219.
魔力を使えなくなって、壁に張り付いたでかいだけのカタツムリと化したクリカラマイマイのそばには1個のサーチング・スフィアを警戒のために浮かべておいて、残りのサーチング・スフィアは周囲を調査し始めた。
「ボトルを落とさせたサーチング・スフィアは回収します。あれにはカメラ機能はついていませんからね」
「邪魔になるかもしれないしね」
「邪魔にはなりませんが、エネルギーの無駄遣いになりますから」
でもそのエネルギーって俺の魔力なんじゃね? だったら気にする事ないんじゃないのか?
今までだってそんな事、気にもしてなかった気がするぞ?
「代わりにアームを投入します」
「アーム? ああ、さっきミリーたちが練習してたやつだな」
「コータ様もやるんですよ」
「えぇ・・あれ、めんどくさいぞ」
まず準備がめんどくさい。んで、扱いもめんどくさい。
スミレがパパパってやればいいのに。
「私はサーチング・スフィアの操縦とクリカラマイマイの警戒をしなくちゃいけないですからね。めんどくさくても頑張っていただきます」
「・・俺、何も言ってないぞ」
「言われなくても判ります」
「うぐっ・・・」
「それよりも、ミリーちゃんとジャックのところに行って、本番の準備を手伝ってあげてくださいね」
「判ってるって」
しゃあない、仕事をするか。
「でもさ、ライクリファイド、見つけたのか?」
「はい、それは既に見つけてありますよ。前にも言ったじゃないですか。だから空洞空間のどの辺りにあるかも大体見当はついていますからね」
そりゃそうだな、うん。
俺はどっこいしょと立ち上がると、そのままミリーとジャックのところに戻る。
「十分練習したのか?」
「コータ? うん、だいじょぶ」
「ジャックは?」
「任せとけってんだ」
うん、2人ともいつも通りだな。
「じゃあ、そろそろ本番だってスミレが言ってるぞ」
「わかった」
立ち上がった2人は俺のところにやってくる。
「どこ?」
「ん? そういや聞かなかったな」
あそこでもいいような気はするけどな。
「スミレ、どこに行けばいいんだ?」
「そこでもいいですけど、そうですね・・・」
顎に手を当てて周囲を見回しているスミレは、そのままアラネアに視線を向けた。
「アラネアのところでいいですよ。そこに3人並んで準備してください。スクリーンはそちらに移動させます。私の方もサーチング・スフィアを選んで3人のアームと魔法具に同調させます」
「おっけ」
って事で、俺たち3人はアラネアのサイドドアの前に並んで座ると、既に魔法具を身につけている2人の視線を浴びながら俺は自分の魔法具をつけていく。
「3人のアームとサーチング・スフィア、それに魔法具を同調させました」
スミレの声と同時に、俺たち3人の前にスクリーンがやってきて、それはそのまま後ろに倒れて3Dの台になる。
「なぁ、なんでサーチング・ボードじゃないんだ? サーチング・ボードって3D映像もできただろ?」
「 サーチング・ボードで映像はできたんですけど、触感まで再現できなかったんです」
「ふぅん」
「触った感触がないと力加減が判らないでしょうからね」
ああ、握り潰すとか掴みが悪くて落としてしまうとか、そういう事がないようにって事だな。
「まずはコータ様のサーチング・スフィアとアームですね。とりあえず1号機と呼びます。次がミリーちゃんのサーチング・スフィアとアームです、こちらは2号機と呼びます。そして最後がジャックのサーチング・スフィアとアームです、これは3号機と呼びます」
「俺が1でミリーが2、それからジャックが3だな」
「はい、それから荷物持ちとしてもう1台そちらのグループに入るのは4号機と呼びますね。それにはアームが4本付いています。それではアームを投入しますので、暫く位置に着くまでお待ちください」
スミレが何やらスクリーンを操作していると、ミリーとジャックが練習に使っていたアームがくるっとひっくり返ると、そのまま手の部分を下にしてまるで逆立ちで歩いているかのようにボードを上にして歩き出した。
「うわっ」
「げっ、なんだよ、あれ」
ミリーとジャックがびっくりしたような声をあげるけど、俺はびっくりしすぎて声が出なかったよ。
ボードの下に生えている2本の腕がボードを支えながら歩いていく姿は、なかなかキモすぎて笑えない。
そして最後尾に付いて歩いているアームは、リュックサックみたいなのを板の上に乗せている。しかもあのアームの板にだけはお盆みたいな縁がついているぞ。
おまけに腕が4本あるので手足が半分とれた蜘蛛みたいだ。
腕が4本かよと突っ込みたい俺とは反対に、ミリーは4本の腕よりもリュックサックの方が気になっているんだけどね。
「あれだけ、なんか持ってる、ね」
「あれが4号機なんだろ。スミレが荷物持ちって言ってたからな」
「その通りです。あの4号機のリュックサックは魔法バッグとなっていますので、あそこからライクリファイドを入れるボトルを取り出して、中身の入ったボトルを仕舞ってくれます。4号機を振り返って手を伸ばせばそこにボトルを置いて、ボトルを差し出せば受け取るように設定してあります。もちろん私もサポートしますのでご安心を」
板から生える腕は器用にバランスを取って1列になって歩いて、そのままひょいっと穴の中に自分から身を投じていく。
「あれ、スミレが操縦してんだよな?」
「なんですか、その疑問は。当たり前の事を聞かないで下さい」
「いや、うん。よかったよ」
スミレが操縦してると聞いてホッとしたよ、うん。
もし自立歩行しているあんなのと道端で出会ったら、俺は大声で叫んでいたぞ。
あれはヤバい。
俺、自分に美的感覚があんまりないって事は判ってたけど、まさかスミレの美的感覚もおかしいとは思わなかったよ。
「なぁ、あれ、あのまま歩いていくのか?」
「歩くというか、転がって降りていくでしょうね。もう忘れたかもしれませんけど、あの穴から地表までは約40メッチあるんですよ?」
「あっ・・・そういやそんな事言ってたな。なぁ、下に着くまでに壊れないのか?」
「そんなヤワな道具は作りませんよ。大丈夫です」
あ〜、まあな。腕しかないもんな。
それでも頭に腕が折れてあらぬ方向に曲がっている姿を想像してしまった。
う〜、キモい。
そうして待つ事1分くらいかな。
スクリーンに画像が映し出された。
「どうやら空洞空間の底部分に到着したようですね」
「えっ、もう? ちょっと早くね?」
「そうですか?」
スミレが頭を傾げている。あれ? 早いって思う俺がおかしいのか?
「転がり落ちるのに10秒程度ですよ? それから体勢を整えるのに数十秒程度でしょうから、間違いないと思いますよ?」
「あ〜・・・」
確かにそう言われるとそうかもしれない。
「腕が変な方向に曲がって折れてる、とか?」
「現段階では故障や異常はみられません」
キッパリと言い切るスミレは、かなり自分の作品に自信があるんだろうな。
まぁ、機能だけを追求すればあんな形になるんだって判ったよ。きっとそれだけでも俺には進歩だと思う。
「でもさ到着地点からライクリファイドがある場所までは結構かかるんだろ? だってあんな逆立ちみたいなカッコじゃ早く動けないだろうからさ」
「いいえ、ちゃんと早く移動する事はできますよ。アームは歩く時は逆立ちのような格好になりますけど、移動は飛び跳ねながらですから早いんです」
俺が歩くと思っていたのだ、と判ってスミレは納得したのか俺に説明してくれる。
でも、なんか今変な事言わなかったか?
「スミレ、あれ、とぶの?」
「飛ぶというか飛び跳ねていくんですよ。ほら、ミリーちゃんがスキップをして歩くみたいに跳ねながら移動するんです」
「えっ、跳ねるの、あの手? すごいね」
「どうやって跳ねんだよ?」
「膝を曲げて高く飛び上がる感じで跳ねて移動しますよ」
ジャックの疑問に返ってきた返事を聞いて、ジャックは立ち上がって屈伸するとそのまま飛び上がってみる。
「こんな感じかよ?」
「そうですね、そんな感じで飛び跳ねて移動するんです」
「ホントかよ。マジ、すげえな、あの腕。どのくらい遠くまで飛べる?」
「そうですね、大体5メッチくらいでしょうか」
マジ? 5メートルも1度にジャンプしながら移動するってか?
「もうそろそろ移動中の映像も入りますから、全員に見られるようにセッティングを変えるので画面はそのままにしておいてくださいね」
「列の順番は?」
「1号から4号まで順に移動していきます」
スミレが自分の前にあるスクリーンを何度かタップしていると、俺たちの前にあるスクリーンはゆっくりと起き上がってきて、そこに映像が映った。
「まずは移動中の画像が見られるようにスクリーンの状態を変更しました」
「ありがと、スミレ」
「どういたしまして、ミリーちゃん」
お礼をいうミリーを見て、俺とジャックも慌ててスミレに礼を言った。
スミレはそれを華麗にスルーして、俺たちにスクリーンに映る映像の説明を始める。
「スクリーンの映像は4号機と連動しているサーチング・スフィアのカメラ機能から送られてきたものです」
「どれどれ?」
「あっ、アームがいっぱい」
「いや、ミリー。いっぱいってさ、4台映ってるだけだから」
一応4号機のアームの背後からの映像だからアーム4台全部映ってるけどさ、誤解を招くような事は言わないに限るぞ。
それでもミリーは待ち遠しい、と言わんばかりに尻尾を左右に大きく揺らす。
それを見た俺とジャックもワクワクしながらアームの移動シーンを待つ。
「上空警戒用のサーチング・スフィアも準備できました。出発します」
途端に一番前にいた俺のアームがビョヨヨーンと飛び跳ねた。
「うげっ」
「あっ」
両隣にいる2人から変な声が漏れた。
俺? 俺は声も出なかったよ。
いや、だって、だ。あれはキモい。
板部分は斜め上でアームはカエルの足のように少し関節が曲がったまま伸びている。
そしてその後ろを2号機、3号機と続いて飛び跳ねるんだ。
「あれ、変。だけど、結構遠くまで飛ぶ?」
「1飛びで5メッチは行きますよ」
「5メッチ・・・? すごいね」
5メッチとスミレに言われて、頭の中でその距離を想像してから本当に驚いている。
しかも、ピョーンピョーンって感じで移動するんじゃなくってさ。片足ずつピョーンピョーンと交互に飛んで行くから意外と早く前に進んでいく。
「目的地まで一気に移動させます」
スミレが淡々と経過報告をしてくれるけど、俺たちはただ驚いたままスクリーンを見ていたのだった。
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