213.
チーム名を、って言われたので、前からA、B、Cと名付けた。
別に第1、2、3のままでもよかったのに、なぜかスミレが付けろって言うんだよ。
正直に言って、自分に命名センスがないって事は判ってる。
だから一番手っ取り早いアルファベットにしたんだけど、よく考えたらこの世界にはアルファベットなんてものはないんだよな。
それでもスミレは満足したようで、先頭から順にA、B、Cと呼んでいる。
俺はいつの間にかスクリーンの右上につけられたアルファベットを見つけた。きっとあれがそれぞれのチームが送ってきた映像って事なんだろう。
そんなところにミリーが恐る恐る近づいてきた。
「どうした、ミリー?」
「コータ、寝てないから、どうしたのかな、って」
「ああ、ちょっといろいろあってさ。あ、ここは安全だぞ? 向こうでちょっと、な」
心配そうなミリーの頭をぽんぽんと叩いてから、隣に座るか、と聞いてやる。
「眠たかったら、寝てもいいよ」
「ううん、起きたから、だいじょぶ」
嬉しそうに俺の左隣に座ってから、少し前のめりになりながらスクリーンを見るミリー。
だからミリーに、今3つのサーチング・スフィアのチームがあって、それぞれにA、B、Cとつけたって教えてやった。
「えー・・びー・・しー・・?」
「そう。呼び名があれば俺とスミレが画像を間違えて勘違いした、なんて事はないだろうからさ」
「穴の向こうで、たんけん?」
「うん、向こうでなんかいろいろあるみたいだってスミレが言うからさ」」
棒読みの発音が可愛くて思わず笑ってしまったけど、これは仕方ないだろう。
「そうそう、今はその3つに分けてるけど、離れずに飛んでるから何かあっても対処できる、多分な」
「何かある?」
「う〜ん、それが判らないから調べてるんだ」
「うん?」
なぜ調べてるんだ? って顔で俺を見上げるミリーの頭を撫でてやる。
「別にあのままでも構わないだろうけどさ、もしこっちに危害を加えてきたりしたら困るからさ。それにスミレの話だとあそこにライクリファイドがある、っていうんだ」
「らい・・それってスミレが言ってた変な水?」
「うん、液体金属だな」
変な水、ミリーの言い方に思わず苦笑いを浮かべる俺。
俺もスミレからその話を聞いてすぐには信じられなかった。
なんでもあの空洞空間の底に僅かにだけどライクリファイドの反応があった、っていうんだもんな。
「まぁ場所が場所だから採取できるかどうかは判らない。なんせ未知の敵がいるからね」
「てき・・・悪いヤツ?」
「あ〜・・・俺たちにとってはそうだけど、向こうにしてみれば俺たちが悪いヤツかもしれないな」
「・・なんで?」
「だってさ、誰にも迷惑をかける事もなくあそこにいた訳だろ? そんなところに俺たちがいきなりやってきて、いろいろ調べているんだからさ。迷惑だから俺たちを攻撃しているとしても、それは向こうにとっては仕方ない事だと思う」
あれがなんなのかまだ判らないけど、領域侵犯しているのは俺たちだからな。
とはいえ、あれをあのままにしてミリーたちに危害を加えられたら困るから、俺たちと敵対するかどうか、それだけはちゃんと調査しておきたい。
「暗くて見えない、ね」
「うん、そうなんだよなぁ。あれから手持ちの照明弾を全部打ち込んだんだけど、それでもやっぱり暗くてなかなか調査が進まないんだ」
「そっか・・・」
ミリーはスクリーンをじっと見上げながら、俺の左腕に体を預けてくる。
「でもここにいれば大丈夫だよ。なんせここはスミレの結界の中だからね」
「うん、スミレ、すごいね」
「ホントだ」
ふふっと笑うミリーだけど、不意に体を起こして画面に顔を近づける。
「ミリー?」
「なにか、いたよ?」
「えっ? 何かっ--うぉおっ」
ミリーが見つけたものがなんなのか見ようとして同じように画面に顔を近づけた俺の眼の前で、映像を送っていたカメラが壊されたのか不意に画面が真っ黒になる。
「スミレッッ」
「攻撃を受けました」
「それは見たから判ってる。映像は?」
「お待ち下さい」
スミレはスクリーン操作に余念なく、すぐに真っ黒になった画面に映像が映し出された。
「ナイト・ビジョンですが、それでもかなり暗いのは諦めてください」
「うん、それは判ってるって」
「少しだけ光度をあげましたが、画面はぼやけているので判りにくいかもしれませんが、おそらくミリーちゃんが見たのはこれだと思います」
そう言いながら、スミレは画面を操作してスローモーションで映像を送る。
俺には薄暗いとしか見えなかった画面は、薄墨色の視界の悪いものになっているが、それでも右端から何かが伸びてきてサーチング・スフィアに当たる瞬間を見て取る事ができた。
「あれはおそらく他のサーチング・スフィアを攻撃したものと同じものだと思います」
「ああ、そうだな。細長いのが映ってるもんな」
細長い鞭のようなものが右手から真っ直ぐサーチング・スフィアに伸びてくるのが見える。
「そしてこちらの映像もご覧ください」
スミレが隣のスクリーンの画面を切り替えると、そこにはサーチング・スフィアらしいものが左端に映っている映像が映し出される。
「丁度いいアングルでしたね。こちらにはサーチング・スフィアを攻撃したあれがかなりはっきりと映っています」
画面はさっき見たのと同様に光度をあげているのか薄墨色のぼやけたものだけど、それでも何かが右手から覆いかぶさるようにサーチング・スフィアに近づいて、そのまま長い鞭のようなもので叩き落すところが映っている。
薄く平べったい何か、それから伸びる鞭のようなもの。
「あれ、なんだ?」
「判りません。今データバンクを確認していますが、該当するようなものはまだ見つかっていません」
スミレが画像をスローモーションで巻き戻す。
叩き落とされたサーチング・スフィアが上がってきて、伸びきっていた鞭が縮まっていき、平べったい何かの中に戻る。そして平べったい何かは右端に引っ込んでいく。
「スローモーションを更にコマ送りにします」
「スミレ、その前に他のサーチング・スフィアを退避させろ」
「判りました。そうですね、その方がいいかもしれません」
スミレは視線を天然通路に開けた穴に向けると右手を軽く左右に振る。
「すぐに戻ってきます」
「ライトは消しとけよ?」
「もちろんです」
ライトって言ってもちっちゃなものだから明かりの補助にもなってないようなものだけど、それでもサーチング・スフィアを攻撃してきた何かがそれを見て穴にやってこないとは言い切れないからな。
画面も気になるが、サーチング・スフィアも気になる。
って事で、とりあえずサーチング・スフィアが戻ってくるのを待っていると、ほんの1分ほどで丸い球体が穴からぽこぽこといった音が聞こえるように天然通路に転がり出てきた。
なんで飛ばないで、こいつら地面に転がるんだ?
ちらっと目だけでスミレを見るけど、彼女は特にそれを気にしているようには見えない。
まぁいいんだけどさ。
サーチング・スフィアはそのままコロコロと転がりながらスミレの結界の中に戻ってくる。
1、2、3と数えるけど、やっぱり数が減ってるな。最初12個あったのに、今じゃあ9個しかない。
「あれ? なんで9個なんだ? 10個残ってないとおかしいだろ?」
「・・・そうですねぇ。3個チームが4つで12個、そのうち2個が攻撃されて墜落しましたから、残りは10個ですよね?」
俺は天然通路に開いた穴に目を向けるけど、それ以上のサーチング・スフィアが戻ってくる様子はない。
「今サーチング・スフィアを確認していますが、確かに1つは中に残っているようです。けれど、こちらの帰還要請に応えません」
「動けなくなってる、って事か?」
「そのようです。けれど、特に異常個所は見当たらないので、動けなくなっているというのはおかしいんですよねぇ」
スミレは頭を傾げながらも、スクリーンで何かを操作している。
「コータ?」
「ん?」
「あれ」
ミリーが指差す方向にはスクリーンが並んでいて、そのうちの1つだけがなぜか茶色い。
「スミレ、あの茶色の画面がそうじゃないのか?」
「えっ? 確かに茶色いですね」
スミレは茶色い画面を一瞥してから、更に何か操作している。
俺とミリーは茶色い画面を見ているけど、茶色い、としか判らない。
「あっ」
「うわっ」
不意に画面が歪んだかと思ったら、そのままへしゃげてしまった。
うん、ありえない言い方だと思うけど、画面がへしゃげたみたいだったんだ。
そしてそのまま茶色い画面は真っ暗になる。
「潰されましたね」
「ああ、そんな感じだったな」
そっか、へしゃげたのは潰されたから、か。
「とりあえず、戻ってきたサーチング・スフィアは9個という事ですね 」
どこか冷静なスミレの声。だけど、その声がいつになく感情を乗せていない事に気づいた。
きっとスミレは怒ってる。
どうしようもない事だけど、それが彼女を怒らせているんだろう。
「私はこれから現段階までに収集したデータを解析します」
「判った。じゃあ、俺はサーチング・スフィアを拾い集めてくるよ」
きっとスミレが遠隔操作で集める事ができるんだろうけど、俺も何かしていないと余計な事ばかり考える気がするんだ。
よっこいしょ、と言いながら立ち上がる俺と一緒にミリーも立ち上がると、2人並んで結界の端っこに転がっているサーチング・スフィアのところに歩いて行った。
そして、その手前で俺とミリーは足を止める。
「スミレ、これを見てくれないか」
「なんでしょう?」
すぐに飛んできたスミレは、そのまま俺たちの前でホバリングをしたまま、何も言わずに地面に転がっているサーチング・スフィアを見下ろした。
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