211.
「あっ」
考えてたのは、ほんの数秒だと思う。
それでも、何が引っかかるのかその理由が閃いた。
「スミレ、この空洞空間、人口的なものじゃないのか?」
「コータ?」
「どういう事ですか?」
「いや、だからさ、もしこれが普通の洞窟だったら、壁はごつごつしてないとおかしいだろ? それにもし鍾乳洞だとしても、ここまで全体的に表面が滑らかっていうのはおかしいと思う」
鐘乳石は上から滴ってくる水滴に含まれているカルシウム分が凝固して滑らかになる事はある。
でも、だ。それはあくまでもその部分だけで壁全体が滑らかにツルツルになる事はないと思うんだ。
だから人工的なものというのは飛躍しすぎかもしれないけど、その可能性はあると思う。
「コータ、これ、だれかが作ったの?」
「作ったかもしれない、って事だよ。確証はない。でも可能性はある」
「・・・そうですね。確かに言われるとこのような表面の壁は自然にできるとは考えにくいですね」
「じゃあ、だれが作ったの?」
「それは判らないよ。もしかしたら、うんと昔の人が作ったのかもしれない」
もしかしたら魔物がいるせいかも、なんて事を思いもしたけどミリーたちを無駄に怖がらせる必要はないから、ここは黙っておく。
「ここには何かあるのかもしれないな。もしかしたらそれが理由でスミレの探索が効かないのかもしれない」
「なるほど、そういう考え方もありますね」
「あくまでも可能性、だぞ? それにそれを確認するために俺はこの中に入る気はないからな」
頷くスミレに釘を刺しておく。
いくらスミレのためでもこんな得体の知れない場所に踏み入れる気は全くない。
特にスミレの結界が展開できないかもしれないんだ。
スミレの結界無しでそんな場所、怖くて行けないぞ。
「もちろんですよ。安全対策も無しにコータ様を行かせる訳がありません」
「だったらいいんだけどさ」
「ですが、このままサーチング・スフィアを使っての探索は続けますけどいいですか?」
「うん、それはスミレの裁量で好きにすればいいよ」
そんな事なら俺に聞く必要はないと思うぞ?
「そういやサーチング・スフィアってサンプル採取とかできないんだっけ?」
「重量が軽いものならできると思いますけど、重いものは無理ですね」
「軽いものって?」
「とりあえず50グラム程度でしたらなんとか持って戻ってくる事ができると思います。大型のサーチング・スフィアを作れば多少の重さのものでも大丈夫でしょうけど、そうなるとおそらく直径が50セッチにはなるのではないか、と思います」
直径50センチかぁ・・そりゃあちょっとデカいかな。
今空いている穴を更に広げるとなると大変だし、あんまり広げすぎるのって心配だもんな。
なんせ向こうに何があるかさっぱり判らないんだからさ。
今の大きさでさえ、でっかいゴキ、じゃなかったカルッチャなら出てこれると思うと、あれ以上穴を広げたくないっていうのが本音だ。
「んで、このままここで野営をしても大丈夫だと思うか?」
「はい、大丈夫だと思います。少なくともここであれば私の結界は有効ですから」
「そっか・・じゃあ、ミリー、ジャック。今夜はここでお泊まりだ」
「わかった」
「おう」
さて、泊まるとして、今夜は久しぶりにテントだな。
パンジーと引き車は外だし、アラネアじゃあ狭くて寝れないしな。
「2人で晩飯、作れるか?」
「サンドイッチ?」
「あ〜・・・そうだな。サンドイッチでいっか。あとスープくらいは俺が作るか」
でもジャックだとサンドイッチでさえ苦労しそうだよなぁ。
「ああ、ジャックは俺を手伝ってくれるかな?」
「何するんだ?」
「テントを張ろうと思ってさ。パンジーの引き車もないからさ、テントの中で寝ようかと思ってる」
「テント?」
あれ、ジャックは知らないんだっけ?
「見た事ないっけ?」
「三角形の屋根の事か?」
「あ〜、まぁ似たようなもんだな」
確かに三角形をしてるな。
まぁミリーやジャックと出会った時には既にパンジーがいたからな、テントを知らなくても仕方ないのか。
「とにかく、俺とジャックで今夜の寝床を作るから、ミリーはサンドイッチを作ってくれるかな? こっちが終わり次第、俺もスープを作るからさ」
「みゃかせる」
「おう、なんでも手伝うさ」
2人が頷くのを見てから、俺はスミレを振り返る。
「じゃあスミレはこのまま探索と警戒を頼むな」
「判りました」
「何かあったらすぐに声をかけてくれよ?」
「もちろんです」
スクリーンをじっと見ているスミレに軽く手を振ってから、俺はミリーとジャックを連れてアラネアのところに戻った。
「コータ様」
ユサユサと胸の辺りが揺れる。
「コータ様」
今度はポカリ、と頭を叩かれて、俺は目を開けた。
薄暗いテントの中、俺の顔の前にいるのはスミレだ。
「スミレ・・・もう起きる時間か?」
まだ寝足りないぞ、俺は。
「いいえ、まだです」
「じゃあ、寝ていい?」
「その前に出てきてもらえますか?」
えぇぇ、面倒くせえなぁ。
「ちょっと見てもらいたいものがあります」
面倒くさいと切り捨てて寝てしまおう、と思った俺にスミレが真面目な声で告げる。
いつになく真剣なスミレの声に、俺の眠気がスッと消えた。
「なんかあったのか?」
「はい」
「判った、すぐに行くよ」
「お願いします」
よく考えると、今までこんな風にスミレに起こされた事はなかった。
って事は、何か起きたんだろう。
俺は寝袋から這い出してシャツとズボンだけ着てまだよく寝ている2人を確認してから、裸足のまま靴と靴下を手に持ってスミレのところに向かう。
「寝ているところ申し訳ありません」
「いいよ。ちょっとした事だったらそのまま寝させてくれてるだろ?」
「はい」
スミレはテントのすぐ外にスクリーンを展開している。
それをじっと見ながら、俺が靴下と靴を履くのを待ってくれる。
「で、何があった?」
「それが・・よく判らないんです」
「判らない?」
「はい、あれからずっと空洞空間内をサーチング・スフィアで探索していたんですが、何かがサーチング・スフィアを攻撃してきたようです」
「・・・攻撃?」
それは穏やかじゃないな。
でも、何が攻撃してきたんだ?
ってか、あそこに攻撃してくるような相手がいたって事か?
「こちらの映像を見てもらえますか?」
スミレが何かを操作しながら、俺の前にスクリーンを1つ移動させてきて、俺が見ている事を確認してから映像を見せる。
それは壁際を飛びながら観察しているサーチング・スフィアが送ってきた映像のようで、右手に壁がずーっと続いている。
その壁は相変わらず滑らかな表面をしていて、誰かが加工したようにしか俺には見えない。
なんていうか真っ平らな表面っていう訳じゃないけど、多少の歪曲はあるものの手触りは滑らかであろうって感じに見えるんだ。
「これからの映像をよく見てください。何かがサーチング・スフィアを攻撃してきます。攻撃まで5秒・・4・・3・・2・・1・・今です」
スミレが今だというのと同時に画面が真っ黒になった。
でも俺にはさっぱり判らなかった。
「ごめん、スミレ、俺には判らなかったよ」
「もう一度問題のところだけスローで映像を流します」
真っ黒だったスクリーンに先ほどの壁の映像が流れてきた。
さっきよりもゆっくりと移動しているのが判るから、スミレの言う通りスローモーションなんだろう。
「画面の左斜め上に注目してください・・・3・・2・・1・・静止」
スローモーションにするだけじゃなくて、スミレは問題の場面で静止した。
「これです」
そう言ってスミレが指差したのは、斜め上から降りてきた細長い何か、だった。
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