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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 再びっ
251/345

250.

 戻ってきたセレスティナさんはトレイに載ったお茶の入ったカップを俺の前に置いてくれた。

 「ありがとうございます」

 「お茶だけですが」

 「十分です」

 トレイをベンチの前のテーブルの隅に置くと、セレスティナさんは俺の前に座る。

 それから2人して暫く黙ったまま庭で遊ぶ子供たちを眺めていた。

 「アリアナを出られるんですか?」

 「まだいつとは決めてませんけどね」

 「そうですか・・・」

 最初に口を開いたのはセレスティナさんだった。

 「その前にできればミリーにセレスティナさんと話をするかどうか聞いてみようと思っています」

 「私と、ですか?」

 「はい、ここに来る前にアリアナにはミリーの叔母がいる、と聞いていましたから、その事は彼女にも伝えてあります」

 「あの子は・・」

 「会いたいかどうか判らない、とその時は言ってました。それにここに1人残されてしまうんじゃないか、と心配していたみたいです」

 1人で森の奥で倒れていたミリーは住んでいた村を父親とともに追い出され、彼女を庇って父親は命を落として1人きりになってしまったんだ。

 それが今もトラウマになっているんだろう。

 すぐに不安になってしまうミリー。彼女なりに隠しているつもりなんだけど、ところどころでその不安が表に出ている事に気づいていない。

 「セレスティナさんは、どうしたいですか?」

 「私、ですか? それはどういう意味でしょう?」

 「ミリーが望めば、俺は彼女をセレスティナさんに預けるつもりです。でも、ミリーが金虎の伴侶である銅虎であるからには、そちらから横槍が入らないとは限らない。そうでしょう?」

 「それは・・・・マリアベルナが銅虎であるのであれば、避けられない問題です」

 うん、それは以前も聞いた。

 おそらく彼女が金虎の前に行くまで避けられない。

 それにしてもマリアベルナ、か・・・・ずっとミリーって呼んでたからすっかり忘れていた名前だ。

 「ミリーは金虎を拒否できますか?」

 「それは・・・できない事はないです。マリアベルナが望まなければ、金虎は無理を強いる事はできませんから。ですがそれはあの子に特定の伴侶が既に存在する事が条件の1つになると思います」

 「でも、ミリーはまだ子供ですよ?」

 「コータさん、お忘れかもしれませんが、あの子はもう18歳ですよ?」

 そういえばそうだった。どうしても見た目のイメージが先に立って、子供扱いしてしまうんだよな。

 それにミリー自身が幼い行動だからだろうか。

 「以前もお話ししましたが、あの子は銅虎であるが故に姿形を子供のままに留めているんです。ですがあの子が伴侶を決め、その相手もあの子を伴侶として受け入れた時に、あの子は本来の姿になるんです。ですから今のあの子の見た目のままではあの子に特定の相手がいるとは認められませんので、探している銀虎に見つかればそのまま金虎の前に連れて行かれるでしょうね」

 「ミリーが望まなくても、無理矢理連れて行かれるんですか」

 「そうなります」

 なんか嫌な話だな。

 そんな話を聞くとここに残していくには不安材料しかないぞ。 

 「そっか・・・それでも、俺はミリーにセレスティナさんは叔母さんだって事を話そうと思っています。もしあの子が話をしたいと言ったら、付き合ってあげてくれますか?」

 「もちろんです。私もずっと話をしたいと思っていました。ですが、あの子が気づいていないのに無理矢理トラ族の話やあの子の母親の話をするのはどうか、と思っていて声をかけられなかったんです」

 セレスティナさんもそれなりに葛藤があったみたいだ。

 「俺の仕事の関係でもう1週間か10日ほどはアリアナかその周辺に留まるつもりです。その間にミリーと話をしてみるので、もし彼女が話したいと言ったらその時はよろしくお願いします」

 「判りました」

 あ、そうそう、もう1つお願いがあるんだった。

 「それから、もし銀虎がここを尋ねたら教えていただけますか?」

 「・・・・逃げますか?」

 「いえ、そのつもりはありません。ただ、ミリーに心の準備をするだけの時間をあげたいんです」

 「・・・判りました」

 ホッと息を吐いたセレスティナさん。

 彼女としてもミリーが望まない事はしたくない、でも銅虎としての役割の重要さを知ってるから銀虎が来たらミリーの事を言わない訳にはいかない、そんなところだろうな。

 「もし銀虎がここに現れたらどこに連絡をすればいいですか? リランの花びら亭でしょうか?」

 「いえ、あそこは昨日泊まっていて今日は・・・・・あっっ」

 ヤベッッ、まだ今日の宿決めてないじゃん。

 「コータさん?」

 「そのですね、昨日はあそこに泊まったんですけど、そういえば今日はまだ泊まるところを決めてなかったなって、今思い出しました・・・ははは」

 もう夕方になるよな?

 んでもって、今夜はここで夕飯をご馳走になる事になってるから、そうなると街中に戻るのはかなり遅くなってからって事になる。

 そんな時間に宿はみつかるのか?

 そりゃ選り好みをしなければあるだろうけど、ある程度安全が確保できる場所に泊まりたいぞ。

 寝ている間に身ぐるみ剥がされてました、なんて事はまっぴらだ。

 まぁスミレがいるからそれはないだろうけど、家ダニがいるようなベッドとかに当たるかもしれない。

 さすがにスミレでも家ダニの駆除までは無理だろう・・・・・・無理、だよな?

 「今夜の宿はまだ決まってないんですか?」

 「ははは・・・今朝、どうするか決めてなくって、ギルドでどこかお勧めの宿を教えてもらおうかなって思ってたんですけど、すっかり忘れてました」

 「リランの花びら亭には泊まられないんですか?」

 「あそこはその、いい宿なんですけど高級宿でしょう? ちょっといつまでもっていうのは・・・」

 「ああ、なるほど、確かにあそこはアリアナきっての最高級宿の1つですからね」

 「その通りです。ですから、ギルドで聞こうって思ってたんですけどねぇ・・・」

 はぁ、と思わず溜め息がこぼれてしまったけど、これは仕方ないだろう。

 「では、ここに泊まりますか?」

 「・・・・・へっ?」

 「さすがに宿のような立派なベッドはありませんけど、雨露は凌げますよ」

 そりゃさ、孤児院に高級ベッドを期待する人はないだろう。

 でも、いいのか?

 いや、それよりもいいアイデアが浮かんだ。

 「それでしたら、庭先を貸していただけませんか?」

 「庭先でキャンプをするんですか?」

 「いえ、引き車で野営をしようか、と」

 「狭くありませんか?」

 「いいえ、大丈夫です。いつも野営の時は引き車で寝てますから」

 「ああ、野営をする事がありますからね」

 野営、と言ったらすぐに納得してくれた。

 「うちの庭でよければいつでも、というか、いつまでも使っていただいて結構ですよ」

 「いえいえ、さすがにそれは図々しすぎますから」

 「いいえ、コータさんには十分お世話になってますから、少しくらいはお返しをさせてください」

 「そんな事は・・・・いや、でもいいアイデアか?」

 「えっ?」

 ふと、またいいアイデアを思いついた。

 「ここにいれば、ミリーがその気になればいつでもセレスティナさんと話をする事ができるって事ですよね?」

 「え、ええ、そうなりますね」

 「じゃあ、遠慮なく庭先をお借りします。できればここにいる間に、ミリーと1度話し合ってみたいと思います」

 「それは・・・・ありがとうございます」

 フッと口もとに笑みを浮かべるセレスティナさんは嬉しそうだ。

 「ミリー、ジャック」

 俺が立ち上がって走り回っている2人を呼ぶと、すぐに走ってきてくれた。

 「なに、コータ?」

 「なんだよ」

 「あのな、今夜の宿、決めてないの覚えてるか?」

 「あっ・・・・」

 「うぉっ」

 どうやら2人ともすっかり忘れていたらしい。

 まぁ人の事は言えない、俺だって綺麗さっぱり忘れてたもんな。

 「んで、だ。もし宿を探すとしたら今夜はここで一緒に食事はできない」

 「えぇぇ・・・」

 「マジかよぉ」

 一気にテンションが下がる2人。

 「だからな、今夜はここで野営をさせてもらおうと思うだけど、どう思う?」

 「野営・・・?」

 「うん、いつもみたいにパンジーの引き車で寝ようって事。そりゃ宿みたいに広くはないけど寝心地は悪くないからさ。それに、ここで晩御飯をみんなと一緒に食べたいだろ?」

 「うん」

 「おう」

 晩御飯をここで、というと素直に頷く2人。

 「じゃあ、ここで野営って事で決まりでいいな」

 「うん」

 「いいぜ」

 嬉しそうな顔になる2人のテンションが元に戻る。

 「そうそう、それからさ、もし2人さえ良かったらだけど、アリアナにいる間はここで野営をさせてくれるってセレスティナさんが言ってるんだけど、どうする?」

 「ここで、野営?」

 「うん。それからミリーとジャックは子供たちと一緒に孤児院に泊まってもいい、って言ってくれたからそっちで寝てもいいし」

 「わかった」

 「いいぜ」

 孤児院に泊まる、と言われてすぐに頷いた2人を見て、思わず苦笑いが浮かんだ。

 「コータも一緒?」

 「いや、俺はパンジーと一緒に引き車で寝るよ」

 「えぇぇ・・・じゃあ、わたしも、一緒」

 「ミリーは孤児院に泊まればいいぞ?」

 「でも・・・」

 不安そうな顔で俺を見上げるミリーの頭をぽんぽんと叩いてやる。

 「淋しくなったら引き車にくればいいよ。俺はここにいるから」

 「でも、ね」

 「俺はミリーを置いていかない。約束する、そう言っただろ?」

 「うん・・・」

 それでもまだ不安そうなミリーの髪をくしゃくしゃにしてから、俺は彼女の手首のブレスレットにそっと触れた。

 「これがあるから大丈夫だよ、そうだろ?」

 「・・・うん、そ、だね」

 「夜中に淋しくなったら、それに呼びかけたらスミレがやってくる、それも知ってるだろ?」

 ミリーを抱き寄せて耳元で、スミレの事を言うとハッとしたような顔で俺を見上げてから頷いた。

 淋しければスミレを呼べばいい、今ならブレスレットがあるからスミレともコンタクトが取れるという事を思い出したようだ。

 「ま、今夜は引き車でみんな一緒に寝ような。それで、慣れてきたら孤児院に泊まればいいよ」

 「わかった」

 「おう」

 どうやら話はまとまった。

 これでとりあえず、アリアナでの居場所が決まったって事だな。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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