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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ オークション、そして3つの依頼
197/345

196.

 道中、時々カサカサと音がして、パンジーが動揺っていうのかな、少し体を揺らすのを見た。

 「なあ、スミレ、あのカサカサって音、もしかして?」

 「ボンガラですね。この辺りには多いと調べていたんですが、本当に数は多そうです。これならあっという間に依頼分は手に入るでしょう」

 「ははは・・・そっか、多いのかぁ」

 依頼の分が集まるっていうのは嬉しいけどさ。

 でもだからって蜘蛛の数が多いっていうのは喜んでいい事なのか?

 「なあ、ちなみに、だけどさ。ボンガラってハンターズ・ギルドの依頼掲示板だとどのレベルなんだ?」

 「赤の星4つくらいから紫の星2つくらいですね」

 「俺、赤の星1つなんだけど? ミリーはオレンジで、ジャックなんか黄色だぞ?」

 「だからこそのランク・アップ試験なんでしょう? 今のランクと同じレベルの依頼だったら試験の意味がないですよね?」

 スミレが呆れた、と言いたげに聞き返してくる。

 はい、その通りですね。今のランクに合った依頼だったら確かに試験にはならないよな。

 スミレはふわっと飛び上がりゴンドランド製の羽を動かしながら周囲を見回していると、手綱を握っているミリーがスミレを見上げる。

 「スミレ、ボンガラ、強いの?」

 「そうですね。強いというよりは手強い、といったところでしょうね。でもミリーちゃんもジャックも、それにコータ様もみんな遠くからの攻撃ができますから、近距離の武器しかないよりはやりやすいと思いますよ」

 「そっか、じゃあ良かった、ね」

 ニコニコと俺を見上げて同意を求めてくるミリーに、俺は納得がいかないもののとりあえず頷いた。

 「でも、見えないぜ?」

 「ボンガラは擬態が得意ですからね。体の色を周囲の景色に溶け込ませる事ができます」

 「カメレオンかよ」

 「かめ、なに?」

 「あ〜・・・スミレ、こっちにカメレオンみたいなのいたっけ?」

 ミリーに説明しようとしたもののカメレオンがいるのかどうか判らなくて、先にスミレに尋ねる。

 なんせ彼女は俺のデータ・バンクだもんな。

 「一応それらしいものはいますよ。でも、見た目はトカゲじゃなくて蝶なんですけどね」

 「スミレ、なに、それ?」

 「ミリーちゃん、ファルマーラ、って知ってますか?」

 「うん、おっきなちょうちょ、だね」

 「ファルマーラは姿を隠すのがとても上手でしょう? コータ様が言ったカメレオンというのは同じように姿を隠すのが上手なトカゲさんなんですよ」

 「ふぅん」

 「んなの、見た事ねえな」

 なんとなく納得仕掛けたミリーの頭上から屋根の上にいるジャックの声がしてきた。

 でもまぁそりゃそうだよな、なんせ元の世界にいた生き物なんだからさ。

 「もしかしたら地域によって呼び名が違うかもしれませんね」

 「そんな事あるのかよ?」

 「パロハベリナ、知ってますか?」

 「パロハベリナ?」

 頭を傾げるジャックのすぐそばまで飛んでいくスミレ。

 「はい、この辺りではパロハベリナと呼ばれていますが、アーヴィンの森の近くではピニピッグ、と呼ばれいますね」

 「わたし、ピニピッグ、知ってるよ」

 「俺もピニピッグなら聞いた事あるぜ。肉が美味いんだよな」

 ミリーとジャックはお互い頷きながら、尻尾を揺らす。

 きっと肉の味を思い出しているんだろう。

 「2人が知っているピニピッグという呼び方では、この辺りでは判ってもらえませんよ?」

 「でも同じ、でしょ?」

 「そうですよ。地域によって名前が呼び名が変わるものって結構あるんですよ」

 「へぇ」

 「そうかよ。知らなかったぜ」

 どうやらスミレの例え話のおかげで、カメレオンについては煙に巻けたようだ。

 「あの辺で車を停めようか。みんなそろそろ腹も減っただろ?」

 「うんっっ」

 50メートルほど先に、ほんの少しだけ開けた場所が見えてきた。

 あそこだったら引き車を停めてスミレの結界を張ってもらえば安全だろう。

 昼飯だ、と嬉しそうなミリーはパンジーの手綱を操って早足で移動を始めた。








 ポーチから取り出した魔石コンロを引き車から引っ張り出したシェードの下に設置してやって、俺はサンドイッチの食材を同じく取り出してシェードの下に設置したテーブルに並べてやる。

 あとはミリーとジャックに任せれば大丈夫だろう。

 って事で、俺は早速近くに転がっているおはぎ型の岩を物色する。

 「どれでもいいんだっけ?」

 「はい、特に大きさには問題はありません。そのまま使う訳じゃないですからね」

 「あれ? でもさ、入れ物にするって言ってなかったっけ?」

 「はい、そう言いましたよ。でもなかをくり抜いて入れ物を作るんじゃあないんです」

 「へ? じゃあ、どうやって?」

 入れ物作るって言ってたじゃん、だから俺はてっきりくり抜くんだと思ってたぞ。

 あれ? そういえばどうやって作るかまでは聞いてなかったのか。

 「あれらの岩の中は半水晶化していて、それを使って1つずつ入れる入れ物を作るんです」

 「半、水晶、化? なんだよそれ」

 「化石などで見た事ないですか? まぁ化石という訳ではないんですが、古い年代の地層、というか岩の中には丸い石のようなものが入っている事があって、その丸い石の中が完全な水晶というよりは水晶になりかけ、といったものが出てくる事があるんですよ。あれらはそういった古い世代の丸い石だけが地表に残ったものなんです」

 「聞いた事も見た事もないなぁ・・・・ホントにそんなもん、あんのか?」

 「コータ様の記憶データ・バンクにありましたよ」

 あれ、ホントに?

 さっぱり全く記憶にないんだけどさ。

 「とにかく、その水晶もどきを使って四角い入れ物を作ります。蓋も同じものを使って作ります」

 「それってガラス張りのショーケース、って感じ?」

 「そうですね、そんな感じです」

 「でもさ、ボンガラの粘着液袋なんだろ? ちょっとグロいものを透明の入れ物に入れたくないんだけどさ」

 「ボンガラの粘着液袋は、そんなに見た目は悪くありませんよ?」

 そぉかぁ?

 なんとなく俺のイメージの粘着液袋は魚の浮き袋なんだけどさ。

 「でもさ、だったらアリアナでガラスの入れ物作ったってよかったじゃん」

 「コータ様、この世界にガラスはないと思った方がいいですよ。すこしはありますが質はよくありませんし、とても高くつきますよ。それに1つ作るのに1時間以上かかるので、時間も無駄でしたよ?」

 「お金は別にたくさんあるからいいだろ?」

 「そうはいきませんよ。おそらくそこからが試験なんだと思いますからね」

 「えっ、どういう意味?」

 「ですから、依頼を受けて達成、だけじゃあ意味がないと思いますよ。依頼を受けて、それを達成するためにお金を湯水のように使っていては、収入がない、という結果になるかもしれません。その辺りのきちんと対処できるかどうか、という事も今回の試験の判断材料になるんじゃないでしょうか?」

 あ〜・・・・なるほど。

 全くそんな事考えてなかったよ。

 でもそう言われるとそんな気がしてくるぞ。

 「つまり、ボンガラの粘着液袋を入れるための入れ物を用意するかどうか、それをどのように用意するか、そういった事も今回の試験では審査対象になっている、って事だな」

 『はい、そうだと思います』

 「だからわざわざここまで来てから入れ物を作ろう、って言ったのかぁ」

 スミレの考えに全く気づいていなかったよ、俺。

 「入れ物の素材の事もあり、今回はここを選びました」

 「ついでにヴァイパーも仕留めるため、って事もあるだろ?」

 「もちろんですよ。今回の試験のための依頼だけではわざわざ出てきた意味がありませんからね」

 「でもよく両方ともを仕留められる場所を見つけたな」

 「そのためにたくさんの情報を収集しましたから」

 「そういや、毎晩、お疲れ様だったよな。なんか当たり前に思ってた」

 いつだってスミレが調べてくれるから、俺はそれに甘えきっていた。

 たまには俺が率先してやるべきだったのかもしれない。

 今更だけど、どれだけスミレに負担を強いていたのかに気づいた俺は、しょぼんと頭を俯かせる。

 そんな俺の顔の前にスミレがやってきてホバリングをしながら俺の顔を覗いてきた。

 「コータ様、私はあなたのスキルです」

 「うん、知ってる。だからついつい負担をかけちゃったんだよな」

 「それは負担ではありませんよ? 私はコータ様に頼られてとても嬉しかったんですから」

 いや、そんな気を使ってくれなくてもいいぞ。

 「私の意義はコータ様の手助けになる事です。前にも言いましたよね、もっと私を頼ってください、と。今もそうですよ。私がこの1週間以上の間に収集した情報がこうやって今役に立っている、そう思うだけで私は嬉しいんですから」

 うん、それも前に聞いたよ。

 「でもさ、俺としてはスミレだって仲間だって思ってる。そりゃ俺のスキルのサポートだって事は判ってるけど、それ以上に仲間なんだよ、スミレは」

 「ありがとうございます」

 俺の言葉に、スミレはふわっと顔全体に笑みを浮かべる。

 「そう言っていただけるだけで、私の努力は報われている、そう感じられます」

 「そっか・・でもさ、大変だって時は言ってくれよ? それから何か俺にしてもらいたい事があれば、それだっていつでも言ってくれるのを待ってるからさ」

 スミレだけ苦労しているのって、やっぱフェアじゃないもんな。

 「では1つだけお願いしてもいいですか?」

 「なんだよ。やっぱり無理してんじゃん。いいよ、なんでも言って」

 口では平気、って言いながら、無理してんじゃんかよ、と俺は頭を振ってから目の前でホバリングするスミレを見上げる。

 「もっと仕事を言いつけてください。調べる事、だけでなく、なんでももっとどんどん言いつけてください」

 「スミレ・・・」

 「コータ様たちが眠っている夜中は何もする事がないと手持ち無沙汰で退屈ですからね。朝までの時間潰しに、色々と言いつけてください。どんな些細な事でもいいから、申しつけてくださいね」」

 そんな事言われたら、無理すんなって言えないじゃん。

 夜中に眠る必要のないスミレは1人で部屋にいるんだ。

 だから時間潰しに何かさせてくれ、なんて言われるとさ、今までみたいにじっとしてろ、なにもしないでいい、なんて口に出せなくなったじゃん。

 「・・・判った。何か思いついたら頼むよ。それから俺の許可がなくったって、やった方がいいって思ったらやってくれたらいいからさ。ただまぁ、限度だけは考えてやってくれよ? スミレのストレージにはなんでも入るけど、作りすぎないように自重してくれ」

 「判りました。ただし、自重する時は私の判断ですからね」

 「あ〜・・・ま、いっか」

 スミレの判断だとどこまでやりすぎるか判らないけど、それでもいいか、って思えてしまった。

 「じゃあ、早速仕事をやるよ。ここにいる間、俺たちが寝ていてやる事がなかったら、適当に素材を集めてストレージに仕舞っといてくれ」

 「判りました」

 今のスミレには体があるからな。でかいものじゃなければ触って集める事だってできるんだ。

 「よし、その前にまずは入れ物作りからだ。どの岩がいいか選んでくれたらそれを取ってきて、早速作業始めようか」

 「判りました」

 ふわっと俺の顔の前から前方に見えるおはぎ岩めがけて飛んでいくスミレを見送りながらも、俺もそっちに向かって歩き出した。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。

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