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23.

 カンカンという金槌音が聞こえてくる小屋にやってきた。

 ここが多分サランさんのダンナさんの仕事場なんだろうけど、ヒッポリアの厩舎よりボロいそれに俺は思わず立ち止まって見上げてしまった。

 小屋はヒッポリアの厩舎よりは高く3メートルほどはありそうなんだがいかんせんボロい。

 冬だと隙間風が入るというより吹き通るって感じの建物だった。

 「ほらほら、中に入んなさい」

 「あっ、はい」

 サランさんが声をかけてくるまで俺はただただぼーっと小屋を見上げていたようで、慌ててドアを開けてくれたサランさんに続いて中に入ってみる。

 中に入るとプンと材木の香りがした。

 少し埃っぽいがそれは仕方ないだろう。

 「おや、お客さんかな?」

 「ヴァンス、あんたの客候補を連れてきたよ」

 「おっ、俺の客って事は、馬具か?」

 「そんなところだね。じゃあ、私は家に戻るからあとは2人で決めてしまってくださいな。ヴァンス、話が決まったらちゃんと見積もりも書いてそれをそこのコータさんに渡すんだよ。コータさんはそれを持ってまた家に来てくれたら、その時にヒッポリアと荷車の清算をしましょう」

 「あっ、はい」

 ビシッとダンナを指差しながら指示を出し、振り返ってからニッコリと笑みを浮かべて俺に指示を出すサランさん。

 そして俺たちの返事を待つ事もせずに、彼女はそのまま小屋から出て行ってしまった。

 俺は呆気にとられて後ろ姿を見送ったが、彼女がドアを締めるバタンという音でハッと我に返った。

 「えっ・・・っと」

 「初めまして、ヴァンスと言う。確か、コータさん、だったかな?」

 「はい。よろしくお願いします」

 ヴァンスさんは俺の前にやってきて手を前掛けで拭うと差し出してきた。

 俺はその手と握手をしながら小さく頭を下げた。

 「それで、何が欲しいんだ?」

 「ヒッポリアを買いたいって言ったら、ケィリーンさんがここを紹介してくれたんです。それでサランさんと話をしてクリーム色のヒッポリアを買う事にしたので、その子に引かせる引き車を作ってくれる人を知らないか、って聞いたらここに連れてこられました」

 「ああ、ヒッポリアを買うのか。あんた、ケィリーンの紹介だって事はハンターか。だったら足の遅いヒッポリアより馬の方がいいんじゃないのか?」

 ケィリーンさんの名前を出すと、それだけでハンターだって思われるみたいだな。

 「ははは、サランさんにも言われました。でも俺、馬に乗った事ないんですよ。なので素人の俺でも簡単に扱う事ができる移動用の動物が欲しい、って言ったらケィリーンさんがヒッポリアを勧めてくれました」

 「ああ、なるほどなぁ。で、どんな引き車が欲しいんだ?」

 「そうですね・・・そこの作業テーブルくらいの大きさでいいんですけど、それを馬車みたいな箱車にできますか? もし無理なら幌をつけてもらいたいんです」

 「馬車みたいにか? できん事はないが、そうすると出入りは後ろからって事になるぞ? 横でもいいが中が狭いから使える部分が減るし、そうするとドアの部分が弱くなるからな」

 俺は頭の中でヴァンスさんが言った事を想像してみる。1.5メートルx2.5メートルの箱の2.5メートルのところにドアが付いているとすれば、確かにヴァンスさんが言う通り使える壁部分が中途半端になりそうだ。反対にヴァンスさんお勧めの馬車の後ろ部分に出入りのドアをつけるとそのまま中に入って両側の壁が使える部分になりそうだ。

 なるほど、言われてみればその通り、ってやつだな。

 「ヴァンスさんの言う通り、出入りは後ろが良さそうですね。それで中はちょっと色々と注文をつけたいんですけど、大丈夫ですか?」

 「どんな風にしたいんだ? それを聞かない事には出切るかどうかも判らないぞ」

 という事で、俺はテーブルに近づいてから、どうしたいかを説明する。

 「まず車輪はこのくらいの大きさで車輪の幅をこのくらいにしてもらえますか?」

 俺は床から1メートルほどのところに手をあげて、もう片方の手を広げて親指と小指を使って10センチほど幅を見せる。

 「ふん、それくらいはできるな」

 「よかった。それで車輪の軸の部分は鉄でできますか? それと車輪と車輪の間の渡し棒も鉄でお願いします。できるだけ頑丈に作ってもらいたいんです」

 「鉄は用意できるのか? 今品薄だって聞いてるからな、肝心の材料がなかったら作りたくても作れない」

 「はい、今は持ってませんけど、夕方でよければ持ってきます」

 「うちでは鉄の加工はできないから持っていく事になる。その分高くつくぞ?」

 「大丈夫です、多分」

 高くなると言われても元々の馬車の費用が判らないからはっきりと大丈夫と言い切れないが、まだプリントのお金が半分以上残っているから大丈夫だと思う。

 「それから引き車の高さはこのくらいで、床の部分を全部このくらいの高さの床下収納にしてもらいたいんですよね。できればいくつかに分けた感じでお願いしたいです」

 俺は自分より頭1つ分ほどの高さ2メートルほどのところに手をあげてから、今度は膝上の辺りを手で示す。

 よく考えたらこの世界の長さの単位を知らないから、こういう説明は全部手で示すしかない。

 「それから御者の部分はこの箱の大きさに付け足す感じですけど大きすぎますかね?」

 「いや、それくらいは普通だな」

 「そうですか、よかった。じゃあ、その御者の席の下も収納できるようにお願いします」

 「そうだな・・・引き車の床を全部収納にするとして、強度も感がないといけないから・・・4つに分ける感じか」

 ヴァンスさんは手で十字を切るようにしてテーブルを4等分する。

 「御者の方は外からの収納でいいのか?」

 「はい、それでいいです。ヒッポリアに必要な物を収納する場所にしたいと思っています」

 「なるほどな。で、棚とかもいるのか?」

 「そうですね・・・片方だけにお願いできますか? 天井部分からこのくらいの高さに作ってもらえると助かります。そうだ、できれば両端にフックをつけてくれたら、紐でものが落ちないようにできるんですけど」

 俺が50センチくらいの幅を手で示すと、ヴァンスさんは顎に手を当てて頷いた。

 「ああ、それくらいは簡単だ。ついでに棚がない方にもいくつかフックをつけておくよ。そうすりゃものをぶら下げる事もできるだろうからな」

 「助かります」

 なるほど、確かにフックがあれば色々なものを引っ掛けておく事ができるな。

 「で、材質は何を使いたいんだ?」

 「材質って、木材ですか?」

 「ああ、これも色々あるから値段と相談だな」

 「ちなみにお勧めの木材は?」

 「移動に使うんだったら野ざらしになるからなぁ・・・そうだな、一番いいのはボーグ材だろうな。こいつは軽くて硬いんだ。おまけに野ざらしにしても傷みにくい。ただ、高級木材だからそれなりに値は張る」

 軽くて硬いっていうのがどんな木材なのか想像がつかないが、ヴァンスさんのお勧めならば大丈夫だろう。

 「なるほど・・・それで、もしボーグ材を使ったとして、引き車の値段はどのくらいになるでしょうか?」

 「そうだな・・・鉄の加工が材料込みなら多分3万ドランくらいだろう。もしかしたらもう少しするかもしれねぇけどな。それから俺の方の加工賃と材料費で・・・7万ドランってとこか。これにはヒッポリアにつける道具も込みだ」

 って事は10万ドラン・・・100万円か、結構するんだなぁ。

 でも徒歩で移動するよりは楽だし、引き車っていうのがあれば俺の魔法マジックポーチも目立たないか。

 何か取り出す時には引き車の中に入ればいいんだしな。

 「判りました、それでお願いします」

 「いいのか?」

 「えっ?」

 「いや、俺がいうのもなんだが、ただの引き車の割に結構高くつくって言ってんだぞ?」

 どこか困ったような表情のヴァンスさんは、鼻の頭をポリポリ掻いている。

 「そうですね、確かに高いと思います。でもいいものを作ってもらえたら、それだけ長く使えますよね。それに頑丈に作ってもらえば修理に出す事もないだろうし。投資だと思えば惜しくはありませんよ」

 「いや、まぁ、そう言われりゃその通りなんだけどな。普通はたかが引き車にそんな金出せるか、っていうところなんだよな」

 「はぁ・・・」

 あれ? 俺、やらかしたのか?

 「まぁいいさ。俺としては良いものが作れるのが一番だしな。それにお前さんが言う通り頑丈に作ればそれだけ壊れにくいし、壊れにくいって事は修理に金をかける回数が減るって事だからな」

 「そうですよ。それに俺は素人ですから、もしどこかで引き車が壊れたらそのままそこで立ち往生になっちゃいますからね。少しでもそういうリスクは減らしたいです」

 「普通はそこまで考えないで、金額しか見ない奴が多いんだよ。けど、コータの言う通りリスクは少ない方が旅の道中は安全なんだけどな」

 「俺、弱いですからね。立ち往生になったら大変ですよ。自分の身を守れるかどうか不安ですから」

 魔獣がいるって話だからさ、この世界は。

 そんな物騒なところで立ち往生なんて絶対に阻止したい。

 なんせ俺の武器はパチンコだけなんだからさ。

 「ばっかやろ、ハンターが弱いって何バカな事言ってんだよ」

 「いや俺、採取がメインですから。討伐とか絶対に無理ですよ」

 「コータ、お前それ、自慢にならないぞ?」

 「知ってます。でも無理なものは無理ですから」

 どこか呆れたように大きな溜め息を吐くヴァンスさんは、頭を振り振り俺の肩をバンと叩いた。

 「痛いです、ヴァンスさん」

 「弱っちい事言ってんじゃねぇよ、ったく。仕方ねぇな、引き車は俺にできる範囲で最強に頑丈なもんを作ってやるよ」

 「頼みます」

 ぺこり、と頭を下げる俺の肩をもう一度バシっと叩いてから、ヴァンスさんは作業机の上から1枚の紙切れを掴むとそこに見積もりらしきものを書き出した。

 「これをサランに持っていけ。明日鉄を持ってきてくれるんだったら、そん時までにいつできるかを計算しておく」

 「判りました」

 「金は前金として半額サランに渡せばいい。ヒッポリアの代金も前金として半額渡しておけば売らずに取っておく。引渡しの時の残金を持って来れば交換で引き渡す」

 って事は12万ドランって事か。

 「じゃあ、また明日来ます」

 「おう、待ってるぞ」

 「よろしくお願いします」

 俺はもう1度頭を下げてから、サランさんにお金を払うために小屋を出たのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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