216.
ゲシ、と蹴られて目が覚めた。
寝袋もどきから顔を出して周囲を見回すと、ジャックが寝袋の横に立っている。
って事はこいつだな、俺を蹴ったのは。
「コータ、いい加減に起きろよ」
「今何時だ?」
「もう9時過ぎてる。俺、腹が減ったよ」
9時すぎって事は・・・11時くらいか?
だったら4時間くらいは寝た事になるな。
「おまえ、腹減ったって・・・自分でなんか作れよ」
サンドイッチくらいなら自分で作れるんじゃん。
俺はまだ眠たいんだよ、と寝袋に頭を引っ込めようとしたら、ジャックの情けない声が聞こえてきた。
「サンドイッチなら作れるけど、材料がなんにもないんだよ」
「スミレがなんか持ってるだろ?」
「スミレがもってるのは携帯食料だけだよ。あれ、マズいじゃねえかよ」
そういやいつも俺のポーチから食材を出してたんだったっけか。
しゃあない、とばかりに俺は寝袋から上半身だけ出して起き上がると、腰につけたままのポーチからパン、ハム、チーズ、それにマヨネーズを出してやる。
大慌てで俺からそれらの食材を受け取ったジャックは、その場に立ったまま俺を見下ろしている。
「それだけあればいいだろ?」
「どこで作るんだよ」
「はっ?」
「テーブルも出してくれよ。大事なご飯を地面に置きたくないだろ」
「あ〜・・・はいはい」
どうやらこいつは俺を寝させるつもりは全く無いようだ。
俺はわざとでかい溜め息を吐いてから寝袋から這い出した。
それからアラネアのすぐ後ろの辺りにテーブルを出してやる。
もちろん椅子だって出したぞ。出さなかったら、次に出せって言われるのは判りきってるもんな。
「ミリーは?」
「あっちでスミレと何かやってる」
「スミレと?」
「うん、こっちは忙しいからあっち行ってろ、って言われた」
しょぼんと尻尾と耳を垂れさせて、それでもテーブルの上に両手に抱えた食材を並べるジャック。
ジャックが視線を向けている方角に顔を向けると、確かにスミレとミリーが一緒に何かをしているのが見える。
「ミリーも朝飯食ってないのか?」
「スミレから携帯食を貰って食ってた。俺ももらったけど、あれマズいし腹に溜まんねえよ」
「なんだよ、おまえ、文句言いながらも食ってんじゃん」
「そりゃそうだけどさ、もっとちゃんとしたもんが食いたいんだよ」
「はいはい。んじゃ、ついでにスープでも作るか?」
「うん」
スープと聞いて嬉しそうに耳がピクピクと動き、尻尾も持ち上がったかと思うとそのまま左右に揺れる。
あまりにも現金なジャックに思わず笑ってしまう。
「なんだよ」
「い〜や、腹が減ってんだな、って思ってさ」
「そりゃそうだよ。昨日の夜からなんにも食ってないんだぞ」
「携帯食は食っただろ?」
「あれは食ったうちにはいんねえよ」
どうやら本当に嫌なんだろう、口を尖らして文句を言っている。
俺はテーブルの上にアリアナで買った肉を取り出した。
これ、なんの肉か忘れたけど、店のおっちゃんが美味しいって勧めるから2キロほどの塊を買ったんだ。
味はさっぱりした豚肉っぽい感じだから、串焼きに丁度いい。
「ほら、これも切ってやるから焼いてみるか?」
「おうっ」
肉の塊を見たジャックの尻尾は更に激しく左右に揺れる。
なんかこいつを見ているとペットの犬って感じがするけど、きっと本人に言ったら怒るんだろうな。
俺は一口大に切ってやると、串と一緒にまな板ごとジャックの前に押し出してやる。
「あとはおまえがしろよ? 俺はスープを作るんだからな」
「おうっ、まかせとけっっ! ってんだ」
串焼きを作る気満々のジャックの横で、俺はポーチから魔石コンロを取り出した。
それからその上に水を入れた鍋をかけてから、野菜を切っていく。串焼きがあるから、スープは野菜だけでいいだろう。
俺は適当に野菜を取り出すとナイフで刻んでから、次々と鍋に入れていく。
ジャックは、と見るとまだ肉を串に刺しているところだった。
これじゃあとてもじゃないけど、サンドイッチを作るまでに時間がかかりすぎるな。
仕方ない。
「ジャック、そっちを任せるから、俺はサンドイッチを作るぞ」
「お、おう。頼んだ」
自分でも時間がかかっていると思ったんだろう、素直に仕事を任せてくれる。
いつもこのくらい素直だったら楽なんだけどな、なんて思いもしたけど、そうだったらからかって遊べなくなるからやっぱりこいつはこれでいい気がする。
サンドイッチは多めに作っておいて、ポーチに仕舞っておいてもいいだろう。
どうせポーチの中にいれておけば、悪くならないんだからさ。
テーブルを囲んでみんなでランチを食べる。
もちろん、ミリーとジャックが最初に手を伸ばしたのは串焼きだ。
さすが肉食。
そして俺はスープを一口飲む。
塩と胡椒しか使ってないけど、まあまあだな、うん。
「コータ、疲れた?」
「ん? なんでだ?」
サンドイッチに手を伸ばして掴んだところで、ミリーが話しかけてきた。
「だって、寝てた。いつもなら起きてるよね?」
「あ〜、そうだな。昨夜は忙しかったからさ、ちょっと寝るのが遅くなったんだ」
「あれから、ずっと起きてたの?」
「うん、まあな」
「あれからって?」
ミリーは俺が起きてスミレとゴソゴソやってたのを知っているけど、その間ず〜っと寝ていたジャックはそんなこと知らないから疑問に思ったようだ。
「コータ、スミレと向こうを調べてた」
「そうなのか? なんで起こしてくれなかったんだよ?」
「いや、なんでって、おまえ、ぐっすり寝てたじゃん」
「当たり前だろ、夜は寝るもんだ。でもおまえは起きてたんだろ?」
「ちょっとする事があったんだよ。だから寝たのは朝になってからだよ」
だから寝てたんだ、と言外に起こしやがって、と言う気持ちを込めてみたけど、ジャックには通じなかったようだ。
「んで、どうすんだ、まだ進むのか?」
「そうだな・・どうする、スミレ?」
俺は隣に座っているスミレに聞いてみる。
「少しだけ先に進みましょうか。アラネアはここに置いて行きましょう。夕方ここに戻ってきたら、もう一晩ここで野営をしてから外に出ましょう」
「えっ、でもね、スミレ、パンジーは?」
「パンジーちゃんは大丈夫ですよ。ちゃんと3日分のご飯とお水をあげてますからね」
今日もう一晩ここに泊まる、と聞いたミリーが慌ててパンジーの事を聞いている。
うん、俺も昨夜、聞いたんだよな。んで、同じような答えをもらったよ。
「今日はこの周辺でアキシアライトを探しましょうね。それから夕飯を食べてから、さっき手伝ってくれたあれらを使いましょうね」
「スミレ、あれら、ってなんだよ?」
なんか今、不安を煽るような言葉を言わなかったか?
「あれら、は、あれら、ですよ」
「やっぱりやるのかよ」
「当たり前です。ここで引き下がったらサポートシステムの名が廃ります」
「いや、大丈夫だぞ? そんな事で廃る訳ないと思うぞ?」
やっぱりか。
やる気満々のスミレには悪いけど、今からでも考え直してくれないかなぁ。
「コータ」
「なんだ、ジャック」
「スミレ、何言ってるんだ?」
スミレの意味深な言葉に斜め前に座っているジャックが頭にハテナマークをつけて聞いてくるけど、俺は頭を左右に振ってみせた。
「おまえは知らなくていいんだよ」
「なんだよ、それ」
「夜になったら判る、それで十分だ」
うん、それまでは現実逃避をさせてもらおう。
「ああ、でも、ジャックはスミレの手伝いをしてもいいぞ」
「もう準備はできたので必要ないですよ」
「ああ、そう。だってさ、ジャック」
「お、おう・・・」
キッパリと断るスミレに、ジャックは口答えをする事もなく頷いた。
「あとでコータ様の手助けは必要ですからね、それは忘れないでくださいよ」
「・・・・」
「手伝う、って言いましたよね?」
「・・・・」
手伝え、って強要したんじゃん。俺、そんな気全くなかったのにさ。
「コータ様?」
「・・・・」
「コ・ー・タ・さ・ま」
「ああっっ、もうっっ、判ったって。手伝うよっっ。それでいいんだろっっ」
「よろしくお願いします」
「・・・・・はい」
投げやりに返事を返すとスミレがありがとうございますと言って頭を下げたけど、その声はまるで威嚇するグランバザードのようで怖かった。
なんでそんなに威圧するような声が出せるんだよっっっ!
だけどそんな事スミレに言うだけの勇気もない俺は、そのままもそもそと食事を進めたのだった。
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Edited 07/02/2017 @19:18 誤字ご指摘をいただいたので訂正しました。
大慌てて俺からそれらの食材を → 大慌てで俺からそれらの食材を




