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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 到着
180/345

179.

 ミリーが必死に俺の名前を呼んでいるような声で意識が覚醒した。

 俺は手を動かそうとしたけど動かせない。

 でもさっきまで冷たく感じていた身体がなんとなくポカポカとしてきた気がする。

 特に胸のあたりはさっきまでの押しつぶされたような痛みが殆どしなくなった。

 「うっ・・」

 声を出そうとして出てきたのは短い呻き声とコポッという何か液体が出た音だ。

 「コータッッ!」

 今度ははっきりと聞こえるミリーの声。

 その声で本当に目が覚めた俺はゆっくりと目を開ける。

 「コータッッ」

 「ミ・・ゴホッ」

 ゴボっという音がして口からよだれが出た。

 うっわ、恥ずかしい。

 そう思って手をあげて口元を拭こうとしたけど、どうにも腕に力が入らない。

 「コータ、動いちゃダメ、だよ」

 「そうですよ。じっとしていてください」

 心配そうにカウンターの向こうにいた職員さんがミリーの横で俺に声をかけてきた。それから布で口元を拭ってくれる。

 うぅぅっ、恥ずかしいっ。

 でもそんな羞恥心は、彼女が手にしていた布を見て吹っ飛んでしまった。

 だってさ、彼女が俺の口元を拭ってくれた布は赤くなっていたんだ。

 「ミリー、俺・・」

 「だから喋っちゃダメ。コータ、大怪我したんだ、よ」

 「そうですよ。こちらのミリーさんのおかげで怪我は治してもらえましたけど、出血した分はどうしようもありませんからね。もう少しだけそのままでいてください。私はコータさんが目を覚ました事を知らせてきますね」

 怪我? 一体いつ?

 それに俺はどこにいるんだ?

 確かさっきまではギルドのカウンターに立っていた筈なんだけどな。

 俺は目だけを動かして周囲を見回すが、そこはどう見てもさっきまでいた場所じゃない。

 多分個室のようなところに連れてこられたんだろう。

 バタバタと慌てたような足音が聞こえてきたかと思うと、開けっ放しのドアからジャックが飛び込んできた。そしてその後ろから入ってきたのは、知らない50代くらいの男だった。

 「おう、目が覚めたのか? もう大丈夫なのか?」

 「もうだいじょぶ、でも、無理できない、よ」

 「おお、そうかそうか」

 声が上手く出せない俺の代わりにミリーが返事をする。

 それから男に指示をして俺の上半身を起こさせた。

 「コータ、これで口すすいで」

 ミリーが差し出したのは水が入った木のカップ。そしてカップより一回り大きな器を俺の前に差し出した。

 俺はミリーに手助けしてもらいながら水を口に含んで軽く濯いでから器の方に口の中の水を出した。

 それを数回続けてから、ようやくミリーがカップと器を俺の前からよけた。

 「ありがとな」

 「コータ、もうだいじょぶ?」

 「うん、多分」

 俺は寝かされていたソファーから男の手を借りて、座る位置に移動してから大きく深呼吸をした。

 喉の奥がまだ何か膜のようなものに覆われているような感じで時々咳が出るけど、それでも最初の時のように大量の血が出てくる訳じゃなく少し血が混じった痰が出るだけだ。

 それを見てミリーが俺に水を飲むように勧めてくれるから、言われるままに1口2口水を飲んだ。

 「吐き気とか、ない?」

 「うん、いまのところはね。ミリーのおかげだよ」

 「良かった・・・」

 ほうっと安堵の息を零したミリーは本当に俺の心配をしていたんだろう。

 でも俺にはさっぱり何が起きたか判らない。

 俺は周囲をキョロっと見回してから、もう一度視線をミリーに戻して尋ねてみる。

 「ミリー、一体何があったんだ?」

 「コータ、おそわれた」

 「・・・・はっ?」

 俺が襲われたって?

 俺はミリー以外に部屋にいるジャックとカウンターにいた職員さん、それにもう1人の男に目を向けた。

 「それがですね、コータさんの知り合いと名乗る方が、その、背後から抱きついたせいで、コータさんは肋骨を3箇所折るような重傷を負いました」

 「えっ・・・? 本当に・・?」

 俺の知り合いが抱きついただけで、俺の肋骨が折れたのか?

 俺ってそんなに軟弱じゃないつもりだったけど、もしかしてすごく弱いのか?

 「俺の知り合い、ですか?」

 「ああ、本人はそう言ってる。でもな本当に知り合いだったら、あんな酷い目には遭わせないだろうって事で、とりあえず取り押さえて別の部屋に拘留している」

 「あんな人知らない、よ」

 「俺も見た事ねえぞ」

 ミリーとジャックが尻尾の毛を逆立てているのが見える。

 う〜ん、2人とも怒ってるなあ。

 「じゃあ、折れた肋骨はミリーが治してくれたのか?」

 「うん。でも骨が胸に刺さってる、って・・・コータ、血を吐いたから・・」

 その時の状況を思い出したのか、ミリーの目に涙が滲んできた。

 「心配かけたな。でもミリーのおかげで助かったよ。本当にありがとな」

 「うっ、うん」

 いつもなら抱きついているであろうミリーだけど、今は俺が怪我をしたばかりだからか遠慮して俺の太ももを握りしめているだけだ。

 「自警団を呼ぼうかとも思ったんだけどな、とりあえずそいつとお前が本当に知り合いかどうかを確認した方がいいと思ったんだが、会いたいか?」

 「そうでしね。俺の知り合いって言うんだったら、誰なのか知りたいです」

 「よし、じゃあ、俺が連れてくるわ。ワンダは3人にお茶でも持ってきてやてくれ」

 「判りました」

 カウンターにいた職員さんは男に頷いて彼の後について部屋を出て行った。

 そっか、あの人の名前、ワンダって言うんだ。

 俺はソファーの左端に移動して座ると、ミリーとジャックを見ながらその隣をポンポンと叩いた。

 「ほらミリー、ここに座れ」

 「でもね」

 「いいから、ミリーが座ってくれた方が落ち着くからさ」

 しぶしぶといった感じで座った割に、ミリーはそのまま俺の腰にしがみついてきた。

 きっとすごく心配したんだろうなあ。

 「それからジャックも座れって」

 「おっ、俺は大丈夫だぞっっ!」

 「うん、知ってる。でもな、座った方がお茶が飲みやすいだろ?」

 「お、おう」

 少し躊躇ったものの、素直にミリーの隣に座るジャック。

 「ごめんな、心配かけて」

 「だいじょぶ」

 「それでさ、どんな人が俺にしがみついてきたんだ?」

 「しがみついてない、よ。あれ、コータおそった」

 「変なヤツだったよ。デッカい男のくせにヒラヒラの服着てたぞ」

 「ピンクの頭、だった」

 デカくてヒラヒラした服を着た男? ピンク色の頭?

 なんか記憶に引っかかる形容なんだけど・・・・誰だっけ?

 そう思っていると、ワンダさんが戻ってきて、俺たちの前にお茶を置いてくれた。

 「すみません」

 「いえいえ、災難でしたね」

 「はあ。でも俺には何が起こったのかさっぱり判らないので」

 「すぐにローガンさんが、その、あなたの知り合いだという人を連れてきますからね」

 部屋にいた男の名前はローガンというらしい。

 「ローガンさんってワンダさんと同じようなギルドの職員さんですか?」

 「いえ、ローガンさんはここのハンターズ・ギルドのギルド・マスターです」

 「ええっ? その、そんな人を使いっ走りにしてよかったんですか?」

 「大丈夫ですよ。彼もコータさんの事を心配してましたから」

 いや、そういう問題じゃない気がするんだけどさ。

 でもまあ、本人が連れてくるって言ったからいいのか?

 まあ、とりあえず俺たちはワンダさんが持ってきてくれたお茶をありがたくいただく。

 特に俺はまだ口の中が鉄臭かったから、少し苦めのお茶がそんな口の中を洗い流してくれるみたいで丁度良かった。

 「おう、こいつなんだけどな、知ってるか?」

 お茶を飲んでホッとしたところで、ローガンさんがノックをする事もなく開けっ放しのドアから入ってきた。

 最初に見えたのは、ショッキングピンクの髪の毛。

 それからローガンさんよりも高い2メートル近い身長が目に入った。

 「サ、サーシャ・・さん?」

 「コータちゃああっっん!」

 俺の姿を見て駆け寄ってこようとしたサーシャさんだけど、縛られていたロープのせいでガクンっと上半身だけ俺の方に倒れた格好になる。

 「なんだ、本当に知り合いだったのか?」

 「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、言ったじゃない。私とコータちゃんは既知の仲、だって」

 ポッと頬を染めてくねくねと上体をくねらせるサーシャさんから、俺はそっと視線を外した。

 だって、おい、あんな気持ち悪いもの見たくないぞ。

 「でも、そいつ、お前から顔を背けてるぞ? 既知の仲っていうより不慮の知り合い、の間違いじゃないのか?」

 「んっっっまああっっ、しっつれいな事をいう男ねっ! コータちゃんがそんな酷い事する訳ないじゃない。んっとうに、これだから男ってむさいのよねっっ」

 いや、それ、違うと思うぞ。

 それにサーシャさん。あんただって男だろうが。

 俺は心の中で突っ込む。だって、口に出すと何を言われるか判らないからさ。

 「よし、とりあえず。こいつを知っている、って事でいいのか?」

 「え〜っと、知っているというか・・そうですね、1度だけ会った事があります」

 「はあ? おまえ、1度会っただけの相手の事を既知の仲なんていうのか? そんな事を言ってたら、その辺ですれ違っただけの相手も既知の仲って事になるだろうが」

 呆れたような口調のローガンさん。

 うんうん、もっと言ってやっていいからな。

 「ええええええぇぇぇぇ、でもねぇ、確かに私たち、1日しか一緒にいなかったけどぉ〜、一緒に素晴らしいものを開発した仲なのよ?」

 「なんだ、その素晴らしいものって? 素晴らしく変態なもの、の間違いじゃないのか?」

 「えええぇぇっ、ひっどぉ〜い。私、これでもそれなりに名の知れた錬金術師なんだから。バカにしてたら痛い目に遭うわよ」

 「あほか、おまえは。その前に自分の事を心配しろよな。おまえ、その人を殺しかけたんだぞ。訴えられても文句は言えねえぞ」

 「うっそ〜ん。そんな事ないわよね? 私はただひっさしぶりに顔をみた知り合いに挨拶をしただけなんだもん」

 だもん、って気持ち悪いんだけど。

 それでも一応心配そうな顔をしているからなあ。

 俺は困ったような顔で隣に座るミリーとジャックを見下ろした。

 2人は相変わらずお怒りのようで、尻尾が毛羽立っているのが判る。

 う〜ん、どうするかなぁ。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/17/2017 @21:50CT 珍しく自分で誤字を見つけたので訂正しました。

ポッと頬を染めてくねくねと状態をくねらせる → ポッと頬を染めてくねくねと上体をくねらせる

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