207.
天然通路は以前鉱山の中で歩いた坑道に比べると広い。横幅は2.5メートルほどあり、高さも2メートルはあるんじゃないだろうか?
ただ坑道のように足元が全く整地されていないから、岩が飛び出していたり子供の頭ほどの石がゴロゴロ転がっていて、歩きにくい事この上ない。
それでもスミレがランタンを浮かべて先頭を飛んでくれるので助かってる。
おまけに俺のすぐ後ろの天井近くにもランタンを浮かべてくれてるんだ。
なんかすごく器用になって、ますます俺が役立たずになってきている気がするんだけど、あまり深く考えないようにするつもりだ。
30分ほど前にスミレが言っていた二叉路を左に曲がった頃から時々キーキーという鳴き声がするようになった。スミレの話ではコウモリだとか。
ランタンの明かりに照らされたコウモリを見て、俺はホッとしたよ。
いやだって、普通サイズだったからさ。
鉱山だとムカデもゴキもサイズが半端なかったじゃん。
どうしてもあれがトラウマになってんだよ、うん。
「少し先にポイントがありそうですね」
「ポイントって? アキシアライト?」
「おそらく」
おっ、いよいよアキシアライトが手に入るのか?
スミレにデータを呼び出してもらって見せてもらったけど、透明じゃないビー玉みたいなんだよな。
なんての? 乳白色のビー玉にいろいろな色が混ざった、そんな感じ?
「なあ、アキシアライトって、最初っから丸いのか?」
「球状で発見されますね」
「じゃあ、簡単に見分けられるんじゃないのか?」
「そうでもないんですよ。アキシアライトは魔力に反応して形を球状に変化するんです。ですのでそれまではただの鉱石にしか見えません」
へぇ〜、魔力で形を変えるってか、さすが魔法のある世界だけあるなぁ。
「じゃあさ、簡単に見つかるんじゃね?」
「コータ様」
「は、はい」
呆れたと言わんばかりの声で名前を呼ばれた俺、慌ててビシッと背筋を伸ばして返事をした。
「あのですね。普通の人であれば、魔力を垂れ流しにしてアキシアライトを探す事はできません。ある程度見当をつけてからその周囲のみに魔力を流すんです」
「えっ、でもさ」
「コータ様は魔力はたくさんありますからね、魔力だけは」
あれ、なんか棘のある言われ方をしたような?
「魔力だけって、ひどくないか?」
「そうですか?」
でも本当の事ですよね、と言わんばかりの視線を受けると、それ以上文句も言えない。
くっそー。どうせ俺は魔法が使えないよ、ふんっっ。
それでもそんな俺の服を引っ張りながら、ミリーはキラキラした目で見上げてくる。
「やっぱり、コータ、すごいね」
「ありがとな〜、ミリー。ミリーだけだぞ」
俺とスミレの話をちゃんと聞いていたのかどうか、と思いながらも褒めてくれるミリーを撫でてやる。
「とにかく、だ。アキシアライトは見つかりそうなんだな」
「はい、見つかると思いますね」
「ならいいや」
とにかく依頼さえ達成できればいいよ、もう。
「ミリーちゃん、ジャック。もし丸い石を見つけたら教えてくださいね」
「みゃかせる」
「わかった」
「俺は?」
「暗いですからね。猫系獣人のミリーちゃんやケットシーのジャックなら夜目が効きますから」
あ〜、はいはい。どうせ俺は普通の人だからね。見えませんね。
「見つけたら、コータに渡せばいい?」
「うん、袋を用意しておくよ」
「わかった」
俺はポーチから小さめの皮の袋を取り出した。
ぱっと見はパチンコ弾が入っている袋とそっくりだから間違えそうだけど、俺のポーチは取り出したい物を思うだけでそれが手に当たるから間違えなくて済む。
足元がどんどん悪くなってゴロゴロ転がる石に転けそうになりながら更に15分ほど進んだところでスミレが止まった。
スミレはランタンを動かして左斜め上に近づける。
「あそこがそうですね」
「あそこ?」
「はい、コータ様、来てくれますか?」
最後尾にいる俺はスミレがランタンを近づけたところまで行ってから見上げる。
なんかランタンの明かりで鈍く光る物が見える。あれの事か?
背の低いミリーとジャックだと届かないけど、俺なら手を伸ばせば届く。
ああ、だから俺を呼んだのか。
もしかしたら俺が頼りになるからかも、なんて思ったけど、俺が一番背が高かっただけかよ。
「ミリー、この袋持っててな」
「うん」
俺はポーチから採掘用の小さなピックを取り出すと、土が自分の上に落ちてこないように少しだけ後ろに下がってから鈍く光る物が見える場所を掘ってみる。
「うわっ」
「ジャック、後ろに下がっとけよ」
「もっと早く言ってくれよっっ」
いつの間にか真下にいたジャックに土が落ちたみたいだな。
なんか、あの時こいつが埋まってた理由が判った気がしたぞ。
ゴリ、と硬い物が当たる。
それをほじくるようにしてピックを動かすと、ゴロ、と塊が落ちた。
俺はそれが自分に当たらないように後ろに下がると、俺と入れ違いに前に出たミリーはそれを器用にキャッチしてそのまま俺のところに戻ってきた。
「コータ、これっっ」
「ん? おお、デッカいなぁ」
ゴルフボールくらいあるそれを掲げたミリーはとても誇らしげだ。
いつの間にかミリーの真上に移動していたもう1つのランタンの明かりが乳白色に緑が混じった珠に反射している。
「きれい、だね」
「そうだな」
「おいっ、まだあるぞっっ」
ん? と振り返ると、俺が掘った土の中から普通のビー玉サイズのアキシアライトを取り出したジャックが手をあげて見せてくれる。
「わたしもっっ」
それを見たミリーが慌てて足元にしゃがみこんで同じようにアキシアライトを探し出した。
「スミレ、周囲の安全は?」
「私が結界を展開していますので、大丈夫ですよ」
「そっか、じゃあ、俺も一緒になって拾うか。ランタンを1個、真上に移動させてくれるかな?」
「判りました」
ミリーとジャックの間に入ってしゃがむと、手に持っていたピックの先で土を動かしながらビー玉を探す。
でもミリーとジャックが既に拾い終えたのか、さっぱり見つけられない。
「ミリー、何個見つけた?」
「あのね、4個」
「ジャックは?」
「俺も4個」
って事は8個か。
「スミレ、依頼は何個?」
「数ではなくて重さですね」
スイッと飛んできたスミレは、ミリーとジャックが両手のひらに乗せて見せびらかしているアキシアライトを見てから俺を振り返る。
「まだ半分にも満たないですね」
「まだまだかよ・・・」
まだ半分もないのかとガックリしたけど、もう半分見つかったんだ、と頭を切り替える。
「あそこ、まだ残ってるか?」
「はい、もう少し残っていますね」
「おっしゃ。ミリー、ジャック、後ろに下がれよ。もうちょっと掘るからさ」
「わかった」
「おうっ」
素直に後ろに下がる2人を確認してから、俺はまたピックを使って斜め上を掘る。
身体を後ろに逃がしてからピックを持つ手だけを伸ばして何度か振ると、土がバラバラと地面に落ちる。
俺はランタンの明かりで特に光を反射するものがない事を確認してから、スミレを振り返った。
「スミレ、まだ残ってるか?」
「いいえ、それだけですね」
「よし、じゃあ2人とも来てもいいぞ」
俺がいいと言うと、すぐに飛んできた2人はしゃがみこんで、一生懸命掘っている。
俺はそれを立ったまま見下ろしながら2人が寄越してくるアキシアライトを受け取っては袋に入れていく。
と言ってもミリーが2個とジャックが3個見つけただけで、もうそれ以上はないようだ。
「じゃあ、もう少し進むのかな?」
「そうですね・・・とりあえずここでちょっとだけ休憩をしましょうか。お茶とお菓子でもどうですか?」
「食べたいっっ」
「おうっっ食いたい」
「では、お茶休憩をしましょう。その間に私は探索を進めます」
お菓子、と聞いた2人は嬉しそうに尻尾を揺らしている。
「おっけ、じゃあ、水筒のお茶でもいいかな?」
「うん、いいよ」
「お菓子は? 確かアリアナで買った揚げ菓子があったから、それでいいかな?」
「あれ、好き」
「おう、美味いよな」
揚げ菓子、と聞いて尻尾は更に忙しなく動く。
この揚げ菓子、サーターアンダギーみたいな形で、ちょっと硬いけど確かに美味しいんだよな。
ただ砂糖はかかってない。ほんのりと甘いだけだ。
「ついでにハチミツを出すか?」
「いいの?」
「おっしゃ」
2人とも頑張ってるからさ、このくらいのご褒美があってもいいだろう。
俺はポーチからピクニッックシートを取り出すとそれを地面に広げて2人を座らせると、お茶の入った水筒とカップを出して3人分のお茶を用意する。
それから木の皿に揚げ菓子を乗せてから、小さな皿にハチミツを出してやる。
わっと手を出してきた2人はそのままべちょっとハチミツをたっぷりつけてから、大きな口を開けて食べ始めた。
そんな2人を眺めながら、俺はお茶を飲みながら空中でサーチング・ボードをじっと見ているスミレをみる。
きっとあれを使って探索をしているんだろうな。
「コータ、たべる?」
「うん? ああ、じゃあ俺も食べるかな」
ぼーっとスミレを見ていたら、ミリーは俺が食べないから心配したようだ。
俺はぽんぽんとミリーの頭を撫でてから揚げ菓子に手を伸ばしてバクリとかじる。
うん、美味い。
さすがにベチョっとハチミツをつける気はないけど、ちょっとは欲しいかな。
なんて事を思いながら、俺はハチミツをちょっとだけつけてから残りの揚げ菓子を口に放り込んだ。
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06/17/2017 @ 18:37CT
『洞道』という単語ですが、適当に思いついて書いた単語なんですが、実は人工的に作られたものだとのご指摘をいただきました。全く知らずに使っていましたが、さすがにそのままにはできない、という事で、全ての『洞道』を『天然通路』と変更する事にしました。大変申し訳ありませんでした。




