24.
サランさんに前金を支払ってから、俺はその足で森に入ってスミレを呼び出した。
「スミレって、鉄の延べ棒みたいなの、作れる?」
『鉄ですか? 鉱物がないのでコータ様の魔力のみが材料となりますが、それでよければ作れますよ』
「そっか。じゃあ頼む・・といってもどのくらいいるのか聞くの忘れたな、そういや」
さて、どのくらいの量がいるんだろうか?
俺にはまったく見当もつかない。
『コータ様?』
「ああ、今朝、ヒッポリアを買ったんだ。で、それに引かす車を作ってもらう事になったんだけどさ、ついでだからできるだけ頑丈なのを作ってもらおうと思っていろいろと注文をつけたんだよ」
『引き車ですか?』
「うん、スミレに作ってもらおうかとも思ったんだけど、ちょっと大きいから無理かなって思ってね。それにさ、流石にいきなりそんなでかいものを引っ張って現れたら怪しいだろ?」
俺のスキルのレベルはまだ2だから、引き車は大きすぎて無理だろうと思ったんだよな。
多分レベルが上がれば作れるだろうけど、どこに隠していたんだって言われると返事に困るからさ。
スミレはスクリーンを触って、俺が買ったというヒッポリアを検索している。
『ヒッポリア・・・ああ、これですね。馬みたいに乗って移動もできるみたいですけど?』
「うん、それも考えたんだけどさ、引き車があればそこにいろいろなものを積んでいるように見せられるだろ? 人前で魔法ポーチを使うのは危険だってボン爺に言われたからさ、ポーチの中身がいる時は引き車の中に入っていかにもそこから持ってきたって思わせたいんだよ」
頭を傾げているスミレに、俺はどんな仕様の引き車を注文したのかを説明する。
引き車と言っても荷車というよりも箱車だから中身は人目に晒す事はない、とか、いざとなればそこをテント代わりに使って寝る事もできる、とか、俺なりに考えて注文したのだと力説する事も忘れない。
『確かに魔法ポーチからものを出すのは人目を引き過ぎてしまいますね。それをごまかすためにはいいアイデアだと思います』
「だろ。まぁ移動中も少しはものを車の中に出しておくつもりだけどさ」
特に布団とか、な。
俺の予定では道中は外にテントを張らないで、車の中で寝るつもりなのだ。
だってその方が楽じゃん。
多分俺の事だから移動だけで疲れちゃうと思うからさ、少しでも仕事を減らすためにも引き車の中で寝ようと思っているんだ。
『それで頑丈にするために引き車の車輪と車輪の渡し棒を鉄で作る事にしたんですね』
「うん。車輪は頑丈な方がいいだろ? 車の屋根が壊れたとかならまだしも、車輪が壊れたら立ち往生しちゃうからさ」
『そうですね・・・レベルが4まで上がれば、そういう修理もスキルを使ってなんとかできるようになると思いますけど、今のレベルだとどうしようもないですからね』
「えっ、スキルで直せちゃうの?」
『はい、スキルで壊れた部分を再構築するんですよ』
スミレはあっさりと再構築なんて言うけど、そんな事もできるようになるのか。
『それでは早速作りますか?』
「うん。任せた。でもどのくらいいると思う?」
俺はスクリーンを使って設定を始めたスミレを眺めながら、見当も付かない鉄の量を聞いてみる。
『そうですね・・・・コータ様の話から鑑みると、10キロの鉄の延べ棒が5つもあれば十分かと思います』
「そんなもんでいいのか? って、10キロが5個って事は50キロかぁ・・・うん、多分それだけあれば大丈夫かな?」
『はい。でも余分にもう5本ほど作っておきましょう。もし足らなくてもすぐにポーチから出せばいい事ですし、余った分は売ってもいいと思いますよ』
なるほど。確かにもし足らなかった時に、またここまで出てくるのも面倒くさいからな。
いや、別にスミレに会うのが面倒くさいんじゃなくって、ここに来る事が面倒くさいんだよ。
『それで純度はどうされますか?』
「純度?」
『はい、鉄の純度100%というのも作れますよ?』
「う〜ん・・・俺にはよく判らないんだけど、この世界の鉄って不純物が混ざってないって事?」
俺の記憶では100%っていうのはかなり高度な技術を使わないと作れなかったような・・・
『いいえ、普通の鍛冶屋が使うようなものであれば、75%から85%の純度のものが多いですね』
「じゃあ、純度は85%にして後は適当にこの世界にある交ざり物を足しておいた方がいいかな?」
純度100%なんていう珍しいものを出したりして目立ちたくないからな。
『判りました。それでは鉄の成分85%に15%の不純物を入れて作成します』
目の前に見慣れた六芒星陣が現れたかと思うと、早速光がクルクルと回りながらその中心にスミレが設定した鉄の延べ棒がゆっくりとだが出来上がってくるのが見える。
「10本っていうけどさ、それって俺の魔力だけを使うんだろ? 俺の魔力、空っぽにならないのか?」
『大丈夫ですよ。コータ様はたくさんお持ちですから』
「じゃあ、もっと作っておいたほうがいいと思うかな? それとももっと別のものを作っておく方が売れるのか?」
ついヒッポリアと引き車を買ったから、お金が一気に減ってしまったんだよな。
せっかくこれだけあれば旅にでる事ができるって思ってたのにな。
それに、だ。ヴァンスさんに頼んだ引き車が完成までにどのくらいかかるかも判らない。
となるとやっぱり何か作ってお金の足しにした方がいい気もするんだけどさ。
「そういや、マッチって売れると思う?」
初めてこの世界で作ったものの1つがマッチだった、って思い出した。
俺は魔力はあるが魔法は使えないので、火を熾すために必要だったから作ったんだけど、もしかしたら売れないだろうか?
『マッチですか?』
「うん、ほら、この世界って魔法が当たり前だけど、だからってみんながみんな火の魔法を使えるってわけじゃないんだろ? そりゃ家庭用なら色々と魔法具があるだろうけどさ、旅人が使うのに便利かなって思うだけど、どう思う?」
『そうですね・・・売れるかどうかはハンターズ・ギルドに持って行って聞いてみるのが手っ取り早いでしょうから、試しにいくつか作ってみますか?』
「うん、頼むよ。あっ、でも小さいのじゃなくってさ、大き目のマッチがいいな」
タバコを吸うんじゃないんだから、あまり小さいと火があっという間に消えてしまうようなのだと使い道がない。
「一応野営とかで外で火を熾すのに使えるようなのがいいから、そうだな・・・長さ10センチくらいで6−7ミリ角くらいの太さの棒がいいかな。それで箱じゃなくってさ筒状の入れ物にして・・・どうやって火を点けるかなぁ・・・う〜ん、筒の側面にマッチの火薬を擦る部分を付けるか、それとも蓋の部分に付けるかだろうけど、う〜ん・・・・」
俺は腕を組んでどんな形状の入れ物にするかを考える。
『そうですね。筒状の入れ物にするんでしたら、筒の蓋の丸い部分を少しだけへこませるようにして、そこ部分でマッチの火薬を擦るようにすればどうでしょう? 筒の側面だと他のものと擦れてあっという間に磨耗してしまうと思いますね』
「肝心の擦る部分が磨耗しちゃうとマッチ棒があっても使えないからなぁ。だったら擦れにくいように蓋の部分を少しだけへこませておけばいいか。それに蓋にすれば側面ほど他のものと擦れ合うなんて事はないだろうしな」
『大きさはどうしますか?』
「おおきさ? って、ああ容量か。そうだな、15本くらい入るようにすればいいか。確か大体1つも町から次の町までの間が5−7日くらいだって言ってたから、1日2本もあれば大丈夫だと思う」
多分夕方野営の準備をする時に火を点ければあとは朝までそのままだろうから、その倍の容量って事なら丁度いいくらいじゃないかな。
『では、入れ物は湿気にくいようにして、中身は15本のマッチ。蓋の部分で火を点けれるように、という事でいいですね』
「うん。それでいいよ」
『ただですね、今のスキルレベルでは一気に作る事は出来ませんので、マッチと入れ物を別々に作る事になりますね』
「まぁそれは仕方ないね。もし売れるって事になったら、スミレがマッチと入れ物を作ってくれたら俺が詰めるよ」
とはいえ、スミレがマッチを作るのは鉄の延べ棒を作ってからだから、暫くはここでのんびりできそうだ。
「なぁ、マッチが作れるんだったら、ライターは?」
『ライターですか? 検索します・・・・終了しました。こちらはまだコータ様のレベル2では無理ですね。次のレベルになれば作れるようになります。それにマッチもコータ様のレベルが3になればまとめて作る事ができるようになりますので、それまで我慢していただけると嬉しいです』
「そっか・・・じゃあ、レベルが上がってからのお楽しみ、って事か」
ライターなら湿気る心配はないんだけど、仕方ないか。
「じゃあ、とりあえずマッチは5つ分作ってくれよ。俺がちゃんと詰めるから」
マッチを持ってケィリーンさんのところに持って行って、売れるかどうかを聞いてみるか。
「あ、そういえばこの村を出る前に俺の服、作れないかな?」
『コータ様の服、ですか?』
「うん、俺の持ってる服ってポーチに入っていたヤツだけだからさ、できればもう少し着替えが欲しいなって思ったんだけど作れるかな?」
『服でしたら作れますよ』
「なにか材料とかいる? ほら、例えば染料の代わりになるものとか、繊維のかわりになるもの、とかさ」
『そうですね。繊維はなんでも代用にできるので、その辺りの草を集めればそれを使う事はできますよ。染料も木の実や葉っぱを使う事で色を着ける事はできます』
ふぅん。だったら、スミレの仕事が終わるまでこの周囲に生えている草をむしってくるか。
「んじゃ、俺、この辺で草むしりしてくる。で、もし木の実があればそれも採ってくる」
『あまり遠くに行かないでくださいね。コータ様と距離が一定以上空いてしまうと、強制的に作業を停止、スキルは自動でシャットダウンとなりますから』
「ああ、そっか・・・じゃあ、スミレ。俺がスミレの結界から出れないようにしてくれよ」
『いいんですか?』
「うん。だって夢中になって草むしりしてて離れすぎるかもしれないだろ?」
『判りました』
素直に頷いたスミレは両手を空に向けてなにか呟いている。
きっとああして俺が結界に引っかかるようにしているんだろうな。
俺はそのまま少しずつ移動しながら足元に生えている草をむしってはポーチに入れるのだった。
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Edited 04/10/2017 @ 04:42 JT
「うん。それせいいよ」 → 「うん。それでいいよ」
誤字指摘、ありがとうございました。




