218.
空洞空間に続く穴は半分以上塞がっていてけど、スミレに言われて俺がまたピックであけた。
その穴の前で、スミレがなにやら怪しげなものを次から次へとストレージから取り出してくる。
「スミレ?」
「少しお待ちくださいね。まずは下ごしらえ、というかアームを入れる前の準備をしてしまいますから」
スミレが取り出したのは、濁った紫色というかドロドロした紫色と言った感じの液体が入ったボトルがたくさん。
え〜っと・・・20本以上はありそうだな。
「すみませんけど、この瓶にこれをつけてくれますか?」
「ん? これ?」
「はい、蓋の部分に嵌めるだけでいいです」
ゴムっぽいもので作ったそれは、蓋のところに嵌めると上の部分に丸い輪っかができる。
なんだこりゃ?
頭を捻っている俺の横で、今度はこれまたたくさんのサーチング・スフィアを取り出した。
「一体いつの間にこんなに作ったんだよ」
「これは簡易版ですからカメラは付いていないんですよ。カメラとその機能をつけようと思ったんですけど、ちょっと時間と材料が足りませんでした」
うん、それはそうだろう。
闇纏苔を採取した鉱山でまとめて採取して以降、移動の途中で拾ったくらいでそれ以外ではまともに鉱物を採取してないもんな。
「でも材料が足りない時は俺の魔力使ってただろ? 今回も使えばよかったのに」
「少しだけ使わせてもらいましたよ? ですが、本番で不足すると困るのでセーブしておきました」
「・・・本番?」
なんか不穏な言葉が聞こえてきたような気がして聞き直したけど、スミレはそれには答える事なく話し続ける。
「この天然通路にも少しだけあったのでそれを採取して作ったんですけど、やっぱり時間と材料が足りませんでしたね」
「言えば手伝ったのに」
「いえいえ、コータ様たちにはちゃんと休息を取っていただかないと駄目ですからね。特にコータ様はしっかり休まないと魔力が回復しないでしょう?」
「そうだったっけか? 魔力切れになった事ない気がするけどさ」
「そうですけど、今回は使わせてもらうつもりなので」
「・・・何に?」
俺の魔力、使う気満々じゃん、スミレ。
「もちろん、今回の空洞空間における活動のため、ですよ」
「おまえ、何企んでんだ?」
「ライクリファイド採取ですね」
「ほんっとうにそれだけか?」
「もちろんじゃないですか。ですので、昨夜みなさんが眠っている間に色々と材料集めしたんです」
スミレの言葉を素直に受け取ればいいのか、俺は今いち信用してないんだよな。
なんせ今まで色々やってくれたからなぁ。
「それでですね、そのサーチング・スフィアの下に付いているフックに輪になった部分をひっかけてくれますか?」
「これか? っと・・これでいいのか?」
「はい、それで十分ですよ」
話を変えたスミレに乗る事にして俺が簡易サーチング・スフィアにボトルを取り付けると、スミレはそれをポイポイと穴の中に放り込んでいく。
「スミレ、なんか扱いが荒いんじゃないのか?」
「えっ? いいえ、大丈夫ですよ、これくらい」
「そ、そうか」
ニッコリと笑みを浮かべるスミレにそれ以上言う言葉もなく、俺はただボトルをひっかけてはスミレに渡す。
ポイポイっと全てを投げ入れると、スミレはスクリーンを呼び出して操作し始める。
スミレが呼び出した画面はプログラムのようで、端から見ていてもさっぱり俺には判らない。
「コータ様、そちらのサーチング・スフィアにバルーンをぶら下げてくれますか?」
「バルーン?」
言われてキョロキョロと見回すと、なんか液体が入ったバルーンが6個転がっている。といってもでっかい風船サイズじゃなくて、夜店でやってる風船釣りの大きさのバルーンだ。
そしてそのそばにカメラ機能が付いたサーチング・スフィアも6個浮かんでいる。
俺がバルーンを1つずつサーチング・スフィアにぶら下げているとスミレが飛んできて、またそれらのサーチング・スフィアを1か所にまとめていく。
「コータ様、魔力をください」
「へっ? いいけど?」
「では、遠慮なくいただきますね」
スミレが手をあげると、サーチング・スフィアにぶら下げたバルーンが淡い光を放ちだした。
そして同時に感じる脱力感。
う〜む、これって俺の魔力をバルーンに詰めている、って事か?
膝立ちだった体勢から俺は地面に直接あぐらをかいて座り込む。
「大丈夫ですか?」
「うん? 多分ね。なんか力が抜けて行く気がする」
「魔力をいただいてますからね」
ああ、うん、知ってる。
「もう少しで終わります」
「俺の魔力を入れてんのか?」
「はい、使わせていただいています」
シレッと一言で片付けられたけど、まぁ使うって言われたしな、しゃあない。
でもスミレが魔力を俺から抜いていたのはほんの30秒ほどで、サーチング・スフィアにぶら下がっているバルーンはそのうち光を放たなくなった。
「はい、じゃあ、下準備ができたので開始します」
「お、おう」
俺は顔をあげたもののやっぱり脱力感があって動こうって気になれない。
そんな俺を苦笑いで見たスミレが通路の奥に手を伸ばすとそこに大きなスクリーンが現れると、昨日と同じようにいくつものセクションに分かれた。
それを確認してから、スミレはバルーンをつけたサーチング・スフィアをポイポイっと穴に投げ入れる。
「それでは、第一段階、ボトル投下」
画面は相変わらず真っ暗で何にも見えない。
バルーン付きのサーチング・スフィアはカメラ機能付きだから何か見えてもおかしくないんだけどな。
「第二段階、バルーン破裂」
どうやらバルーンはそのまま投下するんじゃなくて、空中に浮いた状態で破裂させたようだな。
「画面見ててくださいよ」
「ちゃんと見てるって」
でもどうせ真っ暗なんだろ?
それとも壁沿いにサーチング・スフィアを飛ばしてるのかもしれないな。
「あっ」
ミリーの小さな声が聞こえた。
それと同時にスクリーンに広い空間が映った。
「あっ、あれ、空洞空間か?」
「そうです。これで視界は良好ですね〜」
どこかのほほんとした口調で答えるスミレ。
いや、でも、ちょっと待て。
「なんで見えるんだ?」
「サーチング・スフィアのカメラ映像ですよ」
「そりゃ判ってるって。そうじゃなくってさ、昨日まで何にも見えなかったじゃん」
「見えるようにしましたから」
「どうやって?」
スミレ、おまえわざと答えをボカしてるのかよ。
「先ほどのボトルに入っていた液体と空中で分布させたバルーンの中の液体が空洞空間内を中和させました」
「中和、って?」
「コータ様が闇纏苔の事を言ってくださって、本当に助かりました。おかげであの状態をどうすればいいのか判りましたから」
うん、スミレは判ったようだけど、だ。俺にはさっぱりなんだ。
「あそこはクリカラマイマイの魔力、特にアキシアライトとライクリファイドを使って更に強化された魔力によって、あの状態が保たれていたんです。ですので、その状態を先ほどの液体を使って中和させる事で、あの空間内を埋め尽くしていたクリカラマイマイの魔力を消滅させました」
「そんな事、できるのか?」
「できたから今こうやってみる事ができるんですよね」
あ〜、うん、その通りだな。
でも、そんなに簡単にできる事なのか?
「もちろん、私も頑張ったんですよ。ただの中和剤だとあれだけの強力な魔力を消滅させる事なんてできませんからね。ですので、依頼で集めていたアキシアライトを使わせていただきました。その上でコータ様の魔力をたっぷりと使って、こちらの中和剤の魔力の威力を上げる事で相殺というか、消滅させる事ができたという事ですね」
「じゃあ、もしかしてクリカラマイマイは魔力切れを起こしてる?」
「いいえ、魔力を使えないだけで、今も元気いっぱいですね。ただ、天井から滑降する事はできても滑空はできませんから、今は壁にへばりついてサーチング・スフィアを睨みつけてます」
「えっ?」
思わずスミレを振り返って話をしていた俺は、慌ててスクリーンの方に向き直る。
すると、画像の1つに変な生き物が映っているのが見えた。
なんて言うか、薄茶色に黒の線が縦に入った巨大カタツムリが映っている。しかもその背中に背負っているのは表面がサザエみたいにでこぼこしていて、おまけにツノみたいなのが四方に伸びている貝殻だ。
「グロいなぁ」
「そうですね。しかも大きいですからねぇ」
「そういや10メートルくらいあるんだったっけ?」
「軟体の方はですね。背負っている貝殻の方は直径約2メートルといったところでしょう」
「あれ、どうするんだ?」
「ほっとこうと思ってます」
あれ? スミレにしてはすごく穏便な意見なんだけど?
「あそこに張り付いているのであれば、生かしておいても構わないでしょう」
「えっ・・・?」
「けれど、私たちの邪魔をするのであれば、その限りではありませんけどね」
フッと口元に笑みを浮かべ、でも目は笑ってないスミレ。
あ・・・やっぱりスミレはスミレだったよ。
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