205.
スミレは2時間ほど、と言ってたけど多分それは無理だろうな。
っていうのも、道は進むにつれどんどん悪くなっていって、結局はそのままタイヤでの走行が難しくなったからだ。
って事で登場したのは〜、例の某映画にでてくるあれだよあれ。
「アラネアを停めるぞ」
ブレーキを踏んでアラネアを停めると、ミリーが俺の背中をツンツンと突いて聞いてくる。
「ここから歩く?」
「いや、まだ大丈夫だよ」
「でもがたがた、だよ?」
「うん、だから、ちょっと形を変えるよ」
形を変える、という俺を不思議そうに見るミリーとジャック。
「スミレ、探索スフィアを呼び戻してアラネアを映してくれないかな」
「判りました」
「ほら、2人とも。スミレが探索スフィアをこっちに向けてくれるから、アラネアがどんな風に移動するか見られるぞ」
にやり、と企むような笑みを浮かべる俺を胡散臭そうに見るジャック。
それでも笑いが止まらないなぁ、はっはっは。
俺はモニターにアラネアが映ったのを確認してから、ドアのそばに並んでいるボタンの1つを押してみた。
ぐっと車体が浮き上がって、驚いたミリーがはっしとドアにしがみつく。
「あっ」
「うおっ」
それからモニターに映ったアラネアを見て声をあげた。
モニターの中のアラネアはゆっくりと車体の下に入れていた足をくの字に曲げながら少しずつ車体をあげているところだった。
「あれ、あれ、なに?」
「あれは足だよ。ああやってちょっと車体を持ち上げて足の部分ででこぼこの段差を吸収するんだ。そうすれば揺れがなくなるからな」
今車体は地面から1メートル弱のところにあり、それをモニターで確認した俺はゆっくりとアラネアを走らせる。
洞窟は今の所トンネルのようで、直径が3メートルほどありそうだから1メートル車高をあげてもまだなんとか余裕があるように見える。
「走らせてみるぞ」
「うん・・うわっ」
頷くミリーは動き出したところで変な声をあげる。
それでもモニターのアラネアが動いているらしいのを見て、なるほどと何を納得したのか判らないけど頷いている。
「ほら、これなら振動はあんまり感じないだろ」
「うん、ゆれないね」
なんせ足が揺れを吸収してくれてるからさ。一歩一歩の足の角度を変える事で本体が揺れないんだよ。
「このまま行けるところまで進むぞ」
「わかった」
「スミレ、モニターを先行させてくれ」
「判りました」
くるっと方向転換して先に進む探索スフィアからの映像を真剣顔で見ているミリーをバックミラーで確認してから、俺は少しだけスピードをあげる。
とはいえ歩く訳だからさっきまでのタイヤでの走行を思えばスピードはぐっと遅くなる。
それでも外を歩かなくて済むだけでも移動は楽な筈だ。
「コータ様、前方動体反応あり」
「ヴァイパー、じゃないよな?」
「違いますね。もう少し小さな反応です」
「なんだと思う?」
「大型のカルッチャだと思います」
「カルッチャ・・・・?」
なんか聞いた事があるような気がするんだけど、なんだったっけ?
「以前訪れた鉱山でみた虫型の大きいものです。これがそうです」
そう言ってモニターを切り替えて、スミレの言うカルッチャが出てくる。
「うげっ、ゴキかよぉ」
黒いアイツの事なんかすっかり忘れてたよ。
しかもスミレのやつ、大型、って言ってなかったか?
「なあ、大型って大きさは?」
「1メッチ半くらいですね」
「マジかよ・・・」
1メートル半のゴキ、想像したくもないわっっ。
でも今こっちに向かってきているのはそいつなんだよ、うげげ。
「なんでカルッチャなんだよぉ」
思わず泣き言を言ってしまうけど、こればっかりは仕方ないだろ?
なのに、だ。後ろの2人はウキウキとそれぞれの武器を用意し始めた。
「コータ、じゅんびできた、よ」
「俺もばっちりだ」
弓を構えるミリーと水鉄砲を構えるジャック。
うん、君たちが殺る気満々なのは伝わってくるよ。
でも、さ、どうやって使うつもりなのかな?
「なあ、2人とも仕留める気満々だけどさ、この中からどうやって狙うつもりだ?」
「えっ・・そっかぁ」
「外に出ればいいじゃねえか」
「外に出ればいい、うん、そうだな。じゃあジャック1人で出ようか」
「おっ、おいっっコータ」
仕留めたいけど1人じゃ外に出たくない訳だな、うん。
「屋根を開けましょうか」
「えっ、そんな事もできんの?」
「はい、カスタムですね」
「いつの間に・・いや、言わなくてもいい」
どうせ俺が寝ている間に勝手にやって、って言うんだろ。
「スミレの事だからどうせシートもせりあがるんだろ?」
「よくお判りですね」
そう言いながらもスミレがモニターで何かを操作して、気がつくと天井部分が左右に観音開きに開いたかと思うと、ミリーとジャックのシートも2人の上半身が出るところまで上がってしまう。
俺?
俺はアラネアの足を元の位置に戻して、頭上のスペースを確保してやった。
どうせスミレが結界を張っているんだろうから、殺る気満々の2人に頑張ってもらうよ、うん。
「スミレ、探索スフィア、どうせ明かりをつけられるんだろ?」
「もちろんです」
「じゃあ、照らしてやれよ。その方が2人だってよく見えるだろ?」
「判りました」
50メートルほど先を飛んでいた探索スフィアが20メートルほど手前まで戻ってきて、360度光り輝く裸電球と化す。
う〜む、眩しい。
でも目が明かりに慣れると、上下左右の壁をカサカサという音とともに移動する黒い物体が見えてきた。
「来たぞ」
「じゅんびばんたん」
「いつでもいけるぜっっ」
頭だけ動かして見上げると、凛々しく弓を構えるミリーと片手でカッコつけながら水鉄砲を構えるジャックが見える。
「俺も参加した方がいいかな?」
「2人で大丈夫だと思いますよ? カルッチャの数は4匹ですから、2人で2匹ずつなら簡単でしょう」
「そっか」
スミレの許可が出た、って事で俺はそのままシートの背もたれに体を預けて前方をみる。
「スミレ、モニターの表示を3D赤点表示に変えられるか? アラネアは緑点で」
「はい、すぐに変更します」
この3D赤点表示、っていうのは3Dトンネルにカルッチャが赤い点として表示される事を言う。
手前に緑点があり、これが今俺たちのいる位置だ。
それから4つの赤い点が上下左右のトンネルの壁を移動しているのが判る。
「ミリー、矢は何使ってる?」
「う〜ん、と・・火?」
ああ、火炎矢か。確かスミレが楽しそうに作ってたっけ。着弾と同時に火を吹くんだったよな。
「ジャックは・・水、じゃないよな?」
「えっ? 水だぞ。ダメなのか?」
「ダメっていうか、水じゃあダメージにもならないんじゃないのか?」
「水をかけて、雷が落ちるんだぞ?」
「ああ、電撃弾だな」
そういやそういうのも作ってたっけ。
「まぁ、2人の射程距離に入ったらスミレに教えてもらえ。それから2匹ずつ狙えば十分距離はあるからこっちに来る前に仕留められるだろ」
「わかった」
「おうっ」
「って事で、スミレ、教えてやってくれな」
「判りました」
勝手に決めたけど、スミレは快諾してくれた。
多分そのつもりだったんだろうな。
「2人とも、そろそろ射程距離に入りますよ。ミリーちゃんは右側の2匹、ジャックは左側の2匹を狙ってください」
「みゃかせる」
「おうっ」
キリキリという弦を引く音がしてミリーが構える。
その横でジャックは両手で水鉄砲を構える。
俺はそれを見てから、モニターの上に出てきた3D表示を見つめる。
肉眼でなんとなく見えるっていう距離だから、今は3D赤点表示の方が判りやすい。
でも2人は猫だからだろうか、しっかりと目標が見えているようだ。
なんか羨ましいな。
「射程距離に入りました」
スミレの合図が聞こえたかと思うとすぐにヒュンっと矢が飛んでいく音、そしてパンっという水鉄砲を撃った音がほぼ同時に響いた。
俺の目の前の3D赤点表示の赤い点が2つすっと消える。
そしてすでに2射目を構えていたミリーが矢を放つ音したかと思うともう1つの赤い点が消え、パンっという音がしてすぐに最後の赤い点が消えた。
なんだよ、2人そろって2匹ずつのカルッチャをあっさり仕留めたよ。
「ミリー、お見事。ジャックもやるな」
「当たり前だろっ」
「ちゃんとできた、ね」
偉そうなジャックはいつもの事だけど、思わず手を伸ばして2人の膝をぽんぽんと叩いてやる。
「スミレ、もう来てないのか?」
「今のところは大丈夫ですね」
「よし、じゃあ先に進むか」
「コータ、触覚」
「へっ? ああ、カルッチャの触覚ね・・・別に放置でいいんじゃないのか?」
「えぇぇぇ」
いや、えぇぇぇって言いたいのはこっちだって。
あれ、ゴキの触覚だぞ? 確かにあれが討伐証明だし唯一売れる部位ではあるけどだ。それでも触りたくないぞ、俺は。
「とりあえずあそこまで行って綺麗な状態だったら集めましょう」
「わかった」
そんな俺の心の声はバレバレだったのか、スミレが俺の代わりにミリーに返事をした。
「という事ですよ、コータ様。とりあえずカルッチャのところまで移動です」
「・・・はい」
いつだって俺の主張は届かないんだよな、うん。
もう諦めたよ。
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