206.
洞窟の中がどんどん狭くなってきて、ついにアラネアでは先に進めなくなってしまうくらいの高さと幅になった。
ヘッドライトでみえる前方も狭くなっているようにしか見えない。
俺はアラネアを停めると、隣に座るスミレを振り返る。
「ここからは歩きだな」
「そうですね。でも思ったよりも奥へ移動できましたからね」
うん、それはそうだ。歩きだったらもっと時間がかかった筈だもんな。
「よし、ここからは歩くぞ。2人とも降りるぞ」
「えぇぇぇ」
「もっと乗りたいぞ」
「道が狭すぎんだよ。これ以上進んで穴に嵌まり込んだら、ドアを開ける事もできないまま動けなくなるぞ?」
「それはやだ」
「しかたねえなぁ」
動けなくなる、というとミリーはきっぱりと嫌だと言ってすぐに降りようとドアに手をかける。
「ミリー、ちょっと待て、な。外の様子を確認してからの方が安全だろ? それにいざという時のための準備もしておかないとな」
「そうだった」
言われて初めて気づいた、と言ったミリーは慌てて背負っているリュックサックの中から矢筒を取り出した。
さっきのカルッチャ襲撃(?)の時に弓は出したままだったから、またリュックサックを背負うとその上から矢筒も背負う。
ジャックもリュックサックから水鉄砲を取り出して、弾の入った袋を腰のベルトにぶら下げる。
「スミレ、ジャックにポーチでも作った方がいいかな?」
「大丈夫ですよ」
「いや、でもさ、あれば楽かなぁ、って思うんだけど」
バッサリ切り捨てるスミレにお伺いを立てる俺。
スミレは俺をチラッと見てから大げさに溜め息をついた。
「時間があって材料が揃えば今夜にでも作ればいいんじゃないんですか?」
「うん、そうだな」
作ってくれる、と言わなかったって事は自分で作れって事だな。
仕方ない、今夜野営の時にでも覚えていたら作るか。
「2人とも、準備できたかな?」
「できた」
「おう」
頷く2人を確認してから俺はドアを開けてやる。
嬉々として飛び出していった2人はそのままアラネアの前後に別れて周囲を警戒している。
おまえら、どこでそんなの覚えたんだ?
判らないまま俺も降りてから、スミレも外に出たのを確認してアラネアのドアを閉めた。それから両手でポーチとアラネアに触れて収納する。
「消えた?」
「仕舞っただけだよ」
俺のポーチにいろいろなものを仕舞う事ができるってミリーは知っている筈なんだけど、ここまで大きなものを彼女の前で仕舞った事がないから驚いたようだ。
「もしかしたらこの先でまた広くなっているかもしれないからさ。そうだったらそこで取り出せばまた乗れるぞ?」
「わかった」
頷くミリーは普通の顔を保っているけど、尻尾に裏切られているぞ。だってブンブン左右に揺れているんだもんな。
「スミレ、探索」
「判りました、探索開始します」
「そうだ。スミレ、アレ使いながらできる?」
「ああ、アレですね。判りました」
早速探索を開始しようとしたスミレに、この間の夜スミレが開発していたものを使う事を提案してみると、すぐに頷いて両手をまっすぐ前に伸ばして、それからゆっくりと左右に広げる。
「サーチング・ボード、展開します」
スミレの手の間に1枚の板が現れた。そしてその上に3Dの立体的な地図が浮かび上がる。
「うわ、なに、なに?」
「なんだそれ?」
スミレの動きをじーっと見ていたミリーとジャックは3Dが浮かび上がったところで駆け寄ってきた。
「地図ですよ。ほら、この緑色の点が私たちのいる場所ですね。それからこちらに伸びているのが私たちが通った洞窟の天然通路です」
一旦ボードが浮かび上がるとそれ以上手をその場に広げる必要のないスミレは、好奇心一杯という視線を向けてくる2人に説明をしている。
これに似たものを前にも展開してくれたけど、これはそれを応用してこうやって移動しながらでも位置確認できるようにしたものだ。
「ここ、わたしたち?」
「そうです」
「どっち、行くの?」
「こちらから来たのでとりあえずこの方向に進みます。それからこの二叉路では左の方に進みます」
「そっちにアキシアライトがあるのか?」
「それは確証はありませんけど、確率が高いのが左手の天然通路なんです」
既にどの方向にいくかが決まっているように言うから思わず確認しちゃったけど、100パーセントっていう訳じゃあないみたいだな。
でもまぁ少しでも確率が高い方がいいに越した事はない。
「スミレ、それ、危害を加えそうなヤツの反応も表示できるんだったよな?」
「はい、一応色分けをしようと思っています」
「色分け?」
「はい、黄色はこちらに危害を加えないであろう動物です。オレンジ色は魔物ですが弱い個体、もしくは小さな個体ですね。赤は大型でこちらに危険である魔物としておけばサーチング・ボードを見れば危険度が判りますからね」
ああ、よく考えてんだな。俺だったら赤一色だったよ、多分。
「今は緑だけ、じゃあ、だいじょぶ?」
「はい、現段階では特に私たちに危害を与えそうな個体は探索に引っかかってませんね」
「ちぇっ、俺が一撃で仕留めてやろうって思ったのによ」
「ジャック、口だけなら黙っててください」
「・・・・おう」
水鉄砲を取り出してかっこよく構え、その流れですごくかっこいいセリフも言ったのに、バッサリとスミレに切り捨てられたジャック。
こいつもいい加減学習しろよ、と思うのは俺だけか?
思わず笑いそうになったけど、ここで笑うとスミレの矛先はこっちを向くと判っているから、グッと堪えてそれをごまかすために周囲を見回した。
「スミレの探索範囲は?」
「現段階では直径300メッチにしています。状況に応じて広げるつもりですが、これで大丈夫だと判断しました」
「うん、十分だと思う。ただ広い場所に出たら少しだけ探索範囲を広げてくれるかな?」
「判りました」
広いところだと移動速度の高い魔獣や魔物がいるかもしれないからさ。
「コータ、ここ、この前行った鉱山みたい?」
「う〜ん、そうだなぁ。似てるといえば地面の底ってところは一緒かな? でもあそこみたいに誰かがいつも入って鉱物を掘ってるか、って言えば違うかな?」
「だれもいない?」
「うん。多分ね」
もしかしたら誰かが入っているかもしれないから、多分とだけ言っておく。
ここに来て鉱物を採掘するような物好きはいないだろうけど、絶対とは言い切れないもんな。
「ミリーちゃんは、何か気になる事があればすぐに言ってくださいね」
「きになる・・?」
「はい。ほら、前回はミリーちゃんが魔輝石を見つけましたからね。あんな感じで他と違うところを見つけたら、すぐに言ってくださいね」
「うん、みゃかせる」
グッと拳を握って天井に向けて掲げあげるミリー、やる気満々だな。
「お、俺だって」
「はい、ジャックは前回の事がありますから、十分気をつけてくださいね」
「ぜ、前回ってなんだよっっ」
「土砂に埋まる、とか?」
「うぐぐぐぐぬぬぅ・・・」
言い返せなくて唸るだけのジャック。
まぁ、俺たちと出会った時、土砂に埋まってたもんな。スミレの言う通りだから仕方ないよ、うん。
「それよりスミレ、アキシアライトはスミレの探索にちゃんと現れるんだろうな」
「はい、その予定です」
「なんだよ、その予定ってのは」
なんか頼りない返事だなぁ。
「アキシアライトを確定するためには魔力が必要になるんです。ですから、かなり近づいてから魔力を流しながらアキシアライトを探す事になるんです」
「あ〜・・・その魔力って、俺の、だよなぁ?」
「もちろんです」
何を当たり前の事を聞いているんだ? っていう顔を俺に向けるスミレ。
ああ、はいはい。知ってましたよ〜。どうせ俺は魔法は使えないけど、魔力だけは無駄にありますからねぇ。
なんか気分がヤサグレてきた。
「コータ、頼りになる、ね?」
「ミリー?」
「だって、わたし、そんなに魔力ないよ? それに、ちょっとしか役に立たない」
「そんな事ないだろ。ミリーは俺を助けてくれたじゃん」
それみ2回もだ。俺の命の恩人だよ。
「でもコータの方がすごいよ。いつだっていろいろなもの作れる。すごいよ」
「ものが作れるって、それは殆どスミレ任せんだけどな」
俺の言葉に頭を傾げるミリーには、きっとスミレがサポートシステムだと言っても理解できないだろうな。
なんせ科学とは縁があまりなさそうな世界だからさ。
「とにかく、ミリーだってすごいよ。俺はそう思う」
「そ、かな?」
そうそう、と頭をクシャっと撫でてやると、照れくさそうな笑みを浮かべる。
あ〜、癒されるわ、ほんと。
さっきのヤサグレかけた気持ちがあっという間になくなったよ。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
06/17/2017 @ 18:30 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
でもさ、あれは楽かなぁ、って思うんだけど → でもさ、あれば楽かなぁ、って思うんだけど
そして、『洞道』ですが、適当に書いた単語なんですが、実は人工的に作られたものだとのご指摘をいただきました。全く知らずに使っていましたが、さすがにそのままにはできない、という事で、全ての『洞道』を『天然通路』と変更する事にしました。大変申し訳ありませんでした。




