239.
俺たちはクラリッサさんに言われてそれぞれのカードを取り出してテーブルの上においた。
最後に更新した時の俺たちのレベルは、というと・・・俺が赤の星1つ、ミリーはオレンジの星4つ。それからジャックは黄色の星1つだ。
「あら? ジャックさんは黄色の星1つなんですか?」
俺たちのカードを確認していたクラリッサさんがジャックのカードを取り上げて俺たちを見る。
「ジャックはケットシーだからカードを発行してもらえなかったんですよ。でも都市ケートンで俺たちの仲間だと認めてもらえる事になって、その時に初めてハンターとして登録できたんです」
「なるほど・・・確かにケットシーをハンター登録したという話は聞いた事ありませんからね。けれど、こうやってきちんと意思疎通もできている上に、ちゃんと仕事をこなす事もできているので何の問題もないと思います。ギルド・マスター、うちでもケットシーのハンター登録ができるようにしましょうか?」
「大丈夫なのか? 俺はあんまりそんなのに詳しくねえからなぁ」
「ちゃんと調べておきます。それに都市ケートンのハンターズ・ギルドと連絡をとって聞いてみましょう」
「おう、任せたよ」
ローガンさん、クラリッサさんに丸投げすぎる気がするんですけど?
でもまぁ、ジャックが前例としてこれからケットシーがハンターになれるとしたら、それは良い事なんじゃないのかな。
「私はてっきり3人とも同じくらいのランクなんだと思っていましたけど、そうでないとすると上がるランクが違うと思います」
「そうなんですか?」
「ランクが低いものの方が上がりやすいんですよ。ですから、きっとジャックさんのランクはかなり良くなると思いますね」
「ホントかっっ」
ガバッという音がすぐ勢いでクラリッサさんを振り返ったジャック。
その顔は本当に嬉しそうだな、おい。
「もちろんですよ、特にジャックさんは黄色の星1つですからね。期待していてください」
「おうよっっ」
「わたしは?」
「ミリーちゃんはオレンジですね。ジャックさんほどのアップはないかもしれませんけど、それでもかなり期待できると思いますよ? 何と言っても紫と青の依頼をこなされたんですから」
「よかった」
嬉しそうに俺を振り返るミリーの尻尾はゆらゆらと揺れているし、耳もピクピクと動いている。
ジャックは、と思ってみると、ミリー同様尻尾も耳も動いているな。
こういう時耳と尻尾があると感情がよく判る。
思わずそんな2人の頭をポンポンと叩いてやる。
そんな俺たちを見てフッと口元に笑みを浮かべたクラリッサさんは、テーブルの上に手を伸ばして3枚のカードをまとめた。
「それではこちらのカードをお借りしますね」
すっと立ち上がると、クラリッサさんは俺たちのカードを手に部屋を出て行った。
途端にローガンさんが背もたれに全身を預けるように凭れかかる。
「ローガンさん?」
「はっあぁぁ〜、疲れた」
「疲れたって、なんもしてねえじゃん」
でっかい溜め息を吐いてから、片方の目だけでツッコミを入れたジャックを見る。
「おまえは俺がどれだけ大変かを知らねえんだよ」
「でもなにもしてなかった、よ?」
「何もしなかったんじゃなくって、何もさせてもらえなかったんだよ」
大変だというローガンさんに頭を傾げながらミリーが尋ねると眉を顰めて返ってきた言葉は、クラリッサさんが仕切っているって事だな。
でもさ、どう見たってクラリッサさんの方が有能な気がするぞ。
「でも、クラリッサさんが怒るような依頼を俺たちに出した、って事ですよね?」
「うっ・・・それはだな、おまえたちだったら大丈夫だって信頼していたんだ」
ホントか? なんか思いつきで出した答えな気がするぞ。
「でも、俺は赤の星1つで、ミリーとジャックはオレンジと黄色ですよね? そんなチームに紫や青の依頼っていうのは無理がある気がするんですけど?」
「いや、しかしだな、おまえたちはグランバザードを生け捕りにしたじゃないか」
「あれはたまたま運が良かっただけですよ」
ってかさ、スミレがいなかったら絶対に無理だったぞ。
俺たちはスミレの結界がグランバザードの羽を通さないって判っていたから、あそこであんな事ができたんだと思う。
「いやいや、そんな謙遜はしなくてもいいぞ。今回だって、ちゃんと依頼をこなして帰ってきたじゃないか」
「結構ギリギリでしたよ?」
「そんな事あるかよ。ちゃんと事前準備だって完璧だったじゃねえか。クラリッサがあんな風に認める事なんて滅多にねえんだぞ」
「そうなんですか?」
あの言葉のどこが俺たちを認めていた事になるんだろう?
別に一言も褒めてなかったように思えるんだけどさ。
ああ、そういや粘着液袋の入れ物を用意していた事を褒めてもらったっけか?
でもあれは当たり前の事だ、ってスミレが言ってたぞ。
そんな事を考えている俺に、ローガンさんは話しかけてくる。
「それに、だ。アキシアライトだって、あんなにたくさん見つけやがって、一体どこで見つけたんだ?」
「どこでってそれは--」
『コータ様、言っちゃダメですよ』
俺が場所を言おうとしたら、スミレが遮った。
『ハンターの採取場所は財産と一緒ですからね、簡単に教えちゃダメです』
そうなのか?
俺がローガンさんに視線を向けると、期待を込めた目を向けている。
「それは?」
「それは秘密に決まってるじゃないですか? ローガンさんだって俺がすぐに場所を教えるとは思ってないですよね?」
「お? そうくるか? ま、当たり前だな。ハンターだもんな、おまえら」
「そうです。もちろん、情報料をいただけるというのであれば、考えないでもありませんけどね」
ニヤリ、と笑う俺に、ローガンさんも似たような笑みを返してくる。
うん、こいつは確信犯だ。
スミレが止めてくれなかったら、ペラペラ喋ってたよ。
「情報料か・・・まぁ、考えとくさ。どうせもう暫くはアリアナにいるんだろ?」
「さぁ・・どうでしょう? まだどうするか決めてないんですよね」
「おいおい、もう少しうちで依頼を受けてからにしてくれよ?」
「考えておきますね」
にっこりと笑みを浮かべて、返答はしない俺。
なんかスミレみたいだな、おい。
まぁ、もう暫くはここにいるだろうな。
なんせここにはミリーの叔母さんのセレスティナさんがいるからな。
まずはミリーに彼女が叔母さんだという事は言わなくちゃいけないだろう。
コンコン
そんな事を考えていると、ドアがノックされてクラリッサさんが戻ってきた。
「お待たせしました」
彼女の手には3枚のカードと小さな皮袋がある。
「まずはこちらが依頼達成の報酬となります。238000ドランです。ご確認ください」
テーブルの上を滑らせて俺の方に押し出してきた袋を受け取ると、俺は中身をテーブルの上に取り出す。
え〜っと、大金貨2枚、小金貨3枚、それに大銀貨8枚だ。
これで合ってるのか?
『大金貨は1枚が100000ドランです。小金貨は10000ドランで大銀貨は1000ドランですから、それで丁度238000ドランになりますね』
俺の心を読んだかのように、スミレがお金の価値を解説してくれた。
ありがとな、スミレ。
「はい、確かに受け取りました」
「それでは、こちらがみなさまのギルド・カードになります。まずはコータさんですが、紫の星2つになりました」
「おぉっ・っと、ありがとうございました」
思わず叫んじまったよ。いやさ、嬉しいんだから仕方ないだろう、うん。
「そしてこちらはミリーちゃんですね。ミリーちゃんは赤の星5つになりました。次回には紫になりますので頑張ってくださいね」
「わかった、ありがと」
そっと手を伸ばしてまじまじとカードを見つめるミリー。
「最後はジャックさんですね。ジャックさんは赤の星1つになりました」
「おうっっ」
ガバッと差し出されたカードをひったくるようにして受け取ると、そのままニマニマした顔でカードを見つめている。
「なんか随分とレベルが上がったんですけど?」
「はい。通常のレベル・アップ試験ではここまで上がらないんですけれど、みなさんの場合はこれが妥当である、という事です」
「いいんですか?」
「もちろんです。私が決めた訳ではなく、ギルドにあるカードの機会がここまでのレベル・アップをしたんです」
どこか困ったような顔で俺に説明するクラリッサさん。
「とは言ってもですね。これは本当に妥当なレベル・アップだと私も思いますよ」
「そうですか?」
「はい、普通であれば、あのような依頼を出して試験をする事はありませんからね。赤の星1つとなると、ケトラン採取で星3つくらいにアップさせる程度です」
マジかよ。
でも薬草採取は一番楽チンだったぞ?
「でもケトラン採取はそれほど難しくはありませんでしたよ?」
「そうですか? ケトランは群生しないで疎らに生える薬草ですので、数を揃えるのは簡単ではないんです。しかも場所が草原ですから逃げ隠れする場所もありませんから、なかなか危険度も高い採取依頼になるんですよ?」
「そ、そうなんですか?」
あ〜、確かにまとめて採取っていうのはできなかったけど。俺たちの場合はスミレがどこに生えてるか全部教えてくれたもんな。
だから結構簡単な採取だったよ、うん。
「しかもコータさんたちは一番レベルが高いコータさんでも赤の星1つで、ミリーちゃんはオレンジでジャックさんは黄色のランクでしたからね。それを鑑みると無理な依頼は出せない、と考えるのが正しいギルドのレベル・アップ試験なんですよね」
ジロリ、と隣に座っているローガンさんを睨めつけるクラリッサさんと、そんな彼女から視線を逸らすローガンさん。
「なんにせよ、3人が無事に戻ってきてくれて、本当に良かったです」
「はぁ・・・」
「もしレベル・アップ試験で大怪我をしたり、もしくは死んでしまいでもしていたら、ギルドの責任問題になってましたからね」
「えっ?」
マジ? と俺がローガンさんを見ると、彼はそこまで考えてなかったようで、隣に座るクラリッサさんを振り返って尋ねるような視線を向けている。
そんなローガンさんに頷くクラリッサさん。
「もしかして、ギルド・マスターともあろう方がそんな事を考えていなかった、などとは申しませんよね?」
「も、もちろんじゃないか。俺はだな、この3人だったら、これくらいの依頼は達成できると信じていたんだよ・・・ははは・・・」
嘘だな。
最後の白々しい笑いが全てを物語っている気がするぞ。
そしてそれはクラリッサさんにもバッチリばれているようだ。
きっと俺たちが帰ったら、クラリッサさんとお話が待っているんだろう。
確かそんな事マリウスさんも言ってたもんな。
これはとばっちりを受ける前にとっとと逃げよう。
「それでは、これで終わりでしょうか? 俺たちはまだ宿を決めてないので、暗くなる前に宿を決めたいんですけど?」
「え? ええ、そうですね。お疲れでしょうから、宿でゆっくりしたいでしょう」
「コ、コータ」
「では失礼しますね」
「ご足労、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、報酬とランク・アップ、ありがとうございました」
俺は両隣に座るミリーとジャックの手を握ると、とっとと部屋を後にした。
背中にローガンさんの痛いほどの縋るような視線を感じたけど、悪いな、俺は自分が可愛いんだよ。
読んでくださって、ありがとうございました。
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