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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
ポクラン市脱出、そして移動
170/345

169.

 ミリーとジャックを連れてグランバザードを梱包しているスミレのところに行くと、丁度スミレがストレージから取り出したネットで巻いた上から粘着縄を巻きつけているところだった。

 「あれ、もう終わったのか?」

 「はい、もう殆ど終わりましたね」

 「スミレ、はやい、ね」

 「ミリーちゃんたちに怪我をさせる訳にはいきませんからね」

 かっこいいセリフを吐きながら、それでも手を止めないスミレ。

 ミリーはそんな風に言われて嬉しそうに尻尾を揺らしている。

 スミレが粘着液と俺の魔力から作り出した伸縮性に富んだネットは、魔力を使う事でグランバザードの羽でも切れない強度のものに仕上がった。

 更に同様の手順で作り上げた粘着縄を使う事で、グランバザードが逃げ出せる確率をほぼゼロにまで下げる事ができた。

 と、スミレが言っていた。

 「スミレ、もうだいじょぶ?」

 「もう安全ですよ。こうやってネットで簀巻きにしておけば、羽を飛ばして攻撃する事もできませんからね」

 「そう? じゃあだいじょぶだ、ね?」

 うんうんと頷きながら俺を振り返ると、ミリーは同意を求めるように話しかけてきた。

 「だからスミレが大丈夫だって言ってる、って言っただろ?」

 「そ、だね。じゃあ、これで終わりか、な?」

 「うん。そうだ、ジャック、グランバザードを引き車の屋根に載せるから、お前は降りろよ」

 「えぇぇ、俺の場所を取んのかよ」

 「お前の居場所じゃないだろ? なんならパンジーの後をついて走るか?」

 「それはヤダ」

 キッパリと嫌だと言い切るジャックは、言葉だけじゃなく尻尾と耳も拒否を伝えるように動いていた。

 「コータ様、それよりも荷車を作った方がいいんじゃないんでしょうか?」

 「えっ、そうかな?」

 「パンジーちゃんの引き車の上ですと重心が高くなりすぎて、なんらかの影響で引き車がひっくり返りでもしたらパンジーちゃんが怪我しちゃいますよ」

 「なるほどなぁ」

 「それにグランバザードが思ったより大きかったので、引き車の上だと安定しない気もします」

 「そりゃ駄目だな。じゃあ、荷車作るか」

 パンジーが怪我をすると言われたら、荷車を作るしかないぞ。

 なんせ俺たちの旅にパンジーは欠かせない。

 っていうか、パンジーもちゃんと俺たちの仲間だからさ、無理はさせたくないよ、うん。

 「荷車といってもグランバザードを乗せる板を敷いただけのもので十分ですから、材料さえあればすぐにできると思いますよ」

 「判った。材料もそれなりにストレージや俺のポーチにあるんだろ?」

 「はい、十分あります」

 「でもパンジー、2台も引けるかな?」

 「大丈夫ですよ。荷車の方には重量軽減の魔法陣を刻んでおくつもりですからね」

 「なら大丈夫か、おっけ」

 重量軽減できるんだったら、それほどパンジーに負担もかからないだろう。

 って事は、引き車の後ろに荷車を引くって事か。

 なんかビジュアル的には凄い気はするけどさ。

 「それで荷車を作るのは今晩でいいんだよな?」

 「はい、それで十分です。明日の移動する時間になるまでに作り上げればいい訳ですから」

 「判った。グランバザードもそれまでは大人しいんだろうな?」

 「あとで即効性のある睡眠用のポーションの、濃縮したものを飲ませておきます。そうすれば丸1日以上は眠ったままになると思います」

 クロロフォルムみたいなものかな?

 即効性という気になる単語もあったけど、まあ俺としては暴れないでいてくれれば安心だから、副作用とかそういうのは考えないぞ、うん。

 「それでは私はとりあえずパンジーちゃんを迎えに行きますね」

 「わたしも行く、よ?」

 「大丈夫ですよ、ミリーちゃん。パンジーちゃんには私の後をついてくるように指示を出すだけですから」

 「そおか、な?」

 上手くグランバザードを捕獲できたらスミレがパンジーを連れてくる、というのは昨夜話し合っていたから俺としては問題ないと思っていたんだけど、ミリーがスミレ1人に行かせる事を心配しているようだ。

 「大丈夫ですよ。それよりも私がパンジーちゃんを連れてくる間に、晩のご飯の準備をしていてくださいね。今夜はここに泊まる事になりますから」

 「わかった、みゃかせる」

 むふんっと握りこぶしを作って力強くスミレに頷くと、ミリーはやる気満々で俺の方を振り返った。

 「コータ、カマドとテーブル出して、ね」

 「おっけー」

 「お肉もだして、ね」

 もちろんですとも、ミリーが肉が大好きっていう事はちゃんと判ってる。

 「ではコータ様、行ってきますね」

 「うん。任せちゃって悪いけど、気をつけてな、スミレ」

 「はい」

 ポーチに触って調理用のテーブルを出しながら、俺は顔だけスミレに向けて声をかけた。

 そんな俺に頷いたかと思うと、スミレは凄い勢いで飛んでいく。

 「スミレ、早い、ね」

 「ああ、そうだな」

 普段は俺たちに合わせてフワフワと飛んでいるから、余計に速く見えるのかもしれない。

 「んじゃ、スミレが帰ってくる前に簡単な準備だけは済ませておこうかな」

 「うん」

 「おっ、俺も手伝うっっ」

 うん、ジャックが手伝うのは当たり前だ。

 むしろ俺とミリーの2人だけにさせようとしたら、その場で拳骨の1つでも落としているところだよ。

 「じゃあ、ミリーはいつものように肉の串焼きを作ってくれるかな? 俺はスープを作るからさ」

 「おいっ、俺は?」

 「ジャックは向こうに食事用のテーブルを出すから、テーブルを拭いて食器を並べてくれるかな?」

 「お、おうっ」

 俺はそう言いながらミリーが待機するテーブルの上にまな板を置いてから、俺はナイフとチンパラの肉の塊を取り出した。

 「今夜はチンパラでいいだろ?」

 「うん。チンパラ、美味しい、よ」

 嬉しそうに尻尾を揺らしながらナイフを手に取るミリー。

 口から尖った猫の牙というか笑みを浮かべた拍子に歯が出てきて、手に持つナイフと相まってなんか猟奇的な映画のワンシーンのような様相になっているけど、そこは気にしちゃ負けだからな。

 俺はそっと目を反らしてから今度は食事用のテーブルを取り出して、4つの椅子も取り出した。それから椅子の1つに大きなバスケットを置いた。

 このバスケットの中に食器とカトラリーのセットが入っているんだよな。

 肉を切っているミリーを見てからテーブルを振り返ると、1つずつ皿やカップを取り出しながら丁寧にテーブルに並べるジャックが見える。

 2人ともいつもの事だから慣れている。

 ジャックとしては調理の方に参加したかったみたいだけど、なんせ手が猫の手だから調理には向かないんだよなぁ。

 ナイフはモテるんだけどさ、猫の毛がなぁ・・・流石に猫の毛にまみれた肉やスープは食べる気が起きない。

 特にジャックが作りたがっていたパン、あれは絶対に駄目だ、うん。パン生地をこねる時に毛が入らない筈はないもんな。

 まあ、って事でジャックはテーブルセッティングが食事の時のお仕事なんだよ。

 本人は不服そうだけど、こればかりは文句を言っても仕方ないって判ってるみたいで我慢しているみたいだ。

 「コータ、スミレ、遅いか、な?」

 「そんな事ないと思うぞ? もの凄い勢いで飛んで行ったからもうパンジーと一緒に移動しているんじゃないかな?」

 「じゃあ、もう来る?」

 「ん〜、あとはパンジーがどのくらいの速度で来れるか、だよ。でもほら、結構岩が転がってて歩きにくかっただろ? だからパンジーもいつも街道を移動するようなスピードでは来れないと思うぞ」

 パンジーを残してきた辺りはまだ半分草原っぽくて地面も進みやすかったけど、そこからここに来る間に地面は岩石が剥き出しになって歩きにくくなってきてたからな。

 「パンジーが引き車を置いて来れば早いんだけどなぁ・・・」

 「コータ、パンジーは引き車と一緒だ、よ?」

 「うん判ってるって」

 「パンジー、引き車ないと泣く、よ?」

 「そうだよな〜。すっごく大好きだもんな」

 引き車、と小声で続ける俺。

 以前ヒッポリアは自分の引く車と認定したら、それを常に自分で引きたがるし、何があっても守りたがると聞いたもんな。

 そんなヒッポリアであるパンジーが自分の引き車を置いてくる訳ないか。

 「パンジーも大事な引き車に負担はかけたくないだろうからなぁ。ま、のんびりとそのうち来るんじゃないかな?」

 「そだね。パンジー、引き車、だいじに思ってるもん、ね」

 「そうなんだ?」

 「うん、いつだって、ね。石ころ踏みゃない、ように気をつけてる、よ」

 ほぇえ〜、知らなかったよ、俺。

 パンジーはいつだって一定のペースで歩いているから、前しか向いて歩いてないんだと思ってたよ。

 今度横を歩く時に、パンジーの視線の先に気をつけてみようかな。

 ミリーにはなんとなくパンジーの言いたい事が判ってるんじゃないかなって前から思ってたんだけど、もしかしたらただちゃんとパンジーを観察していたからなのか?

 だったら俺の観察力が足らないから、俺には判らないって事か。

 「でもミリーはちゃんとパンジーの言いたい事は判るんだよな?」

 「わたし? 良くはわからない、よ。でもなんとなく感じるか、な?」

 頭を傾げながらも、肉を串に刺す手は止めない。

 「そうなんだ、凄いな,ミリーは」

 「すごくない、よ。パンジーはすごい、の」

 「いやいや、ミリーだって凄いよ。俺にはパンジーの言いたい事は判らないからさ。だからパンジーが何か伝えたいって思ってる時は教えてくれると嬉しいな」

 「わかった」

 嬉しそうに頷くミリー。

 自分が役に立てると思うと、すごく嬉しそうになるんだよ。

 どうも自分は足手まといだって思ってる節があるから、こういう時にはきちんと褒めるようにしているんだ。

 いつもなら頭を撫でているところなんだけどさ、スープ作りのためにナイフで野菜を切ってるから両手は塞がっている、残念だな。

 「さ、頑張って晩飯作ろうか。戻ってきたスミレをびっくりさせないとな」

 「がんばる」

 更にやる気が出たミリーはさっきよりも早いスピードで肉を串に刺していく。

 俺はそれを見ながら、スープ鍋に今切った野菜を投入するのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/07/2017 @ 13:48  誤字のご指摘をいただいたので、訂正しました。

スミレがパン時を連れてくる → スミレがパンジーを連れてくる

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