17.
『じゃあ、スキルを使いましょうか』
「うん。あっ、でも、ちょっとだけ待ってもらえるかな?」
スキルを使ってレベル上げをする事に異存はない。
でもその前にする事がある。
「俺、常時依頼を受けるため、っていう理由で村を出てきたんだ。だから、スキル上げする前に、そっちを先に片付けておきたいんだけどな」
『常時依頼、ですか?』
「うん、イズナっていう薬草採取をしようと思ってね。スミレ、イズナって知ってる?」
『イズナ、ですか? ちょっとお待ちください・・・はい、これですね』
スミレに見せようと思ってポーチからさっき一生懸命書き写したイズナの絵を取り出したのと同時にスミレがスクリーンにイズナの写真を映し出した。
「あぁぁ・・・・そうだよな〜。スミレに会うって判ってたんだからさ〜・・・あぁぁ」
スミレにはデータバンクがあるんだった。
すっかり忘れてたよ、あんなに苦労して描いたのにさ。
『コータ様?』
「いや、気にしないで。俺が勝手に落ち込んでるだけだから」
『それは?』
「これ・・・俺がギルドで図鑑を見て書き写したんだけどさ・・・正直絵が下手だから・・・」
『え〜っと・・・その、特徴は掴んでますよ。それに解説も書かれているので、絵だけで判らなくてもその解説があれば大丈夫ですっ』
スミレが必死になってフォローを入れてくれるけど、絵で判らなくても、って事は俺の絵が壊滅的だと言っているようなものだとは気づいていないみたいだ。
「まぁいいや。それでさ、スミレ。この写真をプリントできる?」
『当たり前です。私はプリンターですよ』
「うん、そうだな。あっ、でもさ、写真をプリントするんじゃなくって、緻密な絵に見えるって感じにする事はできる?」
『もちろんです。プリンターの機能を使えば、写真を絵画風にアレンジする事は簡単です』
「んじゃ、そうしてくれるかな? それから、ついでにこの辺で採取できそうな他の薬草の写真もアレンジしてプリントしてくれると助かるよ。次からはそれを持ってギルドのカウンターでどの薬草が必要か聞いてみるからさ」
2階で図鑑を見るのもいいけど、スミレがプリントしてくれた写真を持って行った方がてっとり早いからな。
「それから暫くはスキルは展開したままにするから、一緒に探してくれると嬉しい」
『喜んで』
俺に頼られて嬉しいのか、スミレはニコニコ笑顔で俺に頷いてから早速スクリーンに向かって俺が頼んだ絵の制作を始めた。
俺はそれを横目に、ふと思いついた事を口にした。
「そういやさ、スミレの姿って神様が決めたのか?」
『私の姿、ですか?』
「うん、それともスキルを展開した時にスミレが勝手にその姿を選んだのかな?」
こんな可愛い子が俺のスキルだなんて、とずっと思っていたんだよな。あの神様が設定したにしては気が利きすぎている。
『いいえ、この姿は神様が設定したものですよ。なんでもコータ様の好きなものを使ってこの姿にしたそうです』
「・・・俺の、好きなもの?
『はい。コータ様のコレクションの中から特に多かったモデルを使ったとか』
「俺の・・・コレクション・・・?」
おい、ちょっと待て。
今なんだか不穏な言葉が聞こえた気がしたんだが。
コレクションって、まさか・・・・
『コータ様が住まわれていたお部屋の押入れの奥に隠していた、100体以上あったフィギュ--』
「わあああああああああああああああああ!!!」
両手を振り回してスミレの台詞をぶった切る。
ちょっと待てやっっっ!
「なんで、それ、神様が知ってるんだよっっっ」
『どうしてって・・・神様はコータ様のスキルを作る時に、コータ様の記憶を探ってどうしたものを作りたいと思うのかを調べてました。その方がよりコータ様の希望に沿えるだろうから、と」
「あの野郎・・・・」
勝手に人の記憶を読みやがって。
おっと、それよりも大事な事があるんだった。
「それで、俺の部屋は・・・どうなった?」
『コータ様の部屋、ですか?』
「ああ、元の世界の俺の部屋、だ」
すっかり忘れてたよ。
俺が死んだって事は、実家から両親がやってきて俺の部屋を片付ける、という事を。
って事は、両親は俺が密かに集めていた珠玉のコレクションを見た、って事か?
やばいっやばいっやばいっやばいっ
俺は立ち上がると、ウロウロと歩き回りながらどうしようと考えるが、既に死んで違う世界に転生してしまった身としては今更どうしようもないのだ。
「うっわぁ、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
『コータ様?』
「ホントにどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
ウロウロというよりはオロオロといった方がいいほど俺は動揺している俺。
『コータ様、一体何が?』
「うわぁぁぁぁぁ・・・・どうしようどうしようどうしようどうしよう」
もし両親が俺の部屋を片付けた時、押入れの奥のアレを見たら?
百歩譲って親父ならまだ許せる。
同じ男だからな、きっと俺の気持ちも判ってくれるだろう・・・多分。
けど、だ。お袋は駄目だ。絶対に俺の趣味、受け入れてもらえないよ。
死んでからお袋に勘当されたかもしれない、俺。
俺はがっくりと膝から崩れ落ちて、そのまま両手を地面につきorzのポーズで固まってしまう。
『あの・・・コータ様?』
「スミレェ・・・どうしよう」
『一体どうしたと言うのでしょうか?』
「なぁスミレ、神様、なんか言ってなかったか? そのさ、俺が死んでから、俺の家の事で・・・・その・・・」
言えないっっ。さすがにスミレにも言えない、こんな事っっ。
俺の珠玉のコレクションであったフィギュアたちがどうなったのかなんて、聞けるわけないじゃないかっっ。
そりゃさ、俺はチキンだったから無茶苦茶“もろエロ”っていうのは持ってなかったけど、それでも結構きわどいっていうようなフィギュアは持っていたんだよ。
あぁ、お袋が見つける前に親父が見つけてゴミ袋に投げ入れてくれた事を切に願うよ。
『コータ様が言いたい事はよく判らないのですが、コータ様のご両親の事を鑑みて神様は元の世界からコータ様の存在自体を消去されました。大切な息子を自分のせいで亡くした両親が悲しむ姿を見たくなかったから、と仰られてました』
「・・・・・・・えっ・・・・マジ?」
『はい。ですので、コータ様の住まわれていたお部屋というのも中にあったものは、誰も住んでいない部屋に物があるのはおかしいだろうからとの事で片付けたそうです』
「そ、そっかーー、それは良かったなーーー、ありがたいなーーー」
棒読みの台詞だが、ここは許してほしい。
既に動揺しまくっていて、嬉しい気持ちもすっかり凍り付いてしまっているのだ。
そんな俺は頭の中でスミレの言葉を数回反芻してみて、ようやく彼女が俺に伝えた事を理解した。
そしてそれは俺の胸に小さな痛みを与えた。
「・・・俺の両親、俺の事、忘れた、のか?」
『えっ・・・その、はい。息子を亡くした辛さを味わうよりは、最初からいなかった事にした方がご両親のためになるだろう、との事です』
「そっか・・・」
神様なりに気を遣ってくれたんだろうな、って判ってる。
ただ、それでも親父とお袋が俺の事を覚えていないって事が、ちょっとだけ淋しかっただけだ。
それでも、だ。
俺の黒歴史を両親の前に晒さないで済んだ、と思うとほんの少しホッとした。
『それで、ですね。神様はコータ様が元の世界で所持されていたものは全てコータ様のスキルである私のストレージに移動させました』
「・・・・・・・・・・・・・・えっっ?」
俺の持ち物全部、スミレが持ってるのか?
「・・・・・・・マジ?」
『はい』
うっそーーーーーっん。
マジかーーーーー。
「も、もしかして、俺のコレクション、全部?」
『全てかどうかは判りませんが、コータ様のスキルのストレージに入っています』
「えっ? でも、なんで? スミレ、そんな事言ってなかっただろ?」
『その点に関しては申し訳なく思います。コータ様の前に初めて現れた時、私はまだレベル1でしたのでストレージ機能は使用できませんでした。ですのでその中に何が入っているかは判りませんでした。そしてストレージ機能はレベル2から使えるのですが、自分から検索をかける訳ではないのでこうしてコータ様と話している時までその事を失念していました』
ああ、そりゃそうだな。スミレは俺のスキルだから、勝手にあれこれ検索する訳じゃないもんな。
今ストレージ機能の事を思い出したのも、俺の押入れの隠し財産の事が話題になったからなんだろう。
「いいよいいよ、スミレが気にする事ないよ。こんな事で文句は言わないさ」
『そう言って頂けると大変ありがたいです』
「あっ、でもさ、って事はスミレは俺のコレクションが何か知っているんだ」
『もちろんです』
「あぁぁぁぁ・・・・・」
それはそれでまずいじゃねえかっ!
「その・・さ。その・・・この事は俺とスミレだけの秘密って事で、お願いしたいんだけど?」
『私はコータ様に不利になるような事はいたしません。ですので、誰にも言うなというのであれば、この秘密は絶対に他言いたしませんのでご安心ください』
「あ〜・・まぁ、その、なんだ・・・お願いします」
俺はじっとスミレを見つめてから、その場で土下座をしたのだった。
その土下座は、神様が俺にして見せたのと同様の完璧な『DO⭐︎GE⭐︎ZA』であった事はいうまでもないだろう。
読んでくださって、ありがとうございました。




