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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ オークションまでの1週間
183/345

182.

 グランバザードがいる倉庫にやってきたのは、シュナッツさんとオークションの事で話した次の日の事だった。

 迎えに来たのはフランクさんだった。彼はシュナッツさんの警護をしていると聞いていたんだけど、どうやら俺たちと昨夜あって顔見知りになったからという事で今回の俺たちの警護を任される事になったそうだ。

 そんな彼をパンジーの引き車の御者台に座っている俺の隣に乗せて、ミリーとジャックは屋根の上に乗っての移動だ。

 その道中に俺はフランクさんから今日の事を教えてもらう。

 「じゃあ、これから移動させるんですか?」

 「はい。南門のすぐ隣にオークション用の倉庫と建物があるんです」

 「南門、ですか? あそこって農作業用の出入り口専用だって聞いたんですけど?」

 「そうですね。もちろん普段は農作業に使われる事が多いです。アリアナに用がある人には東か西の門を使うようにと言ってますしね。ただし、例外もあるんです。それがオークションですね」

 「はぁ・・・」

 どう例外なのかさっぱりだけど、とりあえず頷いておく。

 「いつもではありませんが、オークションによっては騎馬や希少獣といった動物から、比較的人の手でも扱えるような魔獣や魔物といったものまで出品される事があるんです。そういったオークションを街中でする事は大変な危険を伴なう事になるので、外壁のすぐ近くで行われる事になります。その会場はアリアナにあるオークション・ハウスのオーナーが集まって出資して作られました。もちろん大都市長であるリバラタ様も出資なさっております」

 「ああ、だから農業用地が広がっている南門のすぐそばなんですね」

 「はい、もし万が一の事が起きても、あの辺りでしたら人があまり住んでいませんから、被害も少なく済みますしね」

 とはいえ全く人が住んでいない訳じゃないらしい。

 「南門とその周辺石壁内外には農業畜産地域が広がっていますので、その地域で働く奴隷が住んでいる奴隷小屋3棟、孤児院が1軒、畜産地域に見張りのための小屋がいくつかありまるだけです」

 フランクさんはそれから大都市アリアナについての豆知識を俺たちに教えてくれた。

 大都市アリアナは楕円形、というよりは卵型のような形に張り巡らされている石壁に囲まれている。北が卵の上の部分で南がでっぷりした卵の下の部分だと考えれば大体の形が判ると思う。

 東西南北に門はあるけれど、入退場に使われる門は東西の門のみで、北はアリアナを統べている領主ともいうべき立場の大都市長リバラタの広大な敷地が広がっている。そこは彼の一族の家々だけでなく自警団の宿舎や訓練場もあり、そこから出入りできるのは有事の時以外は自警団のみであるらしい。

 そして南門は石壁の外に広がっている農場に出て行く農業関係者やそこで働く奴隷たちが利用する門で、門番はいるけれど旅人は東西の門を使うようにと言われるだけで、よほどの有事の時でない限りそこから入退場はさせてもらえない。

 「その例外がオークションに出品される動物や魔物を搬入する時ですね。その代わりこれは事前に許可を取っていなければならないので、許可がなければ入場させてもらえません。もちろんオークションにも出品はできません」

 「えっ、じゃあ、俺たちも本当は出品できなかった、って事になるんですか?」

 「そうですね。でもそれはあくまでも基本としては、ですよ。コータさんのように突発的に捕獲できたといったものはまた話は別ですね。もちろん、その辺にいる動物や魔獣であれば許可は降りませんが、今回のグランバザードのような希少な魔物となれば事前に予定して捕獲できるようなものではありませんからね」

 まあな、確かにあれは計画して見つけられるものじゃないらしいし、大体普通じゃあ捕獲しようなんて思わないだろうしな。

 「それで、ですね。その倉庫の中にグランバザード用の檻を出していただけますか?」

 「あ〜、まあできない事はないんですけど、倉庫が小さかったら無理だと思います」

 「そんなに大きな檻を用意しているんですか?」

 「はい、狭い檻に閉じ込めたりしたらすぐに死んじゃうんじゃないかな、って思ったのでそれなりに羽を広げて少しは飛べる程度の広さに仕上げてあります」

 もちろん、大きさを考えて作ったのはスミレだけどさ。

 俺はスミレの説明を聞いて、うん、と言っただけだ。

 でもスミレの事を言う訳にはいかないから、こう言った時にはいかにも俺が考えましたって言わなきゃいけないんだよな。

 「あっ、でもですね。グランバザードの大きさを考えたら、そんなに大きくはないですよ」

 「そうなんですか?」

 「はい、だって俺たちが捕獲したグランバザードは体長が10メッチありますからね、翼を広げたら18メッチくらいになるでしょう? そんな大きな鳥を飼う鳥かごなんですから、大きくなるのは仕方ないと思いませんか?」

 「はあ・・・でも、その、ちなみに大きさは?」

 「高さ50メッチ、幅も50メッチで、奥行きが40メッチになります。中は左奥の角に高さ5メートルのところに直径が8メッチに同じ大きさの屋根が更に5メッチ上にある巣を用意してあります。形としてはお椀型ですね。それから地上から20メッチと35メッチの位置に2本の止まり木をつけるようにしてあります。これは太さ50セッチ(センチ)あるので、グランバザードでも安心です」

 俺が細かいサイズを話し始めると、隣に座っているフランクさんはぽかんとした顔で俺を振り返る。

 あれ、なんかおかしいのか?

 「本当ならもう少し大きな鳥かごの方がいいんですけど、さすがにこれ以上大きくすると場所を取りますからね、設置する場所を選定するのが大変だろうと思ってこの大きさに留めました」

 「いや、そのですね・・・40メートルの鳥かごなんて大きすぎるような・・・」

 「そうですか? でも高いお金を払って手に入れたグランバザードがほんの数ヶ月で死んでしまうと元が取れないですよね? それよりはある程度の自由を与えてやって少しでも環境をよくしてやる方が羽を多く手に入れられると思いますよ」

 「は、はあ・・・そう言われるとそうかもしれませんけど・・・」

 フランクさんは戸惑ったような顔を俺に向けてくる。

 うん、実は俺もデカすぎるかな、とは思ったんだよね。

 でもさ、狭すぎるよりはデカすぎる方がグランバザードが住む環境としてはいいんじゃないか、と思ったんだよ。

 これから30年という期間を過ごす場所になるんだから、少しでも過ごしやすい環境を提供してやりたいじゃん。

 「まあ、シュナッツさんには大きさを伝えてあるし、それでいいと許可も頂いてますからね。フランクさんは気にしないでも大丈夫だと思います」

 「はあ・・」

 シュナッツさんには昨夜のうちにその点に関しては伝えてあるんだ。

 彼も最初は驚いていたけど、グランバザードの大きさを考えたらそのくらいになるだろう、って言ってたぞ。

 ただ場所が必要になるだろうから、って事で彼は1足先にオークションが行われる場所に行っている筈だ。

 俺にもオークション会場の名前を教えてくれたけど、名前だけだとどこかなんてさっぱり判らないんだよな。

 「とにかく、グランバザードを積み込んだらすぐに移動しますからよろしくお願いします」

 「判りました」

 俺は頷きを返してから、パンジーを倉庫のある場所に進めた。







 「おおっ」

 「やっぱ、すげえな」

 なんとか組み立て終えたグランバザードの鳥かごの前には、なぜか20人ほどの人が立って眺めている。

 「これはあとでどうやって手入れをすればいいか、も説明書か何かを書いてくださいね」

 「はい、もちろんです。羽を集めるための仕組みも組み込んであるので、そちらの事もちゃんと説明書を用意してありますから」

 「なるほど。それは助かります」

 「その点もきちんとオークションの中で説明しておくべきでしょうな」

 「ええ、もちろんですとも」

 俺は最後の確認として、鳥かごの左側にある壁の部分に設置してあるコントロール・ボックスをいじる。

 うん、動作確認終了。

 「スミレ、どこか変なとこはないかな?」

 『今のところ全てきちんと作動していますよ』

 「うん、ならいいんだ」

 俺はコソコソとスミレと話をして、なんの問題もない事を確認する。

 「はい、以上で鳥かごの方は準備できました。それではグランバザードを中に運び入れたいので少しだけお手伝いしていただけますか?」

 「はい、もちろんです」

 「全員で運べば大丈夫でしょう」

 クチバシも別にぐるぐる簀巻きにしてあるので、突かれる心配はないからみんな安心して中に運び入れる手伝いをしてくれる。

 「そこに下ろしてください。はい、横向きに・・・うん、もう少しだけ斜めに顔を動かして・・はい、それで大丈夫です」

 俺は横たわったグランバザード顔の角度まで指定してから、全員が外に出るのを見てからドアを閉めた。

 「こちらのドアで開閉できますが、誰にでも開閉できるようでは安全ではありませんので、一定の人だけが開閉できるように認証式にしています。今は俺だけが開閉できるようにしてありますが、オークションで買われた人とは相談で誰がドアの開閉ができるように設定するか話し合いたいと思います」

 「おお、それなら安心ですな。嫌がらせでこっそり忍び込んでドアを開けられて逃げられた、なんて事になるとお互い困りますからなぁ」

 俺の説明を殊の外喜んでくれたのは、このオークション・ハウスの管理を任されているというタキさんという人だった。

 やっぱり心配だったのだろう。

 「それでエサはこちらのボタンで箱を上げ下ろしができるんでしたね」

 「はいそうです。でも気をつけてくださいね。くれぐれも人が乗ってない事を確認してからあげてください」

 もちろんです、と少し緊張気味に頷くタキさんだ。なんせオークションの日までは彼が面倒をみる事になるんだもんな。

 「それにしても本当にこの場所でよかったんですか?」

 俺はふと心配になってシュナッツさんに尋ねる。

 彼が指定したグランバザードの鳥かごの設置場所は、オークション・ハウスから200メッチほど離れた場所だったからだ。

 「大丈夫ですよ。ここはオークション・ハウスと隣接していますが、オークション・ハウスの敷地外なんですよ。この鳥かごのためにわざわざ鳥かごとその周囲の土地を購入したんです。この土地の費用もグランバザードの必要経費として競り値に加算される事にしていますから」

 なんとも早い仕事をする人だよ、シュナッツさんは。

 今日俺を迎えに来たのはフランクさんだけで、シュナッツさんは役所に行って土地の購入を済ませていたのだ。

 なんでもこの辺りの土地の持ち主は大都市長であるリバラタ氏なので、彼から朝一番に購入したんだと言っていた。

 昨夜帰りに自宅の方に連絡を入れていたそうだ。

 つまり、グランバザードを買った人はこの土地と鳥かご、それに中にいるグランバザードを手に入れる事ができる。

 確かにこれなら少々中心部から遠い事を除けば、鳥かごを設置する場所を考える必要もないし、郊外だから事故の心配をする必要もないだろう。

 そりゃあ警備の人をつけるとか、柵や壁を張り巡らせるなんて事は必要かもしれないけど、それでも外壁に沿って建てられた鳥かごなら安全な気がするよな。

 鳥かごは後ろ左右が壁になっていて、檻となっているのは前と上だけだ。

 底の部分も地上2メッチの高さから檻になっている。

 カゴの中に入って掃除や手入れをする訳にはいかないからさ、カゴの底の部分は可動式の屋根で自由に動けるようになっている。そうでもしないと飛んでくる羽を避けられないからなあ。

 この屋根も小さな魔石を使う事で可動させる事が簡単にできるように計算されている。しかも省エネタイプだから、小さな魔石でも1年は軽く持つ筈だ。

 「さすがコータさんですね。よく考えられています」

 「そうですね。どうやってグランバザードなんていう危険な魔物の世話をするのか心配していたんですが、あの可動式の屋根があれば安全に世話もできるでしょうしね」

 「ははは・・・それじゃあ、グランバザードを放しますので」

 「お、おお」

 「ここなら安全なんですよね?」

 「はい、大丈夫ですよ。鳥かごの下に無防備に入らなければ大丈夫です」

 でも可動式の屋根があれば安全だけどね。

 俺は可動式の屋根を使ってグランバザードの真下まで移動する。

 そんな俺を心配そうに見つめているシュナッツさんたちにミリーとジャック。

 「スミレ、これは切っちゃうのか?」

 『いいえ、コータ様の魔力を使ってありますからね。その魔力を抜いてしまう事で拘束を無力化できます』

 「どうやって?」

 『それは私がしますから、コータ様はいかにも何かしているといった感じでナイフを持った手を上にあげてください・・・そう、その辺ならいかにも作業をしているように見える筈です』

 う〜ん、ヤラセだな、これは。

 でもまあ正直にいう必要もないから、いっか。

 俺はスミレの指示に合わせててを左右に動かしてグランバザードの拘束を解いている真似をする。

 「おおおおっっっ!」

 バサっと言う羽を動かす音と観客からの歓声が上がったのは同時だった。

 俺はスミレの指示に従ってすぐに屋根の下に移動してから、屋根を安全な場所まで移動させる。

 それから屋根の下から出るとみんなが並んでいるところまで移動してから鳥かごを振り返った。

 そこには1週間以上羽を拘束され続けていたためか、止まり木に移動して羽を広げてくちばしを擦り付けているグランバザードの姿があった。

 止まり木にいる自由になったグランバザードがいるだけで、あれだけ大きく見えた鳥かごが小さく見えるから不思議なもんだ。

 とりあえず観客のみんなが落ち着いたら、グランバザードにエサをやろう。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/20/2017 @ 23:35CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

昨夜壁を張り巡らせるなんて事は必要 → 柵や壁を張り巡らせるなんて事は必要

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