表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 到着
175/345

174.

 リランという花は野生のヒマワリの花に似ている、とスミレが道中教えてくれた。

 野生のヒマワリっていうのは小さな花がいくつもついていて、黄色に朱色が混じったメキシカン・サンフラワーというのに似ている。

 ま、これもスミレが画像を見せてくれたから、そう思ったってだけなんだけどさ。

 そしてシュナッツさんがつけてくれたウェインさんという人に案内されてやってきたリランの花びら亭は、思った以上に立派な宿だった。

 4階建ての明るい黄色の壁に朱色の屋根、窓は長方形の板2枚張りだけど明かり取りが2枚の真ん中に丸くくり抜かれていて、それがまた花を思い浮かべさせる。

 うん、確かにリランの花だな。

 ただ、むっちゃ高級そうな宿、ってだけだな、うん。

 ここって一泊いくらなんだろう? 俺たちに払えるのか?

 いや、それなりに稼いでいるからお金は困ってないけどさ、でもさすがにこんな高級宿に何日も泊まれるほど金に余裕はない・・・多分。

 だからこの宿の隣り、なんていうオチだといいなぁと思ったんだけど・・・

 「こちらになります」

 なのに俺の希望は通る事もなく、にっこりと笑みを浮かべて振り返ったウェイさんは、目の前の高級宿がシュナッツさんがお勧めの宿だと言い切りやがった。

 「いっ、いやいや、ウェインさん。こんな上等な宿、俺たちには無理ですよ」

 「支払いは全てこちらでさせていただきますので、ご遠慮なく」

 「ご遠慮なくって・・・遠慮しますよっ」

 そんな簡単に言わんでくれよ。

 蒼のダリア亭に泊まってた時も俺たちには不相応だと思ったけどさ、ここはあそこより更に高級そうな宿で敷居が高いよ。

 いくら支払いの心配をしなくていいって言ってもさ、なんか粗相しそうで怖いよ。

 「シュナッツ様のご指示により、既に宿の方には1週間分の宿代が支払われております。コータ様たちがお泊まりにならなくてもそのお金は戻ってきませんので、できれば泊まっていただけるとこちらとしても嬉しいです」

 「うっっ・・・」

 「とにかくお気になさらずにお泊まりいただけるとよろしいかと。その代わり、明日にでも生産ギルドの方に顔を出していただけると嬉しい、とシュナッツ様は申しておりました」

 あ、ああ、そうですか。

 「それともう1つ伝言がございます。グランバザードのオークションはシュナッツ様が、ちゃんとしたオークション・ディーラーを紹介するとの事で、こちらは明日の夕方にご連絡を入れるそうです」

 「そうなんですか? 俺、明日オークションの事を聞こうと思ってたんですけど」

 「ここ大都市アリアナには数多くのオークション・ハウスがございますが、中にはあまり質の良くないオークション・ハウスもございますので、万が一コータ様方がそのようなところと関わり会う事になってご迷惑をおかけになっても、と心配なさったシュナッツ様が懇意にしているオークション・ハウスに打診してみるとの事でございます」

 つまり俺がこれ以上騙されないように、って心配してくれたって事だな。

 「お心遣い、ありがとうございます。確かに俺たちはここに来るのが初めてなので、どこのオークション・ディーラーがいいのか判らなかったので助かります」

 「いえいえ、グランバザードというその姿さえ滅多に見られない魔物を出品されるのですから、悪い輩に目をつけられないとは限りませんからね」

 「何から何までありがとうございます。シュナッツ様にも俺たちがお礼を言っていたと伝えていただけますか? もちろん、俺からもまた会う機会があれば、その時にお礼を言わせていただきたいと思っていますけど」

 「はい、もちろんでございます。コータ様の言葉をシュナッツ様も喜ばれるでしょう」

 にっこりと俺の言葉に満足げに笑みを浮かべたウェインさんは、丁度宿から出てきた女性に気づいてそちらに顔を向けた。

 「こちらのヒッポリアと引き車を頼めますか?」

 「はい、すぐに下男をよこします」

 案内人に言われてきびすを返して中に戻った女性は、すぐに後ろの年配の男を連れて戻ってきた。

 「こちらのヒッポリアと引き車を裏の厩舎と納屋にいれてください」

 「はい、判りました」

 彼女は後ろをついてきていた年配の男にパンジーと引き車の指示を出してから俺たちの方を振り返った。

 「こちらの方々が今夜うちに泊まられるお客様でしょうか?」

 「はい、シュナッツ様のお客様方でこちらの方がコータ様、その右側がミリー様、そして左側におられるのがジャック様です」

 「コータさま、ミリー様、そしてジャック様ですね。この度はわたくしどものリランの花びら亭をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。私はこの宿の女将を務めさせていただいております、シャンティと申します。何かとご不便を強いる事もあると思いますが、できる限りお客様の手を煩わせる事なくお過ごしいただけるよう努力いたします」

 「えっ、いえっ、そのっ・・・こちらこそお世話になります」

 聞きなれない丁寧な挨拶に、俺も頑張って丁寧な挨拶を返そうと思ったんだけど、どもるだけでとてもじゃないけど無理だったよ。

 「それでは中にご案内しますね。お部屋割りはどういたしますか?」

 「部屋割り、ですか?」

 「はい、それぞれが個室の方がよろしいでしょうか? それとも男性女性で分ける方がよろしいでしょうか?」

 「そうですねぇ」

 「コ、コータ」

 ぎゅっと袖を引っ張られ見下ろすと不安そうな顔のミリーが俺を必死に見上げている。反対方向を見るとそっちでもジャックが心配そうに俺を見上げている。

 それを見ると、仕方ないじゃん。

 俺はフッと口元に笑みを浮かべてから返事をした。

 「少し大きめの部屋に3人で泊まる事は可能でしょうか?」

 「それはもちろん大丈夫ですよ。でもいいんですか?」

 「はい、俺たちはチームですから、いつでも一緒がいいんですよ」

 ミリーとジャックが不安がっているから、とは言わないよ。

 ほら、2人だって不安だから、とか心配だから、なんて言われたくないだろうしさ。

 「それでは4人部屋になりますが、そちらにご案内いたしましょう」

 「では後はよろしくお願いいたします。コータ様、私はここで失礼いたします」

 「あっ、その、お世話になりました。本当にありがとうございました」

 「いいえ、微力ながらお力になれて光栄です」

 俺たちをここに連れてきたウェインさんはそこで優雅に一礼をして、宿の女性に連れられて中に入っていく俺たちを見送ってくれた。






 シャンティさんに先導されて、俺たちは宿の2階に上がった。

 「こちらの部屋はいかがでしょうか?」

 すっとドアを開け、シャンティさんは体を横にずらして俺たちに中が見えやすくしてくれる。

 「わ、あぁ・・」

 思わず声が漏れたミリーと部屋に広さにびっくりして固まったジャックを横目に、俺は中に一歩足を踏み入れる。

 「広いですね」

 「そうですか? こちらの部屋は当宿の基本的な4人部屋になります」

 「は、はぁ・・・」

 マジかよ。

 俺はどう見ても畳20畳分はありそうな部屋をぐるっと見回した。

 部屋の中には左右に2つずつベッドが並べてあり、それぞれのベッドの間にロッカーみたいな上の部分がハンガーで下が引き出しになった衣装ダンスが置かれている。

 そして部屋の奥の窓前にはソファーが1つとリクライニング・チェアーが2つ、その間にコーヒーテーブルが置かれていて、とても居心地が良さそうな空間が広がっている。

 これが基本的な4人部屋って言われたけどさ、蒼のダリア亭の4人部屋でも2段ベッドだったんだぞ。それで普通の宿よりもはるかに宿泊料金は高かった。

 それを思うとここがどのくらい高級な宿なのか、俺には想像もつかないよ。

 「夕食と朝食は基本的に1階にある食堂の方に来ていただきますが、お部屋での食事も可能となっておりますので、もしお部屋での食事を希望されるのであれば一言声をかけていただければ、と思います」

 「いえいえ、食堂で大丈夫です」

 「そうですか? それでは朝食は4時から7時の間、夕食は午後の4時から9時の間にご用意させていただいております」

 って事は・・・元の世界で言うところの朝の5時には食べられるのか、助かるな。それに夕飯も5時過ぎには食べられて10時半くらいまでは大丈夫って事なら、少々遅くなっても食いっぱぐれる事はないか。

 「それとお部屋にはお風呂はついておりませんが、あちらの突き当たりに浴室がございます。このお部屋の番号と同じ番号の浴室であればいつでもご利用いただけます。タオルなどの備品はお部屋の中にあるお手洗いに用意してございますので、そちらを手に取って浴室をご利用いただく事になります」

 風呂は部屋の中じゃないのか。でも、その方がのんびり入れていいのかもしれないな。

 「判りました」

 「あと2時間もすれば食堂で夕食を食べていただく事もできますので、ごゆっくりとしてからお越しください」

 「そうですね。まずはお風呂に入らせてもらってさっぱりしてから食事に行かせてもらいたいと思います」

 「それでは1階でお待ち申し上げておりますね」

 ゆるりと一礼をして、シャンティさんは階下に降りていった。

 その後ろ姿を見送ってから、俺はまだ部屋の外から中を伺っている2人に声をかける。

 「ほらほら、いつまでもそこにいないで中に入ってこいよ」

 「で、でもね、コータ」

 「大丈夫だって。ほら、ミリーはどのベッドに寝るんだ? ジャックも選べよ。それとも俺が一番に選んでもいいのか?」

 「わっ、わたし、あのベッドがいい、な」

 ミリーは右側の手前のベッドを指差した。

 「コータ、わたしのとなり」

 「ん? いいぞ」

 「じゃ、じゃあ、俺はあっちだ」

 ジャックはミリーの真向かいのベッドを指差した。

 「オッケー。残りの空いているベッドはスミレが使えばいいよ」

 「ありがとうございます」

 ミリーの腕に抱かれて人形の真似をしていたスミレがふわっと飛び上がる。

 「じゃ、とりあえず風呂に入るか。って言ってもまずは3人でどんな風呂か見に行ってから、1人ずつ順番に入るかな」

 「わかった」

 「いいぞ」

 高級宿なのに部屋に風呂がないのが不思議だけど、でも風呂があるだけで十分だよ、うん。

 「あっ、スミレはアレ、大丈夫かな?」

 「アレ、ですか? あ、ああ、はい。大丈夫ですよ。私の方でちゃんと面倒は見れますから」

 「うん、じゃあ、頼むな」

 スミレが面倒を見てくれるんだったら大丈夫だな。

 「コータ、タオルは?」

 「ん? あとでいいよ。今はとりあえずどんな風呂かを見に行くだけだからさ」

 「そっか」

 慌ててタオルを取りに行こうとしたミリーを制してから、俺は2人を従えて風呂を見に行く。

 今夜はのんびりしようかな。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/13/2017 @ 15:06 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

何なら何までありがとうございます → 何から何までありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ