194.
翌日、ハンターズ・ギルドに顔を出した。
昨日オークション・ハウスから宿に戻ったら、伝言が残されてたんだ。
まぁどうせ何か依頼でも受けようかなんて思ってたから、丁度いい、って事になった。
それに警護の事で聞きたい事もあるからさ。
俺たちに警護をつけてくれるというシュナッツさんの気持ちは嬉しいけど、それだっていつまでもって訳にはいかないし、いつまでも人の手を煩わせるっていうのもな、嫌なんだよ。
どうしても警護がいるっていうんだったら、自分たちで手配をしたい。
もちろん警護なんてつかないに越した事はないからさ、代わりになるようなものも作りたい訳だ。
その辺はスミレがいろいろと考えてくれているので、それもあってハンターズ・ギルドで何か依頼を受けて外に出たいと思っている。
ただぼんやりと依頼掲示板を見ている俺と違って、ミリーとジャックは真剣に依頼掲示板を見つめている。
うん、獲物を狙う肉食獣、て感じだな。
俺は特に依頼を探す気はない。
っていうかさ、スミレのために出かける訳だからさ。
そういやスミレが何を狙ってるのかちゃんと聞いてなかったな。
「で、今回は何が欲しいんだ?」
『魔物なんですけど、見た目はそうでうね・・・蛇でしょうか』
「へ、へび・・・?」
『はい』
マジか。
「ちなみに、普通のサイズの蛇、だよな?」
『コータ様の言う普通サイズというのがよく判りませんが、魔物ですから大きさはそれなりですよ』
「やっぱりかぁ・・・・んじゃ、どのくらいデカいんだ?」
まさか、グランバザードくらいの大きさ、なんて事言わないよな?
『体長は5メートルから8メートルといったところでしょう。普通の蛇と違うのは体型がずんぐりしています。特に腹部は幅が2メッチで厚みも1メッチ弱あります』
「むっちゃデカいじゃんっ」
思わず突っ込んでから、デカい声を出した事に気づいて口を抑える。
「そんなん普通って言わねえよっ。スミレ、俺の記憶をデータにしてるんだったら、それが普通サイズじゃないって判るよな?」
『そうですか? コータ様の記憶データ・バンクには10メートルほどある蛇の情報もありましたので、それを鑑みて普通だと判断しました』
「う・そ・を・つ・け」
俺はスタッカートを効かせて、ジロリとスミレを見下ろした。
「他の蛇のデータとも比べたら、そんなデカい蛇が少数派だって事、判るだろ・・・まったく」
『失礼いたしました。コータ様を動揺させたくなかったので、普通だと言ったんです』
「あ〜、はいはい。どうせ俺はヘタレで怖がりだからな。気を使わせたよ」
やさぐれていいだろうか、俺。
「でも、なんだってそんなデカいのが必要なんだよ。他のものじゃあ代用できないのか?」
『その、蛇の魔物であるヴァイパーの魔石が必要なんですよ』
「えっ・・・じゃあ、まさか3匹仕留めろ、とは言わないよな?」
『言いませんよ。この蛇はとても特殊な魔物で、3連の魔石を持っているんです』
「さんれん・・・・?」
3連? 3つ繋がってるのか?
頭の中で3連を想像してみるが、玉が3つで三角形を模している状態しか想像できない。
『1列に3個並んでいるんです。成長したヴァイパーには3つの魔石が頭、心臓、そして尻尾の3カ所に見つける事ができます。他の魔物の魔石でも代用は効きますが、効果をあげようと考えるのであれば、ヴァイパーの魔石が一番だと判断しました』
「あ〜・・・まあ、そりゃそうなんだけどさぁ。でも俺たちでも大丈夫なのか?」
『大丈夫ですよ。ちゃんと対策も考えてますから』
「スミレが大丈夫、っていうんだったら、多分大丈夫なんだろうけどさぁ・・・」
でも、だ、体長5メートル以上の蛇、あんまり出会いたくないよ。しかも腹部が2メートルだろ? 体長5メートルに腹部は2メートル。随分とずんぐりした蛇、と思うのは俺だけか?
う〜む、と眉間に皺を寄せて唸っていると名前を呼ばれた。
「コータ」
「えっ?」
声のした方を振り返ると、男が1人こちらに向かってくる。
確かここのギルド・マスターだったよな、あの人。
名前なんだったっけ?
『ギルド・マスターのローガンですね』
「そっか、ありがとな、スミレ」
俺は小声で教えてくれるスミレに礼を言ってから、自分からも彼の方に向かって数歩足を進める。
「ローガンさん、お久しぶりですね」
「コータこそ、忙しかったようだな」
「ははは・・まあ、そうですね。でもようやく落ち着いてきました」
「ああ、そういや昨日のアレ、凄かったらしいじゃねえか」
バシバシと俺の背中を叩きながら話しかけるローガンさん。
いや、その、背中、痛いんですけど。
「あのですね、伝言をいただいていたのできたんです」
「おう、俺が伝言を頼んどいたんだ。すぐにでも来るかと思ってたんだけどよ、お前ら3人とも依頼掲示板に行った、っていうからこっちから出てきたんだ」
「それは申し訳ないです。急ぎではない、とあったのでとりあえずあの2人が依頼を見たいと言ったのでそちらを先にしました」
「ああ、気にすんな。別に文句を言ってんじゃあねえ。伝言したように別に急いでねえからな」
じゃあなんわざわざ、と思ったけど口にしない。
きっと仕事の休憩時間なんだよ、うん。
別にサボりじゃあないんだろう。
「まあいつまでもここでこんな話をしてても仕方ねえからな。悪いけど奥に来てくれないか?」
「あ〜・・・はい、判りました」
俺はミリーとジャックに声をかけようと振り返ろうとしたところで、ツンツンとシャツの裾が引っ張られる。
見下ろすと既にミリーとジャックが横にいた。
どうやら俺がローガンさんと話しているのを見て、今朝話したここでの目的を思い出したようだな。
「みんな揃ってんな。じゃあ、ついてこい」
「判りました」
俺はミリーと手を繋ぐと、そのまま手を引いてローガンさんについていく。
そんな俺たちの後ろをジャックが黙って付いてくる。
前はジャックの手も握ってやろうかと思ったんだけどさ、あいつ嫌がるから止めたんだ。
たまに焦ってる時とかに手を握ってやる程度だな。
ローガンさんに連れてこられたのはこの前と同じ部屋だった。
「お前らも忙しいだろうから、用件だけにするぞ」
「はい」
ローガンさんの前に座った俺たちに、彼はすぐに話し始めた。
「依頼じゃなかったが、お前らはグランバザードを生け捕りにするだけの技量がある、と判断した。って事でちょっとしたギルドのテストを受けてみないか?」
「テスト・・ですか?」
「おう、普通ならギルドのランクは1つずつ上がっていく、それは知ってるな?」
そう言われて俺たちは頷いた。
「でも、だ。実力はあってもなかなかギルドの依頼を受けないようなヤツもいて、そういうヤツはランクの割に技量が高すぎて、それが原因で更に依頼を受けなくなっちまうんだ。だからギルドの方でそういうヤツに向けてテストをする。その結果次第でランクアップをさせる事もあるんだ。間違えるなよ、ランクアップさせるんじゃなくて、させる事もある、って事だ」
念を押すローガンさんだけど、言いたい事は判るよ。
「必要に駆られた時以外はしない、という事ですね。基本は依頼を受ける事でランクを上げていく、と」
「おう、その通りだ。ただし今回はお前らの獲物がデカすぎてな、そのせいで弊害が出ちまったんだよ。指名依頼をしたいっていうヤツが無茶苦茶来やがった。ああ、もちろん全部追い払ってあるから心配すんな」
「えっと・・・話が見えないんですけど?」
「ああ、指名依頼の内容の1つは、グランバザードの生け捕り、だ。そんな事、グランバザードを見つけてから依頼に来い、って言っておいたぜ」
「あ〜・・・それは確かに無理ですね。ありがとうございます」
グランバザードはどこにでもいる魔物、じゃないからなぁ。
あれだってたまたまスミレが見つけた訳だしな。
「他にも、結構無茶言いやがる連中が多くてな。だからおめえらはギルド・ランクが低いから指名依頼は受けられねえって言ったら、ランクをあげろと詰め寄ってきやがった」
「だから、ですか?」
「あん? いや、それだけじゃねえぞ。そんな連中はほっとくに決まってんだろ? 大体そいつらがお前に捕獲してこいっていう獲物は無茶苦茶なもんばっかだからな」
ローガンさんの話では、彼らが依頼を出そうとした魔物はどれも大掛かりな討伐が必要なものばかりらしい。
「俺たちは3人のチームですからね」
「おう、それは判ってる。だからきっぱりと断ってやったぜ。まあ、今回のランク・アップの話はそれとは別だ。だから受けたくないって事なら断ってくれて構わねえ。ただ、これからもハンターとして活動するんだったら、ランクを上げておいて損はねえって思っただけなんだ」
「気を使っていただいて、ありがとうございます」
どうやらローガンさんは外野にやいのやいのと言われたから俺たちのランク・アップをさせようと思った訳じゃないらしいな。
「それで、どうする?」
「どうする、とは? ランク・アップ試験の事ですか?」
「おう」
「そうですね・・・」
俺は顎に手を当ててから、両隣に座っているミリーとジャックを見下ろした。
2人はキラキラと目を輝かせながら俺を見上げている。
うん、その顔を見れば聞かなくても判るよ。
「試験の事を先に聞いてから決めてもいいですか?」
「ああ、そりゃもちろんだ。試験っても、ギルドからの指名依頼を受けてもらう、それだけだ」
「内容は?」
「指名依頼の内容は3種類。1つは薬草だな。もう1つは鉱物で、最期の1つは魔物だ。3つともこなす必要はねえ。できるもんだけやってくれ。期間は2週間。出発はそっちで決めてくれればいい。出発の日から数えて2週間って事だ。んで、その間にできたものだけを持って帰ってくりゃあ、それでランクをどのくらいあげるかの目安になるからな」
「なるほど・・無理をする必要はない、って事ですね」
「おう、無理して取り返しのつかない状態になったって仕方ねえからな」
それだったら、大丈夫かな?
無理そうなら諦めて帰ればいいだけだしな。
「判りました。受けます」
「やった」
「うっし」
俺が受けると言った途端、両隣から小さな歓声が上がる。
ほら、2人はやる気満々だったな、やっぱり。
「よし、んじゃ依頼書を持ってくるから、ちょっとだけ待っててくれな」
ローガンさんは俺の気が変わる前に、とでも言うようにすぐに立ち上がると部屋を出て行った。
俺は両隣でウキウキし始めた2人を苦笑いしながら見下ろすのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。
06/11/2017 @ 18:35 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
あんまり間難くないよ。 → あんまり出会いたくないよ。




