236.
ミリーの言った通り、男たちはまっすぐ俺たちのところにやってきた。
「コータ様、ですね?」
「はい、俺がコータですけど?」
とりあえず名前を確認されて俺は頷いた。
「私の名前はジョーダンと言います。シュナッツ様の下で働いています」
「シュナッツさんの? ああ、そういえばシュナッツさんは入場管理者でしたね」
「はい、入場管理責任者ですね」
「それで、どうしてここに?」
「シュナッツ様からコータ様たちに便宜を図るように、と指示がでておりますので。それからこちらはハンターズ・ギルドから来たマリウスさんとバンガーさんです」
シュナッツさんが気を使ってくれたようでラッキーだな。
でもなんでハンターズ・ギルドの人間がここに来ているんだ?
「私たちはギルド・マスターのローガンから、今日コータさんたちが戻ってくる筈だから入場の手続きの便宜を図ってやってくれ、と言われて待っていました」
「えっ、もしかして朝からずっと待っていたんですか? それは申し訳ありません」
「いえ、つい1時間ほど前に来たばかりですのでそれほど待っていないですよ。それにこちらのジョーダンさんに話を通す必要がありましたので、丁度つい先ほどその手続きが終わったところでした」
「ギルマスが帰ってこないんじゃないかって心配して、俺たちを迎えに寄越したんです。コータさんが気にする事ないですよ」
ローガンさん、俺たちが戻らないかも、って心配していたのか?
そんな俺の考えは顔に出ていたんだろう。マリウスさんとバンガーさんの2人が苦笑いを浮かべる。
「みなさんはアリアナでは有名人ですからね。もしかしたらそれが煩わしくて他の街に移動してしまったかもしれない、って昨日うろうろしながら1人でブツブツ言っていたんですよ」
「でも依頼達成期限は今日ですからね、みんなで今日まで待たないと判らない、ってギルマスに言ってたんです。でも結局俺たちにここで待機しているように、って、ギルマス権限で送り込まれたんです」
困ったような笑みを浮かべたマリウスさんとバンガーさんが説明をしてくれた。
でも、有名だと言われて俺とミリー、それにジャックはお互いの顔を見合わせた。
「ああ、そういう意味じゃないですよ。おそらく大抵の人はみなさんの顔は知らないです。ただ、その引き車を覚えている人間がいるかもしれない、って事です。その引き車の屋根に乗せられたグランバザードを覚えている人は多いと思いますからね」
「あ〜・・そういう事ですか。確かに俺たちの事は記憶になくてもパンジーと引き車の事は覚えてるかもしれないですね」
「そうです。ですので、騒ぎが起きる前に中に入ってもらえるように、という事で一足先に手続きをするために来たんですが、入場管理責任者のシュナッツ氏が先に手を回してくださっていたのでその手続きも簡単にすみました」
本当に助かりました、とマリウスさんは改めてジョーダンさんに頭を下げて礼を言う。
「いえいえ、こちらこそ今日コータ様たちが戻ってくる事が予め判ったので助かりましたよ。そうでなければもっと長い間気づかなかったと思いますから」
もしそうなっていたら騒ぎになっていたかもしれませんからね、と付け足すジョーダンさん。
「あの・・・わざわざありがとうございます」
「コータ様が礼を言う必要はないですよ。私たちがここにいるのはそれぞれの仕事ですからね」
「そうですよ。それに帰ってきてくれて本当に助かりました。これでギルマスがジッとしてくれます」
「多分ジッとはできないでしょうけど、カウンター周りをうろつくのを止めてくれるので助かります」
なんかすごい言われ方だな、ローガンさん。
でもなんとなくその情景が頭に浮かぶところがローガンさんっていうか、さ。
『コータ様。みんなで褒めあうのはいいですけど、注目を浴びてますよ?』
「えっ? ああ、そうだな」
不意に顔の前に飛んできたスミレが呆れたような顔で俺に言う。
「コータさん、何か言いましたか?」
「えっとですね。こんなところで固まって話していると注目を浴びているんじゃないかな、と」
「あっ、それは失礼しました」
慌てて頭を下げるジョーダンさんと、ようやく周囲の視線に気づいたマリウスさんとバンガーさん。
「確かにこんなところにいつまでもいると、せっかく迎えにきた意味がなくなりますね」
「いえ、それは別にいいんですけど」
「いいえ、そういう訳には参りません。それでは早速ですが行きましょうか」
「あっ、はい」
急にテキパキと動き出した3人に頷いたのを見て、ミリーはパンジーにジョーダンさんの後をついて行くように指示をだした。
なんか俺よりしっかりしてるぞ、ミリー。
でもまぁ、いつまでも喋ってたのは俺たちだからな、仕方ない。
俺は歩き出したパンジーの隣に並んで歩く。
「それで依頼は無事に終わりましたか?」
そんな俺の隣にやってきたマリウスさんが興味津々といった顔で聞いてきた。
「はい、多分」
「なんですか、その多分ってのは?」
「一応数は揃えたんですけどね、初めてのものばかりだったので、品質がどうかな、とちょっと心配しています」
って、嘘です。スミレがちゃんと管理してくれてるんだから、品質は極上に決まってる。
でもここは日本人らしく謙虚に答える俺。
「いいんですよ、そんな細かい事はきにしなくっても。とにかくみなさんがアリアナに帰ってきてくれた事が1番大事なんです」
「そうそう、ランク・アップの指名依頼だって聞いてるので、その点は心配しなくても大丈夫ですよ。そりゃ品質は大事ですけど、今回はちゃんと達成できたかどうか、1番問題になるところですからね」
気さくな2人とそんな事を話していると、門にあっという間に着いた。
着くと、前回同様に門の横にある建物に案内される。
「申し訳ありませんが、ここで確認をさせていただきますね。私たちはコータ様だと判っていますが、それでも手順を免除する訳にはいきませんので」
「ジョーダンさん、気にしないでください。あの長い列に並ばなくて済むだけでもすごく助かりましたから」
そう言いながら俺は胸ポケットからカードを取り出した。
「ほら、ミリーとジャックもカードを出せよ?」
「わかった」
「おう」
ぼーっと俺を見てるだけの2人に声をかけると、慌ててカードを取り出すミリーとジャック。
俺たちからカードを受け取ったジョーダンさんは、そのカードを機械の中に入れてからすぐに取り出して俺たちの前に並べる。
「コータ様、ミリーさん、ジャックさん、3人ともチーム・コッパーですね。はい、確認できました」
「荷物の確認は必要ですか?」
「いえ、そちらはギルドの依頼ですから、私たちに見せる必要はございません。もし罪を犯していれば、それはこのカードを通して確認できますしね」
「もしかして、今の機械が?」
「そうです。あれは魔法具の一種なんですよ。ギルド・カードにはみなさんがしてきた事が全て記載されるようになってますので、もし罪を犯したとすれば、それはカードに表示されるようになってます」
表示、と言われてカードをひっくり返してみるけど何も書いてない。
ミリーとジャックも同じようにカードをひっくり返しているけど、何も書いてないようで頭を振っている。
そんな俺たちに苦笑を浮かべたジョーダンさんが説明をしてくれる。
「ああ、カードを見ただけでは判りませんよ。もし表示されたら犯罪者自身にも判るじゃないですか? そうれだと逃げられますからね。あちらの機械を通して初めて罪を犯した事があるかどうかが判るようになっているんですよ」
「えっ、でもそれだけだとどんな犯罪か判らないですよね? それにもしかしたら間違い、とかあるかもしれないし」
「いいえ、どういう仕組みか判りませんが、機械が間違う事はないんです。それから、罪を犯した事が判ると、まずは捕縛されます。それから然るべき場所に移されてから、今度は違う機械を使ってどのような犯罪なのかを調べる事になります」
う〜む、そんな事が判るのか? さすが魔法の世界、って言うべきか。
「3人とも何も記載されてませんから、安心してくださいね」
「それに、たとえ罪を犯したとしてもそれをきちんと贖えば、その旨もカードに記載されます」
「例えば、盗みを働いて犯罪奴隷になったとしても、きちんと刑期を済ませればそれがカードに記載されるんです。もちろん罪によっては一生刑期を終えられない場合もありますけどね」
盗みにもよるだろうけど、それで犯罪奴隷?
しかも一生刑期を終えられない場合もある?
う〜ん、なかなか怖い世界にいるんだな、俺。
「はい、みなさんはこれで無事に入場審査は終わりました」
「ありがとうございました、ジョーダンさん。おかげで助かりました」
「いえいえ、マリウスさんがいてくれたおかげで、こちらもコータ様が戻ってくる事が事前に判ったので本当に助かりました」
考え事をしている間にどうやら審査は無事に済んだようで、俺の代わりにマリウスさんがジョーダンさんにお礼を言ってる。
「ジョーダンさん、本当に助かりました。正直あの列に並ぶのは大変だな、って思っていたところだったんです」
ウンウンと俺の言葉に頷くミリーとジャック。
「いえいえ、シュナッツ様から指示をいただしていましたからね」
「シュナッツさんにもお礼を言っていたと伝えてください」
「もちろんです。それからですね、次回はあの列に並ばずにまっすぐこちらの扉に向かって来ていただけると助かります」
「えっ?」
こちらの扉って、俺たちが入ってきたドアの事だよな?
「この扉はコータ様のように上から特例をだされた方たち用なんです。もちろん、何かが起きた場合にその様子を調べに行くためにも使いますけど、基本は特例の方たちが並ばずに済むためのものなんですよ」
「いや、でも、俺はそんな大したものじゃあ・・」
「いえいえ、コータ様のおかげで、アリアナには新しい産業が生まれようとしているんですよ。これは本当に素晴らしい事なんです」
「いや、その・・・」
手放しで褒められると恥ずかしくて穴に入りたい。
「今、門に並んでいる人たちも、おそらくは半分はグランバザードを見に来た、もしくはグランバザードの羽でできた製品を買いにきた人たちなんです」
「えっ、そうなんですか?」
「そうなんです。おかげでアリアナの経済はかなり潤ってきている、と聞いております」
思わず門の方を振り返る。
ま、部屋の中にいるから門は見えないんだけどさ、ついね。
「ですから、これからも遠慮なくこちらの扉をご利用ください」
「はぁ・・・」
そうは言われてもこちらは庶民。そんな偉そうな事は、なぁ・・・
「とりあえず、行きましょうか」
「えっ、はい」
「ジョーダンさん、それでは私たちはギルマスが待ってますので」
「ああ、そうですね。それではお気をつけて」
「はい、ありがとうございました」
返事に困っている俺に助け船を出すような形で、マリウスさんがジョーダンに断って俺たちをを連れ出してくれた。
そっと俺の背中を押して外に向かいながらジョーダンさんにお礼をいうマリウスさんと、ミリーとジャックについてくるように促すバンガーさん。
俺はミリーとジャック、それにギルドから来たという2人と一緒に建物を出ると、パンジーを連れて通りをギルドに向かって歩き出した。
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