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21.

 1000以上の単位は0が多くて数えるのが大変なので『万』にしました。統一していなくてすみません。

 昨日よりは早い時間に村に戻ってきた俺は、その足でギルドに向かう。

 中に入ると少し早かったせいか、昨日よりは人が多い。

 俺は依頼ボードに行って常時依頼のイズナの紙を手に取るとカウンターの方を振り返った。

 見るとケィリーンさんの前には1人しか並んでいなかったので、俺はラッキーと思いながらその列に並んだ。

 「おかえりなさい、コータさん」

 「ただいま戻りました。イズナの常時依頼、お願いします」

 「はい、かしこまりました」

 俺はポーチから皮の袋を取り出して、その中身をカウンター並べた。

 今日は昨日より頑張って100本採ってきた。

 このイズナの依頼は1束5本だったから、端数が出ないようにスミレに数えてもらいながら採取したから間違いないだろう。

 「・・・はい、確かに100本ありました。それでは1束50ドランが20束という事で1000ドランとなります」

 なるほど、このくらいあれば宿に泊まって食事をしても半分くらいは貯金できそうだな。

 でもなぁ、俺はスミレが手伝ってくれたから100本も集められたけど、じゃなかったらこの半分も無理な気がするんだよな。

 他のハンターたちってすごいなぁ、と変な感心をしていると、大銀貨1枚を手にして戻ってきたケィリーンさんがすっと顔を寄せてきた。

 「こちらが報酬となります。それで、ですね。昨日の事なんですが」

 「ああ、うん。ちゃんと考えましたよ」

 「それでは奥へ行きましょう」

 俺の返事で売る気になったと思ったのか、ケィリーンさんは俺の気が変わると困る、と言わんばかりにすぐに俺を奥の部屋へと案内する。

 そんな彼女の勢いに俺は苦笑いを浮かべながら、おとなしく彼女の後をついていった。

 昨日と同じ部屋に案内されて、俺が座るのを確認してからケィリーンさんは部屋を出て行った。

 きっとお茶を用意しているんだろうな。

 キョロキョロと部屋を見回したが、テーブルに椅子が4つあるだけの他には何もない簡素な部屋だ。

 「お待たせしました」

 そして待つ事3分くらいで帰ってきたケィリーンさんは、俺が思った通りお茶の乗ったお盆を手にしている。

 「それでは早速でありますが、お返事をお聞きしたいんですが?」

 「はい。昨日いろいろと考えたんですが、1つ条件をつけて売らせてもらおうと思います」

 「条件、ですか? あの、それってお金ですか? それでしたらあれ以上は、その・・」

 俺の条件という言葉を聞いて、ケィリーンさんは金額をあげたいと言い出すと思ったようだ。

 「いえいえ、お金はあれで十分です。そうじゃなくて、あれらの絵を売る事に問題はありませんが、手元からなくなる事が淋しいので、それぞれの絵の複製を作ってもらいたいんです」

 「複製、ですか?」

 「はい、やはりおじいやおばあが描いたものですから、二度と見られなくなるのは悲しいです」

 「ああ、なるほど。そうですね。コータさんの祖父母が描かれたものであれば思い出もありますからね」

 「はい、ですので、オリジナルを売る代わりに複製をいただけたら、と思ったんです」

 というのが、俺の落としどころだった。

 ってか、全部売ったってスミレに頼めばいつだって代わりを作ってもらえるけどさ、あっさりとたくさんのプリントを手放すのは怪しいかな、って思ったのだ。

 ま、俺の考えすぎかもしれないけど、慎重すぎる事はないだろうからな。

 「・・判りました。コータさんが売られる絵1枚につき、複製を1枚つけましょう。昨日買わせていただいた絵も複製を用意します」

 「いいんですか? ありがとうございます」

 どうやら昨日の分のコピーもくれるらしい。

 「それでは見せていただけますか?」

 「あっ、はい。でもたくさんありますよ?」

 「そうですか? まぁ、それは見せていただいてから判断させていただきます。全てを買い上げる事にはならないかもしれませんが、その辺りはご了承ください」

 「判ってます」

 俺だってケィリーンさんがどんなものを欲しがってるのか知らないんだからさ、それは当然だろう。

 なのでとりあえず今日スミレが作ってくれたプリントを全部、魔法マジックポーチから引っ張り出してテーブルの上に広げた。

 とはいえテーブルは1メートルx1.5メートルくらいの大きさだから、全てが見えるように広げられるはずもなく、俺はとりあえず薬草のプリントを広げて、残りは重ねたまま端に置いておく。

 「す・・すごい数ですね」

 「うん、こういう絵を描くのは2人の趣味だったからね。特に隠居してからは、日永ひながのんびりと描いてたよ」

 という設定だ、うん。

 俺は椅子から立ち上がってプリントを手に取りながら真剣に見ているケィリーンさんを椅子に座ったまま眺めながら、俺はスミレがあと1日2日もあればレベルアップすると言っていた事を思い出す。

 「そうだ、俺、あと2−3日したらこの村を出て旅に出ようと思っています」

 「そうなんですか? もっとこの村でゆっくりしていてもいいんですよ?」

 「そうですね、ボン爺もそんな事言ってくれました。でも、俺としてはあちこちを見て回りたいって思っているので、そろそろこの村を出ようかなって」

 せっかく異世界にいるんだから、あちこちに足を伸ばしていろいろなところを見て回りたい。

 っていうかさ、本音はもっと大きな町を見てみたいだけなんだけどさ。

 都会暮らしが長かった俺には、この村はちょっと小さすぎるよ。

 「残念ですね・・・それで、どちらの方面に行かれるつもりですか?」

 「とりあえずは大都市アリアナを目指そうかな、って思っています。その道中にある村や町に立ち寄っていろいろ見ながら、って思ってるのでのんびりと行くつもりですね」

 大都市アリアナまでは3ヶ月くらいかかるらしいからなぁ。

 まぁとりあえずは歩くけど、乗合馬車に乗って移動もできるって言ってたからもっと早く着けるかもしれないんだしな。

 「それではコータさん、移動中は面倒かもしれませんが、町や村に立ち寄った時にはギルドに立ち寄っていただけますか?」

 「ギルド? 立ち寄るつもりではいますよ。依頼を受けたいですからね」

 「そうではなくて、ギルドに立ち寄る時にギルドの預かり金を確認してください、という事です。いつからコータさんの絵の複製料が入るようになるか判りませんが、そのお金はギルドの預かり金という事でどこのギルドででもおろす事はできますので」

 なんか元の世界の銀行みたいで便利だな。

 それにすっかり忘れていたが、複製コピーを1枚作る度にお金が入ってくるんだった。

 ちょっと町に立ち寄るのが楽しみになってきた。

 「判りました。町に立ち寄る時にはギルドにも寄るようにしますね」

 「はい、よろしくお願いします。それでは、これらの絵を買わせていただきたいと思います」

 「えっ、もう選んだんですか?」

 むっちゃ早いじゃん、ケィリーンさん。

 俺は立ち上がってテーブルの上を見たが、そこには何も残っていなかった。

 えっ、マジ?

 「ケィリーンさん、何もないんですけど?」

 「すべて買わせていただきます。どの絵も出来が良くて選べません。それにどの絵もこれから図鑑を作るのに大変役に立つと思いますので」

 にっこりと営業スマイルを浮かべたケィリーンさんだけど、確か40枚以上あった筈だぞ。

 そんな彼女に勧められるまま俺がまた椅子に座ると、彼女は俺の目の前の椅子に座った。

 「あの・・・お金、大丈夫ですか?」

 「もちろんです。ここはギルドですよ? 薬草採取だとあまり依頼金は高くありませんが、魔獣となるとそれだけで何十万、何百万ドランという単位のお金が動きますから」

 「は、はぁ・・・」

 「コータさんの持ち込まれた絵は全部で47枚ありましたので、470000ドラン。大金貨4枚と小金貨7枚になります」

 470000ドランという事は約470万円・・・すっげぇ。

 「えっと、ギルドにお金を預ける事ってできるんでしたっけ?」

 「はい、大丈夫ですよ」

 「じゃあ、70000ドランだけもらえますか? 残りは預けておきたいです」

 怖くてそんな大金、持ち歩けないよ。

 ボン爺に大金を持ち歩くなって言われたしさ。俺には魔法マジックポーチがあるからそこに入れておけば出し入れするところを見られない限り安心だけど、それでも大金貨は持ち歩く勇気はない。

 「あっ、そうだ。俺、ここを出る前に移動の乗り物に使えるような動物を買いたいって思うんですけど、どんな動物がいいか相談に乗ってもらえませんか?」

 「馬ですか?」

 「あ〜、馬でもいいんですけど、俺、乗れないんですよ。なので初心者の俺でも乗れて扱いも簡単な動物がいないかな、って」

 歩きでもいいか、と思っていたんだが、さすがに1週間以上の徒歩での移動は辛い。

 ここに来た時みたいに朝出て夕方着くっていうんだったら別に気にならないけど、スミレの話だと最低でも1週間は移動しないと町から町への移動は無理らしい。

 「そうですね・・・馬が一番手に入れやすいんですけど、乗れないとなると・・・」

 乗れない、ときっぱりケィリーンさんに言われるとぐさっと胸に刺さるが事実だから仕方ない。

 「誰にでも乗れて扱いが簡単と言うと、ヒッポリアという動物ですね」

 「ヒッポリア?」

 聞いた事ないんだけど?

 「ちょっと待ってくださいね」

 ケィリーンさんは俺に断って部屋を出て行く。どうやら図鑑か何かを持ってきてくれるみたいだ。

 そんな俺の予想は当たっていたようで、ケィリーンさんは戻ってきた時腕に分厚い図鑑を抱えていた。

 彼女は先ほどまで座っていた俺の目の前の席に着くと、早速ページを捲り始める。

 「こちらがヒッポリアですね」

 図鑑を俺の目の前に寄越したケィリーンさんは、そこに描かれている動物の絵の1つを指差した。

 それはなんと例えればいいのだろうか。

 いうならば馬とカバの合いの子?

 胴体だけを見れば馬なんだけど、カバの顔を長くしたような頭部とカバのように馬の半分ほどの長さの短くてぶっとい足をした動物がそこに描かれている。

 なかなかインパクトのある動物だな、うん。 

 「ヒッポリアの性格は温厚ですので扱いは簡単です。餌は馬と同じようにその辺に生えている草を食べますから旅のためにわざわざ餌を用意する必要はありません。そして足には馬のような蹄もありませんから、蹄鉄が壊れるなどという心配もありません。ただ難点と言えば足が遅い事でしょう。それでも歩いて移動する事を思えば移動時間は短縮できると思いますよ」

 「はぁ・・・」

 「それに小さな荷車であれば繋いでも、ヒッポリアの足が遅くなるという事もありません。ですので、小さな規模の行商人などがよく利用しているタイプの動物ですね」

 「荷車って、馬車みたいなものですか?」

 「それよりは小さなものですね。このテーブルの2倍ほどの大きさの荷車に幌をつけたものでしたら問題ないと思いますよ」

 目の前のテーブルの2倍と言う事は2メートルx3メートルくらいか。

 俺1人の移動なら十分すぎるな。ってか、それより一回りほど小さく1.5x2.5メートルにしても十分だよな。あんまり大きすぎても小回りが効かなさそうだし、どうせ物はたくさんないんだから十分中で寝る事もできそうだしな。

 うん、馬車か。考えてなかったけど、なかなかいいアイデアな気がしてきた。

 「それって、いくらくらいしますか? っていうかここで見た事がない気がするんですけど、買えるんですか?」

 思わず身を乗り出して聞いてしまう俺に、ケィリーンさんは苦笑い(多分)を浮かべた。

 「買えますよ。だいたい1頭の値段は10万ドランから20万ドランですね。これはヒッポリアにも種類があって、長期移動に向いたものになると値段が上がります。ですが、1度の移動が1週間程度であればどれでもいいと思います」

 たっけぇなぁ。最低でも10万ドランって事は100万円以上はかかるって事か。

 でもプリントを売った俺には40万ドランの金がある。

 つまり、一番安いのでも問題はない、って事か、なるほどなるほど。

 「じゃあ、ここを出る前にヒッポリアを売っている場所を教えていただけませんか? それとさっきは40万ドランを預けてくれって言ったんですけど、とりあえず20万ドランだけを預ける事にできませんか? それで残ったらまた預けにくるって事でも大丈夫ですか?」

 「はい、大丈夫ですよ。ではお金を用意してきますね」

 もしかしたらヒッポリアを買うかもしれないからさ、資金だけは用意しておかないとな。

 俺はちょっとだけワクワクしながら、ケィリーンさんがお金を持ってきてくれるのを待つのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


Edited 11-19-2016 @ 12:58 CT

大都市アリアナまでの日数を6ヶ月から3ヶ月に訂正しました。更新する前に変更し忘れていたようで申し訳ありません。

Edited 02-21-2017 @ 21:28CT 誤字訂正しました。教えてくださった読者様、連絡ありがとうございました。

このテーブルの1倍ほどの大きさ → このテーブルの2倍ほどの大きさ

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― 新着の感想 ―
[一言] ひぽっちゃん「フォーチューンクエスト世にも幸運な冒険者たち」 うっ懐かし((笑))。 作者様は昔(古し)のアノ小説黄金時代の 角川文庫系列のライトノベルも ちゃんとお読みになられているようで…
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