190.
う〜む。
俺は腕を組んで、ベッドで寝ているミリーを見ながらどうしようかと考えている。
ミリーには、今日セレスティナさんから聞いた話をするのは確実だ。
でも、いつ、どこで?
明日、はオークションだ。
これは俺たちも参加するように言われている。
一応グランバザードの情報や鳥かごの使い方、他にも知っている事は全部教えたと思うんだけど、それでも何か質問があった時のためにと言われると参加せざるを得ない。
じゃあ、明日の夕方か夜?
その辺もまだ予定がたたないんだよなぁ。
シュナッツさんがもしかしたらオークションの後のちょっとしたパーティーに参加してもらう事になるかもしれない、なんて言ってたからなぁ。
「明日は1日忙しいんだよなぁ」
『コータ様』
「いや、だってさ、オークションもあるし、その後でパーティーにも出てもらうかもしれないって、言われてるだろ? だったら明日は無理かなぁ、って」
「それで銀虎が先に来て、ミリーちゃんに全部話す、って事ですか?」
「い、いやそれは・・でもさ、今までそんな気配さえなかったんだぞ? なのにいきなり言われたって、なぁ・・・」
セレスティナさんは銀虎には銅虎を探すための特殊な能力が備わっている、という。
でもそれだったら既に遭遇していてもおかしくない筈だ。
俺がミリーを保護してからかなり経つもんな。
まあ、そりゃさ、まっすぐ大都市アリアナに向かって移動した訳じゃないから、途中で行き違ったなんて事もあったかもしれないんだけどさ。
『とにかくできるだけ早めに機会を見つけて話すのが一番いいと思いますよ。コータ様が知っていて話さなかった、なんて事を知ったらきっとショックを受けますから』
「うっ・・そう思う?」
『はい、ミリーちゃん、最初の頃はとても不安そうでしたよね? あれって、また追い払われる、1人きりにされる、そう思っていたからじゃないんですか?』
「そっかぁ・・・確かにそうかもしれないよなぁ」
最初の頃は確かに怯えてたよな。
あんな風に屈託のない笑みを浮かべるようになったからすっかり忘れてたけどさ。
『明日は1時からオークションでしたよね? その前に機会があれば話をしてください。とにかくタイミングを見て、チャンスがあれば速攻でお願いします。私もサポートに入りますから』
「判った、頑張るよ」
まあ、他にミリーにこの話をできるヤツはいないからな。
俺が頑張るしかない。
「スミレは今夜どうするんだ?」
『私は情報集めですね。まだアリアナ全域を調べられていませんし、図書館の蔵書データはとりましたが街中にある本屋の蔵書データは取れていませんので、そういった事を調べようと思っています』
大都市アリアナに着いてから、スミレは毎晩あちらこちらに出かけては情報収集に勤しんでいる。
「なあ、スミレ」
『なんでしょうか?』
「トラ族に関する事も調べてるんだよな?」
『はい。ですが現段階ではあまりこれといった情報はありません。セレスティナさんの言う通り、集落や村の長にしか伝えられない事なのかもしれません』
「そっか・・・」
一族の秘密ってヤツなのかもしれないな。
「あれ? じゃあ、なんでセレスティナさんは知っていたんだ?」
『それはどういう意味ですか?』
「いや、だってさ、一族の秘密みたいなもんなんだろ? だから村や集落の長、つまりトラ族トップしか知らない訳だ。でもさ、セレスティナさんはその事を知っていた。なんでだと思う?」
『それは判りません。もしかしてミリーちゃんの叔母だから、いつか彼女を訪れた時に説明できるように、でしょうか?』
「う〜ん、そう言われるとそれも有りなのか? でもさ、もしかしたら彼女は孤児院の院長をしているけど、アリアナに住んでいるトラ族の代表、とか? そういう事もありえないかな?」
「さあ、どうでしょう」
軽く頭を傾げるスミレに、俺は苦笑いを浮かべる。
「じゃあもし耳に入ったらでいいから、銀虎の事も調べてくれるかな?」
『はい、判りました』
「無理に調べなくても、街中を移動している時に聞こえる噂程度で構わないからさ」
『いいんですか? 酒場とかだったらお酒が入って口が緩んでいる人も多いと思いますけど?』
「ん〜、まあそうなんだけどさ。でも無理はして欲しくないしね」
『判りました。気遣いありがとうございます』
スミレは少しだけ困ったような顔をして礼を言う。
「でもですね。私はコータ様やミリーちゃんたちと違って生きている訳じゃないですから、無理ではないですよ?」
「知ってるよ。それでもさ、やっぱり無理しない程度にしてもらいたいな、って思うんだ」
『判りました』
スミレは少しだけ照れ臭そうにはにかむ。
「そういや明日はフランクさんが迎えに来てくれるんだよな?」
『そう聞いていますね。パンジーちゃんはここでお留守番です』
「俺たちの安全のために、って言って毎日誰かが付いていてくれたけど、結局な〜んにも起きなかったよな。やっぱり心配しすぎてたんじゃないのかなぁ」
『そんな事ありませんよ』
「えっ?」
結局警護は無駄だったんじゃん、と思いながら背伸びをしていると思わぬ言葉が返ってきた。
『コータ様のそばに付いていたのは、フランクさんとショーンさんの2人でしたけど、それ以外にも数名別に警護してくれていたんですよ。その人たちが皆さんに近づいてこようとしていた怪しい人たちを数人取り押さえてくれてますよ』
「そうだったんだ・・・」
『それにここにも忍び込もうとして捕まった人がいましたしね。こちらは外の警護に見つかってその場で捕獲されてました』
「マジか・・・」
そんな事、全く知らなかったぞ。
「フランクさんたちはそんな事、一言も言ってなかったぞ」
『言わない方がコータ様たちも安心だから、じゃないんでしょうか? そんな事を聞いていたら外出できなくなってましたよね?』
「うっ・・・まぁそう言われるとそうかもしれないけどさ」
そうかも、じゃなくてきっと宿に引きこもっていた気がする。
「じゃあ、捕まった人たちの狙いって、やっぱり俺たち、だよなぁ?」
『もちろんです。狙いはシュナッツさんが言っていた通り、グランバザードを無償でコータ様から手に入れるため、ですね。あとは危険な魔物をアリアナの中で飼う事など許せない、という人たちもいたようです』
「えっ? マジか・・それは考えなかったな」
『仕方ありませんよ。今まで姿さえ滅多に見ないような魔物を生け捕りにしてきたんですから。ただ魔物というだけで恐怖を感じる人もいますしね』
確かにスミレの言う通りだ。
魔物、っていうだけで恐怖を感じる人がいたっておかしくない。
正直俺だって、近所にでっかい魔物を飼ってる何て言われたら、怖い気がするしなぁ。
「やめた方がよかった、って事か?」
『いいえ、そんな事ないですよ。確かにグランバザードに対して恐怖感を抱いている人もいますけど、反対にグランバザードがもたらす経済効果を狙っている人もいるんですから』
「・・・経済効果?」
『はい、大都市アリアナに来れば魔物グランバザードを見る事ができます。新しいオーナーはおそらく1回2−30ドランくらいでグランバザードを見られるようにするのではないでしょうか? そのくらいの金額であれば出しても惜しくはないでしょうし、グランバザードを見たと自慢もできますしね』
「ああ、動物園の感覚か」
確かにグランバザードを見に来る人は出てくるかもしれないな。
『そして今までは運が良ければ拾えた羽を、30年という制限はつきますけど定期的に普及させる事もできるようになるんです。それも数枚の羽ではなく、数百枚数千枚という単位の羽です』
「武器になるんだったっけ?」
『そうですね。基本は剣に使われるでしょうね。でもたくさん普及されるようになれば、ナイフも出てくるでしょうし、もしかしたらそのうち違う使い方も開発されるかもしれません』
なるほど、グランバザード見たさに人がたくさんアリアナを訪れればそれだけでお金が動く。
そしてグランバザードの羽がたくさん取れれば、その羽を使った製品が流通する事で更にお金が動く。
それで経済効果、って事か。
『きっとグランバザードを使役できる使役スキルを持った人を必死になって探すでしょうね。そして無事にグランバザードを使役できるようになれば、30年と言わずにグランバザードが死ぬまでアリアナはグランバザードの恩恵を受ける事ができるんです』
「そういやフランクさんも使役スキルがどうとか、って言ってたな」
『はい、使役できれば今以上の安全も確保できますからね』
確かに野生の動物よりも家畜の方が安全って訳だな。
「そうだ。スミレ、あのグランバザードって何歳くらいだと思う?」
『何歳、ですか? そうですねぇ・・・はっきりとは判りませんが、卵が産めるほどの魔力量を保持しているとなると、恐らくは100歳くらいだと思います』
「そっか・・・じゃあ、上手く使役ができれば200年かぁ」
200年もあんな鳥かごの中にいるなんて俺には考えられないけど、グランバザードが納得できるんだったらそれはそれでいいのかもしれない。
『落札者は上手くいけば200年間、大都市アリアナに新しい産業を生み出す事ができるんです。きっと競り落としただけで著名人になる事は請け合いですね』
「そうなんだ」
『もちろん、そんなすごい魔物を捕獲したコータ様も著名人の1人ですよ』
「えぇぇ、それはヤダなあ。目立ちたくないんだけどさ」
『それは無理ですよ。既にグランバザードの捕獲者という事で注目を浴びてますよ』
えっ、そんな可能性、考えてなかったんだけど。
「・・・・マジ?」
『はい、マジです』
にっこりと笑みを浮かべるスミレを見て、額に手を当てて大きく溜め息を吐いた。
『もちろん、それだけじゃないですよ。ほら、生産ギルドの人も言ってたじゃないですか、コータ様は今とても注目されている生産ギルド・メンバーだって。だからあれだけの依頼が来ていたんですよ?』
あ〜、あれね。
ほんの3日前の事だけど、思い出すだけで疲れまで蘇ってきたよ。
あまりの勢いで生産依頼書をテーブルに並べてくるから、俺は一番近くに置かれた5枚だけをまず受ける事にしたんだよな。
残りはリストにしてもらって時間がある時に作業をする、という事にしてある。
「そういやスミレ、あのリストどうしたっけ?」
『リストって、生産ギルドで受け取ったやつですか?』
「うん、そう」
『あれはとりあえず私の方で勝手に優先順位をつけて作り始めています。ものによっては材料が揃っていないので、必要な材料をまとめているところですね』
「そっか、ありがとな。またオークションが終わって落ち着いたら、俺も目を通して手伝うから」
『私の方は大丈夫ですよ。それよりもコータ様はミリーちゃんの事を優先してください』
「・・・はい」
しっかりと釘を刺されてしまった。
でもさ、ミリーの事はできれば先送りしたいんだよなぁ・・・・
セレスティナさんの話の事もあるけど、やっぱり別れる事になるのかなあ、って思うとさ。
ちょっとおセンチになっていたけど、そんな俺に構う事なくスミレは俺の目の前でホバリング。
『では私は出かけてきますね』
「ああ、うん、いってらっしゃい」
俺が頷くのを見て、窓をスーッと通り抜けて行ってしまった。
「寝よ・・」
俺はもう一度だけ大きな溜め息を落としてから、ベッドに潜り込んだ。
読んでくださって、ありがとうございました。
そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。
06/11/2017 @ 18:22CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
「でもですね。私は〜〜」 → 『でもですね。私は〜〜』
危険は魔物をアリアナの中で飼う事 → 危険な魔物をアリアナの中で飼う事
あれはとりあえず私の方がで勝手に → あれはとりあえず私の方で勝手に
06/01/2018 @ 17:55 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
危険魔な物 → 危険な魔物




