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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 再びっ
244/345

243.

 連れてこられたのは、パンジーの引き車を預けた駐車場の隣の建物だった。

 これが自警団の待機所とかっていう場所か、と思ったより近くてホッとする。

 いや、だってだな、あんまり遠いと移動が大変じゃん。

 建物の中に入るとすぐに俺たちを先導してここに連れてきた人が振り返った。

 「個別に聞き取りをさせてもらいたいが、構わないか?」

 「それはジャック1人で、という事ですか?」

 「いやいや、あっちの2人とは別、という意味だ」

 「それなら」

 さすがに今はジャックを1人にするのは心配だからな。

 「じゃあ、こっちに来てくれ」

 奥に入ると通路があって、通路沿いにドアが左側に並んでいる。

 彼は俺たちを引き連れて手前から2つ目のドアを開けた。

 「悪いけど、ここで少しだけ待っててくれるかな?」

 「判りました」

 入り口から奥に向けて縦長のテーブルがある部屋に入り、とりあえず俺は左側のベンチに座る事にした。

 もちろん真ん中が俺で右がジャック、左がミリー、いつもの並びだな。

 ただいつものと違うのは2人が警戒したままだからか、俺にペトッとくっついている事だ。

 「大丈夫か?」

 「・・俺、捕まるのか?」

 「ジャック?」

 なんで捕まるんだ?

 「俺、ケットシーだから・・きっと捕まって外に放り出される・・・」

 「何言ってんだよ。お前は悪くないんだろ? だったら放り出されるのはお前に絡んでいた2人の方だよ」

 「でも、あいつらは人間ヒトじゃん。でも俺はケットシーだから・・」

 ポンポンと頭を叩くと、ジャックが不安そうな顔で俺を見上げる。

 「お前はケットシーだな。でも、だ。それと同時にお前はちゃんとしたハンターズ・ギルドのメンバーなんだぞ? ちゃんと認められてアリアナにいるんだ」

 「でもさ・・・」

 「それよりお前、なんか忘れてないか?」

 「えっ・・・?」

 「俺は迷子にならないように手を繋ごうって言ったよな? でも迷子になるかよって言って手を繋がなかった。結果はどうなった?」

 「コータ・・」

 「迷子になって俺たちに迷惑をかけたんだよ。そういう時はなんて言うんだったっけ?」 

 「その・・・ごめん」

 耳を頭にぺたんとつけて、珍しく殊勝な表情を浮かべて謝るジャック。

 「ミリーにもちゃんと謝れよ? 心配してたんだぞ」

 「うん・・ごめん、な」

 「ひとりでウロウロしちゃだめ、だよ」

 「わかった」

 ジャックが少し体を前に倒してミリーの顔を見て謝ると、ミリーは右人差し指をピッと突き出して命令する。

 そして素直に頷くジャック。

 こりゃけっこうストレスになってるな、こいつ。

 そんな時ガラッッとノックもなくドアが開いて、そこからさっきの人ともう1人女性が一緒に入ってきた。

 「お待たせしました。それではお話を聞いてもいいですか?」

 「あ、はい」

 「私の名前はミルファと言います。この自警団待機所で聴取係をしています。こちらはさきほどあなた達をここに連れてきたシルヴァ、彼は自警団の団員ですね」

 「俺はコータと言います。こっちはジャックとミリーです。3人でチーム・コッパーを組んでいます」

 俺がそう紹介をすると、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。

 「ええ、存じ上げていますよ。チーム・コッパーは有名ですからね」

 「えっ?」

 「もちろん、誰にでも、という訳ではありませんけど、大都市アリアナのリバラタ大都市長のもとで働く私たちの間ではなかなか有名です」

 ああ、そっちの方で有名って事は、グランバザード絡みって訳だな。

 「まぁそれはともかく、さきほどの件についてですが、話を聞かせていただいてもいいでしょうか?」

 「はい、と言っても俺は途中からジャックに合流したので、彼から話を聞いた方がいいと思います」

 「判りました。ではジャックさん、お話を聞かせてもらってもいいですか?」

 「お、う、はい。その、今日俺たちはあそこにおやつと昼ご飯の材料を買いに行ってて、その、俺だけはぐれて--」

 少し要領を得ない話し方で、ジャックが話を始める。

 彼の話を纏めると、俺たちとはぐれた事にすぐに気づかなかったジャックは、気づいてすぐに回れ右をしてもと来た道を戻っていたそうだ。俺たちの姿は見えなかったけど、きっとどこかで食材か何かを買ってるんだろうと店を覗きながら歩いていると、前からドンとぶつかってきた奴がいた、と。

 こいつらがさっきのチンピラなんだろう。

 じゃっくはすぐに「ごめん」と言って先に進もうとしたら首根っこを掴まれた。

 で、離せと言ったら「人にぶつかってきたくせに生意気な口を聞くケットシーだ」と言われた。男の仲間と思しき奴が「ケットシーは奴隷だろう、ご主人様に慰謝料をもらおうぜ」と言いだした。

 ジャックはこれ以上俺に迷惑をかけたくなかったから逃げようとしたけどうまくいかず、ジタバタ暴れているところに俺たちがやってきた、という事らしい。

 まぁな、そんなところだろうとは思ってたんだ。

 





 「はい、ありがとうございました。それでは今の話を纏めますね」

 そう言ってすぐに立ち上がって出て行ったミルファさん。

 「すぐに戻ってくるよ。彼女は今の話を1枚の調書に纏めて戻ってくる。それにしても災難だったな」

 「そうですね。ああいう輩っていうのは多いんですか?」

 「まぁな。それなりにはいるぞ。ただ逃げ足も早いからなかなか捕まえられないんだ」

 「そうですか・・・あっ、お礼を言ってませんでしたね。来てくれてありがとうございました」

 「あ、ありがとうございました」

 俺が頭を下げると、ジャックも慌てて頭を下げる。

 「気にするな。これも仕事だ」

 「あの、俺・・放り出されるのか・・でしょうか」

 軽く頭を左右に振って気にするなと言ってくれたシルヴァさんに、ジャックがおどおどしながら尋ねる。

 「放り出す、とは?」

 「俺、騒ぎを起こしたから・・・」

 「子供が気にする事じゃない。大体あれはどう考えてもあっちが悪いだろう? 追い出すとしたらあっちだ」

 「でも、俺はケットシーだから・・・」

 「ケットシーなんて事は関係ないぞ。たとえお前が奴隷だとしても、お前に罪はない」

 キッパリと言い切るシルヴァさん、かっけー。

 俺はジャックの頭をポンポンと叩いてやる。

 「ほら、俺が言ったのと同じ事言ってるだろ? お前は心配しなくていいんだよ」

 「で、でもさ」

 「それに、だ。もし本当に追い出されるとしたら俺たちも一緒にここを出るから心配すんなって」

 くしゃっと頭を掻き回すと両手で頭を隠そうとする。

 「いやいや、コータさんのちーむにはもう暫くここにいてもらいたいとリバラタ大都市長も思っているので、そう簡単に出て行くと言われると困りますね」

 慌てたようなシルヴァさんの言葉に、俺は頭を傾げる。

 「そうですか?」

 「そうですよ。グランバザードを生け捕りにできるようなチームにはいつまでもアリアナに滞在していただきたいです」

 「いや、あれはたまたまで、本当にまぐれだったんですよ? 申し訳ありませんが、もう2度と生け捕りなんて無理です」

 グランバザードを生け捕りにしてこい、っていう指名依頼があったって聞いてたから、キッパリとできないと断言しておく。

 ま、スミレがいればできるかもしれないけど、もうこれ以上煩わされるのは嫌だからな。

 「私なんてあれを生け捕りにしろ、と言われたら二度とここに戻りませんよ。あの鋼の羽の攻撃に耐えられるなんて到底思えませんから」

 「それは俺たちだって同じです。ただあの時はたまたま運が良かっただけですから」

 「そうでしょうね。判りま--」

 シルヴァさんが話している時、ノックが聞こえてドアが開いた。

 「お待たせしました。それではジャックさん、これから調書を読みますので訂正する部分があれば教えてくださいね」

 「うん・・はい」

 ミルファさんはジャックにも判りやすいようにゆっくりと読んでくれた。

 うん、ジャックの話を実によくまとめてあるな。

 「--以上です。どこか訂正する点がありましたか?」

 「えっと・・・コータ?」

 「それで大丈夫です」

 不安そうな顔を俺に向けるジャックの代わりに俺が返事をすると、ジャックはそれに頷いて肯定する。

 「はい、それではこちらにジャックさんの右の指先を当ててくれますか? はい・・そうです、それでは宣誓します」

 「宣誓ですか?」

 「はい、こちらの調書が正確であるという宣誓をしていただきます。これは私のスキルなんですけど、もし真実の調書内容であると、ここにジャックさんの指先から光が出てそこにサインが現れます。けれど嘘の調書内容であると何も現れません」

 なるほど。嘘発見器みたいなスキルなんだな。

 恐る恐るミルファさんが言った場所に押し当てたジャックの指先は仄かな光を放つ。

 さっき説明があったのに、びっくりしたジャックはそのまま手を離してしまった。

 でも、ジャックの指が触れた場所には10円玉くらいの大きさの文様のようなものが現れる。

 「はい、ジャックさんの調書は真実であると証明できました」

 「コータ?」

 「つまり、ジャックはここから追い出されない、って事だよ」

 「俺・・・いてもいいのか?」

 「当たり前だろ? だから心配するなって言っただろ」

 「あら、ジャックさんはそんな心配をしていたんですか? 大丈夫ですよ。ジャックさんは何も罪を犯していませんからね」

 俺たちの会話を聞いていたミルファさんが驚いたような声をあげる。

 「ああ、でも、向こうで調書を作っているあの2人はどうなるか判りませんけどね。調書を2回書き上げたようですけど、サインが現れなかったようです。もう1度調書を書き上げてもまだ現れない時は、待機所から移動して自警団本部に送られる事になっています」

 「つまりそれって」

 「嘘の調書って事ですね。まぁあんな場所で騒いだものだから、証言をすると言ってくれる人も多いので、きっちりと後始末はつけさせる事ができそうです」

 う〜ん、どんな後始末なのかはなんとなく怖くて聞けないな。

 「大変お待たせしました。以上で聴取は終わりです。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 「いえ、それは皆さんのせいではないですから。それよりこうやってきちんと話を聞いてもらえて良かったです。な、ジャック?」

 「うん。その・・・ありがと、ございました」

 「いえいえ、私たちの仕事ですので気になさらないでくださいね」

 にこやかなミルファさんに見送られて、俺たちは待機所から出る。

 まだ買い物は残ってるからな。

 とっとと済ませないと、昼に間に合わなくなってしまうぞ。





 読んでくださって、ありがとうございました。


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