210.
照明弾を打ち出すのは、もちろん俺が以前作った打ち上げ花火の筒だ。
いや、だってさ、もったいないじゃん。
それにあれだったら中に突っ込んで何かあって壊れても悔しくないしな・・多分、だけどさ。
ついでに面白半分で花火も作ってみる事にした。
あの空洞空間じゃあ使ってもよく見えないかもしれないけど、アリアナに帰る途中の野営の時に上げてやればミリーとジャックが喜びそうだ。
「それにしても、よく照明弾の作り方なんて知ってたよな、スミレ」
「知りませんよ? ですがコータ様の記憶データの中に画像がありましたから、それを分析して魔法陣を付与する事で同じようなものが作れる事が判りましたから」
「スミレ、すごいねぇ」
あっさりとネタをバラすスミレと、そのスミレを羨望の眼差しで見るミリー。
「私はすごくないですよ、ミリーちゃん。そういう知識を持っているコータ様がすごいんですよ」
「コータもすごいんだねぇ」
「はい、そうですよ」
ニコニコと会話する2人だけど、思いがけず褒められた俺は照れ臭い。
それを隠すためにスクリーンをぽちぽち押して、いかにも作業をしていますよ、とアピールしておく。
「照明弾っていくついる?」
「いくつ作れますか?」
「ん〜・・・っと、とりあえず5個は作れるかな? 威力を下げれば10個はいけるけど、あの広さだと威力は上げられるだけ上げた方がいいんだよな?」
「そうですね・・・」
「んでさ、サーチング・スフィアが入ってる今だと、スミレには中の様子は探索できるようになったのか?」
「それがですね、サーチング・スフィアからのデータが入った範囲は判るようになったんですが、それ以外の場所においてはなぜか雑音が入ったり画面に歪みが入ったりして、正確なデータが取れないんです」
そっかぁ、まだ判らないってか。
なんでなのかなぁ・・・と頭を捻るけど当然俺に判る訳がない。
でもスミレはもっと深刻な顔をしている。
そりゃそうか、今までだったらスミレの探索を使えば時間はかかっても調査する事はできたんだよな。
なのに、今回はサーチング・スフィアを入れてもなおスミレの思うようにデータを収集する事ができずにいるんだ。
スミレとしては面目が立たないと思っているんだろう。
「まぁ気にすんなよ。それよりも照明弾ができたから試してみるか?」
「そうですね」
「あっ、あのさ、スクリーンをあっちにセットできるかな?」
「あの方角、ですか?」
俺が天然通路の奥を指さすと、スミレが頭を傾げて俺に問い返す。
「うん。あそこだったら俺からもアラネアにいるミリーたちからも見えるからさ。ついでにサーチング・スフィアの映像を3つ4つ並べて映せるともっといいかも」
「ああ、それぞれ違う角度からの映像を並べるんですね」
「うん、そう。そうすれば中に入ってない俺たちでも多少の感じはつかめると思うからさ」
「判りました」
スミレは早速天然通路の奥手に幅一杯のスクリーンを展開してくれた。
そしてスクリーンに十字を入れて、4つの画面になるようにしたようだ。
よし、スミレに頼んでスクリーンの位置を変えてもらったから、これで俺も照明弾を打ち上げながらでも見る事ができるし、アラネアで待機と言われているミリーたちも見る事ができるから文句は出ないだろう。
俺はポーチから打ち上げ花火筒を取り出すと、そこにたった今作ったばかりの照明弾を詰め込んだ。
それを肩に担いで穴のところに向かう。
そういや、穴の向こうには結界は張れてないんだったっけ?
「スミレ、今も結界は張れないのか?」
「すみません、数回試したんですが、それでもそこの穴の前面数センチまでしか張れてないです」
「そっか、まぁ仕方ないよ。んじゃ、始めるよ」
「お願いします」
俺は穴の前で膝立ちになると、肩に担いでいた筒をおろすと、そのままヒョイっと穴の中に先を突っ込んだ。
「コータ様・・・」
「いや、だってさ、筒先だけを穴に向けてると反動で動いたりしたら危ないじゃん」
「それはそうですけど・・・はぁ、それでいいです」
あれ、なんで溜め息を吐かれたんだ、俺?
問い質すようにスミレを見るけど、彼女は頭を左右に振るだけでそれ以上何も言わない。
ま、いっか。
「とりあえず角度と方角を指定してくれ」
「そうですね・・・・少し上に向けて、そう・・それから右に向けるようにして・・もう少しだけ右で・・はい、それでいいですよ」
「もう一度確認して」
スミレがサーチング・ボードを持ってきて、俺の横で空洞空間内を展開する。
でも確かに彼女の言う通り天然通路と違って薄ぼんやりとしたイメージしか展開されていない。
それでもそのぼんやりとした空洞空間内に線が引かれた。
「今の角度でこのように照明弾が打ち出される計算ですね」
「うん、まぁそれなら大丈夫か。じゃあ、サーチング・スフィアを避難させといてくれよ。当たらないと思うけど、万が一って事もあるからさ」
「判りました、移動させます・・・・・移動完了、モードを通常ライトに変更しました」
「よし、じゃあ、行くぞっっ」
言い終わると同時に引き金を引くと、シュポンっという気の抜けた音と同時に照明弾が打ち出された。
俺は身体はその位置のまま顔だけをスクリーンに向けると、いつの間にかスクリーンは十字を入れた感じで4つに区切られていて、それぞれに薄ぼんやりとした光の軌跡が写っているところだった。
そしてそれがいきなり輝き始めた。
「照明弾、点火成功。このまま50メートルほど先に進んだところで浮遊待機」
「えっ、そんな事できるんだ?」
「ちゃんと魔法陣にそのための式も刻んでありましたよ?」
「へ、へぇ〜・・・」
知らんかった。ってかさ、魔法陣なんか俺に読めるか、っての。
スミレが既に用意していた照明弾のプログラム使っただけなんだからな、俺は。
「コータ様、続けて打ち出してください。次の照明弾はそれよりも50メートル手前で浮遊待機するように設定されています」
「お、おっけ」
俺は慌ててさっき作ったばかりの照明弾を打ち上げ筒に詰め込んだ。それから穴に差し入れる。
「スミレ、確認」
「もう少し上を向かせて・・・はい、それから少し右に向きすぎてますから左に・・・そう、それで大丈夫です」
「よし、んじゃ、照明弾、発射」
スミレの誘導に合わせて筒の角度や方向を設定すると、俺はすぐさま次の照明弾を発射させる。
「あれ、でもスミレにはどの弾がどの魔法陣なのかって判るのか?」
「いいえ、どれも同じ設定ですよ。ただ、こちらで打ち出す瞬間にマニュアル操作で位置を指定する事ができます」
はぁ、さいですか。なんでもできるなぁ、スミレは。
スクリーンには2射目の照明弾が丁度光を放つところで、そのままその位置に待機しているところが見える。
「サーチング・スフィア、1号2号はそのまま通常モード。3号と4号は通常モードから暗視モードに切り替えます」
「眩しすぎない?」
「大丈夫です。3号と4号は直接照明弾にカメラを向けてませんから。それからサーチング・スフィア5号はこの穴の近くに待機しています」
「あ、そう」
スミレの言う通り、左側の2つはさっきと同じ画面のままだけど、右の2つは白黒の画像に切り替わった。
どうやらそれが暗視と通常モードの違いなんだろうな。
そして照明弾をあげる前は殆ど何も見えなかった空間だったけど、今はなんとなく周囲を見回す事ができる気がする。
一応空間の端っていうか壁の部分がぼんやりと明かりに照らし出されているんだよな。
「スミレ、3号機を壁に近づけないか?」
「移動させます・・・・どのくらい接近させますか?」
「壁がよく見える程度まで、かな?」
俺も何かを探している訳じゃないから、どこまで近づけろ、とは指示ができないんだ。
ただなんていうかさ、気になったんだよ。
俺は膝立ちの体勢から立ち上がると、そのままスクリーンの前まで歩いていく。
スクリーンから3メートルほどまで近づくと、それぞれ4つのカメラが映し出しているものがよく判る。
4つに区切られているとはいえ、それぞれが60インチのテレビ画面くらいはあるもんな。
俺はその中でも壁に近づいている映像が映っている画面に目を向ける。
そこには暗い色の壁が近づいてくる映像が映し出されている。
洞窟っぽいな、と思ったものの、何か違和感を感じるんだよなぁ。
でも俺にはそれがなんなのか判らない。だから、余計に画面をじっと見つめる。
「ツルツルだね」
「ん?」
いつの間にか俺の隣に立って映像を見上げているミリーがいた。
おまえ、アラネアで待ってろって言ったのに。
と思っているとその反対側にはジャックが同じように立ってスクリーンを見上げている。
全く、と思うものの、いつまでもおとなしくアラネアで待てるお子ちゃまたちじゃないのは最初から判ってたしな。
俺は小さく溜め息を吐いてから、ミリーが見ている画面を見上げた。
「何がツルツルだって?」
「ほら、あれ。ごつごつしてない、ね?」
「ん? ああ、そういやぁそうだな」
ミリーが指差したのは俺が壁に近寄れといったサーチング・スフィアからの映像だった。
「ツルツルして、キラキラしてる」
「そうだな。照明弾の光を反射してるんだな」
「なんかね・・・きれい」
綺麗、かぁ。俺はミリーが目をキラキラさせて見ている画面に映る壁を見る。
確かに光を反射して七色に輝いて見えるな、うん。
あれ?
なんか今、引っかかったぞ?
読んでくださって、ありがとうございました。
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06/17/2017 @ 18:42CT
『洞道』という単語ですが、適当に思いついて書いた単語なんですが、実は人工的に作られたものを示す言葉だとのご指摘をいただきました。全く知らずに使っていましたが、さすがにそのままにはできない、という事で、全ての『洞道』を『天然通路』と変更する事にしました。大変申し訳ありませんでした。




