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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 帰り道
233/345

232.

 いや〜、凄かった。

 何が凄かったかって言うと、ボンガラの解体だ、うん。

 スミレが水がいるっていった意味がほんっとうによく判ったよ。

 あれはヤバい。水がなかったら終わってたよ・・・・・

 俺、ミリー、そしてジャックの3人はそれぞれがボンガラの屍体の前で、スミレが指示する通りに解体を始めた。

 まずはひっくり返す--うん、それは腹の方が切りやすいからだな。

 次に縦に腹を切っていく--うん、これも判る。なんせ粘着液袋は腹の中にあるからな。

 そして・・・・・手を突っ込むんだ。

 これはヤラレタッッ! って思ったよ。

 普通の獣とかなら内臓の位置は決まってるから、そこを目指して切っていけばいい。

 だけど、だ。ボンガラは粘着液袋を腹の中なら自由に移動させる事ができるんだよ。

 つまり、腹の中のどこにあるのかは、手を突っ込んで見ない事には判らないって事だ。

 俺はまだいい、それなりに手が長いからさ。せいぜいが肘が埋まるくらいまで突っ込めば、それでなんとかバスケットボールくらいの大きさのぐにゃっとした物を見つける事ができる。

 でも、ミリーやジャックとなるとそうはいかない。2人とも肩の付け根くらいまで中に手を突っ込まないと粘着液袋を見つけられない。

 しかも見つけたら今度はそれを取り出さないといけないから、下手をしたら顔が埋まるんじゃないのか、と思うくらい体ごと手を思い切り伸ばして取り上げるんだ。

 あれを見たらさ、あまりにも可哀そうだった・・・・・

 「ミリー、ジャック、おまえら、見つけたら俺に言えよ。俺が回収してやるからさ」

 「えっ、でもね、たいへんだよ?」

 「うん、知ってる。でも、俺の方が手が長いからさ。その代わり2人で、俺の分の粘着液袋も一緒に水で綺麗に洗ってくれよ?」

 「おう、それくらいやれるぜ」

 「わかった、ありがと、コータ」

 思わずくしゃっと頭を撫でようと伸ばした手をそのまま引っ込める。

 いや、だってさ、むっちゃドロンドロンになってんだよ。

 そんな手で触られたら、絶対に怒るだろ?

 「俺たちが解体するのは3体ずつ、とりあえず俺が腹を切る。ジャックが見つけたら俺に教えろ。ミリーはそっちにあるタライで粘着液袋を洗ったら、スミレがいう入れ物に入れる事。それでいいな?」

 「えぇぇぇ、俺が探すのかよぉ」

 「いやなら俺と変わるか? そうしたらおまえ顔ごとボンガラの腹に突っ込む事になるぞ?」

 「えぇぇ、それはイヤだ」

 情けない声で抗議するジャックをジロリと見る。

 こいつ、ミリーに探せって言うつもりか?

 「おまえ、まさかミリーに代われなんて言わないよな? 女の子にイヤな仕事を押し付けるような男、じゃないもんな」

 「うぐっ・・・」

 「ミリーはおまえのお姫様なんだろ? だったら彼女の分まで汚れ仕事を頑張るのが騎士の仕事だろ?」

 「いや、騎士はそんな仕事は・・・」

 「騎士様ってさ、姫を守るために魔物を退治するんだったよな? 退治したらその魔物を片付けるのも騎士の仕事だろ? じゃあ、おまえはミリーの分も頑張らないとなぁ」

 「むむむ・・・・判ったよ」

 うん、最初っからも文句を言わずに受け入れていたら、ミリーもきっとおまえを見直したと思うぞ。

 でも、あの情けないところを見せた今じゃあ・・・ミリーの視線が呆れたようなものを見るものになっていても仕方ないな、うん。

 さて、と。とにかく役割分担はできた。

 既にそれぞれが1個ずつ粘着液袋をとりだしてあるから、それをミリーの前にあるタライに放り込んであとは彼女に任せると、俺は残りの6体分のボンガラの腹を切り裂いた。

 そこに嫌々ながらもジャックが手を突っ込んで粘着液袋の位置を探して俺に教える。

 それを俺が手を突っ込んで取り出してはタライに入れていく。

 ミリーはスミレが用意した入れ物に1つずつ洗った粘着液袋を入れると、スミレがその蓋をして密閉状態にする。

 それを繰り返す事9個分、ようやく最後の一個をミリーが入れ物に入れた。

 「終わった〜〜〜終わった、終わった」

 「うるさいぞ、ジャック。汚い手を振り回すな、こっちに飛び散ってくるだろ」

 「もうやらねえぞっっ」

 「あ〜、はいはい」

 適当にジャックをあしらって、俺は9個目の入れ物に蓋をして密閉状態にしたスミレのところに行く。

 「お疲れさまでした」

 「うん、マジで大変だった」

 「じゃあ、あとはお任せくださいね。私が作業をしている間、3人は今着ている服を脱いで汚れを落としてきてください」

 「判った、じゃあ、あとは任せるよ」

 申し訳ないけど、もうこれ以上ボンガラの腹の中をかき回したくない俺たちは、素直にスミレの言う通りにする事にした。

 取り出した懐かしいタライをに水を張り、1人ずつ交代で身体を洗った。

 風呂? そんなもん、使わねえよ。

 ボンガラの体液でデロンデロンのドロンドロンになってんだぞ。そんな汚い身体で入ったら、次から風呂を使えなくなるだろ? まぁ主に精神的に、だけどな。

 それはミリーやジャックとしても同じだったようで、文句も言わずに素直にタライで身体を洗ってたよ。

 そうやって洗い終えた俺たちはアラネアに乗り込んで休憩だ。

 その間、スミレはずっとボンガラを解体している。

 申し訳ないな、うん。

 スミレは俺たちに3体ずつボンガラを解体させただけで、残りは全てスキルを使って解体してくれた。

 できれば全部やってくれたら、と思わないでもなかったけど、依頼品を持って帰ってどうやって解体したんだって聞かれたら困るだろう、スミレにそう言われるといやだとは言えなかった。

 あれ? それなら3人で1体だけ解体すればよかったんじゃね?

 ふとそんな事に思い至った俺は、ボンガラの解体をしているスミレをガン見してしまった。

 あ〜・・・・でもまぁ、今更だな、うん。







 ボンガラの解体を終えたあとは、まるで凄惨な戦場のようだった。

 まとめて焼くとか埋めるとか、って聞いたらほっとけばいい、との事。

 ほっとけば他の魔物が食べるんだとさ。

 粘着液袋がないから、ボンガラだってやってきて食べるだろう、って話だ。

 まぁそれなら俺たちも楽だから、素直にスミレの言葉に頷いてからアラネアを走らせた。

 目指すはパンジーだ。

 「パンジーッッッ!」

 アラネアから飛び出したのはミリー。

 ダダッと走って行ってパンジーの首にしがみついている。

 パンジーも嬉しそうにポポポって鳴いてる。

 「待たせたね。ごはん、ある?」

 「ポポーポポポッ」

 「わかった、すぐにもらってくるね」

 よく判らないが、ミリーとパンジーは意思の疎通ができるようで、すぐに走って戻ってくる。

 「コータ、パンジーのごはん」

 「全部食ってたのか?」

 もしかしてパンジーは腹が減ってるのか? 

 確かにさ、予定の2−3日よりも随分と遅くなったけど、1週間くらいなら大丈夫な量を用意しておいた筈なんだけどな。

 「ううん、そっちじゃないやつ」

 「ああ、スミレスペシャルの方か」

 どうやらおやつが食べたかっただけのようだ。このおやつはスミレが色々な薬草や穀物、それにハチミツなんかを混ぜて作ったパンジー用のおやつで1日に1個だけもらえる事になっていた。

 そういや出かける前に1個あげただけで、それから今日までもらってなかったんだもんな。

 それを聞いてホッとしてから、俺は後ろにいるスミレを振り返った。

 「スミレ、あれは?」

 「引き車の中ですよ。ミリーちゃん、いつものところにもまだ残ってますからそれをあげてくださいね」

 「わかった」

 たたたっと走って引き車に向かうミリーはそのままボタンを押してドアを開けて中に入る。

 「ジャック、水をやってくれ。俺は簡単なご飯を作るよ」

 「おう」

 のろのろとジャックが引き車の荷物入れに行って水が入った袋を取りに行き、それを見送ってからポーチからテーブルに椅子、それから魔石コンロなどの調理器具を取り出した。

 「あ〜・・めんどくさいからサンドイッチでいっか」

 「洞窟に行ってからずっとサンドイッチが続いていましたから、きっと文句をいうと思いますよ」

 「そっかぁ・・でもなぁ、めんどくさいんだよ」

 揶揄うようなスミレの言葉だけど、確かにその通りだった。

 「んじゃあ、串焼きな」

 これなら肉を切って刺すだけだ。あとはパンジーの世話を終わらせたミリーに焼いて貰えばいっか。

 俺がその間にスープを作って、ジャックにパンを炙らせれば立派なご飯だ。

 丁度いいタイミングで、ミリーがパンジーのところからこっちにやってくるところだ。

 ジャックも水さえやればすぐに戻ってくるだろう。

 「よし、串焼きとスープ、それに炙ったパンだ」

 これで文句を言うヤツは食わんでいいっ!

 「ミリー、肉を焼いてくれるかな?」

 「肉? うん、いいよ」

 肉と聞いてミリーの尻尾が嬉しそうに左右に揺れる。

 ああ、そういや洞窟の中ではあんまり肉を食えてないもんな。

 「ジャックにも手伝わせろよ? いや、あいつにはパンを炙らせてくれ。俺はその間にスープを作るからさ」

 「ちゃんとした、ご飯だね」

 「そうだなぁ・・・特に串焼きは久しぶりだな」

 「うんっ」

 俺は疲れてんのに、ミリーは肉と聞いてウキウキしている。

 この辺りが俺との違いか? 俺は肉食になりきれてないんだろうか?

 ま、いいか。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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