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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 帰り道
229/345

228.

 アラネアを走らせて、来た道を戻っていく。

 道中ではやっぱり何かの気配は感じたけど、とりあえず全く気づいていませんよ〜という顔で無視するようにとスミレに言われた。

 でもさ、気配はビシバシ感じるんだよ、なので正直あんまりいい気分じゃなかったんだけどな。

 それはミリーやジャックも同様だったようで、バックミラーに時たま映る尻尾の毛は逆立っている。

 それでも3人スミレのいう通り何気ない風を装い続けてスミレが指定した場所まで移動した。

 そして岩のタワーが林立したエリアから抜けて、遠くにパンジーが見えるところでアラネアを停める。

 ここがスミレがあらかじめ話していた場所だと思う。

 「ここでいいかな?」

 「十分ですね。遠すぎず近すぎず、今もボンガラの注意は引けてますよ」

 「んじゃ、ミリー、ジャック、アラネアから降りて解体だ」

 「わかった」

 「おう」

 アラネアのドアは開けっ放しにして、10メートルほど離れた場所に移動してからヴァイパーを取り出した。

 なんかすごくボロボロのぐちゃぐちゃになってて、言われなかったらヴァイパーって気づかないと思うぞ。

 「スミレ、魔石がある場所を探してくれるかな?」

 「判りました。ちょっとお待ちください」

 スミレがヴァイパーの真上を飛んでスキャンを始め、彼女が教えてくれるのをミリーとジャックがじっと待っている。

 俺はそんな3人を尻目にヴァイパーの周りを一周して、まだ使えそうな皮が残っている場所を探す。

 でも、だ。本当にボロボロで、よくここまで叩きのめす事ができたな、って思うくらいだよ。

 とはいえ別に大きな蛇皮のバッグを作ろうっていう訳じゃないからさ、綺麗そうなところをいくつか剥げばいいか。

 お腹の辺りは比較的まともだけど、鱗も小さめで色が薄ぼけた感じだからあんまり好みじゃない。

 だからと言って大きめの鱗に濃い色が出ている背中はボロボロになっている。

 俺は妥協してその中間辺りを選んで剥ぎ取る事にした。

 「あったっ!」

 嬉しそうなミリーの声に振り返ると、解体ナイフを振り回しながら左手に魔石を握りしめているミリーが見えた。

 「コータ、あった、コータ」

 「おっ、ちゃんと見つけたのか、偉いなぁ」

 「えへへへ」

 「お、俺だって見つけたぞっっ」

 「ジャックも見つけたのか? 2人とも凄いなぁ」

 右手に解体ナイフ、左手に魔石を握りしめたお子ちゃまたちは、偉そうに踏ん反り返っている。

 ただな、見せる時はナイフをこっちに向けないでくれるともっと嬉しいぞ。

 「ほらほら2人とも、もう1個ある筈なんですからね」

 「あっ、そうだった」

 「早く探してくれよっ」

 スミレの声に慌ててヴァイパーの方に向き直る2人を見て、そういえば尻尾がある筈、と思い出した。

 「スミレ、尻尾は?」

 「えっ? ああ、そういえばストレージに入ってますね」

 そう言ってスミレが宙に手を伸ばして指を動かすと、尻尾がヴァイパーの体のそばにゴロン、と落ちてきた。

 「おっ、そっちの方が皮の状態が良さそうだな」

 「そうですね、こっちは切り落としたようなものですからね」

 いや、あれは切り落としたとは言わないと思うぞ。

 炸裂弾を使ってちぎり取った、っていうのが正しい表現だと思う。

 でもそのおかげでダメージが殆どない皮が剥げそうだ。

 俺は早速尻尾の傍らにしゃがみこんで解体を始める。

 使うのはスミレがくれた新しい解体ナイフだ。

 すっと刃先を差し入れて縦に動かすと、特に抵抗もなくスッと切れていく。

 切り目を入れた部分を持ち上げて刃先を皮と肉の間に差し込んでゆっくりと剥がしていくと、これもまた簡単に皮が剥がれていく。

 「この解体ナイフ、いいなぁ」

 「使い勝手がいいですか?」

 「うん。すごく切れ味がいい」

 「それは良かったです。使いにくいと言われたら悲しいですからね」

 俺は皮を剥ぎ取った出てきたナイフを目線まで持ち上げて刃を見る。

 まだ皮を少し切っただけだから判断できないけど、切れ味もそう簡単に変わらないみたいだな。

 「でもさスミレ、高周波ナイフって手術とかに使うもんじゃなかったっけ?」

 「コータ様の記憶データ・バンクではそうでしたね。ですがその技能そのものはナイフとしても使えそうでしたので、超音波ナイフと合わせて技術を使う事にしました」

 そんな事できるのか?

 はっきりとは言えないけどさ、俺の記憶の中にある高周波ナイフは体内に差し入れてから使うもので、とても小さなナイフの筈だ。

 でもスミレが作ってくれたのは普通の解体ができるサイズのナイフだ。

 しかもそのナイフが勝手に判断して付与された技術を使い分けてくれるっていうんだから、さすがはスミレが作ったものだけある。

 「あったっ!」

 「ちぇっ」

 ミリーの歓声とジャックの残念そうな声が上がる。

 「最後の1個、見つけたのか?」

 「うん、わたしが見つけたよ」

 「よしよし、頑張ったな」

 血で真っ赤になった左手を振りながら俺のところにやってきたミリーは、そのまま左手を広げてたった今見つけた魔石を見せてくれる。

 大きさはゴルフボールを1回り大きくしたくらいか。

 ちょっとヴァイパーの血で汚れているからよく見えないけど、なんとなく青いか?

 「う〜ん、色がよく判んないなぁ。あとでちゃんと洗ってからもう1回見せてくれるかな?」

 「うんっ」

 「コータ様は皮の剥ぎ取りを終えましたか?」

 「うん、ちょっとしかないけどな」

 「ではそろそろアラネアのところに戻りましょうか」

 もう? と尋ねるような目を向けるとスミレは俺の方を見ておらず、岩のタワーの方を見ている。

 「来るのか?」

 「はい、すぐにでも」

 「おっけ、ミリー、ジャック、アラネアに戻るぞ」

 「わ、わかった」

 「お、おう」

 俺は2人を促して足早にアラネアの方に戻る。

 「結界を3秒間解除して、3人がアラネアに到着した時点でもう1度結界を展開し直します」

 「結界を解除する時は言ってくれ、とりあえず背中を見せたまま解除はしたくないんだ」

 「判りました。では、10秒後にします。カウントダウンしますので、それに合わせて体の向きを変えてください」

 10秒もあれば余裕でアラネアに戻れる。

 俺はスミレが5、といったところでアラネアの手前で岩のタワーの方に体を振り向かせた。

 ミリーとジャックも俺の両隣で同じように振り返った。

 2人とも解体をしたばかりだからか、武器は解体ナイフを使うようだ。

 「2・・1・・0、解除します。1・・2・・3・・光学迷彩結界を展開しました」

 途端に疲労感に襲われて、俺は背後のアラネアにもたれかかるようにして身体を支えた。

 って、なんで光学迷彩結界なんだ?

 「スミレ、そんなことしたらいきなりアラネアが消えたように見えて怪しくないか」

 「ボンガラ程度の頭脳ではそんなのは瑣末事にすぎません。あれらは目の前の餌が消えていなければ、何も気にしないですよ」

 「ああ、そう・・」

 なんか思い切りディスられているボンガラに同情しかけたがあれは獲物だ、そんな感情は持っちゃいけない。

 「それより、ちゃんと結界の位置は把握してくださいね。これは一度出ると戻ってこられませんよ? 近づけば判りますから、ちゃんと確認はしておいてくださいね」

 「分かった」

 「おう」

 素直に頷くとミリーとジャックはそのまま結界のすぐ手前まで歩いていく。

 どうやら今回は地面から50センチほどの高さまで白っぽい色で判るようにしてくれたみたいだな。

 でもそれもあってか、俺の疲労感が半端ない。

 「スミレ、どれくらい使った?」

 「今回は70パーセントですね」

 おい、俺の魔力の7割を使ったってか? 使いすぎじゃね?

 「スミレ・・・」

 「全てはみんなの安全のためです」

 「それにしたってさぁ・・」

 「安全が第一とおっしゃいましたよね?」

 「でも・・・」

 「私は誰にも怪我をしてもらいたくないんです。コータ様だってそうですよね? そのためには魔力を惜しむなんて、しないですよ、ね?」

 「・・・うん、そうだな」

 スミレの迫力におされて、俺は仕方なく頷いた。

 うん、みんなの安全は第一だよ、それは今も変わってない。

 でもさ、それにしても今までの普通の結界でも十分な筈だろ?

 とはいえ、そこでスミレの迫力に負けて反論できなかった俺が悪い。

 はっ?!?

 もしかして、俺、言質げんちを取られたのか?

 周りを見回すと、ミリーもジャックも迎撃準備に余念がなく、俺とスミレの話なんて誰も聞いてなかった。

 俺もそろそろ行かなくっちゃな。

 アラネアから背中を離してその場に立つと、まだ疲労感は少し身体に残っていたけど立ちくらみをおこしそうなほどって訳じゃない。

 うん、これなら俺も参加できそうだな。

 「じゃあ、行ってくる」

 「私も参加しますよ」

 「スミレも? どうするんだ?」

 「これを使います」

 にっこり笑うスミレの背後から4個のサーチング・スフィアが現れた。




 読んでくださって、ありがとうございました。


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