249.
ガタゴトゴトーーって感じで乗合馬車に揺られて、俺はなんとかグランバザードの鳥かごに到着した。
ここからはちょっと歩くんだよなぁ・・・
『コータ様、ミリーちゃんに頼んでパンジーを連れてきてもらいますか?』
「んぁあ? ああ、いいよいいよ。ミリーたちも遊んでいるだろうからさ、中断させるのは可哀そうだからな。それにこれはただの気疲れだから、のんびり歩くよ」
『そうですか・・・・』
「大丈夫だって、スミレ。まぁミリーたちに俺が鳥かごまで戻ったって事だけ伝えてくれればいいよ」
『判りました』
俺が左腕を差し出すと、ふわっとその上に浮かんだスミレがブレスレットの魔石に吸い込まれる。
う〜む、何度見ても不思議だよ、うん。
ヴァイパーの魔石の特性を活かしたスミレの移動方法らしく、今では俺たち3人のブレスレットを介してなら離れていても移動する事ができるし、ブレスレットをしているミリーやジャックの位置を把握する事ができるらしい。
とはいえ、俺には全く判らないのは残念だけどな。
でもまぁ、ブレスレットのおかげでミリーたちも体を使わない状態のスミレを見る事や話す事ができるんだから、俺たち3人にとって便利になったし安心できるからいいか、って思ってる。
今までだったら俺は全てをスミレを通して把握できたけど、ミリーとジャックはそうはいかなかったもんな。
そんな事を考えながらトボトボと歩いていく。
どうしても足取りが遅いんだよなぁ。なんか精魂尽き果てたって感じだよ。
それくらい、バラントさんとの話は凄かった、うん。
ハイテンションの人間を相手にするのがあんなに大変だとは思わなかったよ。
ってか、テンション高すぎだったよ。俺、バラントさんって落ち着いた大人の男の人だと思ってた。
それでもこれで暫く、といっても1週間だけど、のんびりできると思うと気分が楽になる。
俺たちが寝ている間に頼まれたものもスミレが作っちゃうからさ、俺たちは適当にのんびり過ごせばいい。
ただ素材を集めるためにアリアナから出て、スミレに言われるまま周辺をうろつく事になるんだろうけどな。
そう思うと気分は少し楽になった。でも歩く速度は上げられない。
俺は変わらずトボトボと歩いているとブレスレットをしている俺の手首が暖かくなったと思って視線を向けたら、ブレスレットポッと仄かに光ってるのが見えた。
スミレが帰ってきたようだ。
「おかえり、スミレ」
目の前にふわっと現れたスミレに声をかける。
『帰りました、コータ様』
「2人とも大丈夫だったかな?」
『はい、しっかり遊んでいたみたいですね』
そっか、それは何よりだ。
やっぱりギルドで俺と一緒にいるよりは気楽だろうしな。
そう思うと心持ち歩く足が早くなる。
『でもミリーちゃん、迎えに来るって言ってましたよ?』
「止めたんだろ?」
『止めようとしたんですけど、あっという間にパンジーちゃんのところに走って行っちゃいました。それにジャックも続いて走っちゃって、慌てて追いかけたんですけど2人とも迎えに来る気満々だったので放置して戻ってきました』
おいおい、スミレ。放置ってなんだよ、放置って。
「なんで止めなかったんだよ」
『コータ様に会いたくて我慢できないっていうミリーちゃん、私には止められません』
「楽しくなかったって事か?」
『いいえ、そうではなく、置いて行かれたので不安だったんだと思いますよ。実際私が行くまでは孤児院の子供たちと遊んでいましたからね。でも私を見た途端に抑えていた不安がこみ上げた、そんなところだと思います』
ミリーは父親の事があるから、1人にされる事を異様に怖がるところがある。
でもジャックっていう仲間ができて、2人で少しの間なら俺から離れる事にも慣れてきたって思ったんだけどな。
「そっか・・・じゃあ、のんびり歩きながら2人がやってくるのを待つか」
『そうですね。すぐに来ると思いますよ』
ふふふっと笑うスミレと顔を見合わせると、思わず俺の口元にも笑みが浮かぶ。
こっちに来たばかりの頃は、俺とスミレの2人で旅をして回ると思ってたのに、気がつくとミリーがいてジャックが増えた。
2人も増えるといろいろとあるけど、それはそれで楽しいと思う。
『あっ・・来ましたよ』
「もう? はやいなぁ・・・って、歩いて20分程度の距離だからそんなもんか?」
『そうですね。それにパンジーを繋げばすぐに出発できたでしょうからね』
「そっか」
道の先に土埃が見える。
おいおい、もしかしてパンジーを走られているのか?
普段でさえ早歩き程度のパンジーなんだから、走らせたりして無理させるなよ?
そんな心配をした俺だけど、どうやら道が乾燥しているから土埃が立ちやすくなっているだけのようだった。
街中から鳥かごまでは往来が増えたので、石畳を広げて伸ばしたらしいから土埃は立たないけど、孤児院に向かう道はそうじゃないからな。
いつかちゃんとした石畳の道が孤児院まで届くようになるといいなぁ。
合流したミリーは、俺を自分の隣に乗せて手綱を引いている。
ジャックはいつものように引き車の屋根に乗っている。
そんな2人から孤児院での話を聞いているうちに、あっという間に引き車は孤児院に到着した。
「パンジー、このまま?」
「ん? いや、もう暫くいると思うから放してやっといてくれるかな?」
「わかった」
御者台から飛び降りたミリーは、パンジーを自由にしてやるために前に行く。
その間に俺も御者台から降りて、孤児院の建物の方に視線を向けるとちょうどセレスティナさんがこちらに向かってやってくるところだった。
「コータさん、おかえりなさい」
「セレスティナさん、戻りました。2人を預かってくださってありがとうございました」
「いえいえ、2人がいてくださったおかげで、子供たちも楽しい時間を過ごせました。もうお帰りですか?」
「いえ、できればもう少しだけ2人を遊ばせてやれたらな、と思っています」
2人とも遊んでいたんだろうけど、それでも俺の事が気になってあまり遊びに夢中になれなかったんじゃないだろうか?
そんな気がするから、もう少しだけ今度は思い切り遊ばせてやりたい。
その間俺はセレスティナさんと話をしたいしな。
「2人が遊んでいる間に、少しだけ話をしたいんですけど時間はありますか?」
「話・・ですか? もしかして・・・」
「はい、その件で」
「判りました」
ちらっと視線をミリーに向けるセレスティナさんに、俺も同じように視線をミリーに向けてから頷いて見せるとすぐに了承してくれた。
「それでは他の人たちに夕食の準備を始めるように伝えてから戻ってきますね。コータさんたちも一緒に食べて行きませんか?」
「えっ? いえ、ご迷惑でしょうから」
「いえいえ、コータさんたちがたくさんの食材を持ってきてくださったので、そのお礼を兼ねて食べていっていただけると嬉しいです。それに子供たちもミリーちゃんやジャックちゃんと一緒に食べたいでしょうから」
「それなら・・・お願いします」
ぺこり、と頭を下げるとセレスティナさんが面白そうな顔を俺に向けた。
「本当にたくさんの食材をいただいて、びっくりしましたよ」
「いや、その、2人ともよく食べるでしょう?」
「それにしても孤児院の子供たち全員で食べても余るくらいの食材でしたけどね?」
「ああ、それはうちの2人だけ違うものだったら、一緒に食事しても面白くないんじゃないかなって思ったんだけですよ。だったらみんなで同じものを食べるのがいいかな、って。といってもミリーに選ばせただけですけどね」
ま、選んだのは俺で、ミリーには意見を聞いただけだけどさ。
「お昼はみんなでサンドイッチとスープでした。夕食はコータさんからいただいた材料を使ってシチューとサラダにしようと思っています」
「ああ、それは美味しそうですね」
シチューか、うまそうだな。
「あっ、それならこれも使ってください」
ふと思い出して、俺はポーチから小さな袋を取り出した。
「これは?」
「スパイスです。シチューの味付けに使ってもらえばいいと思います」
「判りました。残りは料理を作ったらお返ししますね」
「いえいえ、どうせそんなに残ってないので、そのまま取っといてください」
「いいんですか? スパイスは高価なものですのに」
「いいんですよ。俺たちが旅をしている間に集めたもので作ったものだからお金はかかってないんです。それにそれくらいのものだったらまたいつでも集められますから」
もちろん、スミレが指示したものを集める、って意味だ。
俺にはどれがどんなスパイスかなんて皆目見当がつかないからさ。
スミレが指差すものをみんなで手分けして集めて、それをスキルを使って乾燥調合、最後に袋詰めにしてもらうだけだからな。
なんでそんな事がスミレにできるのかなんて事、考えるのはとっくの昔に諦めたよ、はっはっは。
スミレが説明してくれたけど俺の脳みそではさっぱり理解できなかっただけさ。
「それではありがたくいただきますね」
「子供たちに美味しいものを食べさせてやってください」
「ありがとうございます」
スパイスの入った小袋を大切そうに両手で持ったまま、セレスティナさんは建物の方に戻っていく。
ふと視線を子供たちが遊んでいる広場に目を向けると、ミリーとジャックもいつの間にかその輪に入っていて一緒に遊んでいる。
俺は孤児院の入り口近くに置いてあるベンチに向かって歩いて行った。
そこでセレスティナさんを待てばいいだろう。
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