215.
説明だけで終わってしまいました・・すみません。
呆然とスミレを見る俺とは裏腹に、彼女はスクリーンを操作して画像を呼び出した。
そこに現れたのは、サザエの貝殻のようなデコボコした表面を持つ貝を背負ったナメクジ? だった。
「残念ながら写真はありませんが、クリカラマイマイを描いた絵は見つける事ができたので見てください。これがクリカラマイマイです。体長は3メートルから5メートル。背負っている貝殻の大きさは平均で直径1メートルほどですね。基本、壁に張り付いて近づいてくる獲物を捕食します」
えっ、カタツムリなのに、捕食?
いやいやいや、俺、気にするのはそこじゃないだろっっ。
自分ツッコミしてから、とりあえず深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「3メートルから5メートルって、カタツムリなのにでかすぎないか?」
「ですから、カタツムリに似た魔物ですよ。それに、あの空洞空間内にいるクリカラマイマイは、推定14メートル、殻の大きさは直径が2メートルを超えていると思います」
「余計にありえんわっっ」
思わず突っ込んでしまったけど、スミレは真面目な顔のまま俺のツッコミをスルー。
「ですので60パーセントの確率で、クリカラマイマイなのではないか、と言ったんです。私のデータの中には過去最大級のクリカラマイマイは10メッチを少し切ったくらいの大きさでした。ですので、大きさだけを言えば、あれはクリカラマイマイではありません」
「だったらさ・・・」
「ですが大きさ以外の特徴、習性などを鑑みると、クリカラマイマイである確率が一番高かったんです」
スクリーンに映っているカタツムリは、俺にはどうしたってただのカタツムリにしか見えない訳で。
「なあ、クリカラマイマイの習性を教えてくれないか?」
「はい、クリカラマイマイの大きさは先ほど言いましたが、3メートルから5メートル。殻の大きさは直径が1メートル前後あります。コータ様の知っているカタツムリと違い、クリカラマイマイは肉食です。捕食対象を見つけると、それが近づいてくるまでじっと岩に擬態して待ちます。そして十分近づいたところで体の1部を槍の形に変化させ、それで突いいてから獲物を体の下に取り込んで窒息、圧死させます」
なんか槍を持つ貝っていうのがいたような気がするな。もしかしてそれの進化系って事か?
「体液は弱酸性をしており、攻撃を仕掛けてくる相手には酸を飛ばす事もあるそうです。そして高度から地面に移動する時は体を思い切り薄く伸ばして硬化させ、空中を滑空するようにして降りる事ができます」
おいおい、なんか俺の知ってるカタツムリとは全く違うぞ。
スミレの説明はツッコミどころ満載すぎて、どこを突っ込めばいいのかタイミングがさっぱり掴めないまま説明が終わってしまった。
「以上が類似点ですね。そしてここからが相違点です。まず、クリカラマイマイであれば、あの大きさまで成長しません。そして酸を使いますが、それはあくまでも威嚇行為のためであり、捕食した獲物を食べるためで、サーチング・スフィアのような金属を簡単に溶かせるほどの威力はないんです。しかしあれの持つ酸はとても強力です。これも推測でしかありませんが、空洞空間内の壁が滑らかなのはおそらくあれが酸を常に身にまとっているからだと思います」
「つまり、酸で溶かされて表面が滑らかになった、って事か? ついでにあれの酸性の体液のおかげで表面がピカピカに光っている、と」
「そうです。現に岩の表面からも酸がある事を確認しましたから」
「岩を溶かす酸かよ」
強力な酸を持っているのであれば、確かにあの滑らかな岩肌は納得できるかもしれない。
「他には?」
「そして最後に、クリカラマイマイは滑降はできますが空を飛ぶ事はできません」
「ああ、そういや体を広げてムササビみたいに滑降するって言ったな。でも、サーチング・スフィアを狙ってきた時って、滑降してた訳じゃないよな?」
だって下から現れたんだぞ?
滑降していたら下から現れるなんてできない筈だ。
「それともあれは真下に滑降してから攻撃したって事か?」
「いいえ、攻撃はサーチング・スフィアの上部からされたと思われます。ですから、そういった相違点を考えると、あれがクリカラマイマイである確率は60パーセント程度しかないんです」
「いやいや、確率だけでいえば50パーセントもないんじゃないのか?」
「今あげた点だけでいえばそうかもしれません。ですが、コータ様。私があそこで何を見つけたか、忘れましたか?」
「えっ? あ〜・・なんだったっけ?」
「ライクリファイドですよ」
「ああ、そう、それ」
ライクリファイドが地面に少しだけど溜まってるって言ってたっけ。
「ここからは仮定ですよ。それを念頭に置いて話を聞いてください」
「うん、判った」
「おそらく、ですが、あのクリカラマイマイが地表を移動している時に、なんらかの形でライクリファイドを摂取したのではないか、と考えているんです」
ライクリファイドが溜まった場所を通った、とかって事だろう。
「いや、でもあれって、液体金属だよな? 自己修復機能を持つ、金属なんだろ? そんなものが影響するなんて事ないんじゃないのか?」
「私もそう思ったんですが、ここに1つ仮説を立ててみたんです」
「仮説?」
「はい、コータ様の言葉がキッカケだったんですけどね」
俺? なんか言ったっけ?
「あの空洞空間の中でなぜ光が届かないのか、という話をしていた時にもしかしたら闇纏苔のような性質を持つものがいるのではないか、と言われたのを覚えてますか?」
「え〜・・うん、空洞空間は広いけど光が届かないほどじゃないって話だったよな?」
「そうです。それで考えてみたんです。確かにあそこは広いです。ですがコータ様の言うように、光が届かないほどの広さなのだろうか、と。ろうそくやランタン程度の明かりなら届かないかもしれません。ですがコータ様の照明弾の明かりすら届かないのはおかしいですよね」
「うん。それはおかしいって思う」
自慢じゃないけど、俺が作った照明弾、というかスミレが設計した照明弾はかなり強力なものなんだ。
それなのに殆ど明かりとしての役目を果たせなかった、っていうのはやっぱり何かがおかしい気がする。
「ですので、壁のサンプルをとりました」
「いつの間に?」
「壁沿いに調査をしている時に、ですよ」
「でも、移動していただろ?」
「全てを同時に移動させていた訳じゃないですよ。他のサーチング・スフィアに警戒をさせながら、ところどころでサンプルを回収させ、それをそのまま解析していました」
「そんな事言ってなかったじゃん」
「解析に忙しかったものですから」
シレッと返すスミレに恨めしそうな視線を向けるけど、肝心のスミレがこっちを見ないから伝わらないぞ。
「そのおかげで酸の事も解析できたんですよ。ただ表面を見ているだけでは酸があるかどうかまで判りませんからね」
「はいはい、言い訳はいいから。そういやさっきそんな事も言ってたもんな。それより続けてくれよ」
「それでですね、ようやくその解析も終わったところで、あの壁自体が光を吸収する性質を持っている事も判りました」
「えっ、そうなんだ?」
「はい、それもあのクリカラマイマイの体液が変化したものだと考えています。おまけに自己修復をするようですね」
「マジっっ?」
「はい、先ほどからあの穴が少しずつ小さくなっていっている事に気づいていませんか?」
えっ?
慌てて振り返って俺が一生懸命ピックで開けた穴を見る。
でも見たってよく判らないから、立ち上がって近くまで行ってじっくりと見てみる。
確かにスミレが言うように穴が小さくなっている気がするぞ。
「自己修復のスピードは遅いですから、おそらく明日の夜くらいになってやっと穴が閉じるのでは、と思います。ですが、あくまでも推測ですが、それもライクリファイドに接触した事が原因ではないか、と思います。ライクリファイドを表面に纏ったクリカラマイマイが這い回る事で、空洞空間の表面にライクリファイドが付着してその性質が現れたのでしょう」
「じゃあ、あれ、もしかして体内にもライクリファイドを持っているって事か?」
自己修復する魔物なんて、無敵じゃんっ!
俺たちになんとかできる訳ないぞっっ!
俺は内心あわあわしながらも、スミレの返事を待つ。
「そうかもしれませんが、ライクリファイドは体内に取り込む事はできない筈なんです。あくまでも表面にしか使えない液体金属ですから」
「じゃあ、あれと融合していないって事だよな?」
「はい、ですがそれも100パーセントとは言い切れません。今あれがあそこまで大きくなったのはライクリファイドのせいかもしれませんからね。もしそうであれば肉体的にもなんらかの効果を与える事ができるという事になりますから」
マジかよ。
「けれど、私はその可能性は低いと思っています」
「なんで?」
スミレが言い切れる理由はなんだ?
「私の推測ですが、クリカラマイマイにあれだけの影響を与えたのはアキシアライトだと思います」
「えっ・・・?」
「アキシアライトの効果は覚えていますか?」
「えっと・・確か魔力が通じやすい? 魔力が使いやすい? なんかそんなのだったよな?」
「はい、魔力を合わせやすくする鉱物ですね。つまり、あれが持っている魔力と相性が抜群にいい、という事です」
相性が良いのは判ったけど、それがどうした?
「つまりですね。相性が良い、という事は、それだけクリカラマイマイの持つ魔力を最大限に使う事ができるという事です。そして魔物本来の魔力を普段以上に使いこなせるようになれば、それだけ魔力量を増やす事にも貢献するし、魔力の扱い方にも長けるようになるという事ですよ。あのクリカラマイマイがあそこまで大きくなったのは、アキシアライトによる魔力増大が大きく関わっていると思います。あれは吸収できますからね。そして、それを十二分に利用してあれだけの空洞空間を作り上げたんでしょう」
「おまけにあそこにはライクリファイドまである。だからたとえ硬化できるっていう性質をもっているとしても、普通ならできないほどの硬化、金属に準ずる硬さにできる、って事かよ」
「そうですね」
「ついでにいうなら、アキシアライトを吸収して魔力増大できてるから、その魔力を使って滑降じゃなく滑空できるって訳だな」
「そういう事です」
なんだよ、それ、絶対に勝てる訳ないじゃん。
ってか、そんなやばい魔物、放置できないのか?
「アキシアライトとライクリファイドの効果で生まれたクリカラマイマイ、って事か」
「そうなります。ですが、その辺りの事が判れば、対処は簡単になりますよ」
「へっ・・・?」
「あのクリカラマイマイが強くなった理由が判ればなんとでもなります。さすがに今夜は無理ですけど、明日の夜にはその準備はできます」
「いやいやいやいや、それはないだろ? パンジーが待ってるんだよ? アキシアライトだって十分集めたじゃん。もうここには用はないよな?
ちょっと待て、スミレ。
俺はあんなのと対峙する気はこれっぽっちもないぞ。
「アキシアライトはもう少し集めたいですよね。今日集めた分は依頼分だけですから。それに、できればライクリファイドを持って帰りたいですね。これ、コータ様にはとても役にたつと思いますよ?」
「そんな甘い言葉に騙されないからなっ! アキシアライトは帰り道に見落としがあればそれを拾えばいいじゃん。それに、だ。今までだってライクリファイド無しでやってこれたんだ。って事はこれからだって大丈夫、って事だろ」
「せっかくレベルがマックスになったんですよ? コータ様のスキルを100パーセント、いいえ、200パーセント使いこなしたいと思いませんか?」
「うっ・・・」
そりゃさ、俺だってせっかくのスキルを使いこなせるようになりたいって思ってるよ。
作るんだったら最高のもの、って思ってる。
でも、だ。命をかけるほどの価値があるのか?
スミレにはあるみたいだけど、俺にはないぞ。
のんびり暮らしたいだけなんだよ、俺は。
俺はじーっとこちらを見つめるスミレと目を合わせて、絶対に負けない! と心に誓うのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 07/02/2017 @19:15CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。
過去最大級のクリカラマイマイ10メッチを → 過去最大級のクリカラマイマイは10メッチを
金属を簡単に解かせるほど → 金属を簡単に溶かせるほど




