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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ オークション、そして3つの依頼
196/345

195.

 ガタガタと引き車に揺られながら俺たちは進む。

 目的地はアリアナから3日ほど北に進んだ辺りにある岩だらけの場所らしい。

 そう言われて俺が想像していたのはグランバザードを捕獲したような場所だったんだけど、行ってみるとあそことはまた違った岩の世界だった。

 2日目に入った辺りで赤い岩というか岩山が遠くに見えてきた。

 3日目の朝になると、それが渓谷のような場所である事に気づく。

 ゆっくりと渓谷の中にパンジーを進めていくと両脇が赤茶けた岩山が聳えるようになり、更に進むとまるでクレーターのような丸く開けた場所に出た。

 クレーターの中には赤くておはぎのような形の岩がゴロゴロと見渡す限りに転がっていて、その周囲を囲むような崖には風化してできたのであろうアーチ状の岩もあったりする。

 そして、クレーターの中心にはタワーのような細長い岩が何本も天に向かって伸びているのが見える。

 なまじっか転がっている岩が丸いから、とんがっているタワーのような岩とのコントラストが不思議な光景を作り出している気がするよ。

 「コータ、すごい、ね」

 「ああ、なんかすごい景色だな」

 「こんなところに、いるの?」

 「ん? ああ、一応そんな事言ってたな」

 ミリーが「いるの」と聞いたのは、今回の3つの依頼のうちの1つの獲物である魔物の事だ。

 ここに来る道中に依頼にあったケトランという薬草はスミレの探索で見つけて集めてあるから、3つのうちの1つは既に完了していると言ってもいい。

 んで、だ。これからここでボンガラという魔物を仕留めるつもりだ。

 このボンガラという魔物は、見た目は蜘蛛、だそうだ。

 あああぁぁぁぁ・・・やだなぁ。

 俺、蜘蛛、嫌いなんだよ。

 ってか、あんなのが好きだなんて言うヤツ、聞いた事ねえよ。

 なんでもこのボンガラの粘着液袋が依頼の品、なんだそうだ。

 「粘着液袋、って何に使うんだよ、ったく」

 「特殊な接着剤の材料だそうですよ」

 俺の肩に止まっているスミレが答える。

 今日のスミレは俺たち以外誰もいないので、俺様特製の体を使っている。

 だから今日のスミレの声はミリーにもジャックにも聞こえる。

 今までアリアナにいた時はひと前に姿を見せる訳にはいかなかったから、大抵は俺以外に聞こえなかったからミリーが嬉しそうにスミレに話しかけたりしていた。

 「なんだよ、そのまんまじゃん」

 「大抵の接着剤は、熱や水に弱かったり魔力に弱かったりするんです。ですがこのボンガラの粘着液を使った接着剤は魔力にも熱や水にも強く、更に劣化する事がほぼないので高額な商品を作り上げる時や修復が難しいものに対して使われる事が多いですね」

 「えっ、魔力に弱いって?」

 水や熱に弱い、って言うのは判るけど魔力ってなんなんだ?

 「例えば、そうですね・・・アリアナでは中央にある公園に小さな物見のための塔が立っていたのを覚えていますか?」

 「んん? んなもん立ってたっけ?」

 「・・・立っているんですよ。とにかく、その建物は高さが30メートルもあるので、かなり遠くまでアリアナの石壁の向こうを見る事ができるんです。その塔の外壁や屋根にはボンガラの粘着液袋の中身を混ぜて作られた接着剤が使われています。あの塔は屋外ですから太陽熱や雨水にも晒されます。そして、あの塔の天辺てっぺんにはアリアナを守るための仕組みが取り付けられていて、週に1度点検のために魔力が通されます」

 「魔力って、なんで?」

 「あの塔の天辺には飛行型の魔物がやってきた時の対策としての魔法具が取り付けられています。それが稼働するかどうかの点検のために週に1度は魔力を流すんですよ」

 ああ、なるほどな。

 だから自然に対してだけじゃなくて魔力に対しても耐久性が求められるのか。

 「ボンガラの粘着液袋は他にも色々と応用が利くので、できれば3体は余分に仕留めていただきたいですね」

 「へっ? マジ?」

 「はい、できれば、でいいのでよろしくお願いします」

 「で、でもさ、依頼は確か10体以上、って言ってなかったっけ?」

 「そうですね、でもここなら十分数はいますので大丈夫ですよ」

 「ははは・・・・」

 マジかぁ。蜘蛛を10匹以上仕留めなくちゃいけないのかよ。

 「・・・大きさは?」

 「平均的な大きさでしたら、約1メッチですね。その腹に入っている粘着液袋はバレーボールくらいの大きさですね」

 「でっかいんだな」

 「はい。ただ外気に触れると硬くなりやすいので、それ用の入れ物を作る必要があります」

 「それって、ここで作れるのか?」

 「はい、あの辺に転がっている岩を使おうかな、と」

 スミレが指差す先にあるのは、さっきから見ていたおはぎ型の岩だ。

 でも、だ、見た目はおはぎ型でもでかいんだぞ。

 「あれを使って入れ物を作んのか?」

 「はい、その通りです」

 「じゃあ、それが最初の作業だな。そういや、今夜の野営はどこでするんだ?」

 「野営は中央付近でしようか、と思っています。もうこの辺りだとどこにいても同じですからね。それなら後ほどヴァイパーを探すのに便利な中央付近がいいのではないでしょうか?」

 「あ〜・・突っ込みどころ満載な説明、ありがとな。でもまあ、どうせスミレの結界もあるんだし、どこで寝ても一緒だろうからさ」

 「はい、私がきちんとみんなを守ります」

 うん、スミレ、男前なセリフだね。

 「誰も後を尾けて来てないんだよな?」

 「はい、今のところは大丈夫ですね」

 「そっか、じゃあいっか」

 今回の依頼を受けるにあたって1番心配だったのは、俺たちの後を尾けて来るヤツがいるんじゃないか、って事だった。

 なんせ今の俺たちはお金持ちだもんな、グランバザードのおかげで。

 その金をくすねようと考えるヤツがいないとも限らない、とフランクさんからもシュナッツさんからも口が酸っぱくなるほど言われていたんだよな。

 でも、だ。もういい加減ミリーもジャックもストレスが溜まってきていたみたいで、このままアリアナにいるとどこかでフラストレーションが爆発するんじゃないか、って思ってたんだ。

 だからこの機会に羽を伸ばさせてやろう、って事で依頼を受ける事にしたんだ。

 しかも今回の依頼は上手くいけばランク・アップだって夢じゃない。

 って事で、ミリーもジャックもものすごく張り切っている。

 ま、おかげで俺が薬草を集める時も文句を言う事もなく手伝ってくれたから、俺としてはラッキーだったんだけどさ。

 そんな事を考えていると、屋根の上からジャックが顔を出してきた。

 「なあ、今日仕留めるのか?」

 「今日かぁ? 時間があるかなぁ」

 「まだ昼過ぎだぜ?」

 「ん〜、でも、仕留めたボンガラの粘着液袋を保存する入れ物を作らなきゃいけないだぞ?」

 「そんなのあっという間だろ?」

 簡単に言うけどな、お前が作るんじゃないんだろ?

 「あっという間にできる、というんでしたらジャックが作るって事ですね」

 「・・・えっ?」

 「ですから、あっという間にできるんですよね? 頑張ってください」

 俺の肩から羽を動かして飛び上がり、そのままジャックの顔の前でホバリングしながらニッコリと笑みを浮かべるスミレ。

 あ〜あ、バカなヤツ。

 「えっ、俺が作るの? なんで?」

 「あっという間、と言ったでしょう?」

 「いや、あれは別に俺が作るっていうんじゃあ・・・その・・・」

 しどもどと言葉が出てこなくなってしまったジャック。

 俺は大きな溜め息を吐いてから、屋根の方を見上げる。

 「スミレ、そうジャックを虐めんなって。ジャックも、自分でしないんだから簡単にできるだろうとかって事言うなよ」

 「うっ・・・ごめん」

 「おまえ、どのくらい時間がかかるかとかって、全然考えてないよな? じゃあどのくらい大変かなんて判んないんだからさ、余計な事をいうんじゃないの」

 「・・判った」

 それから俺はホバリングしているスミレに視線を向ける。

 「スミレもジャックがなんにも考えてない事くらい判ってたんだろ? だったら判ってないジャックに説明してやれよな」

 「判って言ってたんだと思いました」

 「嘘つけ。ジャックがそこまで考える訳ないだろ。そんな事知ってる筈だ」

 「・・・なんか俺、すごい言われ方してる気がする・・・」

 スミレと俺の会話を聞いてヘコむジャック。

 それを見て自分の言動を振り返ると・・・うん、確かに酷い言い方してるな。

 「おまえ、いい返せないだろ? だからいつも考えて口を開け、って言われんだよ」

 「うぅぅ・・・・」

 「とにかく、だ。とりあえずもう少し進んでから休憩しようか。そろそろ腹も減っただろうしな。そこでジャックとミリーで手分けしてお昼ご飯を作ってくれ。俺はスミレと一緒にボンガラの粘着液袋を入れるための入れ物を作るから」

 「わたし、作れるかな?」

 「ミリーなら大丈夫だよ。それに簡単なものでいいんだからさ。サンドイッチなら作れるだろ?」

 「みゃかせる」

 心配そうなミリーだったけど、サンドイッチなら手助けなしで作れる事は知ってるからな。

 「ジャックもミリーの手伝いをしろよ?」

 「判った」

 「こっちもスミレに任せる事ができるところまで進んだら、2人の手伝いをするからさ。時間があったら串焼きも作るか?」

 「ほんと?」

 「やった」

 肉の話をすると、途端に尻尾が元気よく左右に揺れる。

 さすが肉食系の2人。肉の事を言えばすぐに機嫌が直るんだもんな。

 「もちろん、時間があれば、だぞ。まあ昼に無理だったら、晩飯には必ず肉の串焼きはつけるからさ」

 「わかった」

 「約束だぞっ」

 「はいはい。じゃあ、それでいいな」

 「いいよ」

 ミリーは嬉しそうに返事をしてから、パンジーの手綱を握り直す。

 やる気満々だな、うん。

 俺は口元が緩みそうになるのをごまかすのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。


06/11/2017 @ 18:36 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

ボンガラの粘着糸袋が依頼の品 → ボンガラの粘着液袋が依頼の品

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