246.
「スミレ、俺たちの周りだけ結界張れるか?」
『はい』
ふわっと俺の肩から飛び立つと、両手を広げて結界を張る。
『コータ様を中心に半径1メートルの結界張りました。これで声は漏れません』
「ありがとな、スミレ」
はぁっと大きく息を吐いてから俺はコキコキと首を鳴らしてそのまま背伸びをする。
「まいったなぁ」
『大丈夫ですか?』
「んんん〜、大丈夫だ・・・多分」
ただちょっと疲れただけだ、と思う。
「とりあえずスミレが言った数にしたけど、もっと出せるのか?」
『その点は大丈夫ですよ。在庫はコータ様に言ってもらった数の5倍以上はありますから』
「いつの間に・・・ああ、俺たちが寝てる時か」
『はい、あちらこちらでいろいろと拾って材料もそれなりに潤沢にありましたからね』
うん、それは知ってる。
あれを拾えそれを拾え、って移動中はとにかくゴミ拾いのおっさん並みにいろいろなものを拾わされ、じゃなかった採取したもんな。
それに最近では1人でいろいろと拾う事もできるようになったって言ってたし。
もうスミレ最強、って感じだよ、うん。
『他の新製品の事も忘れないでくださいよ?』
「判ってるって。そっちもついでに話を通すつもりだよ。魔法バッグと魔法水筒もだろ?」
『はい、頑張ってくださいね』
「でもさぁ、魔法バッグの方はいいけど、魔法水筒の方はなぁ・・・なんか面倒な事になりそうな気がするんだけどさぁ」
『それは仕方ないですよ。でももしかしたら他にも適任者はいるかもしれませんから、その辺りをさっきの職員さんにお願いすればいいんです』
「はいはい」
ああ、やだなぁ。
『コータ様、戻ってきたようですよ。結界を解除します』
「おっけ」
コンコン
スミレがバラントさんが戻ってきた事を教えてくれて、俺が返事をするのとドアのノックがほぼ同時だった。
「お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
結構大きめの書類の束を持ったバラントさんが入ってきた。
「こちらが今までに予約注文を受けた品物の種類と数です」
そう言って俺の前に差し出された紙を見て、思わずウッと唸った。
「け、結構な数があるんですねぇ・・・ははは」
「もちろんですよ。ただ、これらの予約注文をされた方には期限無しでの申し込みのみという条件をつけた上での予約となっています」
「そうですか・・・」
「中には今すぐ、とか、いついつまでに、などと指定しようとする方もおられましたが、そういわれた方の注文は丁重にお断りしております」
まぁ期限を言われても俺がブラックボックスを提供しない限りは商品は作れないもんな。
それにしてもかなりの数の予約が入っている。
とりあえず魔力充填装置以外は用意した数でなんとかなりそうか?
魔石コンロはもう少し出した方がいいのか。
その辺りもバラントさんと相談した方がいいだろうな。
「他の用紙も揃いましたか?」
「もちろんです。コータさんが商談と仰ってこられたので、先ほどお茶を用意する時に書面もいろいろと準備しておきました」
さすがバラントさんだな。準備万端ってところか。
「それでは、先ほどコータさんが提示してくださったところから書いていきますので、どこか不具合があればおっしゃってください」
バラントさんはテーブルの上に1枚の紙を広げて、洗濯機、冷蔵庫、冷凍庫、と書いてからその隣に100という数字を入れる。
洗濯機は売れないかと思ったけど、意外と予約が入ってた。大きな宿や学校の寮、それにもちろん上流階級の人だそうだ。
ってか、学校があったんだ、ここ。しかも寮付き。いつか話を聞いてみたいもんだ。
「ドア開閉ボタンは今の段階で予約が118個入ってるみたいですが、とりあえずは100個ですね。また来週にでも100個ほど持ってきます」
「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります。ドア開閉ボタンを使う製品を作るのに時間がかかるので無理はなさらないようにしてくださいね」
「ははは、お気遣いありがとうございます。それにしても意外と需要があるんですね?」
「ドア開閉ボタンは馬車にも使われるんです。さすがにコータ様の引き車ほどの大型のものは必要なくても、普段使う馬車にドア開閉ボタンがあればとても便利なんだそうです」
「そうなんですか?」
「はい、以前であれば誰か見張りを立てなければいけなかったんですが、ドア開閉ボタンがあれば関係者以外は開ける事ができませんので、防犯にも大変役立っているそうです」
なるほど、そういう使い方もあったのか。
そういや俺たちだって防犯としても使ってるんだったっけ。
「それで、ですね。魔力充填装置なんですが」
「はい、今みましたけど、予約注文だけで800超えてるみたいですね」
「そうなんです。とても画期的な製品ですから、注目度も高くて。しかし肝心の魔力を充填できる魔石がなければ困るんですが・・」
紙に書き取りながら俺を上目遣いに見上げてくるバラントさん。
いや、これがさ、可愛い女の子の上目遣いなら見たいけど、バラントさんみたいなおっさんだと全く威力がないぞ。正直ちょっとキモい。
「判ってます。さきほど魔力充填用の魔石を2000個、と言おうとしたんです」
「それは・・・失礼しました」
自分が叫んだせいだと気づいたバラントさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
とうりあえず魔力充填装置1つにつき4個にしたんですけど、もっと必要だと思いますか?」
「いえ、それだけ用意していただければ十分です。私どもの方でそれが規格だからと伝えますので大丈夫ですよ」
「じゃあ、魔力充填装置1つにつき魔石を4個、であと500組用意します」
「ありがとうございます」
「あとは・・・魔石コンロでしたね」
「はい、そちらも300台ちょっとの予約が入っているんですが」
「え〜っと、今は200台用意してあるので、これも来週くらいにはもう200台用意できると思います。でもこれ、確か製法は生産ギルドの方で開示したような気がするんですけど?」
「えっ・・・・」
バラントさんが俺を見る。俺もバラントさんを見る。
「もしかして・・・」
「すぐに確かめてきます」
マジかよ。
慌てて出て行くバラントさんを見送った俺は、すぐに結界を張ってくれたスミレを見上げる。
「あれ、どう思う?」
『例の、でしょうね』
「マジかよ。まだ尾を引いてるって事か」
もういい加減にしてもらいたいぞ。
『まだはっきりとは判りませんよ。それに魔石コンロの製作者はコータ様となっているみたいですから、もしかしたら魔法陣の部分だけをどうにかしたのかもしれません』
「ああ、そっか・・・じゃあ、その辺も調べてもらうか」
『それがいいでしょうね』
ボソボソとスミレと話していると、すぐにバラントさんが戻ってきた。
そして俺の前に座って俺に頭をさげる。
「申し訳ございません。ただいま調べていますので、この件に関しては少しだけ猶予をいただければ、と思います」
「気にしないでください。でも本体の作り方なんかは判るんですよね?」
「はい、ただ肝心の加熱の部分に関しての詳細がなかったので、あの部分がブラックボックスなのだと思っていました」
「ああ、あれは簡単な魔法陣なんですよ。じゃあ今度来る時はその部分だけを持ってきてもいいですか? それなら職人にも仕事が出来るでしょう」
「そうしていただけると助かります。本当にお手数ばかりお掛けしてしまって」
恐縮しきっているバラントさんだけど、別に彼が何かしたって訳じゃないからなぁ。
すっかり萎れちゃってるよ。
なんか見てて可哀そうになってきた。
「じゃあ、とりあえず魔石コンロは200台納品しますね。それから200台分の魔法陣を用意しますので、本体の方を作る職人さんを探しておいてください」
「判りました」
「それから、もし俺の提出した設計図面が出てこなかった時の事を考えて、魔法陣も提出できるように用意しておきますので、次回来た時に手続きをお願いできますか?」
「もちろんです」
シャキッと背筋を伸ばして頷くバラントさん。
うん、彼に任せておけば安心だな。
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