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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ オークションまでの1週間
189/345

188.

 なぜか俺たちが座っている辺りの明かりは消されて、窓の前に立っているミリーとジャックのすぐそばに明かりが灯されているだけだ。

 なんでも雰囲気が大切なのだ、と言って子供たちが消してしまったのだ。

 まあそれはそれで俺としてもセレスティナさんと話がしやすいから丁度いいといえば丁度いいんだけどさ。

 時々子供たちがいる方から『おおっっ』とか『すっげー』とか歓声が上がるのを聞きながら、俺とセレスティナさんはお茶を飲みながら話を始めた。

 「セレスティナさんはいつからここに?」

 「私ですか? 私がここにやってきたのは30年ほど前の事ですね」

 「そんなに前なんですか?」

 「私が暮らしていた一族の集落があったのはここから南に10日ほど行ったところにあります。私はそこで20歳の時まで住んでいたんですが、そのあと他の数人の仲間と一緒に旅商人として10年ほど各地を転々としながら暮らしていました。そうしているうちに仲間も集落に戻ったり街に定住したりして数を減らしていき、私もこの街に定住する事にしたんです」

 「10年も旅をしていたんですね。それはすごい。でも、あれ?」

 20年集落で過ごして、10年旅をして、ここには30年? って事は、セレスティナさんは・・60歳?!?

 マジかっっ!

 俺は思わず前に座る彼女を見てしまう。

 だってさ、彼女、どうみたって30くらいにしか見えないぞ。

 「どうかされましたか?」

 「えっ? いや、その、別になんでもないです」

 うん、なんでもない、なんでもない。

 「それで、ミリーのお母さんと姉妹なんですよね?」

 「はい、ミリーの母親であるファルミアーナは、私と一緒に集落を出て旅をしていたんです。その時に途中で私たちの仲間になったバクスターと出会って恋に落ち、彼と共に生きるために私たちの商隊抜けていきました。それが20年前の話です」

 「じゃあミリーの両親が商隊を離れてからすぐにセレスティナさんも商隊を離れたんですか」

 「ええ、そうなりますね」

 少し淋しそうな笑みを口元に浮かべるセレスティナさん。

 「それからは連絡は取ってなかったんですか?」

 「いえ、3回ほどファルミから手紙が来ました。その最後に来た手紙の時に娘が生まれた、と書かれていたんです」

 「それがミリー、ですね」

 「はい、でも名前が、その、覚えているのとは違っていて・・・」

 「ああ、ミリーの本当の名前はマリアベルナです。ただ猫系トラ獣人だからなのか、上手く発音ができなかったので彼女と相談をして自分でも言えるような名前を考えたんです」

 「発音ができない・・・ああ、そういう名前をつけるんですよ」

 「えっ、そうなんですか?」

 「はい、きちんと発音ができるようになったら、それが大人になった証になるんです。もちろん女の子だけなんですけどね。なぜか猫系獣人は『な』の発音が小さい時はできないんです。ですが成人すれば『な』を発音できるようになります。まあ、それでもわざわざ気をつけるのが面倒臭いからといって『な』が『にゃ』になる者も多いんですけどね」

 なるほど、猫系獣人だからこそのネタなのか?

 そういえば都市ケートンで話をしたネコ族の3人姉妹も語尾が『にゃ』だったような気がする。

 でも、あれ?

 ミリーは『な』をちゃんと発音できてるぞ?

 発音できないのは『ま』の音だ。

 「あの・・ネコ系獣人だと『な』が言えないんですか?」

 「はい、子供のうちは無理ですね」

 「その・・『ま』・・じゃなくて?」

 「『ま』ですか? いいえ、それは問題ない・・・ああ、そういう事ですか」

 「えっと?」

 何を1人で納得しているんだ、セレスティナさんは?

 「あの子は選ばれた子供だったんですね」

 「あの・・・」

 「可哀そうに・・・ああ、だから愛称がマリーでなくてミリーなんですね」

 「セレスティナさん?」

 だからさ、俺にはさっぱり判らないんだけど?

 「コータさん、あの子の両親はどうなったんですか?」

 「えっ?」

 「妹から手紙が来なくなってからも私は心配で手紙を数回出したんです。けれど二度と返事は戻ってこなかったんです。ファルミかバクスターが受け取っていれば、返事はくれた筈なのに・・・」

 俺が言っていいのか?

 「あ〜・・・その、ですね。詳しい事はミリーに聞いた方がいいと思うんですが、ミリーのお母さんは彼女が小さい時に亡くなったそうです。それからミリーのお父さんは俺と出会う少し前に・・・」

 「あぁぁ・・・・」

 両手で口元を押さえ、そのまま俯いてしまったセレスティナさん。

 きっと俺が濁した言葉の先も判ったんだろう。

 ミリーのお父さんはミリーを守るために亡くなった。

 お母さんも亡くなった。というか、おそらく彼女の死がきっかけとなって村を追い出されたんだと思う。

 もちろん、これは俺の推測なんだけどさ。

 「あの子は・・・虐げられていたのでしょうか?」

 「それは俺には判りかねます。俺は旅の途中で立ち寄った村で依頼を受けて薬草を探している時に、たまたま倒れていたミリーを見つけたんです。だからそれ以前の事は彼女に聞いた事しか判りません」

 「・・・そうですか」

 「それにあまり深く聞く事もできなくて・・・だからミリーが自分から話してくれた事だけしか俺は知らないんです」

 だってさ、親を亡くしたばかりの子供にあれこれなんて聞けないよ。

 「あの子と話をしてもいいですか?」

 「もちろんです。ただ、ミリー自身は大都市アリアナにいる叔母と会う事に躊躇しています」

 「それは・・・」

 「おそらく怖いんだと思います。ミリーの話では、彼女のせいで父親と一緒に村を追い出された、と言ってましたから」

 「どうして・・・」

 「ミリーの毛色が他と全く違ったから、だそうです」

 目の前のセレスティナさんはトラ族らしい黄色と黒の髪と耳と尻尾を持っている。

 そしてミリーは赤銅色だ。

 でもこうしてみていると、なんとなく目元が似ている気がする。

 「やっぱり・・・あの子は・・・」

 「セレスティナさん?」

 セレスティナさんは1人で納得している様子だ。

 でも俺には相変わらずさっぱり判らない。

 と、頭を傾げているとセレスティナさんが俺をじっと見つめてきた。

 「コータさん」

 「は、はい」

 「あの子はいくつだと思いますか?」

 いきなりの質問に、俺は頭にハテナマークを浮かべる。

 「えっと・・10歳・・・くらい?」

 もしかしたら12歳とか?

 そういや俺、はっきりとミリーの歳を聞いた事があったっけか?

 初めて会った時のミリーはとてもじゃないけど自分の事を話せるような状況じゃなかったしな。せめて誕生日くらいは聞いておいた方がいいかもしれない。

 「そうですね、とても幼く見えますね」

 「えっ? じゃあ、12歳、くらい?」

 「いいえ」

 セレスティナさんは俺の言葉に口元に笑みを浮かべる。

 「じゃあ・・実は幼い、とか?」

 「いいえ、あの子は今年18歳になる筈です」

 「・・・・・はあ?」

 ミリーが18歳? 身長が120センチくらいしかないのに?

 「いやいやいやいやいや、さすがにそれは。ミリーをどう見れば18歳だと? セレスティナさんの覚え違いなんじゃないんですか?」

 「いいえ、ファルミが生まれたと教えてくれたのは18年前です」

 「それ、ミリーの姉とか?」

 「いいえ、マリアベルナという名前の娘だと書いてありました」

 「で、でも、もしかしたら運悪く最初の娘が事故か何かで亡くなって、それで同じ名前をつけたとか?」

 「それはありません。亡くなった子供の名前はもっとも忌避しなければならない名前ですから。同じ名前をつけると同じ結末を迎えると言われています」

 縁起が悪い名前、って事か。

 「だ、だったら、その、同姓同名、とか?」

 「コータさん」

 「いや、だって、その・・・」

 そんなん信じられる訳ないじゃん。

 だって、どう見たって10歳程度だぞ。

 喋り方だって幼いし、行動だってとてもじゃないけど18歳とは思えない。

 「コータさん、マリアベルナが幼く見えるのは理由があるんです」

 「えっ、そうなんですか?」

 「あの子は選ばれたトラの姫ですから」

 「・・・・・はっ?」

 選ばれたトラの・・・姫?

 頭を傾げてから、ふと思い出した。

 「次代の虎系の王・・・?」

 「知っているんですか?」

 「いえ、その・・・ミリーを探していると・・・」

 聞いた、と言えないんだった。

 ここだけの話として聞いた話だから、口にしちゃいけない事だった。とはいえすっかり忘れていたんだけどさ。

 「その話をどこまで知っていますか?」

 「どこまでって・・・次代の王が探しているのがミリーかもしれない、という事だけです」

 「そうですか・・・・」

 セレスティナさんは顎に手を当てて、何かを考えているようだ。

 でも、俺にすらよく判っていない言葉に反応した、という事は、やっぱり何か関係があるという事なんだろうか?

 そんな事を考えながらセレスティナさんが顔をあげるのを待っていると、ゆっくりと顎から手を離したセレスティナさんが俺をまっすぐ見据えた。

 「コータさん」

 「はい」

 「トラ族の次代の王はマリアベルナを伴侶の1人として探しているんです」

 セレスティナさんの口から出たのは、次代のトラ族の王様がミリーを探している、という言葉だった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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