181.
途中で区切れなくて、ちょっと長くなっています。
なんとか宿に戻った頃には晩飯の時間だった。
「お腹減った、ね」
「ぐーぐー言ってるぜ」
部屋に戻ると2人がお腹を抑えながら訴えてくる。
「判ってるって。俺も腹減ってるしな」
「じゃあ、すぐに行く?」
「いいよ」
やった、と尻尾をヒュンっと揺らした2人は俺を待つ事もなくドアを開けて外に出る。
先に下に降りてテーブルを確保してくれるつもりなんだろう。
『コータ様、大丈夫ですか?』
「うん、もう大丈夫だって言っただろ?」
『ですが・・・随分吐血をされてましたから・・・』
「ミリーのおかげですっかり元気になったよ。それにスミレに言われたから、ポーションも飲んだだろ?」
スミレに言われて、ほんの数本しかない上級回復ポーションを飲んだのだ。
正直もったいないなと思ったけど、3人がそれで安心するんならいっか、って思ってさ。
「それより、俺も下に降りてくるよ。スミレはどうする?」
『食事が終わったら部屋に戻られますか?』
「そのつもりだよ。ああ、でもシュナッツさんかその配下の人が来るんだったよな」
『そうですね。オークションの事を聞かなくてはいけませんから』
「どうしようか? ここに来てもらった方がいいかな?」
多分下の食堂だと人目がありすぎると思うんだよな。
『その辺りは彼らの判断に任せればいいと思いますよ。部屋で内密に、という事であればこちらに戻って来ればいいんじゃないんですか? ここなら座る場所もありますから』
「そうだな。判った。んじゃ、もしここで話をって事になったらミリーかジャックに一足先に戻ってスミレに教えるよ」
『ありがとうございます』
スミレは俺たちが晩飯を食ってる間は部屋にいて、魔力充填装置のブラックボックスを作るつもりだとか。
だからスキルを使ってるところを見られないためにも、ミリーかジャックに動いてもらうつもりだ。
「じゃあ行ってくるよ」
俺はそう言ってミリーたちと一緒に晩飯を食べるために階下に向かった。
カチャ、と部屋のドアを開けると一足先に戻ったミリーが窓際にあるソファーの上を片付けているところだった。
もちろんカモフラージュなんだけどさ。
一応シュナッツさんには散らかしているので、という事でミリーに先に上がってもらったのだ。
「ミリー、もう片付いたかな?」
「おわった」
「ありがとな」
白々しくミリーと会話をしてから、ドアを大きく開いて廊下で待っていたシュナッツさんとその護衛であるフランクさんに入ってもらう。
「どうぞ」
「すみません」
申し訳なさそうに頭を下げるシュナッツさんとフランクさんだけど、俺は気にするなと手を振ってから中に入るように促した。
「これはなかなか広い部屋ですね」
「そうですね。無理を言ってみんなが同じ部屋になるように言いましたから」
最初は個別に部屋を何て言われたけど、ビビりまくっていたミリーとジャックの希望でこの部屋にしてもらったんだよな。
と、そこまで考えて俺は誰がこの宿を手配してくれたのかを思い出した。
「そうだ。シュナッツさん、こんなすごい宿を取ってくださってありがとうございました。あまりにも立派な宿だったのでビックリしました」
宿を変えて欲しい、と思った事は口にしない。
さすがにそれは失礼だろうし、何と言ってもこの宿の素晴らしさを堪能させてもらった後では、どこに行っても不満が残るに違いないもんな。
「いえいえ、喜んでいただけてこちらとしても手配した甲斐がありました」
「本当にいい宿で、今まで立ち寄ったどこの宿よりも居心地がいいです。とても感謝しています」
「そうですか。コータさんたちに失礼がないように、と考えてこちらにしたんですが、そう言っていただけるだけでここを選んで良かったです」
俺は2人にテーブルにある椅子を勧めてから、2人の前の椅子に座った。
ミリーとジャックはテーブルに近い位置にあるベッドに座っている。
そして誰にも見えないけど、俺の肩にはスミレが座っている。
「それでオークションの事ですよね?」
「はい、日程が決まりましたのでそのお知らせと、それに関してのお願いに来ました。といっても既にハンターズ・ギルドのローガンさんが話した、と聞いてますけどね」
苦笑いのシュナッツさんに俺は頷く。
「ええ、一応。でも詳しい事は聞いてないんです。ローガンさんがハンターズ・ギルドの方に護衛に依頼が来たと言ってました。それとできればあまり依頼を受けて出歩かないで欲しい、と言われた事だけです」
「ええ、その通りです。オークションは今日から丁度1週間後の午後の2時から始まります。場所は事前にご案内しますし、当日はこちらまでお迎えに来させていただきます」
「えっ? でもそれってお手数ですよね? 場所を教えてくれたら自分たちで行きますよ?」
「いえいえ、ここからだとちょっと離れているので馬車で移動した方が楽ですよ。それに護衛たちの事も考えると全員一緒の馬車で移動した方が楽でしょうしね」
「ああ、そっか。護衛の人たちの事まで考えてなかったです。それじゃあお願いしていいですか?」
「もちろんです。こちらこそ無理を言って申し訳ありません」
「いえ、無理を言ってるのはこっちですから。俺たちとしては助かっているんです。こんないい宿を紹介してもらった上に、オークションの事も色々と手筈を整えてもらっているんですから」
なんせ来た事もない大都市アリアナだからさ、オークションと一口で言ってもピンキリだからどこのオークション・ハウスやディーラーを使えばいいのかも判らないからさ。
「あのですね、仲介料はちゃんと受け取ってくださいね?」
「え? いいえ、そんな大した事をしていないのですから、そのような事は気にしないでください」
「気にしますよ。ここに到着してからお世話になりっぱなしですからね。せめて仲介料は受け取ってもらわないと」
「しかし・・・」
「仲介料を受け取ってくれないんだったら、グランバザード、逃しちゃいますよ?」
「えっ? いや、それは・・しかし・・」
スミレが仕入れてくれた情報だと、オークションに商品を出品する時に信用というのが必要なんだとか。とはいえ初めてやってくる土地に俺たちが信用できる出品者だと証明してくれる人はいないのだ。だから、そういう時は仲介料を払って証人になってくれる人が必要になる。もちろん、出品者が粗相をすればそれが全て証人になってくれた人物のところにも連帯責任として粗相の責任をとらされるから、かなりの金額を積まなければ証人を見つける事はできないんだって聞いたんだよな。
スミレはあとで借りを作らないためにも仲介料は払っておくべきだ、と言ったんだよ。
それもそれなりの金額を、ってな。
「オークションの出品料とオークション・ハウスに支払う仲介料はいくらですか?」
「・・今回のオークション・ハウスの出品仲介料は売値の13パーセントです」
『でしたらシュナッツさんに支払う仲介料は5パーセントくらいが妥当でしょうね』
シュナッツさんの数字を聞いたスミレがすぐに俺に囁いた。
「それでは売値の5パーセントをシュナッツさんが受け取る、というのはいかがでしょうか?」
「えっ? いや、それは貰いすぎですよ。というよりもですね、仲介料はいただけません。この手助けは、色々とご迷惑をおかけした事に対して、コータさんたちにこちらの誠意を見せたいと思っただけですから」
「シュナッツさんが俺たちに何かした訳じゃないでしょう? だからそんな事は気にしなくてもいいんですよ。それよりも俺たちとしてはこうして手を貸してくれるだけで本当に助かってますから、これくらいは受け取っていただきたいんです」
「いや、それでも5パーセントは貰いすぎです」
「そうですか?」
「そうですよ。コータさんは、これがどのくらいの金額になるか判っていないんでしょうね」
あれ、なんか呆れたような口調で言われてしまったぞ。
「確かに大きな魔物ですけど・・・それに羽がとても価値があるって事も知ってるし・・・」
「グランバザードの羽を集めるというのは命がけの仕事なんですよ? 大体グランバザード自体、なかなか人の前に現れないんです。ですからたまに落ちている羽を拾えば、それだけで結構いいお金になるんです」
うん、それはスミレが教えてくれたよ。
でも、さ。俺としてはちゃんとそれに関しての計画がある訳だよ、うん。
「いや、あの、その事で話があるんですけど、俺、期限付きでグランバザードを売ろうと思っているんです」
「・・・・・はっ?」
「グランバザードは魔物で、おそらく寿命は300年前後だと何かの書物にあった記憶があります」
嘘です、スミレが調べました。
「ですので、30年間だけ飼育できるという権利をオークションで売ろうと思っています。俺たちが用意したグランバザード用の檻は耐久年数が30年です。だから30年経てばグランバザードは逃げる事ができますね。もちろん街中でいきなりあんなでっかい魔物が飛び出すと大騒ぎになると思いますから、檻はこちらが指定する場所に設置していただく事も条件です。それなら30年後にグランバザードはまた自由を取り戻せますから」
「コータさん、それは・・」
「もちろんそう条件をつける事で誰も買い手がつかない事だって考えています。その時は俺が出資者としてグランバザードの羽を供給する店を作ろうと思っているんです」
「それでしたらどうして最初からご自分で店を出されないんですか?」
「いや、その・・・」
だって、めんどくさいじゃん、と正直に口にできないぞ。
困った俺は視線だけをスミレに向ける。
『商売に関しての知識もなく教育も受けていないので失敗するのが目に見えているから、というのはどうでしょう?』
スミレはあっさりと言い訳を考えてくれた。
「その、ですね。正直に言って俺には商売に関しての知識は全くありません。それに商売の教育だって受けた事がありません。そんな俺が色気を出して商売をしようとしたら、失敗するのは目に見えています。だからそういうのはきちんと知識がある人に任せたいんです」
「なるほど・・・コータさんはとても謙虚な方ですね。あのような大物を捕まえたのに天狗になるでもなく、そうやって慎重に判断できるというのはとても素晴らしいです」
「えっ、いや・・その・・まあ、そういう事なんです。だからオークションでは30年という期間限定にしたいんですけど、もしかしたらそういうのって商品になりませんか?」
「それはどういう・・?」
「魔物とはいえ自由を奪ったまま死なせるのは忍びなくて・・・ですから、30年だけ鳥かごで生活させて、そのあとは自由にしてやりたいんです」
俺としては30年でも長すぎる気がしたけど、でも300年以上生きるってスミレが言ってたからさ、それならその10分の1だけ、っておもったんだよな。
「あ、もちろん、その間にグランバザードの方が鳥かごに留まりたい、と言うのであれば、30年という限定期間は無効です」
「それは使役させる、という事ですか?」
「そうですね。そんな感じでしょうかね。使役される事によってグランバザードが自由を望まないというのであれば、それもありかな、と」
なるほど、とシュナッツさんは顎に手を当てて少し考え込んでいる。
「もしかして、そういう条件をつける事はできないんでしょうか?」
「いえ、条件つきの物件というのはたまにありますから」
「じゃあ、やっぱり魔物にそんな温情を見せるのは駄目、という事でしょうか? だったら誰もオークションの競りに参加してくれないでしょうかねぇ・・・」
「そうですね・・・普通でしたら、無理でしょう」
あぅっ、やっぱりそうかぁ・・・スミレが楽観するなって言ってたもんな。
「しかし、その商品がグランバザード、となればそうとは限らないでしょう」
「えっ、そうなんだ?」
「私もきっぱりとは言い切れませんが、2−3年ではなく30年という長期という事もありますし、何と言っても価値が高い魔物であるグランバザードですからね。おそらくはその条件で値段は落ちると思いますが、それでも欲しがる人はそれなりにいると思います」
「じゃあ、このままオークションに出しても大丈夫、って事ですね」
「はい、ただその前にグランバザードに関して判っている情報を全て集める必要はありますけどね。オークションの時にその辺りの事を一緒に説明できれば大丈夫でしょう」
「じゃあ、俺たちも図書館に出かけていろいろ調べてきます」
「そうされるのが一番でしょうね。私の方でも調査させましょう」
「お願いします。それでですね、仲介料の事ですけど」
「別に必要はないんですが・・」
『では、2パーセントと提案してみてください。それなら全部で15パーセントとなりますよ』
「じゃあ、2パーセントでどうですか? それなら全部の経費は15パーセントです。確かオークションの仲介料は10−15パーセントでしたよね? だったら丁度いいんじゃないですか?」
スミレのアドバイスを速攻で口に出してみた。
「・・・判りました」
「ありがとうございました。ありがたくいただきます」
少し逡巡してから、シュナッツさんは承諾してくれた。
それから俺たちはもう暫くの間、オークションに関しての話し合いをしてから明日の午前中に倉庫で顔を合わせる事にしたのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 05/20/2017 @ 23:10CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
30年という期間限定2したい → 30年という期間限定にしたい
部屋の内密に、という事であれば → 部屋で内密に、という事であれば
ビビりまくっていたミリとジャック → ビビりまくっていたミリーとジャック
さすがにそれは不敬だろうし → さすがにそれは失礼だろうし(礼儀に反すると言う意味で使ったのですが、それよりも『失礼』の方がいいのではとの事で変更しました)
檻は耐久年月を30年です → 檻は耐久年数が30年です
俺には正直に関しては全く知識はありません → 正直に言って俺には商売に関しての知識は全くありません




