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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 空洞空間
210/345

209.

 アラネアを取り出して、できるだけ右側の天然通路に寄せる。

 俺が助手席から出る事になったのは、まぁご愛嬌だな、うん。

 アラネアのドアは開けたままにしておく事になった。

 スミレの話だと結界があるから大丈夫だろう、って事だ。ただアラネアの中にいた方がミリーもジャックも気持ち的に安全だろうから、2人は手前とサンルーフの2か所に分かれて攻撃をする、って事も話し合った。

 もちろん、俺が穴を掘っている間、そこにいる事が条件になっている。

 ジャックはぶーぶー文句を言っていたけど、スミレがにっこりと笑ってアラネアを指差すとすごすごと乗り込んだ。

 「なぁ、50センチしかないんだったらさ、それを掘る魔法具ぐらいすぐに作れるんじゃないのか?」

 「すぐ、とはいきませんよ」

 「なんで?」

 「掘った先がどうなっているか見当がつきませんから、それに対処するだけのものを付与しようとすると1時間以上はかかると思います」

 1時間以上かかるのかぁ、だったらうちのお子ちゃまたちが待てないか。

 「仕方ねえなぁ」

 「すみません」

 「ちゃんと結界だけは展開しておいてくれよ?」

 「もちろんです。でもですね、空洞空間にまでは結界が張れないので、くれぐれも空洞空間に勝手に入り込まないでくださいね」

 「ちょっと待て」

 今、聞き捨てならない事を言ったな、スミレ。

 「なんでしょう?」

 「なんで結界が張れないんだよ?」

 「判りません。結界をこちらから1メートルほど空洞空間に入ったところまで張ろうとしたんですが、なぜか張る事ができませんでした」

 なぜか、ってなんでだよっっ!

 「スミレには判らないって事か?」

 「はい、原因は不明ですね」

 マジかよ・・・スミレの結界っていうバックアップもないのか、俺?

 いや、待て。空洞空間のすぐ手前までは結界を張る事ができるって言ってるんだよな? 

 だったら、ピックくらいは大丈夫だろう。俺の代わりに犠牲になってもらおう、うん。

 「ミリー、ジャック、そこにいろよ」

 「わかった」

 素直に返事をするミリーと黙って頷くだけのジャックを確認してから、俺はスミレが空洞空間があるという左側の天然通路の側面に向かう。

 「どの辺を掘ればいい?」

 「そうですね・・・」

 スミレは顎に手を当てたまま、器用に壁の前を左右に飛ぶ。

 どうやら土の厚さを調べているようだな。

 「ここはどうでしょう?」

 待つ事1分くらいで、スミレが地面から1メートルほどの高さの場所を指差した。

 「この辺りが土が薄いように感じます」

 「おっけ」

 どこか自信なさげなスミレの言葉だけど、闇雲に適当な場所を掘るよりもスミレが調べてくれた場所を掘る方がいいから俺にはなんの異存もない。

 早速右ひざを地面に付けてから、ピックを斜めにスウィングさせて壁に向かって勢いよく当てる。

 ピックの細い先が土に潜り込み、俺はそれを左右に動かしながら引き抜くとすぐにまた勢いよくぶつける。

 そうしていると少しずつだけど土がボロボロと地面に落ちていく。

 思ったより粘性が高い土でどっちかっていうと粘土みたいだからか、あんまり一気には崩れないみたいだな。

 だから隣に空洞空間があるにも関わらず、ずっと崩れずにいたのかもしれない。

 それでも根気強くガツガツとピックで掘り進んでいくと少しずつ穴っぽい形になってくる。

 「あ〜、腕が痛い。ちょっと休憩」

 10分もあれば穴を開けられる、なんて甘く考えていた俺。

 なのにその10分で腕が痛いよ。

 俺は立ち上がって思い切り両手を伸ばして背伸びをする。

 それからふと思いついてスミレを振り返った。

 「スミレ、代わりに掘って?」

 「馬鹿な事言ってないで、左手にピックを持ち替えて掘ってください」

 「・・・はい」

 冗談だったのに、ものすごく冷たい目を向けられてしまった。

 俺はすごすごとスミレに言われた通り穴の前に戻り、これまたスミレに言われた通り左手にピックを持ち直してスウィングを始める。

 もろくて崩れやすくてもいいから普通の土がいいなぁ、なんて思いつつ、ガンガンとピックをぶち当てる。

 疲れたら手を交代させて、それでも掘る事はやめない。

 いや、やめさせてもらえない、ってのが正しいよ、うん。

 そうやって掘る事30分くらい?

 ガッとぶつけたピックがあっけないほど前に飛び出した。

 「よっしゃっ」

 穴が開いたぞ〜、と思うと頑張れるから不思議だ。

 俺はそのまま開いた穴の周辺を今度はゆっくりと力を調節しながらピックで掘り進んでいく。

 「このくらいの穴が開けばいいんだよな?」

 「そうですね、それなら大丈夫でしょう」

 スミレは右手で宙に浮かんでいるボードを叩いてストレージからサーチング・スフィアを取り出した。

 「カメラを取り付けてますから、中の様子は見れますよ」

 「えっ、でも真っ暗じゃん」

 「ナイト・ビジョンもあります」

 そりゃそうか、でもな、そんな可哀そうな子を見るような目で見ないでくれよ。

 呆れたと言わんばかりのスミレを促して、俺はサーチング・スフィアを穴の中に入れさせる。

 と同時にスミレが天然通路の壁に沿ってスクリーンを展開させた。

 「アラネアまで戻りましょう、きっと2人も見たいと思いますからね」

 「おっけ」

 俺たちがアラネアに向かうと、そんな俺たちの後ろをスクリーンが付いてくる。

 「コータ、だいじょぶ?」

 「うん、ちゃんと穴が開いたよ」

 俺たちが戻るとホッとしたような表情で迎えてくれたミリー。

 うん、やっぱり癒されるよ。

 「コータ、できた?」

 「うん、今スミレがサーチング・スフィアを入れたから、そこに映る筈」

 「・・・なんにもないよ?」

 スクリーンを見つめるミリーの手前の地面に腰をおろすと、俺も同じようにスクリーンに目を向ける。

 「う〜ん、ホントだ。真っ暗だ」

 「ライト、点灯します」

 まだライト点けてなかったのかよ、とスミレを見るとふふっと笑いを返された。

 「う〜ん、まだ暗くてなんにも見えないな」

 「ライト、点いた?」

 「点いてますよ」

 スミレはライトを点灯したようだけどさ、それでも中は真っ暗なままだ。

 「広すぎてライトが届いていないって事かな?」

 「そうですね。ちょっとこちらを振り向かせます」

 暗くて見えないけど、おそらく回転しているであろう映像の左端が少し明るくなって、それから丸い光が見えた。

 それからナイト・ビジョンに切り替えたのか、色が変わって周囲がよく見えるようになったけど、それでもまだはっきりと見える訳じゃない。

 ナイト・ビジョンと言ってもさすがに多少の光源がない事には役に立たないもんなぁ。

 「あの丸い明かりが穴って事だよな?」

 「そうです。でもこれだとよく判らないですよねぇ・・・ではサーチング・スフィアをもう3つほど投入します」

 「スミレ・・・いくつ持ってんだよ」

 「とりあえず10個作っておきました」

 ああ、そう。数は揃えてんだね、うん。

 スミレは優秀なんだけど、もう少し俺にも教えて欲しいなぁ、って思うのは俺だけか?

 それでもスクリーンを見ていると、少しだけ周囲が明るくなった気がする。

 どうやらカメラを最後尾のサーチング・スフィアに変えたようで、前を飛ぶ3つのほのかな明かりがスクリーンに映し出される。

 どうやら今はナイト・ビジョンではなく通常カメラモードのようだな。

 「なあ、もっとでっかい明かりってなかったっけ?」

 なんか前に作った記憶があるんだけどさ。

 「そうですね・・・あれは移動できませんから穴の前に転がしたままになりますけど、それでも何もないよりはマシですね」

 「それ、サーチング・スフィアに付けられないのか?」

 「飛ばすために重量制限があるので無理ですね」

 ああ、そりゃそうか。あの丸いのを飛ばしているっていうだけでビックリだもんな。

 「あっ、この前作ったラジコン、あれで動かせる?」

 「ああ、そういえばそういうものがありましたね。でもどうでしょう? 地表の状態が判らないので動かせるかどうか判りませんね」

 ああ、そっか、ラジコンなら動かせるだろうけど、地面がそれに適していなかったら無理、って事かぁ。

 それでもスミレは試してみる価値はある、と思ったのかフワッと穴に向かって飛んでいくとサーチング・スフィアをもう1個投入した。

 それからその場で小さめのスクリーンを呼び出すとそれをじっと見ている。

 「それほど深くないので、この穴から投げ入れても大丈夫そうですね」

 「えっ、深いの?」

 「40メッチほど掘り下がっています」

 俺、てっきりこの天然通路と同じ高さが地面で、そこから上に向かって広がっているんだと思ってたよ。

 道理でサーチング・スフィアがなんにも映し出せなかった筈だよ。

 地表が近かったらサーチング・スフィアのライトを反射するもんな。

 「とりあえずライトボールを転がしてみましょう」

 「いや、でもさ、底まで40メッチもあるんだったら無駄じゃないのか?」

 「無駄かもしれませんが、試してみないと判りませんよ」

 はい、その通りです。

 俺はスミレがストレージからライトボールを取り出して穴に放り投げるのをじっと見る。

 最初は大きいから入るかな、と思ったんだけど、どうやらギリギリ入ったようでホッとする。

 最後に入れたサーチング・スフィアに画面が切り替わって、穴からまばゆいばかりのライトボールが飛び出して、そのまま転がり落ちていくのが見える。

 底に近づくに連れて明かりは弱くなっていくけど、それでも周囲がなんとなく浮かび上がる程度には見える。

 そして、サーチング・スフィアはナイト・ビジョンに切り替えたのか、先ほどよりは遥かに周囲を見渡せるようになった。

 「コータ様、ついでですけど、照明弾を作ってもらえませんか?」

 「照明弾?」

 「はい、材料は揃っている筈です」

 「いつのまに・・・・」

 「アリアナに到着する道中で収集していただきました」

 それって、あれこれ拾わされた時、って事だよな?

 結構いろんなものを拾わされたって思ったら、そんなものまで拾ってたのかよ、俺たち。

 「データを呼び出せば照明弾のプログラムはすぐに出ます」

 「おっけ」

 なんか納得いかないんだけど、それでも照明弾があれば探索が楽になる事は間違いないので、スミレの言うがままに従う。

 「他にも作った方がいいものがあれば言えよ、すぐに作るから」

 「ありがとうございます」

 俺は小さなスクリーンを呼び出すと、すぐにデータを呼び出して照明弾を作るのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


06/17/2017 @ 18:40CT

 『洞道』という単語ですが、適当に思いついて書いた単語なんですが、実は人工的に作られたものを示す言葉だとのご指摘をいただきました。全く知らずに使っていましたが、さすがにそのままにはできない、という事で、全ての『洞道』を『天然通路』と変更する事にしました。大変申し訳ありませんでした。

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