233.
またまた説明だけで終わってしまいました・・・すみません。
パチパチという薪が弾ける音を聞きながら、俺はスミレがスクリーンを呼び出して何か操作をしているのをぼーっと見ている。
お子ちゃま2人は既に引き車の中で眠っている。
久しぶりにちゃんとしたところで寝るからだろうか、2人が引き車に入ってから5分ほど経って覗きに行くと、ぐっすりと眠っていた。
洞窟の中ではちゃんと寝れなかったもんな。俺よりはよっぽど寝てたけどな。
カップの中にはいつものお茶が入っている。
これが意外と美味しいんだよ。とても雑草から作られてるとは思えない味だ、うん。
テーブルの上にあるのは俺のカップと小さなトレイ。そのトレイの中にあるのはヴァイパーから取った間石が3個。
赤、青、それに紫の3色でゴルフボールより一回りほど大きい。
俺は赤を手に取ると、焚き火の日を魔石越しに見る。
おぉ、なんか怪しげな赤が魔石の中で揺らめいているぞ。
「スミレ、3個まとめて作るのか?」
「いいえ、1個ずつですよ。でも仕上げは3個まとめてする必要がありますけどね」
「仕上げって?」
「魔法陣を刻むんです」
ああ、そういやそんな事言ってたな。
「んで、誰がどの色の魔石?」
「コータ様には希望があるんですか?」
「俺としては青がいいなぁ」
赤はミリーが喜ぶだろう。多分ジャックも青がいいって言うだろうけど、そうなると残るのが紫色って事になる。
さすがに俺が紫色魔石っていうのはどうなんだろうか?
「残念ですが、赤はミリーちゃん、青はジャック、コータ様は紫の魔石を身につけてもらいます」
「・・・なんでジャックが紫じゃないんだ?」
「ジャックが紫色の魔石だと、多分疎通ができません」
むむむ、そうくるか。
「でもさ、これって俺たちの安全を確保するための魔石なんだろ? だったら別に疎通ができなくたっていいんじゃないのかなぁ?」
「そうですね。だからこそコータ様には2人の持つ魔石が混ざる色を持ってもらいたいんです」
つまり赤と青が混ざると紫ができるからその色を俺に持て、という事かよ。
「私はコータ様のサポートシステムです。ですので、コータ様には自動的に私の能力は反映されます。ですが、ミリーちゃんとジャックにはそれがありません。ですので、その2人に私の能力をある程度反映させようとすると、それはコータ様を媒介する事によって、という事になるんです」
「俺を仲介して、って事だよな?」
「はい、その通りです。もしただの守護のための魔石であれば、無理にヴァイパーのものである必要はありません。普通の魔石でもちゃんとした陣を刻んでおけば身を守る事はできますからね」
守護魔石、と言うんだと教えてもらった。
陣を刻む事で、害意を向けてきた相手から身を守る事ができるんだそうだ。もちろん魔石の魔力がある間だけ、という制限はつくらしいけどな。
「でもコータ様は2人に何かあった時にすぐに判るようにしたいんですよね?」
「うん。俺がいつもそばにいられる訳じゃないからな。俺がそばにいない時に何かあったら困る」
特にミリーは銅虎っていう特別なトラ獣人らしいから、そのせいでいろいろと巻き込まれる事が多いんじゃないか、と俺は思っている。
もしかしたら無理矢理連れ去られるかもしれない、とも言われた。
だから俺にできる範囲でミリーを守りたい、って思う。
「コータ様が望むような能力をつけた守護魔石は、コータ様のスキルを使う事で作り上げる事が可能なんです」
「それがスミレの言う疎通、ってやつか?」
「はい、コータ様を中心とすれば、それに連なる魔石に私は関与する事ができますから」
「どうやって?」
「ヴァイパーの魔石は3つですよね? その3つはそれぞれがリンクし合って威力を発揮するんです。私たちが仕留めたヴァイパーは赤、青、紫の3色でしたよね? それは紫が中に入って赤と青の魔石とリンクし合って力を発揮していたんです。もし中心が緑であれば、青と黄色になっていたと思います」
つまり、中心となる色は原色2色を混ぜた色、って事か。
その場合だと俺が緑で、ミリーとジャックが青と黄色になっていた、って訳だな。
「私はコータ様のスキルですから、コータ様がいない場合は2人と疎通は取れません。コータ様がいるからこそ2人と関わる事ができるんです。それは判ってますよね?」
「あ〜、多分。それってさ、昔スミレが姿を見せないと声が届かなかった、って事と関係あるのか?」
「そうですね、それと同じだと考えていただいて結構です。つまりコータ様がいなければ私の声は届かない、それは私の力が届かない、と言う事です。力を届けられなければ、何かあった時に助けられません。それ以前に何かあった事すら気づかないと思います」
スミレの体を作る前、スミレが人に見られないように姿を消すと、俺としか意思の疎通はできなかった。
それと一緒で、俺が中心となる魔石を持つ事で2人にもスミレが関与する事ができる、って事になるんだろうな。
それじゃあ色が嫌だとかって言えないな。
「で、どうするんだ?」
「紫の魔石を媒介として赤と青の魔石の位置を調べる事ができるようにします。そうすればもしなんらかの事情でミリーちゃんやジャックと逸れても位置が判りますから」
「GPSみたいなもんなんだな」
「そうです。すぐに位置が判れば、助け出す事もできますからね」
ミリーが狙われるかもしれない事は、セレスティナさんから話は聞いている。
俺もそれを一番心配しているんだ。
「そしてコータ様の持つ魔石を通して、私が2人のところに移動する事ができます」
「今もしてるだろ?」
いつだってスミレはミリーやジャックのところに行ってるじゃん。
「そうではなくて、もしミリーちゃんが誘拐されて知らない場所に閉じ込められた時、私は魔石と通してそちらに移動してミリーちゃんのところに行けるんです」
「あ、ああ、そういう意味か・・・でもさ、行けたって2人に姿を見せない限り声も届かないし気づかないと思うぞ?」
「それは大丈夫です。コータ様の魔石を通じて2人にも見えるようになるし聞こえるようになります」
「えっ、マジ?」
「はい、他の人に気づかれないまま、ミリーちゃんとジャックの前に姿を現す事ができるようになるんです」
「なんだよ、じゃあもっと早くにヴァイパーを仕留めれば良かったんじゃん」
今までの苦労はなんだったんだよ、ったく。
俺がジトーっとした目を向けると、スミレは呆れたような顔を俺に向ける。
なんでだ?
「コータ様。あの頃はコータ様のスキルのレベルが低かったんですよ? それにハンターとしての経験だって低かったんです。そんな時にヴァイパーを狩りに行っても仕留めきれてません」
「あ〜・・・」
「それにミリーちゃんやジャックだってハンターのレベルが低くて、とても戦力として数える事はできなかったと思いますよ」
「そっか・・・じゃあ、今までは無理だったって事か」
「そうなります」
確かにあんなでっかいヘビの魔物、あの頃の俺たちには無理だっただろうな。
「とにかく、それで疎通、って言ったんだな。魔石を使えばスミレもミリーたちと他の奴らに気づかれないように意思の疎通ができるようになるってか」
「はい、他にも言い回しがあるかもしれませんが、コータ様を中心とした3人の間に陣を刻むという事を現すのに一番適した言葉だと思いました」
「他にも機能はあるのか?」
「はい、魔石に込められた魔力によりますが、コータ様のそばを離れても少しはスキルを使う事ができます。といってもせいぜいレベル2程度のスキルですけどね」
「いや、それは凄いと思うぞ。それでも十分2人の力になれるって事だよな」
GPS機能に、遠距離でもスキルを使って何かができる、っていうのはいざという時に役に立つ筈だ。
できれば俺がなんとかしてやりたい。
でももしかしたらそんな事言ってられない状況に陥る事だってあるかもしれない。
そんな時のためにわざわざ俺たちはヴァイパーの魔石を取りに行ったんだ。
ま、この事はミリーもジャックも知らないんだけどな。
サプライズってやつだな、うん。
「はい、こっちはセッティング終わりました。魔石をください」
「ん? おっけ」
1人ニマニマとサプライズを渡した時の事を考えている間に、さっさとスミレはセッティングを済ませたようだ。
スミレがテーブルの上に展開した陣の上に、紫の魔石をのせた。
「違いますよ、それは最後です。最初に赤の魔石を乗せてください」
「えっ、俺のが最初じゃないのか?」
「最後です」
ちぇっ、てっきり俺のから作るんだと思ってたよ。
俺は紫の魔石と取り上げると、代わりに赤の魔石をそこにおいた。そのあとにスミレはストレージから取り出した他の素材を乗せていく。
それが終わるとすぐに陣が光り出し、魔石の周囲をクルクルと回り出す。
「ちょっと複雑な魔法陣を刻むので時間がかかります」
「複雑って?」
「盗難防止と術式阻害防止、その他の安全性を高めるための術式がたくさん詰まった魔法陣ですから」
「そういや形は聞いてなかったけど、どんなのができるんだ?」
「ブレスレットです」
「ブレスレットって外れやすくないか?」
「手首にぴったりとしたものです。といっても嵌めたら手首にぴったりになるようになってます。ネックレスだと簡単に外されますからね。かといってチョーカーだと首輪みたいですから」
あ〜・・・うん、まぁな。さすがに首輪っぽいのは駄目だろう。
そうじゃなくても2人にはケモミミも尻尾もあるから、チョーカーなんていかにも、になってしまう。
「明日の朝、2人に渡せばいいな」
「そうですね、アリアナに戻る前に渡すのがベストだと思います」
「やっぱりスミレもアリアナに戻ったら、って考えてるか」
「というより、一番ありえそうな場所を考えると、今の私たちに手を出そうと思うとアリアナかな、と」
スミレもミリーの事を心配してるって事か。
「帰ったらセレスティナさんに会いに行こうって思ってる」
「そうですか」
「もっと詳しい話を聞きたいしな。それにミリーを会わせたい」
「話すんですか?」
「・・・うん。俺だけが知ってるのって、さ。やっぱりフェアじゃないっていうか・・・ミリーに自分で決めてもらいたい」
「そうですか・・・」
いつまでもこのままじゃあ駄目な気がするんだ。
どこかでミリーに決めさせないと、このままダラダラしてたって仕方ない。
ミリーがどうするのか判らないけど、彼女が決めた事を応援してやりたい。
俺は引き車を振り返る。
「俺にできる事はしてやりたいんだ」
「そうですね。できるだけの手助けはしてあげましょうね」
「うん・・・」
俺はすっかり冷めてしまったお茶を一口飲んで、テーブルの上でクルクルと回る光を見つめたのだった。
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