192.
燃え尽きたよ。
真っ白に・・・・燃え尽きたよ。
椅子の背もたれに全体重をかけて、俺は頭から白い煙をあげながら斜め上を見るともなしに見る。
階下ではザワザワと喋りながらオークション参加者たちが帰っていく音が聞こえてくる。
でも俺はもう燃え尽きちゃってすぐには動けない。
「コータ、だいじょぶ?」
「おい、ヘタってんのか?」
ミリーは心配そうに、ジャックは不機嫌そうに俺に声をかけてくる。
でも今の俺はそれに返事をするだけの力すら残っていなかった。
だって、だ。
グランバザードの羽がものすごい高値で売れたのだ。
オークションで売られるまでは俺が持ち主という事になるので、それまでにグランバザードが飛ばしてきた羽は全て俺のものという事になっている。
一応フランクさんからグランバザードの羽の相場、というのを聞いてはいたんだよ、うん。
羽は3つの長さに分けられて、短いものだと1枚5000ドラン以上、中ぐらいのものだと10000ドラン以上で、長いものになると15000ドラン以上という値段で売られるんだよ。
つまり、だ。羽は1枚が最低でも5万円以上になるって事だ。
それが全部で131枚。オークションは3つに分けられたけど、その合計金額は1395000ドラン。約1400万円って事だな、ははは・・・・はぁぁ。
それだけで俺は十分度肝を抜かれて放心してたってのに、ついに始まったグランバザードのオークションは更に酷かった。
オークションの始め値は2000万ドラン。これは鳥かごの値段と鳥かごが設置された土地の購入費の合計が1500万ドランだったからだ。
まさかの鳥かごの値段に俺自身ビックリしたけどさ、それでも最低限それだけは取り戻さなきゃいけないから仕方ないと思ってたんだよ。
でもそれだけだと手数料を支払う俺に儲けが全くでないから、って事で、開始値が2000万ドランに決まった訳だ。
きっとそれ以上の値段にはならないんじゃないのか、なんて思ってたよ、俺。
でも、だ。
そこからは100万ドラン単位で競り値が上がる上がる。
気がついたら1億4千万ドラン以上にまで値段が上がっていったんだよ。
「はい18番、1億4200万ドランが出ましたっっ! 他はいませんかっ? はい32番、1億4300ドラン、手が上がりましたっっ!」
オークション会場中にオークション・マスターの競りの掛け声が響く。
そして彼が競り主の番号を言う度に、おぉぉっっ! っていうどよめきが響き渡る。
「1億4400万ドラン、いませんかっっ!? はいっっ24番。1億4500ドラン、手が上がりましたっっ! 1億4500万ドラン、いませんかっっ!?」
惚けている俺の目の前で、値段はどんどん上がっていく。
「コータ・・・」
「大丈夫だ、ミリー」
「なんかさ・・すっげえなぁ」
聞いた事もないような値段に本気でビビり始めるミリー。
その横で感心したような声をあげるジャック。
でも、きっと彼には1億ドランなんていう金額のでかさは判ってない気がする。
「はいっっ! では1億4700万ドランっっ! いませんかっっ? ・・・・はいっっ! 31番、手が上がりましたっっ! では1億4800万ドラン、どうですかっっっ?!?」
おいおい、まだ上がんのかよ。
もう無理じゃないのか?
でも値段が高ければ高いだけオークションハウスには手数料が入る訳で。
それもあってきっと力が入っているんだろうなぁ。
「はいっ! 24番。1億4800万ドラン、手が上がりましたっっ!! それでは1億4900万ドランはいませんかっっ!?」
思わず前のめりになって、舞台から会場を見回しているオークション・マスターの視線を追いかけるものの、階下は少し薄暗いせいか俺には誰が競っているのかよく見えない。
「1億4900万ドラン、18番が手をあげましたっっっ! 18番っっ、1億4900万ドランですっっっ! ではっっ1億5000万ドラン、いませんかっっっ?!?」
なんか俺の右の方を見上げたオークション・マスターが18番と叫んだ。
って事は俺たちみたいな個室にいる客も競りに参加しているって事か。
「1億5000万ドランッッッ! さあ、誰も競らないのかっっ?!? 1億5000万ドランだあぁあっっっ! はいっっ! 24番が手を上げたぁあっっっ! 1億5000万ドランだあっっ!」
また俺の右の方の個室に目を向けたオークション・マスターが激しく木槌を打ち鳴らす。
それを見た俺は、木槌を打つって元の世界と一緒じゃん、なんて事を頭の隅で考える。
うん、現実逃避だ。
「さぁあああっっっっ! ついに1億5000万ドランが出ましたぁっっっ! 次は1億5100万ドランだぁっっ! さぁって! 誰が競るのかっっ! 1億5100万ドランですっっ!」
オークション・マスターが会場内を見回している。
でも誰も手を上げないのか、彼が奇声をあげる事はない。
「おやおやっ? もう他にはいませんかっっ!? 1億5100万ドランですっっ! 他にいないですかぁああっっ?! 1億5100万ドラン、誰も手を上げませんかぁあ?」
さすがにこれ以上値段は上がらないらしい。
なんとなくホッとして俺はようやく体を椅子の背もたれに預けるだけの余裕が出てきた。
「それでは最終確認ですっっっ! 1億5100万ドラン、いませんか? ・・・・・1億5100ドラン、いませんね? ・・・・・・最終コールです。1億5100万ドラン・・・・いませんね? ・・・・はい、それでは1億5000万ドランで24番が競り落としましたぁあああっっっっ!」
しん、と静まりかえってオークション・マスターが最終コールをしてから、24番が競り落としたと言うと、途端に会場から『ぅわあぁあああっっっ!』と言う雄叫びのような歓声が上がった。
1億5000万ドランがグランバザードと鳥かごの値段で、その前に売れた羽の値段が1395000ドラン。合計が・・・
『1億5139万5千ドランですね』
頭の中で計算していると、肩にとまっていたスミレが教えてくれた。
俺、声に出して計算してなかったよな? それともブツブツ言ってたのか?
『オークション・ハウスに渡す手数料13%が19681350ドランで、シュナッツさんに渡す手数料2パーセントが3027900ドラン。合計は22709250ドランとなります。コータ様の取り分は128685750ドラン。そこから鳥かごの代金と土地の代金である1500万ドランを引きますと、113685750ドラン、となりますね』
さらっと説明をしてくれたスミレだけど、数字がでかすぎて俺の頭では咀嚼仕切れない。
「あ〜、スミレさん、それってどのくらいの金額なんでしょうかねぇ・・・?」
『どのくらい、とは? そのままの数字ですけど?』
「うん、判ってる。ただ数字が大きすぎて頭で理解できない」
『そうですね・・・元の世界のお金で言えば大まかな数字で11億円以上、って事ですね』
「・・・・・マジかぁ」
確かドリームジャンボ宝くじだったか年末ジャンボ宝くじかなんかが、連番で当たればそのくらいの賞金じゃなかったっけか?
俺は呆然としたまま、椅子の背に持たれて視線を空に彷徨わせたのだった。
それから10分以上経った今も、俺はまだ頭から白い煙を出しながら呆然と中空を眺めている。
だってさ、もうね、信じられないんだよ、ホント。
オークション参加料、手数料、その他を取られるにしても、だ。
1億1000万ドラン以上、つまり11億円以上の金が俺たちの手元に入る事になる。
そんな大金、どうしろって言うんだよ。
そうじゃなくたって、俺には登録使用料が入ってくるんだからお金には困ってないのにさ。
まあお金があって困る訳じゃないけど、そんな大金が手に入ったら心配だよ。
フランクさんが言っていた通り、もう暫くは警護の人に付いていてもらう事になりそうだよ。
「コータさん、大丈夫ですか?」
「えっ? あ、ああ、はい・・・多分」
「もうそろそろ落ち着いてきたので行きましょう」
「えっ? どこに?」
「下でオークションの売買手続きをしないといけませんからね」
「あ、ああ、そうですね」
そっか、まだ帰れないのか。
でもまあ確かにあんな大金でグランバザードを買ってくれたんだから、明日にしようとは言えないか。
「どこへ行けばいいんですか?」
「下に小さな個室がありますので、そちらで売買手続きを済ませる事になります」
「じゃあ、今日引き渡しですか?」
「それはお金次第ですね。向こうがお金を既によういしているのであれば、今日中に引き渡しを済ませる事ができますけど、そうでなければお金を受け取るまでは引き渡しはしません」
ああ、そりゃそうか。競り落としたお金をもらう前に商品を渡す事はできないもんな。
でもネット・オークションならまだしも、こんな風に本当のオークションは初めてだからさ、手順がさっぱり判んないよ。
「では案内しますので、付いてきてくださいますか?」
「はい。あっ、でも」
俺は立ち上がってフランクさんの後を付いていきかけて、同じように立ち上がったミリーとジャックを見下ろした。
「ミリー、ジャック、どうする? ここで待っててもいいぞ」
「行く」
「おいてくなよ」
ついてきても面白くないだろう、と思ったんだけど、まあこんなところで待たされても面白くないか。
「んじゃ、おとなしくしてろよ?」
「わかった」
「大丈夫だよ」
うん、そういう君が一番心配だよ。
「時間、かかりますか?」
「いえ、それほどかからないと思います。コータさんは競り落とした相手と顔を合わせて、書類にオークション売買の同意書にサインをして、それからお金とグランバザードの引き渡しの日を決めるだけですね」
「じゃあ、それほど時間はかからないって事ですね」
じゃあ、2人が一緒にいても大丈夫か。
俺が見上げている2人に頷くと、ミリーが俺の手を握りしめてきた。
俺は彼女の手を握り返してから、部屋をでて行くフランクさんの後をついていくのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。
06/11/2017 @ 18:31CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
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