨夜2人して悪乗りして、スタートで誕生祝いに軍資金をもらう、3分の1で1回止まってそこでサイコロを振って職業を決める、次の3分の2のところでまた止まってサイコロを結婚相手を決めて結婚する、なんていうイベントを組み込んだんだよな。
職業はサイコロの目にあわせて6つある。アリアナの街にある職業って事で、商人、職人、食堂の主人、都市職員、宿屋の主人、そして大都市長候補とした。この候補は最後にゴールを1発で決めれば大都市長、決められなかったら候補で終わり、もらえるお金額が全く違う。それは他の職業でもそうだけど、アリアナ大都市長になればウハウハって訳だ。
でもまぁこの辺りはセレスティナさんにアドバイスをもらって、それで大丈夫だって事になればバラントさんに持って行こうと思っている。
あ、そうそう、結婚が次のイベントなんだけどさ、これも相手を6種類用意した。若妻、同年代、年上、後家、異種族、そして独身だ。スミレが変な顔をしたけど、独身をここに入れる事は俺が強行した。べ、別にリア充は爆発しろ、とか、そんな事は・・・・マッタクカンガエテマセンヨ。
ま、まぁ、とにかく仕事を決めて結婚を決め、最後に老後を迎える時にどれだけの資金を持っているか、が勝負の決め手となる。
もちろんゴールした時にでる報奨金も1番最初と1番最後は10倍違うからその辺りも勝負の結果に響く事になる。
いや〜、いい仕事したよ、ホント。
ヤッチーは既に完成しているゲームだからさ、俺が特に付け足す要素はなかったけど、人生ゲームは色々と遊べて面白かったよ、うん。
『一応それぞれ孤児院用に5セット、生産ギルドに出すサンプルとして10セット用意しました。説明書も同じ数だけ用意してありますので、それぞれに入れて仕舞っておく事もできると思います』
「挟むって?」
『【アリアナ成り上がりゲーム】はボードは木製で、折りたたみ式で中に駒やおもちゃのお金をしまえる様にしてあります。ヤッチーの方はサイコロを木製のカップに入れて、そのカップに蓋をするという形にしてありますので、それぞれ駒やサイコロを入れる部分に説明書を仕舞い込む事ができます』
そう言ってスミレが見せてくれたヤッチーは木製のカップについている蓋を捻って外すと、中からサイコロと説明書、それに点数表用の紙が入っている。
「これ、ついでに鉛筆も短いのを1本いれとこうか? それも込みでセットにすれば遊びやすいんじゃないのかな?」
『そうですね、判りました』
ヤッチーは点数をきちんと書き込まないと競えないからな、そのための鉛筆が入っていたら遊びやすいだろうと思う。
「じゃあ、早速ランチを食べてから子供たちにゲームを試してもらおうか」
楽しんでもらえるか、ちょっと楽しみだ。
ボードゲームって事で、食堂に集まって遊んでもらう事にした。
まずは俺がヤッチーの遊び方と点数の数え方や点数表の使い方を説明する。
ま、説明っていうほど難しいものじゃないからこれは簡単だ。
そしてヤッチーは少し年嵩の子供たちに遊ばせる。
点数表や仕組みがイマイチよく理解できない小さな子供たちは、ボードゲームだ。
これはサイコロの目の数え方、イベントで必ず止まる事を教えたらすぐに遊び始める事ができる。
【アリアナ成り上がりゲーム】の方は小さな子供たちのお守役の孤児たちに間違いやズルがないように見守ってもらう。
ジャックはヤッチーに参加すると言って、早速他の子供たちに混ざって遊び始めた。
あっという間にあちこちでグループに分かれて遊びが始まる。
「あぁぁっっ、また1だぁ〜〜」
「やった〜〜」
「いっけ〜」
「うっきゃ〜」
うん、なかなか賑やかだ。
俺は少しだけ離れたテーブルに座って、賑やかに遊んでいる子供たちを眺めている。
そしてそんな俺の隣にはミリーが座っている。
一緒に遊べばいい、と言ったんだけどなぜか俺のそばがいいと言って離れない。
「ミリー、本当に一緒に遊ばないのか?」
「うん、いい」
俺の腕に頭を寄せているミリーを見下ろして、もしかしてセレスティナさんの事を話すチャンスなのか?
「ミリーは次に行きたい場所、決まったか?」
「次? どこ行く?」
「うん、ミリーには行きたい場所ってあるのかなって思ってさ」
「コータと一緒なら、どこでもいい、よ」
くぅぅぅっっっっ、可愛いセリフだぜぇぇぇっっっ。
「また夜にでもスミレに地図を出してもらって眺めるか? 気になる場所があればスミレに聞けばいいよ。きっとそこに何があるか教えてくれると思う」
「うん、スミレ、すごいね」
「そうだな。スミレはなんでも知ってるもんな」
困った時のスミレもん・・・じゃないか。
「そういえば、さ。 ここに来る前に話していた事、覚えてるか?」
「はなし?」
「うん。ミリーの叔母さんの事」
「おば・・・さん・・・」
あれ、もしかしてすっかり忘れてるのか?
「ミリーのお母さんの妹がこの街に住んでるって、教えてもらっただろ?」
「うん・・・」
小さな声で返事をしてから、俺の腕をギュッと掴む。
「話、したくない?」
「はなし・・・わかんない、よ」
「じゃあ、トラ族の話もしたくないのかな?」
「トラ族・・・わたしをさがしてる?」
「うん。多分だけどな。その辺りもちゃんと知っておいた方がいいと思う」
ミリーが嫌がるなら何があっても守ってみせる。
でもミリーは自分がどうして探されているか知るべきだと思う。
知っていればそれに対してどう対処すればいいか判断がしやすくなるからな。
「コータ、わたし、じゃま?」
「ミリー?」
「だって、めんどう持ち込んだよ、ね」
不安そうに見上げるミリーは、なんだか俺に置いて行かれるのを恐れているようだ。
「置いて行かないって言っただろ? あそこでミリーを一緒に連れて行くって決めた時から、ミリーが俺を必要としている間はずっとそばにいるって決めたんだ」
「わたしも、コータといたい、よ」
「そっか、じゃあ、ずっと一緒に旅しような」
「・・・うん」
更にギュッと腕を掴んでくるミリー。
「じゃあ、さ。そのためにも叔母さんと話をしようか? 他のトラ族には聞きにくい種族の事も、叔母さんだったら聞けるだろ?」
「でも・・・」
「もし心配だって言うんだったら一緒に会いに行こう。それなら安心だろ?」
「そばに・・・・」
「ん?」
小さな声が聞こえたけど、全部は聞き取れなかった。
俺はミリーの声が聞こえるように頭を横にして聞き返す。
「そばに・・・話をする時、そばにいてくれる?」
「うん、ミリーがそれでいいって言うんだったら、一緒に話を聞くよ」
「変な話でも?」
「うん。どんな話でもいいよ。ミリーが聞きたいって思う事を聞けばいい。本当だったらお父さんやお母さんから聞く話だけど、ミリーにはそのチャンスがなかったもんな」
普通の生活に関する知識ならどこででも知る事はできる。
とはいえ、種族に関する事は誰にでも聞けるものじゃない。
おそらくそういう話は両親から教えてもらう事何だろう。
でもミリーにはその機会はなかった。その前に両親を失ってしまったから。
「じゃあ、コータ、一緒にいてくれるなら・・・・おばさんに会う」
「そっか・・・じゃあミリーの叔母さん、探さないといけないな」
「知ってる」
ん? 知ってる?
「ミリー、叔母さんがどこにいるのか知ってるのか?」
「うん」
「ど・・どこに?」
いつ知ったんだ?
俺はそんな話はしなかったし、スミレやセレスティナさん本人だってそんな事を言ったなんて話はしてなかったぞ。
心の動揺を隠しながらもなんとか絞り出した俺の問いかけに答えるように、ミリーはまっすぐセレスティナさんを指差した。
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