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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 到着
179/345

178.

 バラントさんから受け取った俺の、というか俺とスミレの登録商品の特許使用料金はかなりの金額になっていた。

 それでも、既に特許使用料金設定は周知されているので1パーセントの利率は変えられない、とバラントさんから申し訳なさそうにいわれたけど、別に暴利を貪りたいわけじゃないから気にはしていない。

 だってさ、俺が登録した訳だけど言ってみればパクリ商品だしな。

 そして俺たちは今、ハンターズ・ギルドに行くために乗合馬車に乗っている。

 生産ギルドはアリアナの東門の近くだったから歩いて行けたけど、ハンターズ・ギルドはアリアナの西門の近くだから歩くとなると結構遠いんだよ。

 なのでバラントさんが乗合馬車を使えばいい、と教えてくれた。

 値段はとても良心的で1人小銅貨3枚(約30円)で、いくつかあるメイン道路を走っているらしい。

 ここは都市ケートンと違ってうちの引き車で移動しても構わないらしいんだけど、それは東西南北を走る約15通りあるメイン道路だけで、それ以外は歩きという事になるんだとか。

 それならパンジーを停車場にほったらかすよりは、という事で乗合馬車になったんだ。

 ガコン、と揺れてから馬車が停まり、俺たちは御者に礼を言ってから馬車から降りた。

 「コータ、ここ?」

 「みたいだな」

 「おっきいねえ」

 目の前の3階建ての石レンガの建物を見上げるミリーの頭をポンポンと叩いてから、俺は同じように見上げているジャックの2人の背中を押して歩き出す。

 「今日は依頼は受けないんだからな」

 「わかってる」

 「仕方ねえな」

 今日はどんな依頼があるかを見に来ただけだ。

 今夜シュナッツさんからオークションに関する連絡が来る筈だから、予定はそちらが決まってからじゃないと立てられない。

 その事は2人には昨日のうちに説明してあるから納得してる。

 「どんな依頼、あるかな?」

 「俺たちにできるような依頼があるといいな」

 「へんっ、俺たちだったらなんでもできるぜっ」

 「あ〜、はいはい」

 偉そうな事を言ってるけどな、お前は自分のランクが黄色だって判ってるのか?

 「そうだ、常備依頼は確認しないとな」

 「そだね、チンパラ、あるかな?」

 チンパラと薬草はそのために集められるだけ集めてここまで来たんだ。

 できればそういった常時依頼があると助かるんだよな。

 常時依頼でもこなせばそれは俺たちのランクアップに繋がるからさ。

 ギルドのドアを開けると、カラン、と音がした。

 「ベル?」

 「みたいだな」

 ドアを見上げてカウベルみたいなのがぶら下がっているのを指差すミリー。

 俺はミリーと一緒に見上げてから建物の中を見回した。

 建物の左側3分の1の辺りの出入り口から入って左の壁と正面の1部が依頼掲示板となっていて、右側を向くと建物の半分の辺りからカウンターが並んでいるのが見える。

 今まで入ったギルドは奥が広くてカウンターも奥にあったけど、ここは左右で分けているようだ。

 カウンターの前には数人のハンターだろう人たちが並んでいて、依頼掲示板の前にも数人の人が立って眺めているのが見える。

 俺たちは俺が赤色、ミリーがオレンジ色、そしてジャックが黄色だからその3つの依頼掲示板から依頼を受ける事ができる。

 とはいえ2人はささっと走って赤の依頼掲示板に行っちゃったけどな。

 そんな2人を苦笑いしながら見送った俺は、黄色から順番に常時依頼を見ていく事にした。

 「う〜ん、薬草は知らない名前ばっかだな」

 『地域性があるって事なんでしょうね』

 「まあな。でもそうなるとあんまり売らない方がいいのか? だって、いつ必要になるか判らないからさ」

 『それよりも今日もうこのあと宿に戻るんでしたら、私は図書館や本屋などに行って情報収集してきますね』

 「ん? ああ、そうだね。頼めるかな?」

 『はいっ』

 俺が頼むと嬉しそうにするスミレ。

 俺としては頼む事が多くて申し訳ないんだけど、スミレとしてはもっと頼んで欲しいらしいからなあ。

 「さっきバラントさんから貰った冊子もデータに入れといてくれるかな?」

 『さっきの、とは生産ギルドの特許登録などの規約ですか?』

 「うん、そう。あれを全部スミレが把握してくれてると、これから登録していく時に助かるからさ」

 『判りました。今夜のうちにしておきますね』

 これであんな目に遭う事はないだろう。

 なんていうかさ、俺が騙されたって事も腹が立ったんだけど、それ以上に後味の悪い結末だったからさ。

 あまりにも荒っぽすぎて、マジで怖いよ。

 「コータ、コータ、チンパラ、あった」

 ミリーの呼ぶ声に顔をあげると、赤とオレンジの境界の辺りで俺に手を振っているのが見える。

 俺はゆっくりとミリーのところに歩いて行って、彼女が指差した常時依頼を見た。

 「おっ、良かったな〜」

 「うん。持ってくる?」

 「いや、今日じゃなくてもいいだろ? どうせ依頼も受けたいんだろ? だったらさ、とりあえず今夜予定を決めてからの方が二度手間にならないんじゃないのかな?」

 「わかった」

 「ついでにどんな依頼があるかも調べとけよ」

 どうせ決めるのはお前ら2人なんだろうからさ。

 俺がやりたいのは薬草採取系だけど、2人には物足りないんだよなあ。

 「俺はちょっと用があるからカウンターに行くけど、何かあったら呼んでくれたらいいからな」

 「依頼?」

 「違うよ。前に頼んでいた事を確認に行くんだ」

 俺はミリーの頭をぽんと叩いてからカウンターに向かった。

 





 カウンターには5人ほどの職員が並んでいた。でも多分込み合う時間だと人数が倍になるみたいだ。

 「いらっしゃいませ。どんなご用でしょうか?」

 「もしかしたら入金があるかもしれないので確認してもらえますか?」

 俺は胸元からギルド・カードを取り出してそれをカウンターに置いた。

 「それと、もしかしたら俺宛の荷物があるかもしれない、と思ったんですけど」

 「荷物、ですか?」

 「はい、植物図鑑に載せるような絵なんですけど」

 ジャンダ村のケィリーンさんから絵の複製をもらえる事になってるんだけどさ。

 まさかそっちまで騙されてる、なんて事ない・・・よな?

 なんか急に心配になってきたぞ。

 「少々お待ちください。確認してきますね」

 そう言ってカードを持って奥に入っていく職員さんを見送る。

 『そういえばすっかり忘れてましたね』

 「うん、本当はポクラン市で確認しようと思ってたんだけど、あそこには殆ど滞在しなかったからさ」

 『結構時間がかかるみたいな事を言ってましたから、丁度いいくらいじゃないんですか?』

 そうだよな、いくらスキルで絵の複製をするって言ってもそれだけにかかりきりって訳じゃないだろうから俺の複製まで時間がかかるかもしれないもんな。

 「お待たせしました」

 戻ってきた職員さんの手には3枚の紙と1冊の大きくて結構分厚い本。

 「こちらが入金の明細です。それから絵の方はコータさんがどこのギルドに来られるか判らなかったので留め置きしているそうです。こちらに届けてもらうとなると1週間から10日ほどかかりますけど、それでよろしければ手配します」

 「あっ、はい、それで大丈夫です。もう暫くはここにいる予定なので。あっ、ただもしかしたら依頼を受けてアリアナから出ている事もあるかもしれませんが、それでもここに置いておいてくれれば取りに来ます」

 「判りました。それではそちらの用紙を持ってきて提示してくだされば、他の職員でも判るようにしておきますね」

 「お願いします」

 俺は目の前に差し出された紙に目を向ける。1枚は引き換えのための用紙だな。もう1枚は俺のギルド・カードに振り込まれたお金の明細だ。

 入金は、っと・・・うほっ、結構あるじゃん。思わず頰が緩んでしまう。

 明細を見ると、今のところ作られた図鑑の数は3700冊。そのうち大図鑑が850冊で残りが小図鑑らしい。それぞれの売値が大図鑑が1冊5500ドラン、小図鑑が2800ドラン。俺の報酬はそれぞれの売り上げの1%らしいから・・・55ドランと28ドランになるそうだ。

 こうして1冊ずつの報酬だけ見るとたいした事ないんだけど、だ。55ドランX850冊で46750ドラン。28ドランX2850冊で79800ドラン。合計126550ドランとなるんだよ。それって120万円以上って事だ。

 うっひょ〜、一気に預け金が増えたって事だな。

 これってすごくね?

 しかも図鑑の報酬は作れば作るだけもらえるんだからさ。これからも報酬が出る可能性があるって事だ。

 思わずニヤついても仕方ないだろ、うん。

 「それからこちらは報酬の図鑑です」

 「あっ、はい」

 まだ終わってなかった、と慌てて顔を引き締める。

 「これも貰っていいんですか?」

 「はい、ただしこの1冊だけですね。もしこれ以上必要であれば買っていただかなければなりません」

 「いえいえ、これで十分です」

 まさか図鑑まで貰えるとは思わなかったよ。

 ついさっきケィリーンさんを疑った事を申し訳なく思っちゃったくらいだ。

 「それではこちらに受け取りのサインをしていただけますか」

 「はい、ここですね」

 俺は流し読みで内容を確認してから、職員さんが指差した箇所に書くためにポーチからペンを取り出す。

 「え〜っと、コータだけでいいですか?」

 「はい、大丈夫ですよ。一応本人のサインを頂くだけで、ギルド・カードの方にも受け取った旨の表示をしますから」

 「判りました。じゃあここ--」

 「コータちゃあああああんんっっっっ!」

 「うっっごぉぉぉおっっ」

 それからサインをしようとした時、背中にものすごい衝撃を受けて俺の口から悲鳴なんだか呻きなんだかわからない声が漏れた。

 そしてそのまま俺は衝撃を与えただろう相手から肋骨が折れるような力で抱きしめられた。

 「うごごぉぉ・・・ぐぅっっ・・・」

 「コータっっっ!」

 そんな俺の耳にミリーの悲鳴のような声で俺を呼ぶ声が聞こえたところで意識が途絶えてしまったのだった。

 





 読んでくださって、ありがとうございました。


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