227.
Happy 4th of July ! !
花火がうるさい・・・・・
スミレが差し出した作業着という名のツナギを着る。
う〜む、いいのか、これ?
「スミレ、なんか体の線が出すぎている気がするんだけどさ?」
「そうですか? 大丈夫ですよ」
そうかなぁ・・・・
スミレが手渡してくれたツナギは空色だった。
そこはいいんだ、うん。
ただピッチピチなんだよ。どうやったのか判らないけど特殊素材を作り上げていて、伸縮性に富んだ光沢のある生地を使って作ったらしいんだけど、あまりにも体の線が出すぎていて抵抗があるぞ。
おまけに頭も覆うようになっていて、外に出ているのは手足と顔の部分だけ。
随分と怪しい見かけだぞ、おい。
それに体の線が出過ぎてて、なんか気恥ずかしいぞ。
なんていうかな、昔の戦隊ヒーローの着ていたような服、って感じだ。
「スミレ、このデザイン、どっから取ってきた?」
「もちろん、コータ様の記憶データバンクですよ。なんか色々とたくさんありましたねぇ」
「そりゃ俺の子供時代のテレビの記憶だ」
「そうですか? 私はてっきり趣味の方だと思ったんですけど」
「あほかっ、フィギュアでこんなもん作るかっっ」
俺のフィギュアにこんな野暮ったい服なんか着せるかよっっ。
「ガキの頃に見てた戦隊ヒーローものシリーズの服に似てる」
「ああ、あれはそういうものだったんですか。似たようなものがいくつものパターンであったので、何かなぁと思ってたんです」
「子供が大好きなシリーズだったんだよっ」
俺だって小さい頃は戦隊ヒーローのおもちゃとか持ってたよ。確かベルトも買ってもらった記憶があるぞ。
って、そういう話じゃなくってだな。
「もっと体にゆったりしたデザインでもよかったんじゃないのか?」
「伸縮性があるから動きにくい事はないでしょう?」
「動きにくくはないけどさぁ・・・ピッチピチすぎて裸でいるみたいなんだよ」
俺がそういうと、スミレがふわっと飛んできて、俺の頭から足先までじーっと眺めてきた。
「そうですね、でも今はまだ大丈夫ですよ」
「なんだよその、今は、っていうのは」
「あと数年したらお腹が出るかもしれませんからね。そうなるとちょっとみっともないかも」
「やまかしいわっっっ!」
俺はオタク候補生だったんだよ。
運動なんかよりはテレビやネットの方が楽しかったよ。
だから筋肉だってそんなについてねえよっっっっ、悪かったなっっ!
「大丈夫ですってば。まだお腹は出てないじゃないですか」
「まだ、な」
「筋肉は付いてないけど、それは仕方ないですけどね」
「一言余計だっっ」
「失礼しました」
ちっとも失礼と思ってないスミレ相手に話しても無駄だ。
話しているだけで頭が痛くなってくるぞ。
俺は同じ素材で作られたミリーとジャックを見ると、2人ともお子ちゃま体型でそこから猫耳と尻尾を出すところは付いているらしい。
ミリーはジャックを指差して笑って、ジャックは奇妙な顔をしてミリーを指差している。
うん、確かに変な格好だよな。
「コータも変っっ」
「ミリー・・・」
「ジャックも変、わたしも変?」
「おうっ、みんな変な格好だぞ」
キッパリと言い切るジャックと、それを訂正できずになんとも言えない笑みを浮かべるしかできない俺。
「大丈夫ですよ、変な事はありません。そうですよね、コータ様、ジャック」
「そ、そうだな・・」
「お、おう・・」
俺とジャックはお互いの顔を見合わせて、スミレの言葉に頷いた。
ここで言い返せるほど俺たちは強くないんだ、仕方ない。
「その作業着は特殊素材でできていますので、万が一ボンガラの粘着液がついてもすぐに粘性を中和してなくしてしまいます。そしてボンガラに攻撃されても破れる事はありませんのでご安心ください」
「な、なぁスミレ。そのさ、破れるって、一体どんな攻撃をして来るんだ?」
「噛み付いてくるんですよ」
「へっ・・・?」
噛み付く? 蜘蛛が?
「あ〜、スミレ、もうちょっと詳しい情報が欲しいな、って思うんだけど」
「ボンガラは体長が1メートルほど、手足を伸ばせばその倍ちょっとくらいになりますね。足は結構早いです。粘着性の強い糸を出して、それを使って捕獲した獲物を食べますし、糸を飛ばしてそれを伝って移動する事も可能です」
「んで、噛み付くって?」
「口に10センチほどの牙がありまして、それで獲物にトドメを刺すんです」
「ちょっ、おいっ、そんなもんに噛まれたら死ぬぞっっ」
10センチの牙なんてライオンよりもデカいじゃん。
「何言ってるんですか。私が作った特殊素材はその程度のものは通しません」
「通さなくてもダメージは受けるぞ。そりゃツナギは牙を通さないかもしれないけど、噛みつかれたらその分体にめり込むんだぞ」
「めり込む、ですか?」
スミレが不思議そうに頭を傾げる。
「ほら、こんな風に押せば中に入るだろっ! って事は、だ。牙が食い破る事はできなくても、噛まれた時の牙が食い込んでミリーやジャックだったら腹が潰れるぞ」
思わず怒鳴るように言ってしまったから、途中からは自分を落ち着けるように気をつけながら話した。
いや、だってさ、それくらいは判るよな?
でもスミレはそんな事までは考えていなかったようで、ハッとした顔でミリーとジャックの顔を見た。
2人は俺の言葉で顔を青くしてウンウンと頷いている。
「それは・・・考えていませんでしたねぇ。確かに生地は破れなくても、中身は潰れちゃうかもしれないですね」
「スミレの破れない生地っていうのは良いアイデアだと思うんだ。でもボンガラに関しては使えないぞ」
「そうですね。ですが破れないのは本当ですよ?」
「うん。だからさ、これを着た上から普通の服も着ようと思うんだ。それなら服は汚れて駄目になっても着替えればいいだけだし、万が一ボンガラに牙を向けられてもダメージは少なくて済むだろうからさ」
破れないっていうのは良いアイデアだと思うんだ。
ボンガラの牙で肌を傷つけられずに済むって事だからさ。
「判りました。コータ様の言う通りにしましょう」
「ミリーとジャックもそれでいいかな?」
「うん・・多分」
「おう」
「とにかく結界からは出ない事、これさえ守れば大丈夫だよ。服が汚れるのが嫌だったら回収解体作業の時に普通の服は脱げば良いんだから、な」
「そ、だね」
気を取り直して頷くミリーとジャックの頭をポンポンと叩いてから、俺はスミレに向き直る。
「で、予定どおり岩のタワーから抜け出したところで餌を用意するんだな」
「はい、ついでにその時にヴァイパーの解体をしましょう。それから解体で残ったヴァイパーを餌にすれば良いと思います」
「でも解体って時間がかかるんじゃないのか?」
「いいえ、ヴァイパーは魔石だけもらってあとは放置でいいです」
「でも皮は?」
確かヴァイパーの皮は良い素材だって聞いたぞ?
「良い素材ですけど、かなりダメージしてるので持って帰っても売値は低いですよ?」
「ああ、半分以上は使いもんにならないかもしれないからなぁ」
「ですから・・・いえ、それでは少しだけ皮を素材として回収しておきましょうか。あとでそれを使って記念品を作っても良いですからね」
「きねんひ、ん?」
「記念に皮を持って帰って、それをヴァイパーを狩ったっていう思い出のために何かを作りましょうか、って話ですよ」
「何作る?」
「なんでも良いですよ。なんでしたら3人で使えるものがいいですね」
「4人、だよ。スミレも一緒」
「あら、ありがとうございます」
スミレがいう3人は、俺とミリー、それにジャック。
だけど、ミリーはそれにスミレも合わせて4人だと言う。
良い子だよ、ホント。
「じゃあ、ミリーとジャックがヴァイパーの魔石を探している間に俺が少しだけ皮を剥ぐよ。それから肉はそのまま放置して、ボンガラをおびき寄せる餌にするって事でいいな」
「うん」
「それでいいでしょうね」
「おう」
「んじゃ、話は纏まったから、出発だ」
俺はそう言ってから、ポーチに手を伸ばす。
「ちゃんと服を着ろよ」
ポーチから取り出したシャツを羽織りながら、俺はアラネアに向かったのだった。
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