222.
よいしょよいしょとジャック・フィギュアを運び終えたアームたちは、そのままジャックを地面に下ろすとその周囲を囲むように腕を上に上げた状態で落ち着いた。
もちろんその手には水鉄砲が握られているのが見える。
「なぁ、アームの数、増えてないか?」
「増えてませんよ。最初からあの数です」
「でも俺たちが使ったのって、4つだけだろ?」
あれはどう見たって10セット以上のアームだ。
「全部で12のアームを作りました。8機はないとフィギュアを壊す事なく下に運べないと判断しましたからね」
「もしかして俺たちがライクリファイドを集めている間に降ろしたのか?」
「その通りです」
俺たちがスクリーンを見て一生懸命アームと奮闘している間に、コッソリと残りのアームとジャック・フィギュアを下ろしたらしい。
なんだよ、最初っからやる気満々だったんじゃねえかよ、ったく。
「何があるか判りませんからね。常に先を読んで行動しないと手遅れになると困ります」
「スミレ、すごいねぇ」
「そうでもないですよ。みんなの安全のためですから」
「ありがとう、スミレ」
ミリーがものすごく感心したような視線をスミレに向けている。
でもなミリー、お前は騙されてるんだぞ、絶対に。
スミレがそんな事思ってる訳ないだろ。彼女は俺たちの安全のためじゃなくて、自分の獲物を逃さないために準備万端だったんだよ。
「コータ様、クリカラマイマイが動き出しましたよ」
「えっ、ああ、うん」
そんな事は知ってる。っていうかさ、さっきからずっと動いてるじゃん。
でもそんな事は言えない。ここで言い返すととても危険な気がするんだ、俺。
だから俺は黙って画面に目を向ける。
クリカラマイマイは壁をゆっくりと移動しながら、少しずつジャック・フィギュアに近づいてくる。といっても下がってきている訳じゃなくて、そのままの高さを維持して真横に並ぼうとしているんだろうか。
魔力を奪われているから飛べない筈なのにな。
降りてこないとジャック・フィギュアに辿り着けないのに何やっているんだろう?
「なぁ、スミレ。あれ、もう飛べないんだろ?」
「いいえ、先ほどまではコータ様の魔力で充満していましたけど、アームド・スフィアやアームたちに吸収させましたので、今なら滑降であれば魔力を使ってできる筈です。あとは硬化もできるでしょうね」
「スミレ、俺からあれだけ魔力を取っていったのに、まだ足りなかったのかよ・・・」
「念のため、ですよ。念のため」
「ってかさ、いいのか? 元々硬いんだろ? なのに魔力で更に硬化できるようにしたら、退治できないんじゃないのか?」
サラッと俺の苦情を流すスミレだけど、あんなでかい魔物が魔力を使えるようになったらヤバいんじゃないのか?
なんか心配になってきたぞ。
「いいんですよ。硬化させるのも目的の1つですから」
「えっ、そうなんだ?」
「はい、そのための道具もちゃんと用意してあります」
画面を見るしかできない俺たちと違って、スミレは全部用意してあるって訳か。
なんか、俺、いらなくね?
「もちろんそのためにコータ様の魔力を集めたんですよ」
「俺の? なんで?」
「使うのは魔法具の一種ですからね。魔力がなければ動きません。それに必要とする魔力量は膨大ですから、あの空間に満ちていた魔力を全て集めてなんとか使える、といったところなんです」
ふむ、一応役には立っている、って事か。でも、魔力製造機って事だよな・・・はぁ。
「そろそろくると思いますよ」
えっ? と慌ててスクリーンを見上げると、画面に映っているクリカラマイマイが前半分を岩から離して伸ばしていく。
「あれ、何してんだ?」
「ああやって体を伸ばして薄く広げているんです。面積が広い方が空気を受けやすいですからね」
「でも薄いとペラペラ〜ってなるんじゃないのか?」
「そのための硬化ですよ」
あっなるほど、と頷きながら画面を見る。
クリカラマイマイの伸びきった体が少しずつ色を濃くしていく。
きっとあれが硬化の変化なんだろう。
ペラペラだった前半分が硬化によってビシッとなった。でも縁周りはペラペラのままだ。
形はひし形だけど上の三角の高さは短く、下の三角は下に長くなっていて、縦長のエイといった感じだ。
そして丁度2つの三角がくっつく辺りにでっかい貝が乗っかっている、そんな形になった。
「あっ」
ミリーが小さな声をあげたのと同時に、エイの形状になったクリカラマイマイが壁から離脱した。
フワっと離れたというよりも急降下した、といった方がいいほどのスピードでジャック・フィギュアめがけて飛んでいく。
でもスミレのいうとおり滑降であって、滑空じゃない。
つまり、今までみたいに空中を自由に飛ぶ事はできなくなったって事なんだろう。
あっという間にクリカラマイマイはジャック・フィギュアのすぐそばに飛んできた。
そのまま大きく口を開けてジャック・フィギュアを咥えようとしたところで、その口めがけてアームたちが一斉に水鉄砲を撃つ。
撃ったのと同時にボゥッとクリカラマイマイの前部分が火に呑まれた。
「すっげぇ・・」
ジャックの小さな呟きが耳に届いたけど、目の前の光景に気持ちが奪われすぎていて答えるだけの思考が働かない。
燃え上がったクリカラマイマイの尻尾を掴むたくさんのアームたちのせいで、クリカラマイマイはその場に墜落してしまう。
その真下にあるのはジャック・フィギュアだけど、あれじゃあ粉々だろうなぁ・・・
でも、なんでアームは尻尾と一緒に飛んでいかないんだ?
「なぁ、ス・・・」
スミレにそれを聞こうとして、その理由が判った。
暴れるクリカラマイマイが振り回す尻尾はなんとか抑えられているけど、アームが1つだけ地面から剥がされその拍子にその理由が見えたのだ。
アームは板を地面につけて両手をあげてクリカラマイマイが来るのを待っていたけど、その間に板から棒状の何かを出して地面に突き刺していたようだ。
そのせいで簡単に地面から浮き上がらなかったんだろう。
アームが必死に地面にクリカラマイマイを押さえつける。特に尻尾の先にはたくさんのアームが絡みついている。
「尻尾の先からホースで水を飛ばすように酸を飛ばしてくるので、ああやってそれを防いでいるんです」
「そういや酸を飛ばしてきてたな」
「はい、さすがに酸をとばされるとアームもダメージを受けますからね」
俺が不思議そうに見ていたからだろう、スミレが解説をしてくれた。
「それにああやって動きを封じた方がやりやすいんですよ」
「何する気だよ」
「これからクリカラマイマイを無力化します」
スミレがそう言うと同時にアームド・スフィアが映っているスクリーンを指差した。
そこにはクリカラマイマイの上空にやってきたアームド・スフィアが映っている。
アームド・スフィアは、ゆっくりとクリカラマイマイの殻の上空に滞空すると何かを探すようにビームのような光を殻に当てている。
「あれ、何してんだ?」
「ポイントを探しているんです」
「ポイント?」
「はい、ああ、見つけたようですね」
ポイントってなんだ、と聞く前にアームド・スフィアが動き出した。
ビームが当たっている1点めがけて体勢を変えながら、ついでにその形も変えている。
アームド・スフィアの前部がドリルのように錐状に変化したのだ。
そしてくるくると回転を始める。
スクリーンに映るのは映像だけでその音は聞こえないけど、俺にはチューンと言う金属の回転音が聞こえる気がするぞ。
かなり高速で回転しているアームド・スフィアがゆっくりとその切っ先を殻にめり込ませていく。
途端に暴れ出すクリカラマイマイだけど、アームたちが絡みついているから逃げる事ができない。
アームド・スフィアはそのまま高速回転しながらどんどん殻の奥へと入っていく。
そしてそのまま外からは見えなくなってしまった。
「スミレ、あれ、入りきっちゃったんだけど」
「計画通りです」
「えっ、いいのか?」
「はい、あのまま中心まで移動してもらわなくては作戦が遂行できません」
あのまま中心って、何をする気なんだよ。
俺にはさっぱり判らないぞ。
「あっ」
「げぇっっ」
スクリーンを見ていたジャックとミリーが声をあげる。
俺はスミレからスクリーンに視線を移動させると、そこには軟体部分を仰け反らせているクリカラマイマイが映っている。
そしてそのままボンっと背負っていた殻が弾け飛んだ。
そしてその弾け飛んだ殻の中身がスクリーンにへばりついた。
「うげっ」
ジャックが口を抑えている。
ミリーは両手で顔を抑えている。
うん、俺もできれば見たくなかったよ。
「スミレ、何したんだ?」
「アームド・スフィアを体内に送り込んでから、そこで一気に膨張させました。殻内の圧力が一気に上がった事により殻が破裂したんです」
「爆弾を使ったんじゃないのか?」
「最初はそうしようと思ったんですけど、そうするとせっかくの魔石が駄目になるかもしれなかったので、膨張させる事にしたんです」
「魔石・・・?」
「はい、魔物ですからね、魔石を持ってますよ」
ああ、そりゃそうか。魔物なんて滅多に倒さないから、魔石がある事なんてすっかり忘れてたよ。
「空洞空間内にどのくらいいたのか判りませんが、あれだけのアキシアライトやライクリファイドに接触していたんです。きっと良い魔石が手に入るでしょうね」
スミレは嬉しそうにそう言ってから俺を振り返った。
「それもこれも全部コータ様の魔力のおかげですね」
「・・・俺の?」
「はい、アームド・スフィアを膨張させるには多量の魔力が必要でした。膨張時にかかる圧力は魔力の量と比例していましたからね。ですから、あの空洞空間内部にある全ての魔力を集める必要があったんですよ。もちろんそれにプラスしてコータ様から余分に魔力をいただきましたから、それもあってあれだけの急速膨張を起こす事ができたんです」
なんかよく判らないけど、俺の魔力を使ったのはあの爆発を起こすためだったって事か。
なんて事思いつくんだよ、スミレは。
「俺・・・てっきり、アームを使って焼き殺すんだと思ってた」
「アームに持たせている水鉄砲は確かに強力ですけど、あの程度の威力ではクリカラマイマイを仕留める事はできませんでしたよ。あれが硬化すればちょっとやそっとの攻撃は通しませんから」
「でもさ、まさかあんな方法で仕留めるとは思わなかったぞ」
できればその前に教えてもらいたかったよ。
「事前に言う事はできなかったのか?」
「100パーセント成功すると確信が持てませんでしたから、あえて言いませんでした」
「もし失敗してたら?」
「その時は、残りのアームを囮にしてあの穴を塞いで逃げるつもりでした」
無理を通すつもりはなかったって事か。
逃げるつもりだった、って言われるとあんまり文句言えないじゃん。
「はぁ・・・次からは俺にも計画だけは教えてくれ。じゃないと対処に困るからさ」
「判りました」
「とにかく、もうこれ以上の脅威はないんだな?」
「はい、ありません」
「じゃあ、ちょっと休憩にしよう」
俺はチラリと両隣に座っているミリーとジャックを見下ろした。
2人とももうスクリーンには目を向ける事なく、俺とスミレを見上げていた。
でもなんとなく疲れたような表情をしている気がする。
「ミリーとジャックも、何か冷たいものでも飲むか?」
「・・うん」
「おう・・・」
どこか覇気のないまま返事をする2人の頭をポンポンと叩いてから、俺はポーチから3人分の木のカップと水筒に入ったジュースを取り出した。
ちょっと喉を潤してから、これからの事を考えよう。
読んでくださって、ありがとうございました。
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