20.
説明が色々と多すぎて、どうしてもノロノロ展開になっています。
なかなか話が進まなくて、申し訳ありません。
次の朝、俺はボン爺の作ってくれた朝食を食べてから早速出かける事にした。
もちろん理由は薬草採取だ。
昨日帰ってからボン爺に鍋をあげたか、っていうと、まだあげていない。
ボン爺の家に泊まる最終日にお礼として渡すのが一番だろう、と考えたからだ。
昨日スミレと一緒に、というかスミレに作ってもらってた時は、ボン爺に鍋が売れるかどうかを聞こうと思っていたんだけど、それよりもスミレのプリントの方がいい金になると判ったからだ。
それにプリントみたいな紙(この世界にあるような紙にしてもらったからゴツいけど)なら嵩張らないから、多少枚数を持っていてもおかしくはないが、鍋みたいに嵩張るものをたくさん持っていたら魔法ポーチの事に気付かれるかもしれないし、村人に売る事で金を持っていると目をつけられてもおかしくはない、そう思ったからだ。
それならプリントをギルドに売った方が色々と都合はいいのだ。楽にお金にはなるし、ギルド内での事だから大金を手に入れてもバレる心配をしなくて済む。
もちろん薬草採取は続けるつもりだから、きっと村の人間は俺の稼ぎは薬草採取からだって思ってくれるだろう。
と、そんな風に俺も考えた訳だ。
さて、村の門を出てから昨日と同じように塀をぐるっと回って森沿いに歩いていく。
その道中は足元を見ながらイズナを探してみるが、昨日の木が生えているところに行くまでに2本しか見つける事ができなかった。
やっぱり森の中に入らないとみつからないって事か、ちぇっ。
俺は耳を澄ませて周囲に人の気配がないかを確認してから、昨日と同じ木の根元に座り込む。
「多次元プリンター・スクリーン、オープン」
耳元でブゥンという小さなモーター音のようなものが聞こえて、目の前にスクリーンが浮かび上がってくる。
それがはっきりとした形になると同時に、スクリーンからスミレが飛び出してきた。
背中のトンボみたいな羽を動かしながら、彼女は俺の目の前に30センチのあたりでホバーリングすると嬉しそうに笑顔を浮かべた。
『コータ様、今回は早かったですね』
「今回は、ってひどいな。それに昨日『また明日』って言っただろ?」
『そうでしたね。すみません』
てへ、と言いながらペロッと舌を出すスミレは可愛かった。
『鍋は喜ばれましたか?』
「鍋?」
『はい、昨日ボン爺さんにあげるんだって言って作ったじゃないですか』
「ああ、あれね。いいや、まだあげてない。ってか、その事でスミレと話があるんだ」
『話、ですか?』
こてん、と頭を傾げているスミレは可愛いなぁ。
思わずデレ、となりそうになったが気合いで昨日の事を話す。
「あのさ、昨日スミレが用意してくれたプリントがあっただろ?」
『プリント、って薬草のプリントですか?』
「うん、そうそう。あれ、良い値で売れた」
『売れた、ですか? アレ作る時、結構手を抜いてましたよ、私。』
スミレ的には写真のように鮮明ではなく、絵っぽく滲ませた部分もあった事で、できの良いものというイメージがないようだ。
けどそれは俺がそう見えるように頼んだんだから、スミレが気にする必要はないだけどな。
「それはさ、俺がケィリーンさんに見せてお金になりそうな薬草を聞くために絵っぽくなるようにって頼んだからだろ? まさか写真なんて持っていく訳にはいかなかったもんな」
『それはそうですけど』
「とにかく、すっごく精密な絵だって感心してたよ、ケィリーンさん。それでさ、あのプリントをギルドが発行している薬草図鑑に使いたいから売ってくれって言われたんだ。なんでもスキルに複製っていうのがあるらしくって、それを使って図鑑を作るみたいだな」
魔法やスキルがあるから、俺がいた世界みたいに科学が発達していないのかもしれない。
「あれ、1枚1万ドランで買ってくれたよ」
『1万ドラン、ですか?』
「うん。俺がいたところのお金でいうと10万円かな? ボン爺の話だとそれだけあれば、俺1人だと1ヶ月朝食付きの宿に泊まれるらしいよ」
『それがプリント1枚の値段、ですか? 結構良いお金になったんですね』
スミレもそれで自分が作ったプリントの価値がなんとなく判ったようだ。
「うん、そう。俺もビックリしたよ。それでさ、ケィリーンさんがもっとプリントがあれば買いたいって言ってるんだ」
『じゃあ、今日はそれを作りますか?』
「うん。昨日みたいにこの辺りにありそうな薬草を中心に作れるかな? そうそう、できれば少し色が褪せたっぽいのも欲しい。ほら、どれも新品みたいだと話が合わないからさ。俺、あれを描いたのは俺の祖父母だって事にしてあるからさ」
『なるほど・・・そうですね。少し紙が古く見えるものや色褪せたもの、それに端の方が少し破れたようになったものなど、年代物に見えるものが混ざっている方がいいかもしれませんね。紙の種類も幾つかに変えた方が面白いかもしれませんしね』
「でもこの村で手に入れられるような紙にしてくれよ」
『その点は判ってます』
大きな町で手に入るような紙でもこんな小さな村だと無理かもしれないからな。
「それでさ、ローデンの集落の人たちって外に出る事を良しとしなかった人たちらしいから、この辺で取れるような薬草じゃないと怪しまれるかもしれないから、その辺もよろしく」
『そういう事であれば、この森で採れる薬草であれば大丈夫ですね』
「うん、少々森の奥の方の薬草でも大丈夫だと思うな。それこそローデンでは採取していた、って言えばいいだろうからさ」
『判りました。そうですね・・・・ここからローデンの集落があった辺りで取れる薬草ですと19種類ですね。すでに5枚はプリントしたので、残りの14枚をしましょうか』
「おっ、そんなにあるんだ。14万ドランだな。それだけあれば大都市アリアナに行けるかな?」
『それだけあれば余裕でしょうね。でももう少し余裕があった方がいいと思いますよ?』
「うん。それはもっと大きな町か都市に行った時に、ここに来る前に作った短剣や長剣なんかを売るからさ、大丈夫だと思うな」
元々換金しようと思って作ったものだし、いつまでも俺のポーチに入っていても使い道はないからな。
『そういえばそういうのもありましたね。でしたら十分でしょう』
「あっ、そういえばさ。この辺りに出てくる魔獣とかのプリントも作れないかな? あと薬の材料になりそうなキノコとか木の実とか、そういったものもついでにプリントしてみようぜ。もしかしたらギルドで売れるかもしれない」
『なるほど・・・それもアリですね。それではそちらもプリントしながら検索してみますね』
「よろしくお願いします。あっ、もう1つ。プリントが済んだらさ、またイズナを探しに行くから手伝ってくれないかなぁ?」
『ふふっ、いいですよ』
俺1人でも見つけられない事はないんだけど、スミレがいてくれた方が早いのだ。
スミレとしても俺に頼られて嬉しそうなので、こういうのもウィンウィンって言っていいのかもな。
「そうだ。ついでに俺のスキルの使い方も教えてくれよ」
『私が全部しますよ?』
「うん、それは判ってる。でもさ、俺もやってみたい」
『そうですね。ではコータ様にはプリントを製作している間に、次のプリントの準備を手伝ってもらいますね』
「おお、頑張る」
早速スクリーンに向かうと、俺が見やすいように少し端に寄ったスミレの講義が始まった。
と言ってもそれほど難しいものじゃなかった。
簡単なんだよ。タッチスクリーン式で、出てくる項目にチェックを入れるだけ。
カスタムにする時は、どうしたいのかを言葉で説明するかタイプで入力すればそれだけで変更してくれるし、言葉で表せない時は俺のナイフを作った時みたいにホログラフに手を重ねてサイズや形を変更する事だってできる。
おまけにスミレの話だと、レベルが上がればホログラフがただの映像じゃなくなって物質化してくるから、それを削ってみたり触って形を変更したりなんて事ができるようになるんだとか。
今更だけどさ、なんかすごいスキルをもらったみたいだよ。
「ふぅん。これなら俺にもできるな」
『そうですね。慣れてくればそれほど手間もかかりませんから。それにレベルが上がればスクリーンの数が増えるので、同時に違うものを製作する事も可能になってきます』
「へぇ〜、じゃあさ、鍋を作りながらナイフを作るとかができるようになるんだ」
『そうですね。それだけではなく、全く違う材質の物を作る事ができるようにもなりますよ。例えばナイフを作りながら、こうやってプリントをするとか』
なるほどなるほど。
俺はスミレの指示に従って、彼女がスクリーンに映し出した薬草らしい物の写真を加工してみる。
『そこは、色褪せさせるためにこちらをチェックして・・・そうです。それに汚れを載せたい場合は、そちらの・・・そうです』
「へぇ〜、ちゃんとそういう事ができるようにチェック項目があるんだな」
『いいえ、コータ様が先ほど口にされたので、そういう項目が増えたんです』
「えっ? そうなんだ」
言葉で伝えるだけでも大丈夫、ってスミレが言っていた意味がやっと判ったよ。
「じゃあさ、端っこが少し破れた感じに加工したい、っていえばそれ用のチェック項目が出てくる・・って、出てきたなぁ」
素早いっっ、スミレと話している間にチェック項目がスクリーンに出てきたよ。
俺はそれをチェックしてから、早速プリントボタンを押してみる。
「これってどのくらいかかる?」
『そうですね・・・30秒弱程度でしょうか? 少しカスタム部分が多いので時間がかかりますね。これがもしただ写真をプリントするのであれば5秒ほどです』
「早っっ。いや、文句はないんだけどさ」
『あとはサイズをもっと大きくすれば当然その分時間もかかりますよ?』
そりゃあまぁ、当然だな。
「ま、早くできると助かるよ。その分イズナ採取に時間をかけれるからさ」
『それほど無理をされなくても、プリントでお金は稼げますよ?』
「そうなんだけどさ、少しはランクを上げたいなって思ってるんだ。俺、今は黄色の星1つなんだけど、ジャンダ村を出る前に星2つか3つくらいにしておきたいんだよ。その方が依頼も受けやすいし、次の町なり村なりに行った時にギルドで動きやすいだろうからさ」
俺がそう説明すると、スミレはなるほど、と頷いた。
「それに受けられる依頼も増えると思うしな。あとはこの先どうなるか判らないけど、商人ギルドや生産ギルドに入る時にハンターのギルドランクがある程度高いと便利かな、って思ってさ」
『コータ様もいろいろ考えられているんですね』
「まぁ、考える時間だけはあるからね」
なんせボン爺のところだと夕飯を食ったあとは、ボン爺と雑談をしたら寝るだけだからなぁ。ボン爺は年寄りだから夜が早いんだよ。
『それではとっとと済ませて、薬草採取に参りましょう』
「うん、手伝いよろしくな」
『はい。お任せくださいっ』
どん、と力強く胸を叩いて頷くスミレの姿は、とても頼りになりそうだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
Edited 11-19-2016 @ 13:05CT
スミレの台詞が『』ではなく「」のままの部分がありましたので、その部分を『』に訂正しました。
ストーリーに変更はありません。




